BEN

江呂川蘭子

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 僕はベン、シベリアンハスキーの混じったミックス犬なんだ。酒蔵さんというあまり素行のよくない飼い主さんと暮らしている。
 酒蔵さんは観光用の宇宙船の運転手をしていたんだ、詳しくは話してくれないのだけれど最近なにかをやらかしたようで免許を取りあげられて仕事がなくなってしまった。それから僕は宇宙ステーションの中にある菜園から大根や人参なんかを盗みに行かされるようになって、すごく困っている。
 酒蔵さんも悪い噂しかない組織が運営している倉庫から、酒や缶詰を盗んできたりして暮らすようになってしまって、早くまともな仕事に就いてくれたらいいのになぁ、なんて思う毎日なんだ。
「おい!ベン今日はいつもの倉庫から高級肉の缶詰持って帰ってきたぞ」と酒蔵さんは、ほろ酔いで僕の前にたくさんの缶詰を積んでみせた。
「酒蔵さん、また盗んできたんだね。あそこの倉庫は軍事物資とかも横流ししてるって噂だよ。きっとまともな人たちの倉庫じゃないバウ」と僕は酒蔵さんに言った。僕が何度言っても、酒蔵さんは、そのうちちゃんと働くから……というばかりで、お酒ばかり飲んでいる。
 僕はお酒のせいで、酒蔵さんは運転手を辞めさせられたんだと思っている。酒蔵さんは馬鹿なことばかり、するけれど根は優しいところもあって時々は僕の好きな宇宙ステーションの展望台に連れて行ってくれる。昔は、いつかは自分の小型宇宙船を買って、僕をこの銀河とは別の星に連れて行ってくれるって嬉しそうに話してくれてたんだ。
 でも仕事がなくなってからは盗んできたお酒と缶詰ばかり食べて、ぼんやりと壁ばかり見つめている。酒蔵さんの友達がコロニーの仕事を紹介してくれているようなんだけど、酒蔵さんは宇宙船の仕事でないとイヤな様子で働こうとしない。
「ベン、この肉めっちゃ美味いで!お前も食えや」と酒蔵さんは開けたばかりの缶詰を差し出した。酒蔵さんは今日もひとくちも、食べていない。僕は酒蔵さんがお酒以外なのも口に入れていないことを知っている。僕に菜園から盗ませた野菜だって何も食べていない。
 酒蔵さんは、僕が菜園の人たちと仲がいいことも、僕が盗んできたと言って菜園の人から分けてもらっていることも、僕が菜園に行く度にご飯を分けてもらえるのも本当は知っているくせにわざと、盗んで来い!なんて言っているのだと。
「酒蔵さんも食べなよ」と僕がいくら言っても、
「俺はさっき食べた」と嘘をつく、酒蔵さんが目に見えて痩せてきたので僕は心配しているのだけれど、お酒以外のものを口にする気配もない。
 突然、部屋のドアが大きな音を立てて開いた。鍵がかかっていたはずなのに数名の黒づくめの男たちが小型の光線銃を持って部屋に入ってきた。
「だから、やめなって言ってたバウ」と僕は酒蔵さんにいうが気にした様子もなく、
「なんや酒飲んどんねん。静かにせえや!近所迷惑やろ」と言ってから立ち上がり、僕を庇うように男たちがかまえた銃の前に撃ってくれといわんばかりに立ちはだかる。
「おい!こいつ連れて行け。犬も一緒にな」と後ろの方にいるとしかさの男がいった。
「おまえら、犬は関係ないやろ。俺だけ連れて行ったら、ええやんけ」と酒蔵さんが怒鳴り出す。僕は酒蔵さんの方が近所迷惑な気がした。
「随分と可愛がっているみたいだね。その犬を殺してもいいんだけどね」と、としかさの男がいう。
「わかった!わかった。俺が悪かった。犬は撃つな……」酒蔵さんは小さな声で言った。そして、
「ベンついて来い」と付け足した。

 僕たちは乱暴に扱われることもなく随分立派な車の後部座席に乗せられた。
「警察とは、違うみたいやなあ」酒蔵さんがいうと
「私らはキミを連れて行くだけの仕事なんで、おとなしくしてくれてたら、なんもせえへん」としかさの男は前の席からハンドルを握り返事をした。車は珍しく手動で運転されていた。
「マニュアルのエアカー今どき珍しいな」と酒蔵さんが言ったが、誰も答えなかった。
 車はビル街を抜けて宇宙港の駐車場にたどりついた。誰も口を聞かずに男たちは全員車から降りて行った。酒蔵さんは様子を伺っていたが、男たちが見えなくなるとドアの開閉スイッチを押して出ようとしたが、
「そら、ロックされてるわな……すまんなベン」と言って僕の頭を撫でた。僕はいつものように酒蔵さんの腕を甘噛みする。
 しばらくすると静かに車のドアが開く。僕は酒蔵さんの後から車を降りると、そこにはスタイルのいい褐色の肌のタイトなスーツを着た美女が立っていた。
「手荒な真似をして悪かったわね。ついてきて」と褐色の美女は僕たちに背を向けて歩き出した。
「俺はなあ!女、子供には強いんじゃ」と言いながら酒蔵さんは、後ろから女性に襲いかかるが、人形のように軽々と投げ飛ばされ、床に叩きつけられる。
「アタシは、暴力は嫌いだから、あの男たちに行かせたのに」と綺麗なお姉さんが困ったような笑いを浮かべていた。僕は動物の勘で、このお姉さんは只者ではないとすぐにわかった。
「立てる?」とお姉さんが酒蔵さんに聞く。酒蔵さんはとても情けない顔で
「はい」と言って立ち上がると、お姉さんの後ろを黙ってついていく。少しニヤついているなあと思ったら、お姉さんのタイトスカートに包まれた形のいいお尻をジロジロと見ていた。本当に仕方のない人だ。
 そこからエレベーターに乗ってかなり上の階層まで連れて行かれる。エレベーターを降りてガラス張りの立派な部屋で待っておくように言われる。
「宇宙港にこんなとこあってんなぁ。多分、偉い人しか入られへんとこやで!姉ちゃんはエロかったけどなぁ」と言って酒蔵さんはヘラヘラと笑っていた。
 少しするとお姉さんが戻ってきた。
「ほんとうは、アタシの上司と話してもらうはずだったんだけど、急用が出来たのでアタシから話させてもらいます。よかったらどうぞ」とお姉さんは立派なボックスに入ったタバコを酒蔵さんにすすめた。
「うわ!ほんまもんの煙草や!こんなん何年ぶりやろ」と言いながら酒蔵さんは自分のオイルライターで火を点けていた。僕にもこの煙草の香りが、酒蔵さんがいつも吸っている合成煙草の葉とは別物なのはすぐにわかった。
「仕事のお話させてもらってもいいかしら」とお姉さんが言った。酒蔵さんは口をあんぐりと開いて何故?というような顔をしている。
「仕事をしてくれたら、窃盗の件はチャラにしてあげると言う事です」お姉さんも煙草に火を点けた。
「まともな仕事じゃないんですよね」と酒蔵さんは笑っていた。
「さあ、どうかしら?小型の宇宙船で十ヶ月ほどはかかるけど、小さな荷物を配達してもらうだけよ。報酬としては免許証と今回使う宇宙船を差し上げるわ」お姉さんは、そういうと屋根裏酒蔵名義の免許証を差し出した。
「どう考えても、普通の仕事じゃないですね」酒蔵さんは珍しく警戒している。
「断ってもいいのよ。その場合、アタシはあなた達の安全の保証はできないけどね」お姉さんは煙草の煙を燻らす。
「やりますよ」酒蔵さんは、高級煙草を束で掴んで胸ポケットに仕舞い込む。
「よかった、うまく行けば屋根裏さんに定期的に仕事が入ると思ってくれていいわ」お姉さんの言葉で、酒蔵さんの顔が綻ぶ。
「仕事する前に、なんか食いもん欲しいねんけど」と酒蔵さんがいう。お姉さんがメニューを見せると、あれやこれやと注文を言い出す。
「三十分ほど待ってて」お姉さんはそう言って部屋から出て行ってしまう。

 翌日、僕と酒蔵さんは、お姉さんに連れられて宇宙港の端にある小型クルーザーの格納庫に来た。
 酒蔵さんは自分が乗る宇宙船の朱色の船体を楽しげに見ている。
「じゃあ、これが荷物だからお願いしますね。昨晩も言ったけど人間の記憶チップは、人間以外には移植できないのに、どうやってあの子に移植させたの?どうりで賢いはずだわ。とぼけても無駄よ、さっきスキャンさせてもらったから」お姉さんが酒蔵さんに詰め寄っていた。
「バウウ、それは僕のことなのか?」僕が酒蔵さんのそばに行くと、
「そんなわけないやん!ちょっと大容量の会話用のチップが入ってるだけや」と酒蔵さんがいう。
「……まあ、言いたくないんだったら、無理には聞かないわ。聞かれたくないのね」お姉さんはそう言うと金属ケースを置いて行ってしまった。
「ベン、行こか」酒蔵さんがタラップから小型クルーザーに乗って行ったので、僕もいっしょに乗った。
 酒蔵さんは、クルーザーを飛び立たせて、目的地の宇宙ステーションに行くための空間軌道レールに船体を乗せると操縦席を離れて僕がいる小さな食堂室にやってきた。
「とりあえず宇宙には出れたなあ。この荷物を届けたら、どうなるかはわからんけどな」と少し不安そうに笑った。
「多分、大丈夫バウ」と言って僕は酒蔵さんを励ました。それから酒蔵さんは明かりを消して食堂室の壁面をモニターに切り替えて宇宙の星々を僕に見せてくれた。僕は以前にもこんな景色を見たことがあるような気がしたと酒蔵さんに言うと、なにも言わずに満面の笑みを浮かべて笑った。僕たちは目的の宇宙ステーションに行くためには七つのスペースゲートを越えなければならないらしい。ゲートに入る為には手動操作が必要なため僕たちはそのたびに、コールドスリープから起きて操作をしなければならなかった。
 酒蔵さんはゲートに近づく半日前には、コールドスリープが解除されるようにタイマーをセットして僕に宇宙の星々を教えてくれた。僕はこの旅が酒蔵さんとの最後の時間のような気がしてきた。
「酒蔵さん、操縦士の仕事をやめたのってなんでだったの?本当は病気なんじゃないの?」と僕は聞いてみた。酒蔵さんはギョッとして何も言わなくなった。
 三つ目のゲートを潜ってから、酒蔵さんはコールドスリープをしなかった。僕たちはモニターでゲートの中の景色を見ていた。その景色は星が線になったり点になったり、色もオーロラのように変化していってとても幻想的な景色だった。僕がキョロキョロと景色を見渡す様子を酒蔵さんはジーッと見つめていた。
「ベン楽しいか。……ベンが俺に聞いてきた話やけどな……俺、ホンマはな宇宙船に乗れるような身体とちゃうねん……お客さん乗せる仕事は、もう出来ひんから辞めてん。せやから、ひょっとしたら俺は今回の目的地まで生きてないかも知れんねん。でも殆どが自動操縦やから、多分大丈夫やと思うけど、もし途中で俺が死んでもうたらごめんやで」酒蔵さんが言った。やはり僕の心配は当たっていたんだ。僕は悲しくなって何も言えなくなった。僕たちは、それ以上なにも言わなかった。
 やがてクルーザーがゲートを出て通常の宇宙空間を移動しはじめて四時間ちかく経った頃、船内にハザードが鳴り響いた。僕と酒蔵さんは5メートル四方の操縦席のある部屋へ移動する。酒蔵さんは宇宙船の情報を確認するために、コンソールのキーボードを叩いて小型モニターを確認していた。
「信号が出てる。すぐ近くやな」酒蔵さんはよく分からない漂流船に向かうために、自動操縦を切ろうとするがブレインが拒否するので、色々と操作を試していたがブレインが拒否するため、酒蔵さんは怒ってパネルを叩いただけで、呆気なく自動操縦の機能が壊れてしてしまった。
「あ!もう自動操縦できんようになってしもたわ」と何故か楽しそうに笑っている。
「どうするんだよ!ぜんぜん面白くなんかないバウ」と僕はいう。この人は、自分の思い通りにならないとすぐに壊しちゃうんだ。僕の記憶に、僕が知るはずもない若い頃の酒蔵さんの顔が浮かんだ。僕はきっと通話回路のバグかなんかだと思ってそれ以上は考えなかった。
 酒蔵さんは手動で難破船の側までクルーザーを飛ばした。
「ん?脱出ポットやな。特に壊れてる様子はないけど、民間船やないなぁ軍のやつかぁ!関わると面倒なことになりそうやな」と言いながら酒蔵さんは宇宙服に着替えていた。
「人が居たら大変バウ!僕も行くバウ」と僕は犬用の船外宇宙服を咥えてくる。酒蔵さんは気乗りのしない顔で渋々だが僕に船外服を着せてくれたので、僕がクルーザーの脱出ハッチのところで酒蔵さんの命綱を操作して、酒蔵さんはポッドに船外服で飛んで行った。また僕はこの景色を以前に見た気がした。そんなことはあるはずもないのだ。だって僕は宇宙になんてはじめてきたのだから、きっとフィクションのムービーか何かの映像が記憶としてバグになっているのだろうと、僕はふかくは考えなかった。
 少しすると、
「クルーザーに引き戻してくれ」と酒蔵さんから通信が入ったので、僕はウインチのスイッチを入れて酒蔵さんを巻き取った。
 船内に戻ると、僕たちは宇宙服を脱いで通信装置のある操縦席に行く。酒蔵さんが言うには無人のポッドの中に十センチぐらいのプラスチックケースに収められたカプセルがあっただけと言って手に持っていた。
「なんやろなぁ?持ってきたら、あかんとは思ってんけど……なんでか持ってきてもうた」と酒蔵さんは笑いながらジャケットのポケットに仕舞い込んだ。
 そのあとで雇い主のお姉さんから宇宙船に通信が入る。酒蔵さんは、いま起こったことを説明していたがえらく怒られていた。
「あああ自動運転のシステムは目的地の宇宙ステーションにつくまで修理は無理やから、ベンはコールドスリープしといたらええで、半自動みたいなもんやから俺は仮眠しながらでも運転できるからベンは寝とき」と酒蔵さんは操縦席の前で言った。
 それから僕は酒蔵さんにベッドに入れてもらった。そして僕の体に自分が着ていたジャケットを毛布がわりにかけてくれた。コールドスリーパーに上着をかけてくれるなんて、やはり酒蔵さんは優しい人なんだと思った。六十時間の短い冬眠に入るときに、なぜ酒蔵さんがこの任務に選ばれたのかを疑問に思った。そうなんだマニュアル運転ができない方がいいのなら、酒蔵さんを雇う必要がない、むしろマニュアル運転ができない人の方が、さっきみたいなトラブルを回避できるのにと思った……それに機械の壊れ方も何かおかしかった。まるで仕組まれたような……

 僕は眠っている時に誰かが話しかけている夢を見ていた。その子は生物の脳に寄生していろんな宇宙に繁殖する寄生型の生命体だと話してくれた。僕はその子にエリーという名前をつけた。エリーちゃんは楽しいことを色々話してくれて僕は愉快な夢の時間を過ごした。

「ベンあと一回ゲート潜ったら、目的の宇宙ステーションや」と酒蔵さんはコールドスリープから目が覚めた僕に話しかけると僕からジャケットをとって椅子の上に置いた。
「ベンちゃん、この人は誰」何処かから声が聞こえて、僕は辺りを見回すが酒蔵さん以外は誰もいなかった。
「どないしてん?ベン」と酒蔵さんがいう。
「ベンちゃんアタシよエリーよ忘れたの」この声は僕にしか聞こえないらしい。僕はエリーちゃんに酒蔵さんのことを紹介すると、エリーちゃんは僕に酒蔵さんを紹介するように言ってきた。
 僕は酒蔵さんにエリーちゃんのことを紹介すると、酒蔵さんの表情が強張った。酒蔵さんはジャケットのポケットのカプセルを確認しているようだった。
「ベン!エリーちゃんに聞いてくれ、教育プログラムはインストールされているか」と早口に言った。
 僕がエリーちゃんに、酒蔵さんからの話を伝える前にエリーちゃんは、僕の脳に入った酒蔵さんの声を理解していたようで、
「エリーは、本当はお母さんといっしょに他の生き物に寄生して、安全に共存できるの!でも、ひとりでベンちゃんの中で生まれたから、もうしばらくすると暴走しちゃうの……」と悲しそうな声で語り出した。
 僕はエリーちゃんから聞いた話を酒蔵さんにおしえた。
「くそう!ハメられた」と酒蔵さんは通信機のコンソールを叩き雇い主に連絡をした。
「お前ら!わざと俺にカプセルを回収させたやろ。思い出したよ!マイナス二度以下で活動できる寄生型の生命体がおった。そいつを俺に寄生させて、敵側のコロニーに蔓延させるつもりやってんな」と酒蔵さんはとマイクに怒鳴り散らした。
「何を言ってるのよ!それは偶発的な事故よ。私たちが救援をするように言ったとでも言いたいの!あなたが勝手に行って感染しただけじゃない。三百時間以内なら感染を止められるわ。急いで目的地のステーションにつけば助かるわ」と雇い主のお姉さんの声が船内のスピーカーから聞こえた。
 酒蔵さんは何も言わなかった。
「あ!そうそう、ワンちゃんのチップの件わかったわよ。十五年前あなたには奥さんと娘さんがいたのよね。事故でお嬢さんのエリーちゃんが亡くなっている。ワンちゃんの頭のチップはお嬢さんでしょ。奥さんは入院後行方不明で死亡は確認されてないものね」お姉さんは、事件を暴いたドラマの探偵のように勝ち誇った感じで凄く嫌な感じがした。
「じゃかましいんじゃ!ボケ」酒蔵さんは休憩室からテーブルを持ってくると、それで通信機を殴りつけて破壊してしまった。
「ベンちゃん、あの女の言うことは嘘よ!アタシは今は冷静でいられるけれど、もう五十時間もすれば自我を失って肉体を持った生物に胞子を飛ばして繁殖し続けてしまうの。ベンちゃん、ごめんなさい……」とエリーちゃんは悲しそうだった。
「気にしなくていいバウ!僕が脱出ハッチから飛び出せば皆んな大丈夫バウ」と僕は酒蔵さんにわからないように頭の中でエリーちゃんにつたえた。
「こら!どこ行くんじゃベン。お前が一人で宇宙に飛び出しても、そのエリーちゃんはお前の死んだ体で生きてるから、死体を見つけた奴に胞子を飛ばして増殖するし、既にこのクルーザーの中に胞子が飛ばされてるかも知れんのやぞ」と酒蔵さんがこっそり脱出ハッチに向かおうとする僕を捕まえた。
「ベン!確認したいことがある。エリーちゃんに聞いてくれ。俺が昔に聞いたとこではエリーちゃんみたいな寄生生物は高温度に弱いって聞いたけどホンマか」酒蔵さんは僕を膝に乗せて操縦席に座る。
「そうよアタシたちは二千度以上の高温では生きられないわ」というエリーちゃんの言葉を酒蔵さんに伝える。
「わかった!」酒蔵さんは宇宙地図で何かを調べ出した。
「ここやったら、燃料も余裕で足りる」そういうと新しい進路を入力し船体の向きを変更させた。
「いちばん近い太陽に突込む!べつだん死んでもええけど、誰かの計画で決められた場所で死ぬんだけはゴメンやからな」酒蔵さんはそう言うとエンジンの出力を全開に上げた。
「ベンちゃん、あなたの脳に接続されている回路が接触不良だよ。もう、少しの時間しかないけど、お詫びに治しといてあげるね」とエリーちゃんが言った。太陽が近づいてきたのか少しづつ船内の温度が上がってきた。

 そうだ、私はこの人と娘のエリーと宇宙旅行に行った時に事故にあったのだった。私たちはエリーを助けることが出来なかった。そして、あの事故で私の体も重傷を負い実験体として全身を怪しい研究機関に提供するしかなかったのだった。
 秘密裏にすすめられていた意識の量産化の実験だった。私の意識は7万2千個量産されたが非道徳な実験だと全てが破棄されたはずだった。
 そのうちの一個だけが不完全な形で、当時は仔犬だったベンに融合していたので見つけられなかったのだ。
 どういうわけか私の意識は死なずに、この人と生きて最後を共にすることができるようだ。
「あなた!おはよう。少し暑いわね」と私は彼に声をかけてみた。
「もうすぐ常夏の国や!エリーもお前もいっしょでよかった」彼は、私の意識が戻っていることをわかっているようだった。だから嬉しそうに笑っていた。私は不完全な記憶の状態でも娘の名を覚えていたようだ。寄生生物に彼女の名をつけていたのだから、そう彼女は今眠りについている。それは繁殖の為に胞子を飛ばそうとしているのだ。彼女に悪意があるのではなく、彼女はそういう生物なのだ。

 あと数分で私たちは塵も残さず消えるだろう。
 私はまた肉体をなくすのだが、なぜか不安はなかった。
 そう、それこそが答えなのだ。


 終わり
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