12 / 27
GW~五月八日 心美
しおりを挟む
ところで、私には最近新しい趣味ができた。
服作りである。
あれだけ女らしさを強要されることに苦痛を覚えていたはずの私が、結局ある意味最も女らしい分野の趣味に目覚めてしまったのだから、まったく皮肉なものだ。
別に今更少女趣味に目覚めたわけではない。この間、大学で初めて作った服は、材料と道具が限られていて、満足のいくものにはならなかった。完璧主義の私にとっては、それがなんだか悔しくて、どうせならもう少しマシなものを作ってみたくなった。たったそれだけの動機――最初はそう思っていた。
ミシンが欲しい、と両親に電話したら、二人とも――特に母親は――とても喜んでいた。きっと、娘がまた一つ女らしくなったことが嬉しいのだろう。結局何もかも母親の思い通りに運んでしまっているみたいで、それがちょっぴり不本意ではあったけれど、でも、実際に作ってみたくなったのだから仕方がない。
両親の資金的な援助もあって、服を作るための道具はすぐに揃えられた。大学はGWでも完全に休講とはならなかったが、それでも平日と比べたらかなり時間がとれたし、連休後半はずっと休みだったので、私は連休で自由になった時間の大部分を服作りに費やすことができた。
私が最初に作ったのは、青いワンピース。袖のないものであれば、ワンピースは布を切って縫うだけだから、初心者でも割と簡単に作ることができるらしい。手芸店で初心者向けの型紙が載った本を探し、生地は念のため2mほど、多少間違えても大丈夫なよう、多めに買っておいた。生地は無地のコットンリネン、色はサルビアブルー。青は昔から私の最も好きな色だ。
型紙に合わせて布を裁ち、ミシンを使って縫い合わせる。小中学校の家庭科でも裁縫はあったし、女子高時代にも授業で裁縫をやらせられた記憶はあるけれど、それとは全く異なる楽しさがあった。誰かに強制されて嫌々やることと、自分の思い描いたものを形にすることの間にはこれほどにも大きな差があるのか、と驚かされる。小学校の授業で作らされたみっともない袋なんかは結局一度も使わずに捨ててしまったが、このワンピースが私と真紀さんの距離を縮めてくれる、そう考えると、ミシンをかける手にも自然と気合が入った。
ただの布きれが、少しずつ私のイメージしたワンピースの形になっていく過程はとても楽しかった。
Aラインのフレアワンピース。ノースリーブで襟もないシンプルなタイプで、スカート丈は膝上あたりまで。余った生地で、ワンポイントのウエストリボンも作った。初めてちゃんと作ったにしては、なかなか上出来ではないだろうか。
長年テニスをやっていたせいか、私の体はウエストの細さに比べて下半身にボリュームがある。脚の筋肉はだいぶ落ちてほっそりしてきたものの、ヒップはなかなか一般的な女子のサイズになってくれなかった。スカートばかり履いているのはそれを隠すためだし、ワンピースもなるべくタイトなものは避けるようにしていた。ものによってはヒップの大きさのせいで不格好になってしまうものがあり、デザインがとても気に入っているのに着られないというケースもしばしば。だが、自分で服を作れるようになれば、こんな悩みとはオサラバできる。
出来上がった青いワンピースを着て姿見の前に立ったとき、私は何か新しい自分の一面を見た気がした。一昨年の夏、真紀さんにメイクをしてもらったあと、鏡の中にいた私を目にした瞬間、その感覚に近い。
そして、私はさらに服作りにのめり込んでいった。次の目標はスカートとブラウス。今度は、母が送ってきた服を、内緒でバラして使ってみようと思っている。母が選ぶ服は基本的にロリータ寄りで、私の趣味とは全く相容れない。これを着て歩こうとは微塵も思えないようなものばかりだった。でも、生地や素材はどれもいいものが使われていて、バラしてワンポイントのアクセントに用いるぐらいなら役に立ちそうだ。
新しい趣味ができたことで、一人で過ごす時間がとても充実したものになった。型紙と向き合いながら、完成図とそれを着た自分を思い浮かべる、その瞬間が何よりも幸せに感じられた。
!i!i!i!i!i!i!i!i!i!i!i!i!i!i!i!i
GW明けの月曜日。私は紙コップになみなみと注がれたコーヒーを片手に、ある人物を探しながら、昼休みのキャンパス内を歩いていた。
大体の人相は既に調べてある。あとは上手く見つけられるか否か。だが、これに関しては不思議と自信があった。
文学部の施設が収められている文学部棟は、私や真紀さんの経済学部棟より一回り、いや二回りほど大きく、経済学部棟から見て中庭を挟んだ正面にある。だから、昼休みになれば、互いの棟から中庭へと一斉に夥しい数の学生が吐き出される。最も違和感を持たれずに遭遇できるのはこのタイミングだろうと踏んでいた。
すぐに目的の男は見つかった。私は辺りを見回しながら、織原伊都子が近くにいないことを確かめる。もしここで彼女に見つかってしまったら、計画は一瞬で水泡に帰してしまうからだ。だが、幸運にも、彼女の姿はなかった。
ツイている。私はぼんやりと歩いている風を装いながら男との距離を測り、それとなく近付いたところで、わざと正面に出た。
「きゃっ!」
「うおっ!」
肩がぶつかった瞬間、私が持っていたコーヒーがこぼれ、男の服を濡らした。ヨレヨレのネルシャツとジーパン、その胸から股間にかけての広い範囲に、茶色い液体がどす黒い染みを作る。
「ご、ごめんなさい! 私、ぼーっとしてて……なんてことを……」
私はすぐにハンカチを取り出し、男の濡れた服を拭ってゆく。中庭のド真ん中、周囲を歩く学生たちの視線が一斉に私たちへと向けられる。
「……い、いや……別に……」
男は突然の出来事に戸惑っているようだったが、ハンカチを持つ私の手が下腹部に近付くと、その体は露骨な反応を見せた。それほど女慣れしているタイプではないようだ。
「ああ……ダメだわ、ハンカチなんかじゃ……」
もちろん全ては計画通りの行為だったが、私は男の顔を上目遣いに見上げ、心から申し訳なさそうに見える表情を作った。この顔を見て怒りの矛を収めなかった男は今まで一人もいない。
男の身長は遠目に見た印象よりも大きく、180センチはゆうに超えているだろう。中途半端に伸びた髪はボサボサで、なすびのように面長の顔と切れ長の目には、著しく生気が欠けていた。
「……本当にごめんなさい……代わりの服、ちゃんと用意させていただきますから、あの、今から少しお時間よろしいですか? 午後の講義までには間に合わせますので」
「え、えっ、代わりの服? は?」
若干どもり気味に答えた、風采の上がらない男。これが、織原伊都子の交際相手、諸星亘だ。
私は諸星亘の手を引いて、大学を出てすぐ近くにあるファストファッションの店に駆け込み、そこで適当なシャツとズボンを選んで着替えさせた。代金を払ったのはもちろん私だ。諸星の汚れた服は、店のビニール袋に入れて私が持った。
それから私たちは、近くにある喫茶店に入った。
「さっきは本当にすみませんでした……私、なんだかぼーっとしてて。服は、ちゃんとクリーニングに出してお返ししますから」
「いや、そ、そんなに大した服でもないし、別に……」
諸星亘の受け答えは一貫してこんな調子で、あまり最後まではっきりと言葉を言い切ることがなかった。どこにでもある全国チェーンの喫茶店だというのに、終始落ち着きなくキョロキョロと辺りを見回し、挙動不審で頼りない印象。これなら、伊都子が『私がいなきゃダメだ』と思うのも無理はない。普段の彼がどうなのかは知らないが、その気になれば私でも絵や壺を売りつけられそうな気配だった。
もしかしたら、たかがコーヒーを零したぐらいで代わりの服を買い、喫茶店まで連れ回す、この状況に対して違和感を覚えているのかもしれない。普通なら、クリーニング代を出すか服の代金を弁償するか、せいぜいその程度のはずだ。しかし、もちろんこれも私の計画の一環で、この特殊な状況に何か特別な意味を見出してくれればしめたもの。私はそれとなく彼女の有無を質してみようと考えた。
「でも、長く大事に着ていらっしゃる服だったみたいだし、もし彼女さんからのプレゼントだったりしたらと思うと、本当に申し訳なくて」
「ああ、い、いえ、彼女なんていませんから」
やはりそう来たか。あんなくたびれた平凡なネルシャツがプレゼントなんかではないことぐらい、いちいち尋ねなくても一目でわかる。あまりにも思惑通りに事が運びすぎて、私は若干拍子抜けしてしまった。
伊都子から彼氏の存在を明かされてから、彼女は何故一人で昼食をとっていたのか、ずっと疑問に思っていた。瀬名瞬と真紀さんの例を持ち出すまでもなく、一緒に昼食をとっているカップルはよく見かけるし、学年も学部もサークルも同じなのだから、人目を気にしてあの物置に行くぐらいなら、二人で一緒に昼食をとればいいだけのように思えたからだ。彼女が言うには、同じコミュニティに所属しているだけに、付き合っていることが知れ渡ると人間関係に気を遣うから、だそうだが、果たしてそういうものだろうか。
しかし、さっきの一言で全ての疑問が氷解した。諸星亘は、衣食住全てにおいて伊都子に依存した生活を送っておきながら、彼女のことを本気には考えていない、典型的なクズ男なのだ。私と諸星は学年も学部もサークルも違う。何の接点も、何のしがらみも存在しない。だから、今ここで私に彼女の存在を隠す理由はなく、それでも尚彼女の存在を伏せるのは、あわよくば私とも関係を持ちたいと考えているからに他ならない。
伊都子はこの男と速やかに縁を切るべきだ。
もし、彼女にその決断ができないのなら、私が……。
クリーニングした服を返すため、再度会う約束を取り付けてから、私は喫茶店を出て、諸星亘と別れた。
服作りである。
あれだけ女らしさを強要されることに苦痛を覚えていたはずの私が、結局ある意味最も女らしい分野の趣味に目覚めてしまったのだから、まったく皮肉なものだ。
別に今更少女趣味に目覚めたわけではない。この間、大学で初めて作った服は、材料と道具が限られていて、満足のいくものにはならなかった。完璧主義の私にとっては、それがなんだか悔しくて、どうせならもう少しマシなものを作ってみたくなった。たったそれだけの動機――最初はそう思っていた。
ミシンが欲しい、と両親に電話したら、二人とも――特に母親は――とても喜んでいた。きっと、娘がまた一つ女らしくなったことが嬉しいのだろう。結局何もかも母親の思い通りに運んでしまっているみたいで、それがちょっぴり不本意ではあったけれど、でも、実際に作ってみたくなったのだから仕方がない。
両親の資金的な援助もあって、服を作るための道具はすぐに揃えられた。大学はGWでも完全に休講とはならなかったが、それでも平日と比べたらかなり時間がとれたし、連休後半はずっと休みだったので、私は連休で自由になった時間の大部分を服作りに費やすことができた。
私が最初に作ったのは、青いワンピース。袖のないものであれば、ワンピースは布を切って縫うだけだから、初心者でも割と簡単に作ることができるらしい。手芸店で初心者向けの型紙が載った本を探し、生地は念のため2mほど、多少間違えても大丈夫なよう、多めに買っておいた。生地は無地のコットンリネン、色はサルビアブルー。青は昔から私の最も好きな色だ。
型紙に合わせて布を裁ち、ミシンを使って縫い合わせる。小中学校の家庭科でも裁縫はあったし、女子高時代にも授業で裁縫をやらせられた記憶はあるけれど、それとは全く異なる楽しさがあった。誰かに強制されて嫌々やることと、自分の思い描いたものを形にすることの間にはこれほどにも大きな差があるのか、と驚かされる。小学校の授業で作らされたみっともない袋なんかは結局一度も使わずに捨ててしまったが、このワンピースが私と真紀さんの距離を縮めてくれる、そう考えると、ミシンをかける手にも自然と気合が入った。
ただの布きれが、少しずつ私のイメージしたワンピースの形になっていく過程はとても楽しかった。
Aラインのフレアワンピース。ノースリーブで襟もないシンプルなタイプで、スカート丈は膝上あたりまで。余った生地で、ワンポイントのウエストリボンも作った。初めてちゃんと作ったにしては、なかなか上出来ではないだろうか。
長年テニスをやっていたせいか、私の体はウエストの細さに比べて下半身にボリュームがある。脚の筋肉はだいぶ落ちてほっそりしてきたものの、ヒップはなかなか一般的な女子のサイズになってくれなかった。スカートばかり履いているのはそれを隠すためだし、ワンピースもなるべくタイトなものは避けるようにしていた。ものによってはヒップの大きさのせいで不格好になってしまうものがあり、デザインがとても気に入っているのに着られないというケースもしばしば。だが、自分で服を作れるようになれば、こんな悩みとはオサラバできる。
出来上がった青いワンピースを着て姿見の前に立ったとき、私は何か新しい自分の一面を見た気がした。一昨年の夏、真紀さんにメイクをしてもらったあと、鏡の中にいた私を目にした瞬間、その感覚に近い。
そして、私はさらに服作りにのめり込んでいった。次の目標はスカートとブラウス。今度は、母が送ってきた服を、内緒でバラして使ってみようと思っている。母が選ぶ服は基本的にロリータ寄りで、私の趣味とは全く相容れない。これを着て歩こうとは微塵も思えないようなものばかりだった。でも、生地や素材はどれもいいものが使われていて、バラしてワンポイントのアクセントに用いるぐらいなら役に立ちそうだ。
新しい趣味ができたことで、一人で過ごす時間がとても充実したものになった。型紙と向き合いながら、完成図とそれを着た自分を思い浮かべる、その瞬間が何よりも幸せに感じられた。
!i!i!i!i!i!i!i!i!i!i!i!i!i!i!i!i
GW明けの月曜日。私は紙コップになみなみと注がれたコーヒーを片手に、ある人物を探しながら、昼休みのキャンパス内を歩いていた。
大体の人相は既に調べてある。あとは上手く見つけられるか否か。だが、これに関しては不思議と自信があった。
文学部の施設が収められている文学部棟は、私や真紀さんの経済学部棟より一回り、いや二回りほど大きく、経済学部棟から見て中庭を挟んだ正面にある。だから、昼休みになれば、互いの棟から中庭へと一斉に夥しい数の学生が吐き出される。最も違和感を持たれずに遭遇できるのはこのタイミングだろうと踏んでいた。
すぐに目的の男は見つかった。私は辺りを見回しながら、織原伊都子が近くにいないことを確かめる。もしここで彼女に見つかってしまったら、計画は一瞬で水泡に帰してしまうからだ。だが、幸運にも、彼女の姿はなかった。
ツイている。私はぼんやりと歩いている風を装いながら男との距離を測り、それとなく近付いたところで、わざと正面に出た。
「きゃっ!」
「うおっ!」
肩がぶつかった瞬間、私が持っていたコーヒーがこぼれ、男の服を濡らした。ヨレヨレのネルシャツとジーパン、その胸から股間にかけての広い範囲に、茶色い液体がどす黒い染みを作る。
「ご、ごめんなさい! 私、ぼーっとしてて……なんてことを……」
私はすぐにハンカチを取り出し、男の濡れた服を拭ってゆく。中庭のド真ん中、周囲を歩く学生たちの視線が一斉に私たちへと向けられる。
「……い、いや……別に……」
男は突然の出来事に戸惑っているようだったが、ハンカチを持つ私の手が下腹部に近付くと、その体は露骨な反応を見せた。それほど女慣れしているタイプではないようだ。
「ああ……ダメだわ、ハンカチなんかじゃ……」
もちろん全ては計画通りの行為だったが、私は男の顔を上目遣いに見上げ、心から申し訳なさそうに見える表情を作った。この顔を見て怒りの矛を収めなかった男は今まで一人もいない。
男の身長は遠目に見た印象よりも大きく、180センチはゆうに超えているだろう。中途半端に伸びた髪はボサボサで、なすびのように面長の顔と切れ長の目には、著しく生気が欠けていた。
「……本当にごめんなさい……代わりの服、ちゃんと用意させていただきますから、あの、今から少しお時間よろしいですか? 午後の講義までには間に合わせますので」
「え、えっ、代わりの服? は?」
若干どもり気味に答えた、風采の上がらない男。これが、織原伊都子の交際相手、諸星亘だ。
私は諸星亘の手を引いて、大学を出てすぐ近くにあるファストファッションの店に駆け込み、そこで適当なシャツとズボンを選んで着替えさせた。代金を払ったのはもちろん私だ。諸星の汚れた服は、店のビニール袋に入れて私が持った。
それから私たちは、近くにある喫茶店に入った。
「さっきは本当にすみませんでした……私、なんだかぼーっとしてて。服は、ちゃんとクリーニングに出してお返ししますから」
「いや、そ、そんなに大した服でもないし、別に……」
諸星亘の受け答えは一貫してこんな調子で、あまり最後まではっきりと言葉を言い切ることがなかった。どこにでもある全国チェーンの喫茶店だというのに、終始落ち着きなくキョロキョロと辺りを見回し、挙動不審で頼りない印象。これなら、伊都子が『私がいなきゃダメだ』と思うのも無理はない。普段の彼がどうなのかは知らないが、その気になれば私でも絵や壺を売りつけられそうな気配だった。
もしかしたら、たかがコーヒーを零したぐらいで代わりの服を買い、喫茶店まで連れ回す、この状況に対して違和感を覚えているのかもしれない。普通なら、クリーニング代を出すか服の代金を弁償するか、せいぜいその程度のはずだ。しかし、もちろんこれも私の計画の一環で、この特殊な状況に何か特別な意味を見出してくれればしめたもの。私はそれとなく彼女の有無を質してみようと考えた。
「でも、長く大事に着ていらっしゃる服だったみたいだし、もし彼女さんからのプレゼントだったりしたらと思うと、本当に申し訳なくて」
「ああ、い、いえ、彼女なんていませんから」
やはりそう来たか。あんなくたびれた平凡なネルシャツがプレゼントなんかではないことぐらい、いちいち尋ねなくても一目でわかる。あまりにも思惑通りに事が運びすぎて、私は若干拍子抜けしてしまった。
伊都子から彼氏の存在を明かされてから、彼女は何故一人で昼食をとっていたのか、ずっと疑問に思っていた。瀬名瞬と真紀さんの例を持ち出すまでもなく、一緒に昼食をとっているカップルはよく見かけるし、学年も学部もサークルも同じなのだから、人目を気にしてあの物置に行くぐらいなら、二人で一緒に昼食をとればいいだけのように思えたからだ。彼女が言うには、同じコミュニティに所属しているだけに、付き合っていることが知れ渡ると人間関係に気を遣うから、だそうだが、果たしてそういうものだろうか。
しかし、さっきの一言で全ての疑問が氷解した。諸星亘は、衣食住全てにおいて伊都子に依存した生活を送っておきながら、彼女のことを本気には考えていない、典型的なクズ男なのだ。私と諸星は学年も学部もサークルも違う。何の接点も、何のしがらみも存在しない。だから、今ここで私に彼女の存在を隠す理由はなく、それでも尚彼女の存在を伏せるのは、あわよくば私とも関係を持ちたいと考えているからに他ならない。
伊都子はこの男と速やかに縁を切るべきだ。
もし、彼女にその決断ができないのなら、私が……。
クリーニングした服を返すため、再度会う約束を取り付けてから、私は喫茶店を出て、諸星亘と別れた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
11
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる