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有実さんの上にあるミカン ジャンル:一応童話(笑)
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小雨のほっぺたに、灰いろの空から小さな雪が一つぶ、ふわりと舞いおりてきました。
その雪のひとひらは、小雨のほっぺたのうえで、さっととけてなくなってしまいます。
雪のひんやりとした冷たさが、こたつとストーブですっかりほてっていた肌に、ここちよく感じられました。
まちも、家も、道路も、まっかなポストも、でんしんばしらも、道ゆく車も、うっすらとおしろいのような雪化粧をしています。
空を見上げると、数えきれないほどたくさんの小さな粉雪が、ふわりふわりとゆれながら、音もなくしんしんとふりつもっていきました。
ささめ雪のなかを、小雨と瞬は手をつないで、さくさくと、雪をふむ音をたのしみながら歩いていきました。
3分ぐらい歩いたところに、そのコンビニはありました。
家のちかくにあるコンビニなので、お母さんやお父さんにつれられて、小雨もなんどか来たことがあるのですが、いつ来てもお客さんはほとんどいません。これでしょうばいになるのかしら、と、小雨のお母さんはいつも言っていました。
とびらをあけてコンビニに入ると、お店の中はだんぼうがきいていて、すっかり冷たくなったほっぺたに、あったかい空気が、もわん、とおしよせてきました。レジの上では、おでんがもうもうとゆげを立てて、そのとなりには、おいしそうな肉まんや、やきとりの入ったガラスの箱が並べられています。
そのようすがあまりにもおいしそうだったので、小雨のおなかは、ぐぅ、と大きく鳴りました。さっきまであんなにたくさんみかんをたべていたのに、もうおなかがすいてきたのです。
そのとき、お店のおくから、店員さんがひとり、すがたをあらわしました。このコンビニにいつもいる、なんとなくつっけんどんな感じのするおばさんで、小雨はこの人のことが少しにがてでした。
「あら、いらっしゃい。今日はお母さんといっしょじゃないの?」
小雨と瞬のすがたをみたおばさんが言いました。
「はい」 小雨は、小さくうなずきました。
「子供か……上原さん! 上原さん! ちょっと!」
おばさんは、店のおくの方にむかって、大声でよびかけています。おばさんのほかにも店員さんがいるのでしょうか。小雨は、このおばさんしか見たことがありませんでした。
「はぁい……」 若い女の人の声がして、お店のおくから、もう一人、店員さんがでてきました。
はじめてみる店員さんでした。かみを後ろでむすんでいて、はだが雪のように白くて、おたふくのようにまん丸いかおをした、若い女の人です。小雨と目があうと、その人はにっこりと笑いました。
「あら、かわいい~~。ふたりはきょうだい?」
小雨は、おなじ年のこどもたちの中では、背がたかいほうでした。それにくらべて、瞬は小さい男の子だったので、いっしょにいるとよく姉弟にまちがわれました。
「いえ、おない年の、ともだちです」
「あ、そうなんだ~。今日は、どうしたの?」
「あの……じゃあ、肉まんをひとつ……」
おねえさんは、肉まんのはいったケースをあけて、あつあつの肉まんをひとつ取りだすと、しゃがんで小雨の手にのせてくれました。小雨は、そのお姉さんの手に、じぶんのおこずかいからお金をはらいました。
「ありがとうございます」 お姉さんがいいました。
おねえさんがしゃがんでいるので、そのむねに付けられている名札が目のまえにありました。そこには、『上原 有実』と書いてあります。
「うえはら ゆみ さん?」
小雨は、よく本をよむ子だったので、漢字のテストはとくいで、いつも満点なのです。
「漢字よめるの? すご~~い。でもね、よくまちがわれるんだけど、これは『ゆみ』じゃなくて、『あるみ』って読むんだよ。めずらしいでしょ?」
「あるみさん……?」
「そう、お姉さん、あるみっていうの。よろしくね」
小雨は、肉まんを瞬と半分こにしてたべました。あつあつの肉まんをほおばると、体の中がほかほかしてきて、小雨はあたたかいきもちになりました。
お店の中をあるいていると、みかんの箱はすぐにみつかりました。その箱には、『有口みかん』とかいてあります。
「みかん好きなの?」 有実さんがはなしかけてきました。
小雨はこくりとうなずいて、有実さんにたずねました。
「このみかんは、どこからきたんですか?」
有実さんは、いちだんと明るいえがおでこたえました。
「このみかんはね、『和果山』っていうところからきたの。じつはね、わたしも和果山生まれで、おうちがみかん農家なんだよ」
「有実さん、和果山から来たの?」
すると有実さんは、むねをはって言いました。
「そうよ、わたしはね、みかんの国のお姫さまなの。雪の王子さまとけっこんして、今は東北とうほくにすんでいるのよ」
「お姫さま? 本当? みかんの国には、みかんがたくさんあるの?」
「もちろん、冬になるとみかんの木にすずなりになって、たーーくさんのみかんができるのよ」
有実さんはそういって、ラジオたいそうのように両手を大きく回しました。
「和果山って、とおいですか?」
「そうねえ……ここは東北だから、新幹線を使っても半日かかっちゃうかな……」
「行ってみたいなあ……」
「う~ん、つれて行ってあげることはできないけど、みかんのお話しだったら、たくさんできるよ?」
それから有実さんは、みかんの話をたくさんしてくれました。
平らな地面や丘の上に、びっしりとならぶ低いみかん畑のふうけい。青いみかんの実が少しずつ色づいていって、冬になると、枝いっぱいにかわいらしいみかんがなっているようす。
また、小さなみかんの木の苗をだいじにそだてて大きくしていったり、枝を切ったり、おいしいみかんを育てるために、よく育った実だけをえらんだり……そういった、みかんの育てかたも、くわしくおしえてくれました。
有実さんのお話しはとてもおもしろくて、小雨はすっかりむちゅうになって聞き入っていました。頭のなかに、おいしそうな、だいだい色のみかんをたわわに実らせた、みかん畑のふうけいが広がっていくようでした。
「瞬? 小雨ちゃん?」
二人をよぶ声がして、ふりかえると、瞬のお母さんが、コンビニまでむかえに来ていました。
「なかなか帰ってこないから、しんぱいしたのよ? さあ、帰りましょう?」
「うん」
「はい」
小雨と瞬は、すなおにうなずきました。
「おはなし聞いてくれてありがとう。またきてね」
有実さんが、にっこりと笑って手をふりながら、みおくってくれました。
いつのまにか外は晴れていて、青い空に、うすいオレンジ色とピンクがまじった、きれいな夕ぐれ色がほんのりとさしこんでいます。その空の色が、白い雪の上にうつりこんで、まちもお化粧をしたみたいに、ほんのりと赤く色づいていました。
おうちへ帰る道すがら、小雨は、また有実さんのおはなしをききに来よう、と思いました。
その雪のひとひらは、小雨のほっぺたのうえで、さっととけてなくなってしまいます。
雪のひんやりとした冷たさが、こたつとストーブですっかりほてっていた肌に、ここちよく感じられました。
まちも、家も、道路も、まっかなポストも、でんしんばしらも、道ゆく車も、うっすらとおしろいのような雪化粧をしています。
空を見上げると、数えきれないほどたくさんの小さな粉雪が、ふわりふわりとゆれながら、音もなくしんしんとふりつもっていきました。
ささめ雪のなかを、小雨と瞬は手をつないで、さくさくと、雪をふむ音をたのしみながら歩いていきました。
3分ぐらい歩いたところに、そのコンビニはありました。
家のちかくにあるコンビニなので、お母さんやお父さんにつれられて、小雨もなんどか来たことがあるのですが、いつ来てもお客さんはほとんどいません。これでしょうばいになるのかしら、と、小雨のお母さんはいつも言っていました。
とびらをあけてコンビニに入ると、お店の中はだんぼうがきいていて、すっかり冷たくなったほっぺたに、あったかい空気が、もわん、とおしよせてきました。レジの上では、おでんがもうもうとゆげを立てて、そのとなりには、おいしそうな肉まんや、やきとりの入ったガラスの箱が並べられています。
そのようすがあまりにもおいしそうだったので、小雨のおなかは、ぐぅ、と大きく鳴りました。さっきまであんなにたくさんみかんをたべていたのに、もうおなかがすいてきたのです。
そのとき、お店のおくから、店員さんがひとり、すがたをあらわしました。このコンビニにいつもいる、なんとなくつっけんどんな感じのするおばさんで、小雨はこの人のことが少しにがてでした。
「あら、いらっしゃい。今日はお母さんといっしょじゃないの?」
小雨と瞬のすがたをみたおばさんが言いました。
「はい」 小雨は、小さくうなずきました。
「子供か……上原さん! 上原さん! ちょっと!」
おばさんは、店のおくの方にむかって、大声でよびかけています。おばさんのほかにも店員さんがいるのでしょうか。小雨は、このおばさんしか見たことがありませんでした。
「はぁい……」 若い女の人の声がして、お店のおくから、もう一人、店員さんがでてきました。
はじめてみる店員さんでした。かみを後ろでむすんでいて、はだが雪のように白くて、おたふくのようにまん丸いかおをした、若い女の人です。小雨と目があうと、その人はにっこりと笑いました。
「あら、かわいい~~。ふたりはきょうだい?」
小雨は、おなじ年のこどもたちの中では、背がたかいほうでした。それにくらべて、瞬は小さい男の子だったので、いっしょにいるとよく姉弟にまちがわれました。
「いえ、おない年の、ともだちです」
「あ、そうなんだ~。今日は、どうしたの?」
「あの……じゃあ、肉まんをひとつ……」
おねえさんは、肉まんのはいったケースをあけて、あつあつの肉まんをひとつ取りだすと、しゃがんで小雨の手にのせてくれました。小雨は、そのお姉さんの手に、じぶんのおこずかいからお金をはらいました。
「ありがとうございます」 お姉さんがいいました。
おねえさんがしゃがんでいるので、そのむねに付けられている名札が目のまえにありました。そこには、『上原 有実』と書いてあります。
「うえはら ゆみ さん?」
小雨は、よく本をよむ子だったので、漢字のテストはとくいで、いつも満点なのです。
「漢字よめるの? すご~~い。でもね、よくまちがわれるんだけど、これは『ゆみ』じゃなくて、『あるみ』って読むんだよ。めずらしいでしょ?」
「あるみさん……?」
「そう、お姉さん、あるみっていうの。よろしくね」
小雨は、肉まんを瞬と半分こにしてたべました。あつあつの肉まんをほおばると、体の中がほかほかしてきて、小雨はあたたかいきもちになりました。
お店の中をあるいていると、みかんの箱はすぐにみつかりました。その箱には、『有口みかん』とかいてあります。
「みかん好きなの?」 有実さんがはなしかけてきました。
小雨はこくりとうなずいて、有実さんにたずねました。
「このみかんは、どこからきたんですか?」
有実さんは、いちだんと明るいえがおでこたえました。
「このみかんはね、『和果山』っていうところからきたの。じつはね、わたしも和果山生まれで、おうちがみかん農家なんだよ」
「有実さん、和果山から来たの?」
すると有実さんは、むねをはって言いました。
「そうよ、わたしはね、みかんの国のお姫さまなの。雪の王子さまとけっこんして、今は東北とうほくにすんでいるのよ」
「お姫さま? 本当? みかんの国には、みかんがたくさんあるの?」
「もちろん、冬になるとみかんの木にすずなりになって、たーーくさんのみかんができるのよ」
有実さんはそういって、ラジオたいそうのように両手を大きく回しました。
「和果山って、とおいですか?」
「そうねえ……ここは東北だから、新幹線を使っても半日かかっちゃうかな……」
「行ってみたいなあ……」
「う~ん、つれて行ってあげることはできないけど、みかんのお話しだったら、たくさんできるよ?」
それから有実さんは、みかんの話をたくさんしてくれました。
平らな地面や丘の上に、びっしりとならぶ低いみかん畑のふうけい。青いみかんの実が少しずつ色づいていって、冬になると、枝いっぱいにかわいらしいみかんがなっているようす。
また、小さなみかんの木の苗をだいじにそだてて大きくしていったり、枝を切ったり、おいしいみかんを育てるために、よく育った実だけをえらんだり……そういった、みかんの育てかたも、くわしくおしえてくれました。
有実さんのお話しはとてもおもしろくて、小雨はすっかりむちゅうになって聞き入っていました。頭のなかに、おいしそうな、だいだい色のみかんをたわわに実らせた、みかん畑のふうけいが広がっていくようでした。
「瞬? 小雨ちゃん?」
二人をよぶ声がして、ふりかえると、瞬のお母さんが、コンビニまでむかえに来ていました。
「なかなか帰ってこないから、しんぱいしたのよ? さあ、帰りましょう?」
「うん」
「はい」
小雨と瞬は、すなおにうなずきました。
「おはなし聞いてくれてありがとう。またきてね」
有実さんが、にっこりと笑って手をふりながら、みおくってくれました。
いつのまにか外は晴れていて、青い空に、うすいオレンジ色とピンクがまじった、きれいな夕ぐれ色がほんのりとさしこんでいます。その空の色が、白い雪の上にうつりこんで、まちもお化粧をしたみたいに、ほんのりと赤く色づいていました。
おうちへ帰る道すがら、小雨は、また有実さんのおはなしをききに来よう、と思いました。
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