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背水の陣
九
しおりを挟む「さっき牡丹殿とこの部屋に移動する時に幽幻に会ったが、確かにお前の言う通り気の良さそうな男だった。
だが、どうも気分が良くない。あれは意図的に牡丹殿に悪い印象を根付かせるような言動を取る。人の印象を意図的に操れる才があるのだろうな」
庄右衛門が腕を組むと、
「ああ、叔父さんにお会いしたのですね。僕もあの方は苦手で……」
翡翠が言いにくそうに口ごもる。雪丸が驚愕の表情で翡翠を見つめた。
「ご覧になった通り、人当たりの良い人です。当主がいない状態でもこうして神社を持続させることができるほど、人望が厚いのですよ。
みんな叔父さんのことを慕って尊敬している……そのおかげで僕たち家族が守られて暮らせました。
しかしその一方で、母のやり方や、忌み子を産んだことへの中傷、病弱な僕や女であるお雪が当主に相応しくないという声があり続けます。
どうもおかしいと思って叔父さんを観察していたら、叔父さんには不思議な力があるようで……閏間神社出身の者は少なからず何かの能力を得て生まれるのですが、叔父さんのそれは人だけの力ではない。大き過ぎる人ならざるものの力を使っているみたいなのです」
曰く、雪丸よりも翡翠の方が見える力がとても強く、人ならざるものが入れないこの神社の敷地内でも、取り憑いているかいないかがわかるそうだ。
「叔父さんはそうして人々の心を扇動して、いつか僕たち家族が殺されても、その末に叔父さんが後を継ぐことになっても、誰も疑問に思わないように仕向けるつもりなのでしょう」
「そうだろうなあ。翡翠と牡丹殿と不仲だった雪丸を操り殺させて、それを幽幻が止めれば幽幻は英雄となり得るし、俺がここに留まれば、雪丸たちを殺し何もわかっていない俺に罪を被せることもできるだろう」
翡翠と庄右衛門の言葉を聞いて、雪丸の顔は青白くなっていた。今まで信じていた人物が、真逆の恐ろしい男だと言い聞かされて混乱している。
牡丹が声をかけた。
「お雪、つらいのはわかります。しかし、お前に言い聞かせてきた通り、幽幻は恐ろしい人物なのです。お前だけでなく、翡翠も命を狙われている……どうか堪えて、庄右衛門殿と諸悪の根源を断つのです」
「わ、私は……」
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