カエルとカタツムリと子猫のしっぽ(改稿版)

水玉猫

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なにかと一緒

ネクタイの秘密

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 ランドリーバスケットにタオルとシーツを放り込んでから、キッチンに行くとコーヒーの良い香りがした。

「エム、なんで、なにかを肩に乗せているんだよ」座ってコーヒーを飲んでいたジェイが、わたしと仔猫のなにかを見た。「なにか、また、パパ・ジェイとパパ・エムの部屋に入って行ったんじゃないだろうね」

 なにかは、わたしの首に体をすり寄せた。
 わたしはそ知らぬ顔で、自分のコーヒーを取りに行った。

「それと、エム、ヘッドボードはちゃんときれいなクロスで拭いたんだろうね。使ったタオルやシーツではなくて」

 ジェイのやつ、いちいち鋭いじゃないか。しかし、時すでに遅し。そういうことは、前以て言っておくものだぞ、ジェイ。
 わたしとなにかは、黙秘権行使だ。

 なにかはわたしの肩から飛び降り、ちょこちょことお気に入りの箱に入って行った。
 わたしたちの出会いの記念日にジェイがなにかを入れて、わたしへのプレゼントボックスにした箱だ。プレゼントボックスといえば聞こえはいいが、なんのことはない、ただの段ボール箱だ。『エムへ。彼女を気に入ってくれるといいな! ジェイより愛を込めて。 』と手書きしたコピー用紙が適当な大きさに切って、貼ってある。
 どういうわけか、この箱は、なにかの大のお気に入りだった。
 おかげで、せっかく買い揃えたペットベッドやペットハウスには、見向きもしてくれない。

「そうだ、エム。ブルーのネクタイなら、あの箱の中だよ。なにかは、どんなおもちゃより、あなたのブルーのネクタイが気に入っているんだ。ネクタイが見付からないんなら、あれを締めていきなよ」そう言ってから、ジェイは肩をすくめた。「もっとも、なにかの爪の跡だらけでボロボロだけどさ」



 飲み終えたカップをシンクに持って行くジェイの後ろ姿を見ながら、わたしは胸が熱くなった。
 あのネクタイは、ジェイに初めて会ったときに締めていたネクタイだ。あのとき、ジェイは刑事裁判の原告側の切り札ともいえる証人で、わたしは被告の代理人だった。

 裁判は最後の最後に真犯人が判明して、わたしのクライアントの冤罪が証明された。
 劇的な結末を迎えたこの裁判は、一気にわたしのゲイの弁護士としての名をあげた。クライアントも、殺された少年もゲイだったのだ。

 ジェイとの仲は、そのときはそれで終わった。そもそも当時は、彼がゲイだとは知らなかったのだ。
 それが二年後の同じ日に再会し、わたしたちは惹かれ合い、恋に堕ちた。偶然ではあったが、この日も、わたしは同じネクタイをしていた。

 ジェイは覚えていないようだったが、わたしはこうして覚えている。
 だから、ジェイとの出会いと再会の記念日に、わたしは一日あのネクタイを締めていたんだ。
 朝から大喧嘩して、二度の再会の記念日は別離の記念日に変わり兼ねなかった。目の前の破局から、わたしは何とかして逃れたかった。ジェイと暮らした日々を逆戻りして、初めから遣り直したかった。愚かな夢想だと十分過ぎるほど承知していたが、わたしはあのネクタイに一縷の望み、再度の軌跡を願わずにはいられなかった。
 そして、奇跡が起きた。
 ジェイが、なにかを連れて来て、わたしたちはもう一度やり直す機会を与えられたんだ。



「せっかくの提案だが、ジェイ、なにかのお気に入りを取り上げることはできないよ。裁判所に行く前に事務所に寄れば、替えのネクタイがあったはずだ」

 ジェイはランチボックスとポットを持って、わたしの横に来た。

「エム、コーヒーも、ポットに入れておいた。たまごとソーセージのベーグルサンドといっしょに持って行ってよ」
「大学の講義、今日は何時から?」
「九時」
「だったら、わたしの車で送って行くよ。秘書のMs.ミズケィに、裁判所にネクタイを届けてくれるように連絡しておくから」
「どういう風の吹き回しだい、エム」
「帰りも迎えに行くから、今夜は食事にでも行こう」

 わたしは立ち上がって、ジェイの体に腕を回した。キスしようとしたとき、彼の体が大きく揺れた。

「どうした、ジェイ?」
「なんでもない、ちょっと眩暈めまい……」
「ジェイ?—— ジェイ!!」

 ジェイは、わたしの腕の中に崩れ落ちた。


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