歌うたいの猫

水玉猫

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時計塔

歌うたいの猫 Ⅵ

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「どうしよう……」
 雉白きじしろもようの猫は、狼狽うろたえました。

 祈りの鐘が無くなれば、街の住民たちは、もう地上に思いをせる切っ掛けを失くし、虹の橋に渡ってきてからどれだけの月日が過ぎたのかをはかしるべも失くしてしまいます。

 それに、地上からの船を出迎えたり、虹の橋から出航する船を見送ったりすることも忘れがちになるでしょう。

 焦った猫が何度見返しても時計塔のてっぺんに鐘はなく、足元には無残な鐘の残骸が星屑ほしくずのように散らばっているばかりです。

 何かせずにはいられなくなった猫は、鐘の残骸を集め始めました。
 だけれど、いくら星屑を集めても、砕け散った鐘が元どおりになるはずはありません。鐘の破片は、星屑のままです。

 間も無く、地上からの船がやってくる時刻です。

 猫は、居ても立ってもいられなくなりました。
 集めた破片をこすり合わせてみたり、落としたりしてみたりしましたが、そんなことで、鐘の音が戻るはずもありません。

 「どうしよう……どうしたらいいんだろう」

 成すすべもなく、猫は、星屑の中に座り込みました。
 その拍子に、猫が肌身離さず持ってる銀の鈴が音を立てました。
 虹の橋に着いた時に、渡し守から渡された大切な鈴が鳴ったのです。
 猫には、鈴が「歌え」と言っているように、聞こえました。

 猫は、思いました。
 そうだ、歌おう。鐘が鳴らないのなら、せめて、ぼくが歌って、船の到着の時間を知らせようと。

 でも、時計塔の下で、いくら力のかぎりに歌っても、その歌声が広い街中に届くはずもありません。
 それは、猫にもわかっていました。
 だけれど、何もしないよりは、ずっとましだと思えたのです。
 誰かが歌声を耳にすれば、他の誰かに船の発着を知らせてくれるかもしれません。
 それが次々に伝わっていけば、たとえ時間がかかっても、それで街中に船の発着を知らせることができるかもしれません。

 猫は、鐘の残骸の星屑の真ん中で、声をかぎりに歌い始めました。

 猫の歌に合わせ、銀の鈴の澄み渡った音は大きくなっていきました。

 鈴の音が大きくなっていくにつれて、猫の足元に散らばる星屑たちが、光を取り戻したかのように輝き始めました。
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