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アルバイト募集

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 ある日、じゅりは、いつもどおりに、ベビーわたぐまといっしょに歩行器ぐもに乗っていた。
 とても気持ちの良いお天気だったから、ふたりは、いつもより、もうちょっと高い空まで行ってみることにした。

 「バブバブ」
 ベビーが、じゅりのすそをつかんだ。
 どうやら、例の空まで届く木に、何か見つけたらしい。ベビーは、とても目がいいんだ。

 じゅりとベビーが歩行器ぐもで、木に近付いてみると、張り紙がしてある。

 「バブバブ」
 ベビーはその張り紙がほしいと、じゅりにねだる。
 ベビーの近頃のお気に入りは、紙吹雪かみふぶき作り。やぶけるものなら、なんだって、やぶいてしまう。
 だから、おとうさんわたぐまは、泣く泣く紙の新聞をあきらめ、デジタル新聞に変えた。
 毎朝届く紙の新聞のインクの匂いがコーヒーの香りと混じり合うのを、おとうさんぐまは、なにより愛していたのにね。

 じゅりは、張り紙を木から剥がした。
 「アルバイト?」

 それが、くらうどcaféのアルバイト募集の張り紙だったんだ。

 「バブバブ」
 早くちょうだいと、ベビーが、手を伸ばす。

 「ちょっと、待って、ベビー。読んだら、あげるから」


 アルバイト募集
 空まで届く木の上にあるひつじ雲のカフェ くらうどcafé
 
 募集人数 1名
 資格 なし
 条件 高所恐怖症でない方
 性別年齢不問(ただし未成年は保護者の同意が必要)
 時給 能力による(見習い期間あり)
 時間 営業時間内で応相談
 休日 週2日
 職種 カフェの手伝い。買い出しや出前をお願いすることもあります。
 兼業可
 まかないつき

 お気軽に当店まで、お問い合わせください。

 
 「このバイト、あたしにうってつけ! だって、あたし、高所恐怖症じゃないんだもの!」

 それを聞いたベビーが、不安そうに「バブー」と言った。

 「心配しないで、ベビー。あたしが、ベビーのシッター、やめるわけないでしょ。ほら、ここに兼業可って書いてあるじゃない」

 じゅりは、アルバイト募集の張り紙を、ベビーに渡した。
 ベビーは「兼業可」ってどういう意味なのか、わからなかったけれど、じゅりがベビーシッターをやめないことはわかった。
 だから、安心して、大好きな紙雪吹作りに専念だ、ビリビリ、ビリビリ。

 でも、どうやって、じゅりはベビーシッターとカフェスタッフの2足の草鞋わらじくつもりなんだろう。
 くらうどcaféの営業時間は、ベビーシッターの時間とかぶるのに。
 妖精にしたって、人間にしたって、ほんにんの思い通りにならないのが、世のつねなのにね。
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