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第一章:馴染むところから始めます
前途多難なもう一人の相棒
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「たしかに、分かりやすい」
と感想を述べた後、空が静かになった。羽ばたきの音も声もしなくなり夜の静寂が戻る。
首を動かして一八〇度の景色を一瞥すると、地面に沢山の吸血鬼が落ちて絶命していた。出血はないため穴の開いた生首のおもちゃが転がっているようだった。
「はぁ」
あからさまにため息をつきながら、吸血鬼を全て葬った東護は歩み寄る。息吹戸の前で立ち止まると、彼女を軽蔑しながら見下ろした。
「何を遊んでいるんだ息吹戸。この程度、五分もあれば片付くだろう」
自分の実力なんてこれっぽっちも把握していない息吹戸は「そうなの?」と聞き返す。東護は嫌悪感を隠すことなく口をへの字に曲げた。
「話に聞いていたが、無様だな」
彼も玉谷から彼女の状態を聞いているが、この程度の雑魚で手を貸さなければならないという状況に苛立ちを隠せない。まるで新米以下の一般人だ。と毒づく。
「そりゃどうも」
と息吹戸は肩をすくめた。
言葉から伝わる嫌悪はさておき、一応助けてくれたことに対して感謝を述べる。
「とりあえず、ありがとう。全体攻撃出来ないから助かったよ」
東護は少しだけ眉を動かす。
別人のようだと誰かが言っていたが、確かにそう思える態度だ。
侮辱する言葉を発したのに噛みつくことなく無視をしている。
とはいえ、記憶喪失であろうとも根本は変わらないと、東護は強く睨んで相手を制した。
睨まれた方は少しだけ首を傾げて苦笑いを浮かべた。
(めっちゃ睨まれてる)
なんとなく、何かを思い出しそうだ。
(敵意に混じった殺意の視線だね。これは■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■……)
黒塗りで潰された。
息吹戸は痛い程刺さる視線にうんざりしながら、頭を振りつつ立ち上がる。
(はぁ。しかしまぁ、大変だなぁこの体)
この体に憑依してから嫌っている人の方が多いと認識しているが、東護は別格だ。明らかに敵視している。
でも、こちらがひどい事をしたんだろうと、あまり深く考えないことにした。
悪関係を修復できたらいいが、現段階で積極的に行う相手ではなさそうだ。
突っついたら、突っついた分だけ、好感度が下がる気がする。いや、マイナス数値が更に増えるだけだ。
各々考える事は違えど、二人はずっと視線を合わせている。
その雰囲気は冷え冷えを通り越え極寒だ。相手の荒を狙い、何かあればそこを突っついて攻撃しようと思案している。
津賀留は、まただ……と冷や汗を浮かべながら、雰囲気を壊すべく東護に話しかける。
「あの、東護さん。応援にかけてつけて頂き、有難うございました」
津賀留が深々とお辞儀をしながら礼を言うと、東護は視線だけ向けて「別に」と答えた。極寒の雰囲気が若干和らいだが、愛想のない男だと息吹戸は思った。
(とはいえ、私だけあの態度だけど他の人には普通なのかもな。でも、クール系っていうよりもクールドライ系。好きな人が出来てもデレるかどうかわからないタイプ……顔がいい分、これは女性にモテそう……)
「ん?」
と息吹戸は声をあげた。
「東護? ってことは、当分この人と組むってこと?」
仕返しとばかりに指さしすると、彼は嫌そうに目を細めた。
津賀留は「そうです」と引きつった笑みで答えると、息吹戸から「うわぁマジか」と本音が出た。慌てて口を押えて「ええと。よろしく?」と取り繕ってみると、東護は嫌そうに眉をひそめ、数歩距離を取った。態度に出過ぎて逆に清々しく感じてしまった息吹戸はつい笑ってしまう。
「東護さんって呼んでいい?」
「本当に何も覚えてないんだな。軽々しく話しかけるな」
「次の仕事からよろしくね」
態度を気にせず声をかけると、目障りな存在だと呟いた東護は元来た道を歩き始めた。
息吹戸は彼の背中を見送り、姿が見えなくなって、津賀留に話しかける。
「津賀留ちゃん。彼の事もう少し詳しく教えて。敵意ビシビシくるんだけど、私なにかしてた?」
津賀留は「詳しく知りませんが」と前置きをして
「お二人は昔、一度だけ相棒を組んでいたそうです。最初から仲が悪かったと聞いています。東護さんが息吹戸さんにあんな態度を取るようになったのは、組んでから二年目からだと噂があります。仲の良い同僚に、取り返しのつかない事をされた、と漏らしていたそうですよ」
息吹戸は瞬き二つして、「詳しいね?」と聞き返すと、津賀留は首を左右に振った。
「あくまでも噂です。本人たちは口を閉ざしていますから」
本人たち。息吹戸もそれに含まれている。
息吹戸は軽く肩をすくめて「そっかー」とため息を吐く。
「息吹戸は嫌われ者だねぇ。何をどうしてこうなったのか」
苦笑いを浮かべながら若干ションボリしていると、津賀留は強く否定した。
「そんなことありません! 私は息吹戸さんが大切です!」
「わー、ありがとう」
適当に励ましてくれているのかと思ったが、
「本当ですからねっ!」
彼女は真剣に感謝の気持を伝えようと必死に見つめている。
想いが真摯に『私』の心に伝わる。
この世界でも孤独じゃないって思うと嬉しくて微笑んだ。
息吹戸となった『私』の一日はイベント密度が高く、目まぐるしいものだった。
と感想を述べた後、空が静かになった。羽ばたきの音も声もしなくなり夜の静寂が戻る。
首を動かして一八〇度の景色を一瞥すると、地面に沢山の吸血鬼が落ちて絶命していた。出血はないため穴の開いた生首のおもちゃが転がっているようだった。
「はぁ」
あからさまにため息をつきながら、吸血鬼を全て葬った東護は歩み寄る。息吹戸の前で立ち止まると、彼女を軽蔑しながら見下ろした。
「何を遊んでいるんだ息吹戸。この程度、五分もあれば片付くだろう」
自分の実力なんてこれっぽっちも把握していない息吹戸は「そうなの?」と聞き返す。東護は嫌悪感を隠すことなく口をへの字に曲げた。
「話に聞いていたが、無様だな」
彼も玉谷から彼女の状態を聞いているが、この程度の雑魚で手を貸さなければならないという状況に苛立ちを隠せない。まるで新米以下の一般人だ。と毒づく。
「そりゃどうも」
と息吹戸は肩をすくめた。
言葉から伝わる嫌悪はさておき、一応助けてくれたことに対して感謝を述べる。
「とりあえず、ありがとう。全体攻撃出来ないから助かったよ」
東護は少しだけ眉を動かす。
別人のようだと誰かが言っていたが、確かにそう思える態度だ。
侮辱する言葉を発したのに噛みつくことなく無視をしている。
とはいえ、記憶喪失であろうとも根本は変わらないと、東護は強く睨んで相手を制した。
睨まれた方は少しだけ首を傾げて苦笑いを浮かべた。
(めっちゃ睨まれてる)
なんとなく、何かを思い出しそうだ。
(敵意に混じった殺意の視線だね。これは■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■……)
黒塗りで潰された。
息吹戸は痛い程刺さる視線にうんざりしながら、頭を振りつつ立ち上がる。
(はぁ。しかしまぁ、大変だなぁこの体)
この体に憑依してから嫌っている人の方が多いと認識しているが、東護は別格だ。明らかに敵視している。
でも、こちらがひどい事をしたんだろうと、あまり深く考えないことにした。
悪関係を修復できたらいいが、現段階で積極的に行う相手ではなさそうだ。
突っついたら、突っついた分だけ、好感度が下がる気がする。いや、マイナス数値が更に増えるだけだ。
各々考える事は違えど、二人はずっと視線を合わせている。
その雰囲気は冷え冷えを通り越え極寒だ。相手の荒を狙い、何かあればそこを突っついて攻撃しようと思案している。
津賀留は、まただ……と冷や汗を浮かべながら、雰囲気を壊すべく東護に話しかける。
「あの、東護さん。応援にかけてつけて頂き、有難うございました」
津賀留が深々とお辞儀をしながら礼を言うと、東護は視線だけ向けて「別に」と答えた。極寒の雰囲気が若干和らいだが、愛想のない男だと息吹戸は思った。
(とはいえ、私だけあの態度だけど他の人には普通なのかもな。でも、クール系っていうよりもクールドライ系。好きな人が出来てもデレるかどうかわからないタイプ……顔がいい分、これは女性にモテそう……)
「ん?」
と息吹戸は声をあげた。
「東護? ってことは、当分この人と組むってこと?」
仕返しとばかりに指さしすると、彼は嫌そうに目を細めた。
津賀留は「そうです」と引きつった笑みで答えると、息吹戸から「うわぁマジか」と本音が出た。慌てて口を押えて「ええと。よろしく?」と取り繕ってみると、東護は嫌そうに眉をひそめ、数歩距離を取った。態度に出過ぎて逆に清々しく感じてしまった息吹戸はつい笑ってしまう。
「東護さんって呼んでいい?」
「本当に何も覚えてないんだな。軽々しく話しかけるな」
「次の仕事からよろしくね」
態度を気にせず声をかけると、目障りな存在だと呟いた東護は元来た道を歩き始めた。
息吹戸は彼の背中を見送り、姿が見えなくなって、津賀留に話しかける。
「津賀留ちゃん。彼の事もう少し詳しく教えて。敵意ビシビシくるんだけど、私なにかしてた?」
津賀留は「詳しく知りませんが」と前置きをして
「お二人は昔、一度だけ相棒を組んでいたそうです。最初から仲が悪かったと聞いています。東護さんが息吹戸さんにあんな態度を取るようになったのは、組んでから二年目からだと噂があります。仲の良い同僚に、取り返しのつかない事をされた、と漏らしていたそうですよ」
息吹戸は瞬き二つして、「詳しいね?」と聞き返すと、津賀留は首を左右に振った。
「あくまでも噂です。本人たちは口を閉ざしていますから」
本人たち。息吹戸もそれに含まれている。
息吹戸は軽く肩をすくめて「そっかー」とため息を吐く。
「息吹戸は嫌われ者だねぇ。何をどうしてこうなったのか」
苦笑いを浮かべながら若干ションボリしていると、津賀留は強く否定した。
「そんなことありません! 私は息吹戸さんが大切です!」
「わー、ありがとう」
適当に励ましてくれているのかと思ったが、
「本当ですからねっ!」
彼女は真剣に感謝の気持を伝えようと必死に見つめている。
想いが真摯に『私』の心に伝わる。
この世界でも孤独じゃないって思うと嬉しくて微笑んだ。
息吹戸となった『私』の一日はイベント密度が高く、目まぐるしいものだった。
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