おいでませ神様のつくるミニチュア空間へ~息吹戸瑠璃が遺したもの~

森羅秋

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序章:いつものホラーアクション夢

犠牲ありの救出成功

 立ち上がった途端、くらっと眩暈が起こった気がして、『私』は額に手を当てた。
 特殊能力を連発したので疲れたみたいだと、ため息を吐き、肩が凝った気がして何気なく肩を回す。

 そんな『私』を、祠堂しどうは目を白黒させて軽く仰け反り、津賀留つがるは茫然としながらジッと凝視している。
 視線に気づいた『私』が「なに?」と声をかけた。

「ファウストの現身うつしみにそんな力があったなんて……驚いた」

 祠堂しどうが驚いた顔のまま答える。
 転化を解く術を得ている者はそう多くない。ましてや息吹戸が使えたとは全くの予想外だった。彼女がこの術を扱えるのなら心強いと浮足立つが、その反面、なぜ今まで使わなかったのかと憤りを覚える。

 二つの反する感情に混乱した祠堂しどうは、つい、いつもの癖でギリッと強く睨んだ。

「なんで今まで黙っていた!? いつから使えたんだ!? それがあれば間に合った奴も……」

「初めてやった」

「いま、なんて?」

「初めて試してみたら成功した」

 あっけらかんと言った『私』に、祠堂しどうが眉を潜める。

「だから、文句言われてもどうしようもないんだけど」

 と、『私』は首を傾げながら頬に手を添える。
 怒鳴られるのは不本意だが、津賀留つがるの行動をみるに、転化を阻むため死を選ぶ人間が多くいると想像できる。
 だから能力を隠したり勿体ぶってないで、必要な時にガンガン使えと言いたいのだろう。祠堂しどうと会うのは初めてだが、このストーリーでは『私』と面識があるようだ。知人設定ならば彼の怒りも頷ける。

「今、初めて試した?」
「今、初めて試したんですか?」
 と、祠堂しどう津賀留つがるが聞き返した結果、二人の声が見事にハモった。

 次いで、「でもなんで急に使えるようになったんですか?」と津賀留つがるが首を傾げ、「その力は元々あったものなのか?」と祠堂しどうが不思議そうに首をひねる。
 二人の声がハモった質問に対して、『私』は「良くわからない」と曖昧かつ正直に答えた。

「分からないって……なんだそりゃ」

 納得いかないと祠堂しどうが眉を潜めるので、『私』はもう少し具体的に答える。

「鏡にまつわる神話をイメージしたら出来ただけ」

「神話……なんだそれ?」

 祠堂しどうは意味が分からないと呟きながら頭を掻く。

(説明は無意味だな。きっと私のことなんて理解できない。だって夢と現実の差があるから)

 『私』は話を途中で切って、小鳥を左肩に担いだ。

(うっ! 意外に重い……)

 夢なら担げると思っていたが、見た目よりも重量がある。持てないほどではないが重いものは重い。階段ではなくエレベーターを使って降りたい気持ちになった。

「ファウスト、話はまだすんでないぞ」

 祠堂しどうが苛立ったように呼びかけたので、『私』は首を左右に振った。

「終わり良ければ総てよし。細かいことは気にしない。まずはこの人を病院に連れて行かなきゃ。えーと、津賀留つがるちゃんは一人で歩ける?」

「はい! 大丈夫です!」

 津賀留つがるは右手を上げながらサッと立ち上がり、元気よく答える。ぶかぶかな白いローブを羽織ったままでは、動くたびに幼児のような愛らしさがにじみ出てしまう。

(ぶかぶかな服で動くとほんと可愛い)

 『私』は津賀留つがるを数秒眺めてから、祠堂しどうをみる。

「ヤンキーお兄さんはどうする? ここにいる?」

 祠堂しどうはチラッと鏡の向こう側を確認して、苦笑いを浮かべた。

「いいや。後始末はカミナシに任せる」

「そこから生存者はみえる? っていうかいる?」

「残念ながらいない。今はこのまま閉じておくのが一番だ」

 『私』は窓から外を覗いた。
 最初は十人以上がいた屋上であったが、今は黒いローブが点々と落ちているだけで、全て綺麗に消えていた。
 儀式は阻止できたが、多くの犠牲者は出てしまったようである。
 津賀留つがる祠堂しどうの知り合いがいないことを祈りつつ、『私』は「しょうがないね」と言いながら背を向けた。
 救える命は限られている。優先順位をつけた結果なので後悔はない。

「私がもっと注意していれば……捕まらなければ……あの人たちはきっと……」

 津賀留つがるが項垂れて気落ちした声を出した。彼女にしてみれば助けようと思っていた人たちだ。見殺しにした挙句生き残ってしまい、強い後悔の念を抱いている。

「どんまい。今回はこれで手を打とう」

 『私』がフォローすると、津賀留つがるは悔しそうに唇を噛みしめた。

「もうこんなミスしません。今後はしっかり息吹戸いぶきどさんの指示に従います」

「それもどうだかね」

 『私』が階段に向かうと、津賀留つがるが後を追ってきた。津賀留つがるの足取りはふらついて危なげである。転化解除は体力回復もしないようだと『私』は察した。

(階段で転げると危ないかも)

「行こうか」

 『私』が右手で津賀留つがるの左手を握ったら、彼女は吃驚したように瞬きをして、「はい」と嬉しそうに頷いた。
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