おいでませ神様のつくるミニチュア空間へ

森羅秋

文字の大きさ
32 / 65
第一章:馴染むところから始めます

前途多難なもう一人の相棒

しおりを挟む
「たしかに、分かりやすい」

 と感想を述べた後、空が静かになった。羽ばたきの音も声もしなくなり夜の静寂が戻る。
 首を動かして一八〇度の景色を一瞥すると、地面に沢山の吸血鬼チョンチョンが落ちて絶命していた。出血はないため穴の開いた生首のおもちゃが転がっているようだった。

「はぁ」

 あからさまにため息をつきながら、吸血鬼チョンチョンを全て葬った東護とうごは歩み寄る。息吹戸いぶきどの前で立ち止まると、彼女を軽蔑しながら見下ろした。

「何を遊んでいるんだ息吹戸いぶきど。この程度、五分もあれば片付くだろう」

 自分の実力なんてこれっぽっちも把握していない息吹戸いぶきどは「そうなの?」と聞き返す。東護とうごは嫌悪感を隠すことなく口をへの字に曲げた。

「話に聞いていたが、無様だな」

 彼も玉谷たまやから彼女の状態を聞いているが、この程度の雑魚で手を貸さなければならないという状況に苛立ちを隠せない。まるで新米以下の一般人だ。と毒づく。

「そりゃどうも」

 と息吹戸いぶきどは肩をすくめた。
 言葉から伝わる嫌悪はさておき、一応助けてくれたことに対して感謝を述べる。

「とりあえず、ありがとう。全体攻撃出来ないから助かったよ」
 
 東護とうごは少しだけ眉を動かす。
 別人のようだと誰かが言っていたが、確かにそう思える態度だ。
 侮辱する言葉を発したのに噛みつくことなく無視をしている。
 
 とはいえ、記憶喪失であろうとも根本は変わらないと、東護とうごは強く睨んで相手を制した。
 睨まれた方は少しだけ首を傾げて苦笑いを浮かべた。
 
(めっちゃ睨まれてる)

 なんとなく、何かを思い出しそうだ。
 
(敵意に混じった殺意の視線だね。これは■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■……)

 黒塗りで潰された。
 息吹戸いぶきどは痛い程刺さる視線にうんざりしながら、頭を振りつつ立ち上がる。

(はぁ。しかしまぁ、大変だなぁこの体)
 
 この体に憑依してから嫌っている人の方が多いと認識しているが、東護tぴgpは別格だ。明らかに敵視している。
 でも、こちらがひどい事をしたんだろうと、あまり深く考えないことにした。

 悪関係を修復できたらいいが、現段階で積極的に行う相手ではなさそうだ。
 突っついたら、突っついた分だけ、好感度が下がる気がする。いや、マイナス数値が更に増えるだけだ。

 各々考える事は違えど、二人はずっと視線を合わせている。
 その雰囲気は冷え冷えを通り越え極寒だ。相手の荒を狙い、何かあればそこを突っついて攻撃しようと思案している。
 
 津賀留つがるは、まただ……と冷や汗を浮かべながら、雰囲気を壊すべく東護とうごに話しかける。 

「あの、東護とうごさん。応援にかけてつけて頂き、有難うございました」

 津賀留つがるが深々とお辞儀をしながら礼を言うと、東護とうごは視線だけ向けて「別に」と答えた。極寒の雰囲気が若干和らいだが、愛想のない男だと息吹戸いぶきどは思った。
 
(とはいえ、私だけあの態度だけど他の人には普通なのかもな。でも、クール系っていうよりもクールドライ系。好きな人が出来てもデレるかどうかわからないタイプ……顔がいい分、これは女性にモテそう……)

「ん?」

 と息吹戸いぶきどは声をあげた。

東護とうご? ってことは、当分この人と組むってこと?」
 
 仕返しとばかりに指さしすると、彼は嫌そうに目を細めた。

 津賀留つがるは「そうです」と引きつった笑みで答えると、息吹戸いぶきどから「うわぁマジか」と本音が出た。慌てて口を押えて「ええと。よろしく?」と取り繕ってみると、東護とうごは嫌そうに眉をひそめ、数歩距離を取った。態度に出過ぎて逆に清々しく感じてしまった息吹戸はつい笑ってしまう。

東護とうごさんって呼んでいい?」

「本当に何も覚えてないんだな。軽々しく話しかけるな」

「次の仕事からよろしくね」

 態度を気にせず声をかけると、目障りな存在だと呟いた東護とうごは元来た道を歩き始めた。
 息吹戸いぶきどは彼の背中を見送り、姿が見えなくなって、津賀留つがるに話しかける。

津賀留つがるちゃん。彼の事もう少し詳しく教えて。敵意ビシビシくるんだけど、私なにかしてた?」

 津賀留つがるは「詳しく知りませんが」と前置きをして

「お二人は昔、一度だけ相棒を組んでいたそうです。最初から仲が悪かったと聞いています。東護とうごさんが息吹戸いぶきどさんにあんな態度を取るようになったのは、組んでから二年目からだと噂があります。仲の良い同僚に、取り返しのつかない事をされた、と漏らしていたそうですよ」

 息吹戸いぶきどは瞬き二つして、「詳しいね?」と聞き返すと、津賀留つがるは首を左右に振った。

「あくまでも噂です。本人たちは口を閉ざしていますから」

 本人たち。息吹戸いぶきどもそれに含まれている。
 息吹戸いぶきどは軽く肩をすくめて「そっかー」とため息を吐く。

息吹戸いぶきどは嫌われ者だねぇ。何をどうしてこうなったのか」

 苦笑いを浮かべながら若干ションボリしていると、津賀留つがるは強く否定した。

「そんなことありません! 私は息吹戸いぶきどさんが大切です!」

「わー、ありがとう」

 適当に励ましてくれているのかと思ったが、

「本当ですからねっ!」

 彼女は真剣に感謝の気持を伝えようと必死に見つめている。
 想いが真摯に『私』の心に伝わる。
 この世界でも孤独じゃないって思うと嬉しくて微笑んだ。

 息吹戸いぶきどとなった『私』の一日はイベント密度が高く、目まぐるしいものだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...