魔法の葉っぱ 〜落ち葉になった小犬〜(改稿)

水玉猫

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殺処分ゼロ

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「おまえが、がんばれよ!」
 通話を切ったとたん、秋川さんは受話器に向かって怒鳴りました。
 秋川さんの足元に座っていたレトリバーのシロップが「わん!」と吠えます。

「あきちゃんたら、また、ケンカしてたの?外まで聞こえたよ」
 愛護館の事務室にもどってきた白崎さんが、苦笑い。アキちゃんは、秋川さんのニックネームです。

「ケンカなんかしてないわよ、しーちゃん。ていねいにご説明したまでのこと」
 しーちゃんは、白崎さんのことです。

 白崎さんは、秋川さんの向かいの机に座るとたずねました。
「飼えなくなったから引き取ってくれっていう、いつもの電話?」

「Yes」
「引っ越し?」
「No」
「遺族?」
「No」
「高齢者?」
「No」

「じゃ、『こどもの情操教育のため犬猫を飼い始めましたが、こどもは世話をしないし手に負えないので、動物愛護センターで引き取ってください』だ」

「ピンポーン! 命をなんだと思っているのかしらね。使い捨てのこどものおもちゃじゃないんだから」白崎さんは、ため息をつきました。「それもね、T市の住民が電話してきたのよ。ったく!」

「うちの管轄外かんかつがいじゃないの。T市にも、動物愛護センターあるの知らないの?」
「知ってたわよ。その上で、電話してきたのよ」
「えっ、なんで?」
「うちがいろいろがんばって、去年は犬の殺処分数ゼロを達成したって、テレビで見たからだって」

「私たちのがんばりをほめてもらえたのなら、それは、うれしきこと。しーちゃんも課長といっしょにテレビに出たから、一目惚れして電話してきたとか?」
「うちの嫁にぜひ……ってなわけないでしょ!」
「フフフ。で?」
「T市は、犬を殺処分してるから、犬がかわいそう。殺処分ゼロのセンターなら、犬の面倒を見てくれて、里親探しもしてくれるだろうからだってさ」

「何、それ! T市のセンターだって、好きで殺処分してるんじゃないよ! こういう飼い主がいるから、涙を呑んで仕方なくじゃないの! 犬にとって、飼い主がセンターに引き取ってくれって、電話することが一番かわいそうなのよ! うちのセンターだって、長い時間かけて努力を重ねて、やっと、犬の殺処分をゼロにしたんだから!」

「でしょ。だから、お宅の地域は管轄がT市の動物愛護センターです、うちは管轄外ですので引き取りはできません、T市のセンターでも犬の飼い方しつけ方教室を定期開催しています、お子さんと参加して犬の飼い方をもう一度見直してください、それでも飼えないのならご自分でがんばって里親を見つけてください、T市のセンターでも里親の探し方のアドバイスはしますって、ていねいにご説明したのよ。そしたら、なんて言ったと思う?」

「なんて言ったの?」
「わからない人だね、もう飼えないって言ってるだろ! がんばっていると聞いたから見込んで、わざわざ電話したのに! どうして、がんばらないんだ! だってさ」

 白崎さんも、秋川さんと声を揃えて言いました。
「一番がんばらなきゃいけないのは、飼い主だろ!!」

 シロップが「わんわん」と吠えました。
 そこに、新人の和歌山くんが、駆け込んできました。
「秋川さん、白崎さん、すぐ管理棟に来てください! がまた流血騒ぎ! 飼育員の米田よねださんに、噛みついちゃいました」
 
「えっ? あのこ、よねさんには、一番なついていたはずよ!」
 秋川さんは、驚いて立ち上がりました。

「米田さんが、ホープは寝ていると油断して、彼の体をまたいじゃったんです! そしたら、ホープが目を覚まして、米田さんの足に噛みついちゃったんです!」

「きっと、びっくりしたんだわ。行きましょう、あきちゃん」
「まいったな。また、に、仲介頼まなきゃ」

 白崎さんと秋川さんは、管理棟に駆けて行きました。



 ここはN市の動物愛護センター。
 愛護館と管理棟、二つの建物があります。
 愛護館は、保護された動物たちと会うことができたり、動物たちのことを学べる施設。
 管理棟は、収容された動物の検査や治療など保護をするための施設。

 は、収容犬ホープのニックネームです。
 ホープには噛み癖があって、元の飼い主の家に訪ねてきた町内会の会長の肩に噛みついて大怪我をさせてしまったのです。
 飼い主家族は引っ越すか、犬を処分するかどちらかにしろと迫られ、ホープはセンターに収容されました。

 ホープは、センターに来てから職員さんたちがつけた名前。以前は別の名前でした。
 どんな事情で収容された犬にだって、生きる望みをつなげたいという職員さんたちの願いが、この名前に込められているのです。
 ホープのニックネームも「町内会長に噛みついてセンターにきた」というユーモアから。
 収容された当初は大荒れだったホープも、職員さんたちとの信頼関係を少しづつ築き、だんだん心を開きつつあります。

 先週、未去勢だったホープを去勢したのは、秋川さん。
 翌日、唸られるのを覚悟して、恐る恐るようすを見に行った秋川さんに、ホープは恨めしげな目で見たものの唸りはしなかったのです。だから、秋川さんはホープとの信頼関係が振り出しに戻らずにすんだと、一安心していたのでした。

 

 わたしは、落ち葉。
 秋川さんが「魔法の葉っぱに仲介頼まなきゃ」と言った「魔法の葉っぱ」とは、わたしのことです。
 わたしは、秋川さんが首から下げたIDケースの中にいます。
 落ち葉のわたしが、どうして、秋川さんに魔法の葉っぱと呼ばれて、彼女のIDケースの中にいるのか……これから、そのお話をしようと思います。
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