カエルとカタツムリと子猫のしっぽ(改稿版)

水玉猫

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パパ・ジェイ、帰ってきた

泣いちゃやだ。

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 仲直りをすると、パパ・ジェイがお買い物リストを書いて、パパ・エムに渡した。

「エムは、これから、お使いだ。一人でスーパーマーケットに行って、ここに書いてあるものを過不足なく買ってくるんだよ。わかったかい、ベイビー」
「ジェイ、リストなんか、なくったって、買い物ぐらいできるさ。子どもじゃあるまいし」
 
「いや、あなたはできない。子どもの方が、よっぽどできる」パパ・ジェイは即座に断言した。「子どもは頼んだものは、買ってくる。しかし、あなたときたら、目に付いたものは何でもかんでも適当にカートに放りこむ。買い忘れと買い過ぎばかりで、いつも肝心のものがない」

「ジェイ、それは……」
「ちゃんと確認して選ぶんだ。食費の予算とも相談してね。あなただって、何も考えずに行き当たりばったりで司法取引はしないだろ。私生活だって、おんなじだ。レシートも捨てたり無くしたりしないで持って帰ってくるんだよ、いいね」

 パパ・エム、口の中でモゴモゴ


 青いくるまがパパ・エムを乗っけてお買い物に行くのを、あたしは窓辺で見送った。
 パパ・エムがいなくなると、パパ・ジェイはキッチンの戸棚をみんな開けて、なんか探し始めた。

「パパ・ジェイ、何を探してるの?」あたしが訊くと、パパ・ジェイは答えた。

「お酒だよ」

 お酒? お酒ってなんだろ。あたし、知らないや。

「ぼくが入院している間、エムのやつ、酒飲んでないかって心配してたんだ」

 パパ・エム、お水やコーヒーは飲んでたよ。あと、お茶。

「あいつ、アルコール依存だから、断酒させておかないと。また酒を口にしたら、元の木阿弥もくあみ、ぼくと入れ替わりにエムが入院だからね」

 ふうん。お酒って、怖いんだね。

「エムにとっては、酒は悪魔の水さ。ぼくがいないとき、エムが酒を飲もうとしたら、なにかはシャーって言って、やめさせるんだぞ。噛みついても、引っ掻いてもいいからな」

 うん、わかったよ。

「ぼくはワインソムリエの資格を持っているけど、エムの前では飲まないようにしている。あいつに付き合って禁酒さ」

 パパ・ジェイは、ゴミ箱のチェックもする。

「資源ごみの中に酒瓶も空き缶もないようだし、取り敢えずオッケーかな」

 パパ・ジェイ、あたしを抱き上げて、キスしてくれた。「なにかがいてくれたから、エムもアルコールに逃げなくても、気が紛れたんだろう。ありがとう、なにか」

 それから、パパ・ジェイは冷蔵庫の中を片付けて、ゴミをまとめた。
 あたしは、おとなしく、それを見ていた。


「ああ、疲れた」パパ・ジェイはキッチンの片付けがだいたい終わると、ソファに寝転んだ。「バスルームやベッドルームを見る勇気は、もうないよ」

 うん。あたしも見ないほうがいいと思うよ。

「あいつさ、今、仕事、忙しいんだ。ストレス半端ないはずなんだ。それなのに、入院しているぼくに、毎日会いに来てくれた。今日だって、ぼくの退院日だから、無理矢理、スケジュールを開けたみたいなんだ」

 あたし、パパ・ジェイのおなかの上に乗った。パパ・ジェイ、あたしの背中を撫でてくれた。

「それに、なにかの世話は、きちんとしていたみたいだし」

 うん。毎日、お水も変えて、おトイレも掃除してくれたよ。ないしょのおやつもくれたよ。
 あっ、ないしょのおやつは、秘密だった! 

「ずぼらなエムにしては、なにかの世話だけは合格点だ」

 あたし、パパ・ジェイのおなかの上でゴロンゴロンした。

「なにか、知ってる? ぼくの病院に、エムのファンクラブがあるんだぜ。おかしいだろ。仕事以外じゃ、あんなにグタグタでだらしないのに。ファンクラブ会長のMs.ミズディに、一度、私生活のエムを見せてやりたいよ」
「あたしは、パパ・エム、けっこう、かわいいと思うよ」
「なにか」
「なあに、パパ・ジェイ」
「なにかが来る前は、ぼくが、さっきみたいにガミガミ言うと、ううん、言いかけただけで、すぐにエムも怒って、ぼくたちはケンカばかりしていたんだ。当たり前だよね。ぼくは彼よりずっと年下だし、ただの大学生だし。それに引き換え、エムは第一線の弁護士だ。ぼくなんかが、エムに向かって生意気な口をきくなんて、百年早い。身の程知らずもいいところさ。それなのに……」

 パパ・ジェイは、仰向けのまま両手で顔をおおった。 

「それなのに、エムのやつ、ぼくなんかの言うことを聞いて、その通りに従ってくれる。ぼくなんか、アッシュとだれかのその場つなぎでしかないのに…… 」

 パパ・ジェイ、泣いちゃった。

「パパ・ジェイ、泣かないでよ。パパ・エムは、パパ・ジェイのこと大事だよ。あたし、アッシュって、だれなのか知んないけど、パパ・エムはパパ・ジェイのこと、すごく大事だよ」

 あたし、思い出した。パパ・ジェイが病院にいたとき、パパ・エムも、アッシュっていう名前で泣いていたんだ。「いつか必ず来るその日が怖い。とても、とても怖い。……アッシュのときより、ジェイがいなくなったときの方が、わたしには怖いんだ」って、一晩中泣いていたんだよ。
 だけど、あたし、このことは、パパ・ジェイに教えてあげない方がいい気がする。どうしてだか、わかんないけど。とにかく、今はやめとく、あたし。

「パパ・エムは、きちんとしない自分が悪いんだよ。パパ・ジェイの言うこときくの、当然だよ。パパ・ジェイがいないと、パパ・エム、捨て猫になっちゃうよ。だから、パパ・ジェイ、泣かないでよ」

 あたし、パパ・ジェイに、いっしょうけんめいスリスリした。そのうち、パパ・ジェイ、眠っちゃった。 


 あたしも、パパ・ジェイのおなかの上でうとうとしてたら、窓の外から、だれかが見ているのに気が付いた。
 また、意地悪な鳥さんたちかと思ったら、ちがった。


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