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第1章 少女と将軍
閑話 宵の皇子と明けの月
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穏やかな夜が訪れようとしている。
されど、ここは煩いほど賑やかだ。
「エリオルさまぁ。今宵もわたくしを可愛がってくださぁい。」
足元で女の猫なで声がする。
「・・・・・」
気がつけば部屋は淫靡な匂いと僅かな血の匂いで充満している。
「?どうした。エリオル。」
女の首筋から顔を放す。
「ああっー。」
喘ぐ女。
女の首筋から血が滴る。
「・・・・・・・・」
「少し出る。」
窓枠に手をかけ、部屋を出る。
◇
ーかんっ。
《バー 花月》の看板がドアにぶつかる。
「いらっしゃいませ。」
「・・・・いつものを。」
カウンター席に座る。
ほどなくしてグラスに入った赤ワインが出てくる。
それを煽るように飲み、目を閉じる。
妹の幼き姿が見える。
ここ最近、あの日の夢を見るようになったせいか幼くか弱かった妹のことが気になってたまらない。
それにもうすぐ妹の誕生日と両親の命日が来る。
人間よりも長生きする我らが一族は誕生日やら、まして命日など気にはしない。
長生きとは言えど、不死ではないのだ。
ー
「あにうえ!あにうえ!今日はこの本を読んでください!」
絵本を片手に膝へよじ登ってくる。
「 また王子様とお姫様の話か?」
「はいっ!イヴははっぴーえんどが好きですっ!」
満面の笑みを向ける。
現実を知らない妹はすっかり夢見がちに育ってしまった。
けれど仕方ないのかもしれない。
妹はその容姿と稀有な力のせいで屋敷に幽閉されているのだ。
「ーめでたし。めでたし。」
本を閉じる。
すぅ。すぅ。と安らかな寝息が聞こえる。
妹はいつだって話の途中で寝てしまうのだ。
「あら。エリオル。いつもごめんはさいね。」
義母が申し訳なさそうに妹を抱き上げる。
「うみゅ・・・・ははうえ・・・・」
嬉しそうに微笑む妹。
「いえ。僕にはこれくらいしか出来ませんから。」
「でも助かるわ。貴方が留学で外国に行っている間、ずっと貴方の話をするのよ。今日だって、とても喜んでいたのよ。」
「そうですか・・・・・」
義母の腕に抱かれた妹の頭を撫でる。
「あのね。こんなこと貴方に頼むのはおこがましいかもしれないけれど、この子を頼むわ。いずれ私が側についてあげれなくなってしまうもの。」
寂しく笑う。
「おこがましいだなんて。僕をあの人から助けていただいた事に比べれば、」
「例え何があっても、貴方を産んでくれたお母様よ?あの人だなんて寂しい言い方してはだめよ。」
頭を撫でられる。
ー
「主様。やはりこちらにいらしましたか。」
影から現れるイヴァ。
「イヴァ・・・・」
「妹君のことですか。」
「・・・・・ああ。」
ワイングラスを傾ける。
「朗報にございます。妹君と思われる少女が母君の祖国へと入国されたそうです。」
「!」
「ですが、リーデル卿の行方が依然と掴めませぬ。」
「そうか・・・・・・・妹の監視を頼む。お前なら影から見るのは得意だろう。」
「御意に。」
影へと姿を消していく。
ふと窓の外を見る。
「イヴ・・・・」
明るくなり始める空を見上げ、呟く。
怪我はしていないだろうか?
苦しい思いはしていないだろうか。
辛い思いはしていないだろうか。
何故あの時もっと妹の手を握ってやらなかったのだろうか。
薄れゆく月に妹を想う。
「あ。いた。エリオル。お前、またこんなところにいたのかよ。」
「なんだ。カイか。」
うるさく言う親友の隣でワインをあおぐ。
「また葡萄酒か?」
「美味しいぞ。あんなのより格段に美味しい。」
「ああ。もう。宵の皇子たるものがお酒飲んで酔っ払うなんぞ、世も末だな。ほら。帰るぞ。」
腕を引っ張られ、店を後にする。
「おいっ。エリオル。寝るならちゃんとベッドに入ってから寝ろよ。」
「うるさい!小姑め!」
背を向ける。
「まったく。じゃあな。」
部屋を出ていく。
「・・・・・・・」
カーテンの隙間から朝陽が漏れる。
ー
「あにうえ!あにうえ!今昼なのに、お月さまがいました!」
嬉しそうに駆け寄ってくる。
「?ああ・・・・・・・」
じっと芋を見つめる。
「あにうえ?」
こてん。と首を傾げる。
「イヴ。一緒に昼寝しよう。」
小さな妹の手を引っ張り、ベッドの中に引き込む。
昼でも活動出来る妹からは暖かい森の香りがして、すぐに熟睡してしまう。
お互いが目を覚ましたのは明け方だった。
ー
「イヴ・・・・会いたい・・・・・」
呟く。
今はまだ許されぬとも、いつか会う日が来ることを祈り、眠りにつく。
されど、ここは煩いほど賑やかだ。
「エリオルさまぁ。今宵もわたくしを可愛がってくださぁい。」
足元で女の猫なで声がする。
「・・・・・」
気がつけば部屋は淫靡な匂いと僅かな血の匂いで充満している。
「?どうした。エリオル。」
女の首筋から顔を放す。
「ああっー。」
喘ぐ女。
女の首筋から血が滴る。
「・・・・・・・・」
「少し出る。」
窓枠に手をかけ、部屋を出る。
◇
ーかんっ。
《バー 花月》の看板がドアにぶつかる。
「いらっしゃいませ。」
「・・・・いつものを。」
カウンター席に座る。
ほどなくしてグラスに入った赤ワインが出てくる。
それを煽るように飲み、目を閉じる。
妹の幼き姿が見える。
ここ最近、あの日の夢を見るようになったせいか幼くか弱かった妹のことが気になってたまらない。
それにもうすぐ妹の誕生日と両親の命日が来る。
人間よりも長生きする我らが一族は誕生日やら、まして命日など気にはしない。
長生きとは言えど、不死ではないのだ。
ー
「あにうえ!あにうえ!今日はこの本を読んでください!」
絵本を片手に膝へよじ登ってくる。
「 また王子様とお姫様の話か?」
「はいっ!イヴははっぴーえんどが好きですっ!」
満面の笑みを向ける。
現実を知らない妹はすっかり夢見がちに育ってしまった。
けれど仕方ないのかもしれない。
妹はその容姿と稀有な力のせいで屋敷に幽閉されているのだ。
「ーめでたし。めでたし。」
本を閉じる。
すぅ。すぅ。と安らかな寝息が聞こえる。
妹はいつだって話の途中で寝てしまうのだ。
「あら。エリオル。いつもごめんはさいね。」
義母が申し訳なさそうに妹を抱き上げる。
「うみゅ・・・・ははうえ・・・・」
嬉しそうに微笑む妹。
「いえ。僕にはこれくらいしか出来ませんから。」
「でも助かるわ。貴方が留学で外国に行っている間、ずっと貴方の話をするのよ。今日だって、とても喜んでいたのよ。」
「そうですか・・・・・」
義母の腕に抱かれた妹の頭を撫でる。
「あのね。こんなこと貴方に頼むのはおこがましいかもしれないけれど、この子を頼むわ。いずれ私が側についてあげれなくなってしまうもの。」
寂しく笑う。
「おこがましいだなんて。僕をあの人から助けていただいた事に比べれば、」
「例え何があっても、貴方を産んでくれたお母様よ?あの人だなんて寂しい言い方してはだめよ。」
頭を撫でられる。
ー
「主様。やはりこちらにいらしましたか。」
影から現れるイヴァ。
「イヴァ・・・・」
「妹君のことですか。」
「・・・・・ああ。」
ワイングラスを傾ける。
「朗報にございます。妹君と思われる少女が母君の祖国へと入国されたそうです。」
「!」
「ですが、リーデル卿の行方が依然と掴めませぬ。」
「そうか・・・・・・・妹の監視を頼む。お前なら影から見るのは得意だろう。」
「御意に。」
影へと姿を消していく。
ふと窓の外を見る。
「イヴ・・・・」
明るくなり始める空を見上げ、呟く。
怪我はしていないだろうか?
苦しい思いはしていないだろうか。
辛い思いはしていないだろうか。
何故あの時もっと妹の手を握ってやらなかったのだろうか。
薄れゆく月に妹を想う。
「あ。いた。エリオル。お前、またこんなところにいたのかよ。」
「なんだ。カイか。」
うるさく言う親友の隣でワインをあおぐ。
「また葡萄酒か?」
「美味しいぞ。あんなのより格段に美味しい。」
「ああ。もう。宵の皇子たるものがお酒飲んで酔っ払うなんぞ、世も末だな。ほら。帰るぞ。」
腕を引っ張られ、店を後にする。
「おいっ。エリオル。寝るならちゃんとベッドに入ってから寝ろよ。」
「うるさい!小姑め!」
背を向ける。
「まったく。じゃあな。」
部屋を出ていく。
「・・・・・・・」
カーテンの隙間から朝陽が漏れる。
ー
「あにうえ!あにうえ!今昼なのに、お月さまがいました!」
嬉しそうに駆け寄ってくる。
「?ああ・・・・・・・」
じっと芋を見つめる。
「あにうえ?」
こてん。と首を傾げる。
「イヴ。一緒に昼寝しよう。」
小さな妹の手を引っ張り、ベッドの中に引き込む。
昼でも活動出来る妹からは暖かい森の香りがして、すぐに熟睡してしまう。
お互いが目を覚ましたのは明け方だった。
ー
「イヴ・・・・会いたい・・・・・」
呟く。
今はまだ許されぬとも、いつか会う日が来ることを祈り、眠りにつく。
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