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七人目の探偵、銀田二毛介
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『残念ながら六人目の犠牲者が出た。現在、七人目の探偵がこちらへ向かっている。諸君は建物内の探索を続けるもよし、エントランスで新たな探偵を出迎えるもよし、七人目の探偵がここに到着するまで、ひとまず自由に過ごしていてくれたまえ』
門谷「間に合いませんでしたか……もう六人も殺人が起こってしまったなんて、何と酷いこと……。」
ついさっき『いちいち悲しんでいられない』と豪語していたのは誰だったか。門谷先生は織田探偵の体に凭れかかりながら、さめざめと涙を流――すふりをしたが、織田探偵は眉一つ動かさない。殺人事件も女性のあしらい方も慣れているという感じ。
織田「のんびりしていたつもりはないですが、いざ探索を始めてみると、余裕が全くありませんな。私がここに着いてから、十三分ですか。立ち話をしていた時間があるとはいえ、本当にあっという間だ」
織田探偵がロレックスの腕時計を見ながら言うと、門谷先生は一瞬で嘘泣きをやめ、彼の意見に同調した。
門谷「ええ、こうしている暇はありません。一分一秒が惜しいですわ。私と織田さんはこのまま探索を続けるから、西野園さん、貴女はエントランスに戻って次の探偵に事情を説明してもらえるかしら」
西野園「えっ? あ、は、はい……」
まるで人が変わったように場を仕切り始める門谷先生に戸惑いを覚えつつも、私は彼女の指示を受け入れた。男性で体力のある織田探偵は探索のほうに専念してもらうべきだし、門谷先生は一人にしておいたら絶対にサボる。となると、エントランスに向かうのはたしかに私が適役と言えるだろう。
門谷「西野園さん、ほら、早く!」
門谷先生は織田探偵から死角になる位置で、私に向かってシッシッと手を振り、まるで犬でも追い払うような仕草をして見せた。あぁ、なるほど。私が適役という判断ではなく、単に織田探偵と二人きりになりたかったということか。
少しがっかりはしたけれど、動機はともあれ私と門谷先生の目的は一致している。
西野園「わかりました。私はエントランスに戻ります。お二人とも、お気をつけて」
織田「西野園さんこそ、気を付けてお戻りください」
門谷「さ、織田さん、もう少しこの部屋を調べてみるべきだと思われません? この放送設備から、何かゲームマスターの手掛かりが見つかるかもしれませんわ」
織田探偵の腕を取り、アンプに駆け寄る門谷先生。二人の背中に一抹の不安を覚えつつ、私は地下から一階に戻った。
しかし、エントランスに近付いたところで、一抹の不安がよぎる。
本当に二人きりにしてしまって大丈夫だったのだろうか? 織田探偵はまともな人に見えたけれど、門谷先生の押しの強さに負けてなんてことは有り得ない? 常識の通用しない門谷先生は、二人きりになったら何をしでかすか予測がつかない。
樺川先生と桃貫警部はどうしているのだろう。同じ建物の中にいて、別行動を取り始めてからまだ一時間も経っていないはずなのに、三人で真面目に探索したのが随分前のことのように感じられる。でも、今は彼らを懐かしんでいる暇はない。私にできるのは、次にやってくる探偵が真面目な人であるよう祈ることだけ。
私は歩きにくいヒールのパンプスを脱いで手に持ち、足早にエントランスへ向かった。
玄関の前に黒塗りの高級車が停まったのは、私がエントランスに着いたのとほぼ同時だった。
スーツ姿の年老いた運転手(これまた新顔、いったい運転手は何人いるのだろう)が恭しく後部座席のドアを開け、中から一人の男がのっそりと顔を出す。年の頃は三十代半ばか、或いは四十代前半といったところだろうか。くすんだ色の着物に袴を履き、足は下駄、頭にはヨレヨレのいわゆるお釜帽を被り、織田探偵とはまた違ったニュアンスで昭和の雰囲気を醸し出している。
男は落ち着かない素振りでキョロキョロと辺りを見回しながら車を降りた。身長は男性としては小柄な方。袴やゆったりした着物を着ているためわかりにくいが、肩幅の狭さを見るに、体型も華奢な方ではないだろうか。
こちらへ歩いてくる足取りもどこか頼りなげで、語弊を恐れずに言えば、うだつの上がらない風体、秋葉原をうろついていたら間違いなく職務質問されそうな挙動不審ぶりだ。あの人も探偵なのかしら……? 未だエントランスの冷たい床の上で伸びている愚藤の例を考えると、実際には探偵とは言えないような人物が招かれている可能性も否定はできない。
私はほぼ無意識のうちに物陰に身を隠し、彼の様子を遠目に観察していた。
お釜帽の男が二人の大男に軽く会釈しながら玄関の扉を潜ると、ゲームマスターの声が告げる。
『我が殺人ゲームへようこそ。七人目の探偵、銀田二毛介くん』
ゲームマスターがこの殺人ゲームのルールの説明を始めると、銀田と呼ばれた男は、それまで頼りなげだった表情から一転、鋭い視線を虚空に走らせた。それは桃貫警部や織田探偵に似た、正義感に溢れる眼差し。その表情を見て私は、彼はまごうかたなき探偵だと確信した。人は見かけによらない、という言葉の意味をこれほど痛感させられたことが、かつてあっただろうか。
彼は頼れそうだ。ゲームマスターによる説明が終わったところで、私は銀田に姿を見せ、声をかけた。
西野園「あの、銀田さん、とおっしゃるんですよね?」
銀田「は、はい!?」
すると銀田は、まるで鳩が豆鉄砲を食ったように大きく目を見開き、何歩か後ずさりしながら妙に声を裏返らせた。え、たしかに突然声かけたけど、それだけでそんなに驚く?
銀田はくしゃくしゃのお釜帽を脱いであたふたと頭を下げた。
銀田「あ、あ、あのっ、わわわたくし、銀田、ではなくて、その、銀田二、と、も、申します。よ、よくまちゃ……間違われるんですけれどもね、ハハハ」
帽子をかぶっていたせいか、銀田――もとい銀田二の、男としては長髪の部類に入るであろう髪は、アフロの如き蓬髪になっている。銀田二が髪を乱雑に手で掻き乱すと、銀田二の頭から白く細かいものがポロポロと床に落ちた。これ、もしかして、フケ?
銀田二「ちな、ちなみに、名前は毛作じゃなくて、も、毛介です。よく間違われるんですよ、銀田、二毛作、ってね、アハハハ」
西野園「……は、はぁ……」
銀田二「ま、まあ、紛らわしい名前なのは、わ、わかってるんですけれどもね、アハハハ」
アハハハ、なんてわざとらしい笑い声を上げながらも、銀田二の目は全く笑っていなかった。目も口も歪に曲がり、無理に作り笑いをしているように見える。しかも、その間ずっとボリボリと頭を掻いており、見たこともないほど大量のフケが床に撒き散らされていた。辛うじて異臭こそ放っていないが、清潔感はまるでない。いったい何日髪を洗っていないんだろう?
いやいや、そんなこと考えてる場合じゃないんだった。彼がさっき一瞬見せた眼光の鋭さの方を、今は信じよう。気を取り直して、私は銀田二に言った。
西野園「銀田……二……さん、さっきのゲームマスターの話は聞いてましたよね?」
銀田二「え? ええ、はい、どど、どうやら、ここでとんでもないことが起こっているようで……わ、わ、私はその、警察からですね、そそ捜査の協力を求められてここまで来た、んですが、どうやら騙されてしまったようで……め、綿棒、面目ない」
西野園「警察から捜査の協力を求められたということは、あなたも探偵さんなんですね?」
銀田二「ええ、まあ、その、た、探偵といいますか、その、まあ依頼を受けてですね、依頼人様のご意向に沿って……まあ、ここ、こんなご時世ですから、依頼といっても、浮気調査やら人探しやら、こう言っては語弊がありますが、く、くだらないものも多いんですけれども、そんな中でも稀に、刑事事件に関わる、或いは事件のか、解決に、寄与しゅるようなものもありましてですね。その話がけけ、警察でも少し知られるようになったらしく、何度か協力して捜査に当たるうち、刑事に知り合いもできまして、や、厄介な事件ぬぉ、事件のときにはその、助力を求められることも、ありますですね、ハッハッハ」
前言撤回。大丈夫かこの人。
西野園「あの、ゲームマスターから説明があった通り、ここではもう六人もの人間が殺されて……」
銀田二「ろろ、六人! それは、き、近年稀にみる連続大量殺人でございますな! おお、お、お嬢さんもお気をつけください、そういう輩は決まって、ち、力の弱く、狙いやすい者を狙うものです。お嬢さんのように若く、おう、おうちゅ、おうちゅく、お美しい方なら、殺人鬼にとっては恰好の標的となりましょう。く、くれぐれもわわ、私のそばを離れずに……」
西野園「いや、そんなことも言ってられないんです! とにかく時間がなくて、先に来られた探偵の皆さんは、今必死で建物内の探索をしておられて……」
銀田二「ささ、先に来られた探偵! 私の他にも、探偵が来ているのですか! そ、それは心強い。いや、みなしゃ、皆さん、ということは、大勢いらっしゃると考えてよいのですかな。そ、れなら、もう犯人は捕まえたも同人誌、いや同然ですな!」
西野園「だから、話はそう簡単じゃないんですってば。十五分間生贄を守り切らないと、私たちはここから出られないんです。だから、まずは生贄とされている人物を探して保護するか、或いは生贄が放たれる場所を見つけるために、一刻も早く探索を……」
銀田二「おお、おお、そうでした、たしかにさっき、そにょ、そのような事を言っておりましたな。さあ、では、参りましょう。た探索は、どのあたりまですすすすんでおりますのですかな?」
西野園「ええと、とりあえず、この建物と別棟の一階、それとここの地下室までは私も探索に参加しました。今も他の探偵の皆さんが探索を進めているはずですけれど……」
銀田二「な、なるほど、それは変態、いや大変だったでしょうな……」
銀田はそう言うと、視線を落とし、素足となった私の足元をジロジロと粘性のある視線で見つめた。そんなにじっと見られると、ちょっと気持ち悪いんだけど……。
いや、それ以前に、銀田二の話し方は呂律が回らない上に噛みまくり、言い間違えだらけで、聞いているだけでイライラしてくる。足取りはしっかりしているし、酔っているようには見えないのだけれど、会話に必要以上の労力を要するタイプ。現に、ここまで彼との会話だけでも五分以上の時間を浪費してしまっているのだ。
さらに口を開きかけた銀田二を遮って、私は言った。言った、というより、叫んだという表現のほうが適切かもしれない。
西野園「あの! 申し訳ないですが時間がないんです。お話はそれぐらいにして、とにかく、急いで探索に向かいましょう!」
しかし、私の剣幕に驚いた様子の銀田二がぽかんと口を開けるのとほぼ同時に、最早トラウマになりそうなオーケストラの音楽が流れ始める。
『残念ながら七人目の犠牲者が出た。現在、八人目の探偵がこちらへ向かっている。諸君は建物内の探索を続けるもよし、エントランスで新たな探偵を出迎えるもよし、八人目の探偵がここに到着するまで、ひとまず自由に過ごしていてくれたまえ』
門谷「間に合いませんでしたか……もう六人も殺人が起こってしまったなんて、何と酷いこと……。」
ついさっき『いちいち悲しんでいられない』と豪語していたのは誰だったか。門谷先生は織田探偵の体に凭れかかりながら、さめざめと涙を流――すふりをしたが、織田探偵は眉一つ動かさない。殺人事件も女性のあしらい方も慣れているという感じ。
織田「のんびりしていたつもりはないですが、いざ探索を始めてみると、余裕が全くありませんな。私がここに着いてから、十三分ですか。立ち話をしていた時間があるとはいえ、本当にあっという間だ」
織田探偵がロレックスの腕時計を見ながら言うと、門谷先生は一瞬で嘘泣きをやめ、彼の意見に同調した。
門谷「ええ、こうしている暇はありません。一分一秒が惜しいですわ。私と織田さんはこのまま探索を続けるから、西野園さん、貴女はエントランスに戻って次の探偵に事情を説明してもらえるかしら」
西野園「えっ? あ、は、はい……」
まるで人が変わったように場を仕切り始める門谷先生に戸惑いを覚えつつも、私は彼女の指示を受け入れた。男性で体力のある織田探偵は探索のほうに専念してもらうべきだし、門谷先生は一人にしておいたら絶対にサボる。となると、エントランスに向かうのはたしかに私が適役と言えるだろう。
門谷「西野園さん、ほら、早く!」
門谷先生は織田探偵から死角になる位置で、私に向かってシッシッと手を振り、まるで犬でも追い払うような仕草をして見せた。あぁ、なるほど。私が適役という判断ではなく、単に織田探偵と二人きりになりたかったということか。
少しがっかりはしたけれど、動機はともあれ私と門谷先生の目的は一致している。
西野園「わかりました。私はエントランスに戻ります。お二人とも、お気をつけて」
織田「西野園さんこそ、気を付けてお戻りください」
門谷「さ、織田さん、もう少しこの部屋を調べてみるべきだと思われません? この放送設備から、何かゲームマスターの手掛かりが見つかるかもしれませんわ」
織田探偵の腕を取り、アンプに駆け寄る門谷先生。二人の背中に一抹の不安を覚えつつ、私は地下から一階に戻った。
しかし、エントランスに近付いたところで、一抹の不安がよぎる。
本当に二人きりにしてしまって大丈夫だったのだろうか? 織田探偵はまともな人に見えたけれど、門谷先生の押しの強さに負けてなんてことは有り得ない? 常識の通用しない門谷先生は、二人きりになったら何をしでかすか予測がつかない。
樺川先生と桃貫警部はどうしているのだろう。同じ建物の中にいて、別行動を取り始めてからまだ一時間も経っていないはずなのに、三人で真面目に探索したのが随分前のことのように感じられる。でも、今は彼らを懐かしんでいる暇はない。私にできるのは、次にやってくる探偵が真面目な人であるよう祈ることだけ。
私は歩きにくいヒールのパンプスを脱いで手に持ち、足早にエントランスへ向かった。
玄関の前に黒塗りの高級車が停まったのは、私がエントランスに着いたのとほぼ同時だった。
スーツ姿の年老いた運転手(これまた新顔、いったい運転手は何人いるのだろう)が恭しく後部座席のドアを開け、中から一人の男がのっそりと顔を出す。年の頃は三十代半ばか、或いは四十代前半といったところだろうか。くすんだ色の着物に袴を履き、足は下駄、頭にはヨレヨレのいわゆるお釜帽を被り、織田探偵とはまた違ったニュアンスで昭和の雰囲気を醸し出している。
男は落ち着かない素振りでキョロキョロと辺りを見回しながら車を降りた。身長は男性としては小柄な方。袴やゆったりした着物を着ているためわかりにくいが、肩幅の狭さを見るに、体型も華奢な方ではないだろうか。
こちらへ歩いてくる足取りもどこか頼りなげで、語弊を恐れずに言えば、うだつの上がらない風体、秋葉原をうろついていたら間違いなく職務質問されそうな挙動不審ぶりだ。あの人も探偵なのかしら……? 未だエントランスの冷たい床の上で伸びている愚藤の例を考えると、実際には探偵とは言えないような人物が招かれている可能性も否定はできない。
私はほぼ無意識のうちに物陰に身を隠し、彼の様子を遠目に観察していた。
お釜帽の男が二人の大男に軽く会釈しながら玄関の扉を潜ると、ゲームマスターの声が告げる。
『我が殺人ゲームへようこそ。七人目の探偵、銀田二毛介くん』
ゲームマスターがこの殺人ゲームのルールの説明を始めると、銀田と呼ばれた男は、それまで頼りなげだった表情から一転、鋭い視線を虚空に走らせた。それは桃貫警部や織田探偵に似た、正義感に溢れる眼差し。その表情を見て私は、彼はまごうかたなき探偵だと確信した。人は見かけによらない、という言葉の意味をこれほど痛感させられたことが、かつてあっただろうか。
彼は頼れそうだ。ゲームマスターによる説明が終わったところで、私は銀田に姿を見せ、声をかけた。
西野園「あの、銀田さん、とおっしゃるんですよね?」
銀田「は、はい!?」
すると銀田は、まるで鳩が豆鉄砲を食ったように大きく目を見開き、何歩か後ずさりしながら妙に声を裏返らせた。え、たしかに突然声かけたけど、それだけでそんなに驚く?
銀田はくしゃくしゃのお釜帽を脱いであたふたと頭を下げた。
銀田「あ、あ、あのっ、わわわたくし、銀田、ではなくて、その、銀田二、と、も、申します。よ、よくまちゃ……間違われるんですけれどもね、ハハハ」
帽子をかぶっていたせいか、銀田――もとい銀田二の、男としては長髪の部類に入るであろう髪は、アフロの如き蓬髪になっている。銀田二が髪を乱雑に手で掻き乱すと、銀田二の頭から白く細かいものがポロポロと床に落ちた。これ、もしかして、フケ?
銀田二「ちな、ちなみに、名前は毛作じゃなくて、も、毛介です。よく間違われるんですよ、銀田、二毛作、ってね、アハハハ」
西野園「……は、はぁ……」
銀田二「ま、まあ、紛らわしい名前なのは、わ、わかってるんですけれどもね、アハハハ」
アハハハ、なんてわざとらしい笑い声を上げながらも、銀田二の目は全く笑っていなかった。目も口も歪に曲がり、無理に作り笑いをしているように見える。しかも、その間ずっとボリボリと頭を掻いており、見たこともないほど大量のフケが床に撒き散らされていた。辛うじて異臭こそ放っていないが、清潔感はまるでない。いったい何日髪を洗っていないんだろう?
いやいや、そんなこと考えてる場合じゃないんだった。彼がさっき一瞬見せた眼光の鋭さの方を、今は信じよう。気を取り直して、私は銀田二に言った。
西野園「銀田……二……さん、さっきのゲームマスターの話は聞いてましたよね?」
銀田二「え? ええ、はい、どど、どうやら、ここでとんでもないことが起こっているようで……わ、わ、私はその、警察からですね、そそ捜査の協力を求められてここまで来た、んですが、どうやら騙されてしまったようで……め、綿棒、面目ない」
西野園「警察から捜査の協力を求められたということは、あなたも探偵さんなんですね?」
銀田二「ええ、まあ、その、た、探偵といいますか、その、まあ依頼を受けてですね、依頼人様のご意向に沿って……まあ、ここ、こんなご時世ですから、依頼といっても、浮気調査やら人探しやら、こう言っては語弊がありますが、く、くだらないものも多いんですけれども、そんな中でも稀に、刑事事件に関わる、或いは事件のか、解決に、寄与しゅるようなものもありましてですね。その話がけけ、警察でも少し知られるようになったらしく、何度か協力して捜査に当たるうち、刑事に知り合いもできまして、や、厄介な事件ぬぉ、事件のときにはその、助力を求められることも、ありますですね、ハッハッハ」
前言撤回。大丈夫かこの人。
西野園「あの、ゲームマスターから説明があった通り、ここではもう六人もの人間が殺されて……」
銀田二「ろろ、六人! それは、き、近年稀にみる連続大量殺人でございますな! おお、お、お嬢さんもお気をつけください、そういう輩は決まって、ち、力の弱く、狙いやすい者を狙うものです。お嬢さんのように若く、おう、おうちゅ、おうちゅく、お美しい方なら、殺人鬼にとっては恰好の標的となりましょう。く、くれぐれもわわ、私のそばを離れずに……」
西野園「いや、そんなことも言ってられないんです! とにかく時間がなくて、先に来られた探偵の皆さんは、今必死で建物内の探索をしておられて……」
銀田二「ささ、先に来られた探偵! 私の他にも、探偵が来ているのですか! そ、それは心強い。いや、みなしゃ、皆さん、ということは、大勢いらっしゃると考えてよいのですかな。そ、れなら、もう犯人は捕まえたも同人誌、いや同然ですな!」
西野園「だから、話はそう簡単じゃないんですってば。十五分間生贄を守り切らないと、私たちはここから出られないんです。だから、まずは生贄とされている人物を探して保護するか、或いは生贄が放たれる場所を見つけるために、一刻も早く探索を……」
銀田二「おお、おお、そうでした、たしかにさっき、そにょ、そのような事を言っておりましたな。さあ、では、参りましょう。た探索は、どのあたりまですすすすんでおりますのですかな?」
西野園「ええと、とりあえず、この建物と別棟の一階、それとここの地下室までは私も探索に参加しました。今も他の探偵の皆さんが探索を進めているはずですけれど……」
銀田二「な、なるほど、それは変態、いや大変だったでしょうな……」
銀田はそう言うと、視線を落とし、素足となった私の足元をジロジロと粘性のある視線で見つめた。そんなにじっと見られると、ちょっと気持ち悪いんだけど……。
いや、それ以前に、銀田二の話し方は呂律が回らない上に噛みまくり、言い間違えだらけで、聞いているだけでイライラしてくる。足取りはしっかりしているし、酔っているようには見えないのだけれど、会話に必要以上の労力を要するタイプ。現に、ここまで彼との会話だけでも五分以上の時間を浪費してしまっているのだ。
さらに口を開きかけた銀田二を遮って、私は言った。言った、というより、叫んだという表現のほうが適切かもしれない。
西野園「あの! 申し訳ないですが時間がないんです。お話はそれぐらいにして、とにかく、急いで探索に向かいましょう!」
しかし、私の剣幕に驚いた様子の銀田二がぽかんと口を開けるのとほぼ同時に、最早トラウマになりそうなオーケストラの音楽が流れ始める。
『残念ながら七人目の犠牲者が出た。現在、八人目の探偵がこちらへ向かっている。諸君は建物内の探索を続けるもよし、エントランスで新たな探偵を出迎えるもよし、八人目の探偵がここに到着するまで、ひとまず自由に過ごしていてくれたまえ』
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