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或る騎士たちの恋愛事情(完結)
6話
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その後も同じ学校内で暮らしている以上、少ないとはいえリカルドと遭遇することがあった。
ノクスが回廊を歩いていると、中庭で友人と喋っていたリカルドはノクスを見つけるなり、大きく手を振って呼びかけてきた。
「お!ノクスだ!おーい」
その笑顔にノクスは、ずきりと痛む胸を抑えつつ気づかない振りをして、その場を足早に立ち去った。
無視されたリカルドはショックで、隣にいた友人のアレックスに泣きつく。
「ええ~!なあ、アレク!今こっち見たよな?」
「そうだな」
「俺なんか嫌われるようなこと言ったかな~」
「まあ、お前にはデリカシーってものがないからな」
「ひっでえ!でも気づかないうちになんか言ったのかも~。今度会ったら聞いてみよう……」
怒られた犬のようにしょげるリカルドを励ますようにアレックスがリカルドの頭を撫でた。
それからもリカルドはノクスを見つけると手を振ったり、話しかけてきたりしたがノクスはそれを気づかない振りをしたり、今忙しいからと理由をつけて避けていた。
失恋したとはいえ、ノクスの中でまだリカルドへの気持ちは消えておらず、これ以上好きになりたくなかったし、これ以上嫉妬という醜い感情に支配されたくなかった。離れていればきっとこの思いは消えるだろうその日が来ることを願ってノクスはリカルドを避け続けた。
そんな態度にリカルドもだんだん遠慮するようになり、二人は必然的に疎遠になっていった。
リカルドの事をなるべく考えないように、ノクスはさらに勉学に力を入れ、体力づくりに励み、めきめきと力をつけていった。背も伸び、細身ながらも筋肉もついて、ベルナールが卒業するころには、もう上級生に絡まれることもなくなっていた。
「この一年で随分たくましくなったな。ノクス。私も安心して卒業できる。1年間世話になった」
そう言ってベルナールはノクスへ手を差し伸べる。
卒業生のサッシュを胸にかけ、儀礼用の剣を腰に付けたベルナールはいつも以上に美しく輝いていた。傍には同じ格好をしたジークフリードが相変わらず無表情で控えている。
ノクスはベルナールの手を取り握手する。
「もったいないお言葉、痛み入ります。卒業、おめでとうございます。ベルナール様」
ベルナールにはこの一年間チェス以外にも沢山の事を教えてもらった。ノクスは心からこの出会いに感謝していた。
「卒業してもお前は私の大切なファグだ。何かあったらいつでも話を聞く。待っているからな」
少し心配そうな笑顔を浮かべるとベルナールはノクスの手を固く握り返した。
2年に進級したノクスは相変わらず首席をキープし、再び監督生に選ばれた。教官や寮長からも信頼が厚く、何かと手伝いを頼まれることも増え、忙しい毎日を過ごしていた。そんな18歳の秋、再びリカルドとノクスは対面する事になる。
学年内で行われた寮対抗の剣術競技大会の決勝戦。
各寮から各学年の代表を選び、トーナメントでその力量を図るもので、学校の年間行事の中でも1,2を争う盛り上がるイベントだ。
ノクスは、第一寮の二年生代表として、細身ながらもしなやかな俊敏性と隙のないフットワークで決勝まで勝ち上がってきた。
リカルドもさらにたくましくなった体と腕力、そして圧倒的な戦闘センスで他の者を寄せ付けず、第五寮の二年生代表として決勝戦に進んでいた。
暑い日差しが照り付ける試合会場、盛り上がる生徒たちの声援中で向かい合う二人。
久しぶりに近くで見るリカルドは1年前よりさらに体が大きくなっており、ほぼ成人と変わりないくらいにたくましくなっていた。
「よう。なんか、喋るの久しぶりだな」
「まあ、特に用もないからな」
「相変わらずつれないね~」
明るく笑うリカルドに、ノクスの胸がドキリと高鳴り、眠っていた恋心がそろそろと目を覚ます。
やめろ、やめろ。今は試合に集中しないと。
ノクスはそう自分に言い聞かせポーカーフェイスを装う。
「でも、随分たくましくなったな。それに髪が伸びた。」
「ずっと筋トレは続けているからな。髪は切るのが面倒なだけだ」
「そうなのか?長い方が手入れとかめんどくさそうだけど」
ノクスの美しい金髪は肩まで延び、邪魔にならないよう首の後ろで一つにまとめられていた。
以前、リカルドが長い金髪が好みと言っていたからではない、決して。とノクスは心の中で誰へともなく言い訳をする。
動くたびにぴょこぴょこと揺れ、それがまるで狐のしっぽみたいでちょっと可愛いなとリカルドは思った。
「うるさい。グダグダしゃべってないでさっさと剣を構えろ」
「はいはい」
ノクスが問答無用と試合用の木剣を構えるとリカルドは仕方なく木剣を構える。
二人の間に静寂が流れ、間合いを探り合い、隙を伺う。
少し誘ってみるか、とノクスが剣先を振るとその隙をついて勢いよく地面を蹴ってリカルドが切り込んでくる。
ノクスがそれを素早く躱し、リカルドの脇腹に切りかかるが、リカルドの切り返した剣がそれをはじき飛ばす。
体ごと吹っ飛ばされたノクスは足に力を入れて体制を立て直す。
弾かれた腕が少し痺れていていた。
「この馬鹿力め……」
「お前もなかなかやるな………けど!」
再びリカルドが切りかかってくる。
受けるのは危険だとノクスがそれを避ける。
振りは大振りだから隙さえつけば勝機はある。
切り込んだ隙をついてノクスがリカルドの肩に木剣を叩き込む。
「ぐっ…!」
入ったが体を流されたため、浅い。
ノクスは舌打ちすると息をつかせないような素早い連撃を繰り出す。
何とかそれをリカルドが木剣で受け流す。
以前、アレックスがノクスを豹に例えていたが、まさに、まるで狩りをする豹のようにしなやかで素早い攻撃だ。
隙を見せたらやられる。リカルドはそのギリギリの緊迫感に高揚し、思わず笑みをこぼす。
しばらく攻防が続き、かなりの手数を出し続けたノクスの息は上がり、足が鈍ってくる。
その一瞬の隙をリカルドは見逃さず、全体重を剣に乗せて切り上げる。
はじかれたノクスの木剣が宙を舞い地面に転がる。
その勢いでよろけたノクスの鼻先にリカルドの木剣の先が突きつけられる。
たらりとノクスの汗が頬から落ちる。
「それまで!勝者、第五寮リカルド・ノア!」
審判が高々に宣言すると息を飲んで見守っていた第五寮の生徒たちからわあっと歓声が上がる。
普段庶民のくせにと第一寮の生徒から軽んじられてきた第五寮生徒たちは一矢報いることができたと大騒ぎだった。第一寮生たちは苦々しくその様子を見つめている。
リカルドが荒い息を整えつつ木剣を収める。
「いや~、すげえ連撃だな。お前が足を止めなかったら危なかったぜ」
「……ふん、敗者に慰めは不要だ」
地面に落ちた木剣を拾いつつ、苦々し気にノクスが吐き捨てる。
そんなノクスにリカルドはやれやれと肩をすくめる。
「素直に受け取れよ。本当にすごかったって。俺にはあんなに早く剣振れねえし……」
「……次は負けん」
「ああ、俺ももっと強くなる」
ノクスが悔し気に睨みつけるとリカルドが明るい表情でにっと笑い、手を差し出す。
その顔を見て、ああ、やっぱりこの男が好きだなとノクスは思った。
ノクスの恋心がムクムクと起き上がる。
いっそのこと伝えて玉砕したほうがこの恋心も昇華できるのだろうか?
そんなことを考えながら、ノクスはリカルドの手を握った。
ノクスが回廊を歩いていると、中庭で友人と喋っていたリカルドはノクスを見つけるなり、大きく手を振って呼びかけてきた。
「お!ノクスだ!おーい」
その笑顔にノクスは、ずきりと痛む胸を抑えつつ気づかない振りをして、その場を足早に立ち去った。
無視されたリカルドはショックで、隣にいた友人のアレックスに泣きつく。
「ええ~!なあ、アレク!今こっち見たよな?」
「そうだな」
「俺なんか嫌われるようなこと言ったかな~」
「まあ、お前にはデリカシーってものがないからな」
「ひっでえ!でも気づかないうちになんか言ったのかも~。今度会ったら聞いてみよう……」
怒られた犬のようにしょげるリカルドを励ますようにアレックスがリカルドの頭を撫でた。
それからもリカルドはノクスを見つけると手を振ったり、話しかけてきたりしたがノクスはそれを気づかない振りをしたり、今忙しいからと理由をつけて避けていた。
失恋したとはいえ、ノクスの中でまだリカルドへの気持ちは消えておらず、これ以上好きになりたくなかったし、これ以上嫉妬という醜い感情に支配されたくなかった。離れていればきっとこの思いは消えるだろうその日が来ることを願ってノクスはリカルドを避け続けた。
そんな態度にリカルドもだんだん遠慮するようになり、二人は必然的に疎遠になっていった。
リカルドの事をなるべく考えないように、ノクスはさらに勉学に力を入れ、体力づくりに励み、めきめきと力をつけていった。背も伸び、細身ながらも筋肉もついて、ベルナールが卒業するころには、もう上級生に絡まれることもなくなっていた。
「この一年で随分たくましくなったな。ノクス。私も安心して卒業できる。1年間世話になった」
そう言ってベルナールはノクスへ手を差し伸べる。
卒業生のサッシュを胸にかけ、儀礼用の剣を腰に付けたベルナールはいつも以上に美しく輝いていた。傍には同じ格好をしたジークフリードが相変わらず無表情で控えている。
ノクスはベルナールの手を取り握手する。
「もったいないお言葉、痛み入ります。卒業、おめでとうございます。ベルナール様」
ベルナールにはこの一年間チェス以外にも沢山の事を教えてもらった。ノクスは心からこの出会いに感謝していた。
「卒業してもお前は私の大切なファグだ。何かあったらいつでも話を聞く。待っているからな」
少し心配そうな笑顔を浮かべるとベルナールはノクスの手を固く握り返した。
2年に進級したノクスは相変わらず首席をキープし、再び監督生に選ばれた。教官や寮長からも信頼が厚く、何かと手伝いを頼まれることも増え、忙しい毎日を過ごしていた。そんな18歳の秋、再びリカルドとノクスは対面する事になる。
学年内で行われた寮対抗の剣術競技大会の決勝戦。
各寮から各学年の代表を選び、トーナメントでその力量を図るもので、学校の年間行事の中でも1,2を争う盛り上がるイベントだ。
ノクスは、第一寮の二年生代表として、細身ながらもしなやかな俊敏性と隙のないフットワークで決勝まで勝ち上がってきた。
リカルドもさらにたくましくなった体と腕力、そして圧倒的な戦闘センスで他の者を寄せ付けず、第五寮の二年生代表として決勝戦に進んでいた。
暑い日差しが照り付ける試合会場、盛り上がる生徒たちの声援中で向かい合う二人。
久しぶりに近くで見るリカルドは1年前よりさらに体が大きくなっており、ほぼ成人と変わりないくらいにたくましくなっていた。
「よう。なんか、喋るの久しぶりだな」
「まあ、特に用もないからな」
「相変わらずつれないね~」
明るく笑うリカルドに、ノクスの胸がドキリと高鳴り、眠っていた恋心がそろそろと目を覚ます。
やめろ、やめろ。今は試合に集中しないと。
ノクスはそう自分に言い聞かせポーカーフェイスを装う。
「でも、随分たくましくなったな。それに髪が伸びた。」
「ずっと筋トレは続けているからな。髪は切るのが面倒なだけだ」
「そうなのか?長い方が手入れとかめんどくさそうだけど」
ノクスの美しい金髪は肩まで延び、邪魔にならないよう首の後ろで一つにまとめられていた。
以前、リカルドが長い金髪が好みと言っていたからではない、決して。とノクスは心の中で誰へともなく言い訳をする。
動くたびにぴょこぴょこと揺れ、それがまるで狐のしっぽみたいでちょっと可愛いなとリカルドは思った。
「うるさい。グダグダしゃべってないでさっさと剣を構えろ」
「はいはい」
ノクスが問答無用と試合用の木剣を構えるとリカルドは仕方なく木剣を構える。
二人の間に静寂が流れ、間合いを探り合い、隙を伺う。
少し誘ってみるか、とノクスが剣先を振るとその隙をついて勢いよく地面を蹴ってリカルドが切り込んでくる。
ノクスがそれを素早く躱し、リカルドの脇腹に切りかかるが、リカルドの切り返した剣がそれをはじき飛ばす。
体ごと吹っ飛ばされたノクスは足に力を入れて体制を立て直す。
弾かれた腕が少し痺れていていた。
「この馬鹿力め……」
「お前もなかなかやるな………けど!」
再びリカルドが切りかかってくる。
受けるのは危険だとノクスがそれを避ける。
振りは大振りだから隙さえつけば勝機はある。
切り込んだ隙をついてノクスがリカルドの肩に木剣を叩き込む。
「ぐっ…!」
入ったが体を流されたため、浅い。
ノクスは舌打ちすると息をつかせないような素早い連撃を繰り出す。
何とかそれをリカルドが木剣で受け流す。
以前、アレックスがノクスを豹に例えていたが、まさに、まるで狩りをする豹のようにしなやかで素早い攻撃だ。
隙を見せたらやられる。リカルドはそのギリギリの緊迫感に高揚し、思わず笑みをこぼす。
しばらく攻防が続き、かなりの手数を出し続けたノクスの息は上がり、足が鈍ってくる。
その一瞬の隙をリカルドは見逃さず、全体重を剣に乗せて切り上げる。
はじかれたノクスの木剣が宙を舞い地面に転がる。
その勢いでよろけたノクスの鼻先にリカルドの木剣の先が突きつけられる。
たらりとノクスの汗が頬から落ちる。
「それまで!勝者、第五寮リカルド・ノア!」
審判が高々に宣言すると息を飲んで見守っていた第五寮の生徒たちからわあっと歓声が上がる。
普段庶民のくせにと第一寮の生徒から軽んじられてきた第五寮生徒たちは一矢報いることができたと大騒ぎだった。第一寮生たちは苦々しくその様子を見つめている。
リカルドが荒い息を整えつつ木剣を収める。
「いや~、すげえ連撃だな。お前が足を止めなかったら危なかったぜ」
「……ふん、敗者に慰めは不要だ」
地面に落ちた木剣を拾いつつ、苦々し気にノクスが吐き捨てる。
そんなノクスにリカルドはやれやれと肩をすくめる。
「素直に受け取れよ。本当にすごかったって。俺にはあんなに早く剣振れねえし……」
「……次は負けん」
「ああ、俺ももっと強くなる」
ノクスが悔し気に睨みつけるとリカルドが明るい表情でにっと笑い、手を差し出す。
その顔を見て、ああ、やっぱりこの男が好きだなとノクスは思った。
ノクスの恋心がムクムクと起き上がる。
いっそのこと伝えて玉砕したほうがこの恋心も昇華できるのだろうか?
そんなことを考えながら、ノクスはリカルドの手を握った。
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