ランペイジ!~国を跨いだ少女の騎士道物語~

杏仁みかん

文字の大きさ
24 / 27
第一章 七歳の決断

#24:ラン・ペイジ - 2

しおりを挟む
 シュテラはテーブルの向こう側にいるマリアーナとエドワードを一目見ると、サイラスにこう言い放った。

「どうか、マリィとエドにも、騎士になれるチャンスをお与え下さい!」

 ガタン、と音を立ててマリアーナが立ち上がる。

「シュー、あんた……!」

 シュテラは真っ直ぐな、それでいて鋭い瞳でサイラスを見上げた。

「マリィはあなたの本当の娘です。わたしは……わたしは本当の娘ではありません! なのに、わたしだけがペイジとして選ばれるのは不公平だと思います……!」

 子供らしい振る舞いをしていたと思ったら、突然大人顔負けの強い意志を向ける。
 それこそ、サイラスがシュテラをペイジに任命した理由の一つでもあるのだが、まさかこの場でそのような言葉を向けられようとは。

「騎士になると、その道でしか生きられなくなる。そのことは以前、マリィにも話した」
「それは、わたしだって同じです」

 サイラスは大きくかぶりを振った。

「いや、違う。違うのだ、シュー。お前には今、家系というしがらみがないのだ。本当の家族がいないお前を私が拾った以上、今後はお前を拾った正統な理由が必要になる」
「……よく、わかりません」

 いやな予感がした。シュテラの胸の奥で、何かがざわついている。

「ああ、今はわからないだろうな。だが、お前は国をも動かす力を持っているんだ、シュー。お前が騎士となり、忠義をもって王のために尽くせるようになれば、お前は必ず、国の力で護られるだろう」

 シュテラは必死で理解しようとしたが、この言葉の意味もまるで理解できなかった。マリアーナも、勤勉家のエドワードでさえも、どういうことなのか理解に苦しんでいる。

「団長、それじゃあ子供を混乱させるだけだぜ」

 ライアットがそっと耳元で言うと、サイラスは渋い顔をした。

「つまりな、お嬢さん。お前の馬鹿力は、国にとっても怖ぇ力になるかもしれねえってこった。ましてや養女だ。正統なウッドエンド家の血筋じゃない。出生不明なんだ。その気がなくても、お前の怪力を知った城の連中が、どう思うかわからねぇだろ? お前が一般人である限り、その恐怖は拭えねえし、街で散々見せびらかしているお前の馬鹿力のことが、いつ、どこまで広がるか分かったもんじゃない。だから、お前は騎士になるべきだ。王に忠誠を誓いさえすれば、王も安心してお前を傍に置ける」

 ライアットの言葉は実のところ曲解だったが、シュテラがひとまず納得する分には充分な説明だったらしく、シュテラはようやく頷いて理解を示した。

「まぁ、もちろん、お前がイヤだというのなら、この件は取り消してもいいんだが」
「そ、そんなことない、です!」

 シュテラは慌てて手を振り首を振った。

「だろ? だからダンナ……いや、サイラスは、お前を見込んで騎士に育てようとしている。アレだけ反対してたけどな」
「でも、マリィだって騎士になりたがってるよ?」
「団長は未だに反対してるようだが、その件は俺が責任を持つさ。森で言っただろ? 俺がお前たちの師匠だ。もちろん、エド、お前もだ」

 エドワードは複雑な顔をして目を逸らしたが、逆に、マリアーナは拳を振り上げて喜んだ。

「というわけで、団長、今がその時だ。マリィについても結論を出してくれ」
「…………ううむ」

 助言をするはずのライアットの裏切りによって予想外の展開に追い込まれたサイラスは、力が抜けたようにどっかりと椅子に座り直し、頭を抱えた。

「シューのことは散々考えた。本当に難しい問題だ。……だが、どう考えても騎士になることが正しい道だという結論に至った。これは、騎士になることを許すというより、むしろ騎士になるべきだと考えてのことだ。……だが、マリィについては違う。マリィは確かに長女、第一子ではあるが、男ではない。レディとして育てば、他に生き方もあろう。……だから、今でも反対だ」

 サイラスは脇にあったジョッキを握った。本当は祝って直ぐに飲むはずだったエールだが、カラカラになった喉を潤すために傾けた。
 エールは暑さですっかり生ぬるくなっていたが、サイラスはお構いなしに話を続ける。

「私はな、ライアット。家を継ぐのはエドだけで充分だと思っているのだ。そのエドの腰が重いのは、マリィがこんな体たらくだからこそなのだ。ウッドエンド家が安泰するには、マリィではなく、エドに頑張って貰わねば困るのだ」

 ライアットは顎の無精髭を撫でて唸った。

「確かにそうだな。今の制度じゃあ、男子が家を継がないと名を受け継ぐことは出来ねえ。例えマリィが婿養子に嫁いだとしても、それはもう『ウッドエンド』じゃなくなっちまう」

 そんな御家事情を知らなかったエドワードは、はっとなって顔を上げた。

「ぼくが……家を継がないと、ダメなんだ……?」

 これまで、エドワードはマリアーナが騎士になりたい夢を応援するために、自分が身を引くべきだと考えていた。しかし、それは彼女個人のためになったとしても、家の将来のためにはならない。

 ライアットは手応えあったとばかりに厳つい肩を震わせて笑った。

「やれやれ、ようやく気付いたか。つっても、マリィの剣の腕も悪かねえ。何度も言うが、俺は若い芽を摘むようなことはしたくないんだ。だから、俺が責任を持ってお前たちの師匠を務める。剣を教えるのは習い事としてだ。……実の親であるサイラスの気持ちも汲んで、どうか、ひとまずのところは技を磨くだけで勘弁しちゃくれねえか。エドも、出来れば家を継いで欲しい。お前の剣は、磨けばきっと光るはずだ」

 シュテラは答えを求めるようにマリアーナとエドワードの方に顔を向けた。
 マリアーナは残念そうに微笑みながら頷き、エドワードは……少し躊躇ったあと、小さく頷いた。
 サイラスも、二人の同意を得られたことで満足げに頷いた。

「エドの決意は嬉しい。だが、私としてももう少し考えたいところだ。ふわふわしたままで結論を出されても、タメにならないだろうからな。剣の腕を鍛えることには大賛成だ。荒っぽいが、ライアットに任せれば問題はないだろう」
「ようやく認めて下さるんですかい、団長」

 サイラスは苦笑した。

「お前とは古い仲なのだ。腕はこの私がよく知っている。……それと、エーラ」
「はい」

 ここで、ようやく沈黙を続けていたエーラが呼ばれ、立ち上がった。

「弓はお前に任せる。それと、シューのサポートもな」
「はい。お任せ下さい」

 エーラは恭しく礼をした。その姿を見たシュテラは、何故エーラが自分の傍につくことになったのか疑問を抱いたが、今は気が緩んだせいか、だいぶお腹が空いてそれどころではなかった。

「さあ、結論は出た。そろそろ食事にしようではないか」

 良い頃合いだった。サイラスがいつもの父親らしい声で振る舞うと、その場の張りつめた緊張感は一斉に吹き飛んだ。

「やれやれ、待ちくたびれたぞ。息が詰まるかと思ったわい」

 と、ケイネスがようやく口を開いた。

「おい、カサンドラ、替わりの酒だ! こいつはもう不味くなっちまった!」
「ええ。既にお持ちいたしております」

 いつの間に厨房から持ってきたのか、カサンドラは絶妙なタイミングでジョッキを交換した。

「さあ、乾杯だ! シュテラの子従ペイジ就任……いや、暴れん坊子従ラン・ペイジの誕生とでも言うか!」

 わはは、と大声で笑う一同に、シュテラは頬を膨らませた。

「ひ、ひどいよ、ライアットさん!」
「今後はそう呼ばれないように、しっかりと力を抑える術を学べ。もっといい二つ名を貰えるようにな!」

 シュテラは困ったような顔で頷いた。

「……わかりましたよ、師匠さん!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

道化たちの末路

希臘楽園
ファンタジー
母亡き後、継承権もない父と愛人母娘が公爵家を狙い始めた。でも私には王太子という切り札がいる。半年間、道化たちが踊るのを、私たちは静かに楽しんで見ていた。AIに書かせてみた第3弾。今回も3000文字程度のお気楽な作品です。

ハズレスキル『自動販売機』を授かって婚約破棄されましたが、 実は回復薬も魔力食も出せる最強スキルでした

暖夢 由
ファンタジー
十八歳の成人儀式で授かったのは、誰も聞いたことのない《自動販売機スキル》。 役立たずと嘲られ、婚約者レオンには即座に婚約を破棄され、人生が崩れ落ちたように思えた。 だがそのスキルには、食べ物を作り、摂取すれば魔力を増やし、さらに“治癒効果”を付与できるという隠された力があった。 倒れた母を救い、王都の名門・ヴァルセイン伯爵夫人を救ったことで、カミーラは“呪詛”という闇の存在を知る。伯爵邸で出会った炎の力を持つ公爵家次男レグナスとの出会いが、彼女の運命を大きく変えていく。 やがて王都全体に“謎の病”が蔓延。カミーラは治癒スープの炊き出しを行い、人々を次々と回復へ導く。 一方、病の裏で糸を引いていたのは………。 “無価値”と嘲られたスキルが、いま世界を癒し、未来を照らす光となる――。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

前世の記憶しかない元侯爵令嬢は、訳あり大公殿下のお気に入り。(注:期間限定)

miy
恋愛
(※長編なため、少しネタバレを含みます) ある日目覚めたら、そこは見たことも聞いたこともない…異国でした。 ここは、どうやら転生後の人生。 私は大貴族の令嬢レティシア17歳…らしいのですが…全く記憶にございません。 有り難いことに言葉は理解できるし、読み書きも問題なし。 でも、見知らぬ世界で貴族生活?いやいや…私は平凡な日本人のようですよ?…無理です。 “前世の記憶”として目覚めた私は、現世の“レティシアの身体”で…静かな庶民生活を始める。 そんな私の前に、一人の貴族男性が現れた。 ちょっと?訳ありな彼が、私を…自分の『唯一の女性』であると誤解してしまったことから、庶民生活が一変してしまう。 高い身分の彼に関わってしまった私は、元いた国を飛び出して魔法の国で暮らすことになるのです。 大公殿下、大魔術師、聖女や神獣…等など…いろんな人との出会いを経て『レティシア』が自分らしく生きていく。 という、少々…長いお話です。 鈍感なレティシアが、大公殿下からの熱い眼差しに気付くのはいつなのでしょうか…? ※安定のご都合主義、独自の世界観です。お許し下さい。 ※ストーリーの進度は遅めかと思われます。 ※現在、不定期にて公開中です。よろしくお願い致します。 公開予定日を最新話に記載しておりますが、長期休載の場合はこちらでもお知らせをさせて頂きます。 ※ド素人の書いた3作目です。まだまだ優しい目で見て頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。 ※初公開から2年が過ぎました。少しでも良い作品に、読みやすく…と、時間があれば順次手直し(改稿)をしていく予定でおります。(現在、146話辺りまで手直し作業中) ※章の区切りを変更致しました。(9/22更新)

犬の散歩中に異世界召喚されました

おばあ
ファンタジー
そろそろ定年後とか終活とか考えなきゃいけないというくらいの歳になって飼い犬と一緒に異世界とやらへ飛ばされました。 何勝手なことをしてくれてんだいと腹が立ちましたので好き勝手やらせてもらいます。 カミサマの許可はもらいました。

処理中です...