カエルとカタツムリと子猫のしっぽ(改稿版)

水玉猫

文字の大きさ
34 / 38
パパ・ジェイ、帰ってきた

鳥さんふたつ

しおりを挟む
 リビングのドアが開いて、パパ・ジェイが入ってきた。

「パパ・ジェイ! おかえりなさい!」
 あたしは、パパ・ジェイのところに走って行った。

「なにか!」パパ・ジェイは、あたしを抱き上げた。「大きくなったな、なにか!」

「ほら、なにか、言ったとおりだろ」

 パパ・エムが、あたしにウインクして笑った。
 あたしも、パパ・エムにウインクした。

「ああ、なにかだ、本物のなにかだ!」パパ・ジェイは、あたしに頬ずりをした。「なにか、ぼくのこと、忘れていなかったかい? ぼくは、病院で、いつも、なにかのことばかり考えて、ずっと、なにかに会いたかったんだよ」

「あたしも、パパ・ジェイが病院から帰ってくるの、ずっと、ずっと、待っていたんだよ!」
「そうかい、そうかい。なにかも、ぼくのこと、ずっと忘れずにいてくれたんだね。ありがとう」

 パパ・ジェイは、パパ・エムとちがって、あたしの鳴いてること、ちゃんとわかる。パパ・エムは、あたしの鳴くことが半分も、わからないのにね。

「ジェイ、コーヒー」

 パパ・エムが、コーヒーを入れて持ってきた。
 パパ・ジェイが、カップの中を見て、鳴いた。

「ミルクが、入っていないよ」

 パパ・エム、ちょっとフリーズした。
 パパ・ジェイが、パパ・エムを見た。

「ミルク、ないの?」
「あー、えっと…… そうだ! なにか用のヤギミルクならある!」 
「ぼくたちのミルクは、買ってないの?」
「うん。は」
「いつも、言っているだろ。なくなったら、買うんだよ。オッケー?」
「オッケー」
「ミルクがないんなら、アイスクリームが、ほしい。エム、持ってきてくれない?」
「……」
「もしかしたら、エム、ぼくのアイスクリーム、全部食べた?」
「…… うん」

 パパ・エムのおっきな身体が、パパ・ジェイの前で、だんだん小さくなっていく。
 あたし、パパ・ジェイに、告げ口をした。

「あのね、パパ・エムったら、夜中に目がさめるとね、パパ・ジェイのアイスクリーム、食べてたんだよ」

 だけど、パパ・エムがちょっとだけ、あたしにもアイスクリームをなめさせてくれたのは、黙っていた。
 だって、パパ・エムだけじゃなくて、あたしも叱られるもの。人間の食べるものを食べちゃダメっていうのは、パパ・ジェイの決めた『禁止条例』のひとつなんだ。

「エム、夜中にアイスクリームを食べて、次の日、おなかを壊したりはしなかったろうね」

 ほら、パパ・ジェイには、あたしの告げ口、ちゃんと通じてるでしょ。

「あっ、いや、うん…… そうだ、ジェイ、退院祝いの食事に行こう」

 パパ・エム、なんとかごまかそうと、必死になってきたよ。パパ・エム、まだまだいっぱい、禁止条例をやぶっているんだもの。

「その帰りに、ミルクやアイスクリームを買い行けばいい。ジェイ、どこで、何が食べたい? 予約、入れるからさ」
「食事は、ぼくが作るよ。レストランには、なにかは連れて行けないだろ。外に食べに行くより、今日は、なにかと家にいたい」
「あっ、でもさ、ジェイ。退院したばかりなんだから、今日ぐらい、ゆっくりして、外に食べに行こうよ」

 パパ・ジェイは、疑わしげな目でパパ・エムを見た。

「だから、エム、ぼくは、家でゆっくりしたいんだ。久しぶりに、料理だってしたい。そんなにあなたが外に出たいんなら冷蔵庫をチェックするから、今夜のディナーの材料に足りないものを、ミルクやアイスクリームといっしょに買ってきてよ」

 パパ・ジェイは、あたしを肩に乗っけて、冷蔵庫に行った。
 パパ・エムってば、しまったって顔をした。

 冷蔵庫を開けたとたん、パパ・ジェイは、絶叫した。
 だって、中のものが、ドドッて雪崩なだれを起こして、崩れ落ちてきたんだもの。

「エム! 何、このテイクアウトの残骸は?!」
「捨てるの、もったいないじゃないか。食品ロス……」

 パパ・エムったら、買ってきたごはんの残り、毎日どんどん冷蔵庫に押し込んでいたんだよ。

「なにが食品ロスなんだよ、エム! だったら、入れっぱなしにせずにちゃんと食べろよ! 冷蔵庫は、食物を永久保存できる箱じゃないんだぞ! 一番奥にあるのは、ぼくが入院した日の日付けじゃないか! うわっ! ミルクがヨーグルトになっている! だから、きみは『新しいミルク』は買っていないって言ったのか! 野菜は萎びているだけならまだしも、溶けかけているし!」

 あたしは窓ガラスの向こうから、鳥さんがパパたちを見ているのに、気が付いた。
 それも、鳥さんはふたついる。
 ひとつは、意地悪なあの鳥さんだ。もうひとつは、初めて見る鳥さん。
 ふたつの鳥さんたちはニヤニヤ笑いで、あたしたちを見ている。
 なんか、あたし、すごくムカついた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

ユキ・シオン

那月
BL
人間の姿をした、人間ではないもの。 成長過程で動物から人間に変わってしまう”擬人化種”の白猫青年と、16歳年上のオッサンとのお話。 出会ったのは猫カフェ。白猫従業員としての青年と客としてやってきたオッサン。 次に再会したのは青年が人間として通う大学。オッサンは保健室の先生だった。 青年が金のためにヤバいことをしていて、あるトラブルが起こる。 そこへ見計らったかのようにオッサンが飛び込んで救出したのをきっかけに2人の距離は縮まり…… ※表紙絵は自作。本編は進むにつれてどんどん動物園と化します(笑)

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

若頭と小鳥

真木
BL
極悪人といわれる若頭、けれど義弟にだけは優しい。小さくて弱い義弟を構いたくて仕方ない義兄と、自信がなくて病弱な義弟の甘々な日々。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺の居場所を探して

夜野
BL
 小林響也は炎天下の中辿り着き、自宅のドアを開けた瞬間眩しい光に包まれお約束的に異世界にたどり着いてしまう。 そこには怪しい人達と自分と犬猿の仲の弟の姿があった。 そこで弟は聖女、自分は弟の付き人と決められ、、、 このお話しは響也と弟が対立し、こじれて決別してそれぞれお互い的に幸せを探す話しです。 シリアスで暗めなので読み手を選ぶかもしれません。 遅筆なので不定期に投稿します。 初投稿です。

補佐官と報道官

紅林
BL
ファーシス王国保健省の高官を務める若き男爵、クリフは初恋の相手に婚約者がいることが分かり大変落ち込んでいた そんな時、仕事の関係上よく会う報道官のイーデンから飲みに誘われ一夜を共にしてしまう……

処理中です...