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『容疑者ルルカの逃走や反抗の鎮圧および現場検証』
第2話
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馬車に揺られてしばらく。
手首を縛られた状態で騎士団の拠点に入った私は、その地下牢の一つに通された。
「一応とはいえ勾留者だからな」
鉄格子の間から手を伸ばして手首の縄を解いた騎士さまが言った。
「しばらくここに居てもらうことになる。採光窓はあるが出ようと思うなよ。面倒なことになる。」
「あの位置じゃまず届かないし頭も抜けないです。」
手首の調子を確かめながら頭三つ分は上にある小さな穴を見上げる。
鉄格子の先に草の影が見える採光窓から離れた位置の横の壁に据え付けられたベッド。
採光窓の下に腰くらいまでの衝立。申し訳程度に隠れた場所にたぶん地下水道に続く腰も抜けない小さな穴。
向かいには出口を遮るような鉄格子。開く場所には向こうからパドロック。
申し訳程度の机、机の上に来るような位置にだけある平たい鉄板。
それが牢の中の全てだった。
「まぁ、帝都に来た時よりは快適かも。」
ベッドの堅さを確かめるように押し込む。多分狼で寝たら壊れるな。
「寝るときに膝擦っちゃいそうだな……」
「そうか」
石畳の粗さを調べていた私に悲しいような呆れたような声で騎士が言った。
「あとで敷く物でも持ってくる「ニグヘット!」
その時、出口の方から別の男の声がした
「お前に客が来てるぞ!」
「了解だ!」
それに騎士……ニグヘットが答えた。
「ってわけで、少し開ける。戻ったら事情聴取するからな。」
「分かりました。」
言いながらベッドに腰かける。うん、椅子くらいにはなる。
「あなたの名前、ニグヘットっていうんですね。」
「そういえば言ったことなかったな。」
ニグヘットはあごに手をやった後、こんなことしてる場合じゃないと首を振る。
「じゃあ、また来る!」
そういって駆け出す騎士さまを、ベッドに座ったまま見送った。
(何聞かれるかわからないけど。正直に話せばいいよね。)
そんなことを考えながら、足を投げ出して騎士が戻ってくるのを待つ。
(やましいことなんて何もしてない。)
しばらく待っていると、二種類の足音が近づいてきた。
足音の方を見れば、何かを抱えた騎士と、こちらを見下すような視線の茶髪のシスターがいた。
「待たせたな。」
そういって鉄格子越しに机の前まで来た騎士、ニグヘットが鉄板を押し上げるようにしながら何かを押し込んできた。
そうやって使うのか、と内心で感心しながら受け取ったのは、古ぼけてはいるが石畳よりは柔らかい布だった。敷いた上に丸まって寝るくらいは出来そうだ。
「使えそうなのがそれくらいしかなくてな」
「これ以上を渡されても困りますけど……」
「本当にこんな小娘が魔族なのですか?」
一応罪人候補なのにここまでしていいのかと考えているとシスターが問いかけた。
「とてもそうは見えませんけど。」
「あ、はい。人狼のルルカです。」
布を机の上に置いて、シスターに首から下げた民証を差し出す。
「確認ならどうぞ。」
「……!確認いたします。」
おどろいたような顔のシスターに民証を手渡すと、シスターが聖句を唱える。
(そういえば聖句って用途ごとに全部違うものなのかな?)
光の束が私の胸にやってくるのを見ながらそんなことを考えてみる。
(私には違いがわかんないっ!)
考え事は急に引っ張られた胸元に続くように激突したおでこと鉄格子の音に中断された
「痛っ!!っ~~~~」
「あ、申し訳ありません」
いきなりの衝突にしゃがみこみ悶絶しているところにせせら笑うシスターの声が響く。
「手を外し忘れました。」
「シスターアリサ」
咳払いを挟みながらニグヘットがシスターに言った。
「事情聴取を始めてもよろしいか。」
「えぇ」
シスターは薄ら笑いを浮かべた声で言った。
「構いません。事件の解決を願います。」
「……さて、」
慇懃すぎるほどの一礼に顔をしかめながらニグヘットが向き直る。
「基本的なところからだ。この七日間、お前は何をしていた?」
「……七日前なら、もう教会の部屋一つ借りて」
「金目の物を物色してらしたのでしょう?」
「いや、全身への痛みと頭痛と吐き気と高熱で苦しんでました。」
シスターの言葉を静かに否定する。
「この前の吸血鬼から受けた病が治るまで借りただけなので。」
「報告は聞いている。」
騎士が言った。
「“魔族のみ蝕む病”だったそうだな。相が多ければより効果が増すと。」
「人狼は昼間、獣の相は影響を起こしません。」
それを聞いてシスターに睨みつけられた。
「つまり、昼間は人間と同じように振舞います。“病”の影響もないのでは?」
「確かにないですけど。」
そういって、シスターが「やっぱり」と続ける前に言いきった。
「夜中に眠れないくらいの苦痛のオンパレードだったせいで、日が昇ってもベッドから起き上がる体力すら無かったですよ。」
「つまり、部屋はおろかベッドからも出れていないと。」
騎士が言った。
「それを証明できるものは?」
「居るはずありません」
それに答えたのはシスターだった。
「誰も魔族の世話など焼きたくはないはずです。」
「薄い金色の髪に赤い眼の、海の波みたいに白い肌のシスター」
それを私が否定した。
「騎士さまとよくいる彼女が、お世話してくれました。彼女なら分かります。」
「シスターメディですね。」
シスターさんがすぐに言った。
「彼女は礼拝に参加しています。つまり、その時間は人目を気にせず抜け出すこともできますわ。」
「ドアの前は我々教会騎士が張っています。」
それに騎士が答えた。
「見られることなく抜け出すのは不可能です。」
「騎士さまが居眠りしていたのではなくて?」
シスターが間髪入れずに言った。
「とにかく、教会の中に潜んでいた魔族が犯人でしょう。あとはこちらで処理いたしますので、鍵を開けて頂けませんか?」
「すいません。こっちから良いですか?」
丁寧な口調でヒートアップするシスターに片手を上げて言った。
「盗まれた物って何なんですか?」
「とぼけないでくださいな!」
シスターは怒りながら続けた。
「教会の倉庫にあった儀礼剣!売ればそれなりの額になる物ですわ。あなたはおか「もうひとつ」
そのまま怒鳴り散らそうとするシスターに次を投げかけた。
「何をそんなに焦って、嘘までついてるんです?」
「な、なにをいって「人が緊張してるときって、独特のにおいがするんです」
シスターの言葉を遮って続けた。
「嘘をつくのって凄い緊張するらしくて、私みたいに鼻がいいとそのにおいがすぐに鼻につくんです。
昼間、私の“狼”の相は表には出ないけど、嗅覚には残ってるから。
……なんで、嘘をついてまで、私を犯人にしたいんですか?」
「い、一体何を……」
シスターの青筋が大きくなる。
「あなたのような不浄が!「シスターアリサ」
叫ぶシスターを騎士が止めた。
「彼女の容疑が確定するまで、教会にお渡しすることはできません。お引き取りください。」
騎士さまがそういうと。わなわなと震えたあと、フンッと鼻を鳴らして地下室を出ていった。
「……すまんな」
足音が遠くにいったことを確認して、ニグヘットが頭を掻いた。
「過激派の連中に押し切られた。」
「あぁ、やっぱりそっちの人だったんだ。」
やれやれというように首を振る男をよそに、さっきの態度に合点がいったと貰った布を床に敷く。
「一応、まだ取り調べの最中なんだが。」
「あ、ごめんなさい」
視線を感じて寝床の確保を止めて向き直る。
溜息をついて、男は続けた。
「まとめると。
『一日中うなされるか寝てるかで、盗みを働ける状態じゃなかった』
ということだな。」
「そうなります。」
私は頷いた。
「快復した後も、シスター……メディだっけ、に朝ごはんを貰ってから、すぐに教会出て、お金無くなったからギルドに向かって、騎士さまに引っ張られて……」
今ココです。と床を指さした。
「なるほどな。」
騎士さまはあごに手を添えて考え込む。
「前後の関係者にも聞くが、今のところ犯行が出来る時間はないな。上にはそう伝えておく。場合にもよるが、すぐに釈放かもしれない、が……」
そういって腕を組むニグヘットは天を向きながら苦悶の声を漏らした。
「過激派がなぁ……」
「……もしかして私殺される?」
その言葉に思わず最悪な状況を考えてしまった。
「大通りで堂々と犯人だって叫ばれて何も言わせてもらえずに処刑されます私?」
「いや、さすがにそうはならん、裏路地で殺した死体を犯人にされるだけだ。」
「ねぇそれどっちが目的です?犯人捜しじゃなくて私を殺すことが目的じゃないですそれ?」
確かに私的には大して変わんないけど……なんて考えていたら、ニグヘットがいい案を思いついたとばかりに右の拳で左の掌を打った。
「そうか、ルルカ殿が拘束中のまま捜査に協力してくれればいいのか。」
「どういうこと?」
なかなかに無法なことを言ってる気がするぞこの教会騎士。
手首を縛られた状態で騎士団の拠点に入った私は、その地下牢の一つに通された。
「一応とはいえ勾留者だからな」
鉄格子の間から手を伸ばして手首の縄を解いた騎士さまが言った。
「しばらくここに居てもらうことになる。採光窓はあるが出ようと思うなよ。面倒なことになる。」
「あの位置じゃまず届かないし頭も抜けないです。」
手首の調子を確かめながら頭三つ分は上にある小さな穴を見上げる。
鉄格子の先に草の影が見える採光窓から離れた位置の横の壁に据え付けられたベッド。
採光窓の下に腰くらいまでの衝立。申し訳程度に隠れた場所にたぶん地下水道に続く腰も抜けない小さな穴。
向かいには出口を遮るような鉄格子。開く場所には向こうからパドロック。
申し訳程度の机、机の上に来るような位置にだけある平たい鉄板。
それが牢の中の全てだった。
「まぁ、帝都に来た時よりは快適かも。」
ベッドの堅さを確かめるように押し込む。多分狼で寝たら壊れるな。
「寝るときに膝擦っちゃいそうだな……」
「そうか」
石畳の粗さを調べていた私に悲しいような呆れたような声で騎士が言った。
「あとで敷く物でも持ってくる「ニグヘット!」
その時、出口の方から別の男の声がした
「お前に客が来てるぞ!」
「了解だ!」
それに騎士……ニグヘットが答えた。
「ってわけで、少し開ける。戻ったら事情聴取するからな。」
「分かりました。」
言いながらベッドに腰かける。うん、椅子くらいにはなる。
「あなたの名前、ニグヘットっていうんですね。」
「そういえば言ったことなかったな。」
ニグヘットはあごに手をやった後、こんなことしてる場合じゃないと首を振る。
「じゃあ、また来る!」
そういって駆け出す騎士さまを、ベッドに座ったまま見送った。
(何聞かれるかわからないけど。正直に話せばいいよね。)
そんなことを考えながら、足を投げ出して騎士が戻ってくるのを待つ。
(やましいことなんて何もしてない。)
しばらく待っていると、二種類の足音が近づいてきた。
足音の方を見れば、何かを抱えた騎士と、こちらを見下すような視線の茶髪のシスターがいた。
「待たせたな。」
そういって鉄格子越しに机の前まで来た騎士、ニグヘットが鉄板を押し上げるようにしながら何かを押し込んできた。
そうやって使うのか、と内心で感心しながら受け取ったのは、古ぼけてはいるが石畳よりは柔らかい布だった。敷いた上に丸まって寝るくらいは出来そうだ。
「使えそうなのがそれくらいしかなくてな」
「これ以上を渡されても困りますけど……」
「本当にこんな小娘が魔族なのですか?」
一応罪人候補なのにここまでしていいのかと考えているとシスターが問いかけた。
「とてもそうは見えませんけど。」
「あ、はい。人狼のルルカです。」
布を机の上に置いて、シスターに首から下げた民証を差し出す。
「確認ならどうぞ。」
「……!確認いたします。」
おどろいたような顔のシスターに民証を手渡すと、シスターが聖句を唱える。
(そういえば聖句って用途ごとに全部違うものなのかな?)
光の束が私の胸にやってくるのを見ながらそんなことを考えてみる。
(私には違いがわかんないっ!)
考え事は急に引っ張られた胸元に続くように激突したおでこと鉄格子の音に中断された
「痛っ!!っ~~~~」
「あ、申し訳ありません」
いきなりの衝突にしゃがみこみ悶絶しているところにせせら笑うシスターの声が響く。
「手を外し忘れました。」
「シスターアリサ」
咳払いを挟みながらニグヘットがシスターに言った。
「事情聴取を始めてもよろしいか。」
「えぇ」
シスターは薄ら笑いを浮かべた声で言った。
「構いません。事件の解決を願います。」
「……さて、」
慇懃すぎるほどの一礼に顔をしかめながらニグヘットが向き直る。
「基本的なところからだ。この七日間、お前は何をしていた?」
「……七日前なら、もう教会の部屋一つ借りて」
「金目の物を物色してらしたのでしょう?」
「いや、全身への痛みと頭痛と吐き気と高熱で苦しんでました。」
シスターの言葉を静かに否定する。
「この前の吸血鬼から受けた病が治るまで借りただけなので。」
「報告は聞いている。」
騎士が言った。
「“魔族のみ蝕む病”だったそうだな。相が多ければより効果が増すと。」
「人狼は昼間、獣の相は影響を起こしません。」
それを聞いてシスターに睨みつけられた。
「つまり、昼間は人間と同じように振舞います。“病”の影響もないのでは?」
「確かにないですけど。」
そういって、シスターが「やっぱり」と続ける前に言いきった。
「夜中に眠れないくらいの苦痛のオンパレードだったせいで、日が昇ってもベッドから起き上がる体力すら無かったですよ。」
「つまり、部屋はおろかベッドからも出れていないと。」
騎士が言った。
「それを証明できるものは?」
「居るはずありません」
それに答えたのはシスターだった。
「誰も魔族の世話など焼きたくはないはずです。」
「薄い金色の髪に赤い眼の、海の波みたいに白い肌のシスター」
それを私が否定した。
「騎士さまとよくいる彼女が、お世話してくれました。彼女なら分かります。」
「シスターメディですね。」
シスターさんがすぐに言った。
「彼女は礼拝に参加しています。つまり、その時間は人目を気にせず抜け出すこともできますわ。」
「ドアの前は我々教会騎士が張っています。」
それに騎士が答えた。
「見られることなく抜け出すのは不可能です。」
「騎士さまが居眠りしていたのではなくて?」
シスターが間髪入れずに言った。
「とにかく、教会の中に潜んでいた魔族が犯人でしょう。あとはこちらで処理いたしますので、鍵を開けて頂けませんか?」
「すいません。こっちから良いですか?」
丁寧な口調でヒートアップするシスターに片手を上げて言った。
「盗まれた物って何なんですか?」
「とぼけないでくださいな!」
シスターは怒りながら続けた。
「教会の倉庫にあった儀礼剣!売ればそれなりの額になる物ですわ。あなたはおか「もうひとつ」
そのまま怒鳴り散らそうとするシスターに次を投げかけた。
「何をそんなに焦って、嘘までついてるんです?」
「な、なにをいって「人が緊張してるときって、独特のにおいがするんです」
シスターの言葉を遮って続けた。
「嘘をつくのって凄い緊張するらしくて、私みたいに鼻がいいとそのにおいがすぐに鼻につくんです。
昼間、私の“狼”の相は表には出ないけど、嗅覚には残ってるから。
……なんで、嘘をついてまで、私を犯人にしたいんですか?」
「い、一体何を……」
シスターの青筋が大きくなる。
「あなたのような不浄が!「シスターアリサ」
叫ぶシスターを騎士が止めた。
「彼女の容疑が確定するまで、教会にお渡しすることはできません。お引き取りください。」
騎士さまがそういうと。わなわなと震えたあと、フンッと鼻を鳴らして地下室を出ていった。
「……すまんな」
足音が遠くにいったことを確認して、ニグヘットが頭を掻いた。
「過激派の連中に押し切られた。」
「あぁ、やっぱりそっちの人だったんだ。」
やれやれというように首を振る男をよそに、さっきの態度に合点がいったと貰った布を床に敷く。
「一応、まだ取り調べの最中なんだが。」
「あ、ごめんなさい」
視線を感じて寝床の確保を止めて向き直る。
溜息をついて、男は続けた。
「まとめると。
『一日中うなされるか寝てるかで、盗みを働ける状態じゃなかった』
ということだな。」
「そうなります。」
私は頷いた。
「快復した後も、シスター……メディだっけ、に朝ごはんを貰ってから、すぐに教会出て、お金無くなったからギルドに向かって、騎士さまに引っ張られて……」
今ココです。と床を指さした。
「なるほどな。」
騎士さまはあごに手を添えて考え込む。
「前後の関係者にも聞くが、今のところ犯行が出来る時間はないな。上にはそう伝えておく。場合にもよるが、すぐに釈放かもしれない、が……」
そういって腕を組むニグヘットは天を向きながら苦悶の声を漏らした。
「過激派がなぁ……」
「……もしかして私殺される?」
その言葉に思わず最悪な状況を考えてしまった。
「大通りで堂々と犯人だって叫ばれて何も言わせてもらえずに処刑されます私?」
「いや、さすがにそうはならん、裏路地で殺した死体を犯人にされるだけだ。」
「ねぇそれどっちが目的です?犯人捜しじゃなくて私を殺すことが目的じゃないですそれ?」
確かに私的には大して変わんないけど……なんて考えていたら、ニグヘットがいい案を思いついたとばかりに右の拳で左の掌を打った。
「そうか、ルルカ殿が拘束中のまま捜査に協力してくれればいいのか。」
「どういうこと?」
なかなかに無法なことを言ってる気がするぞこの教会騎士。
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