BLUE WATERー飛空士は愛機と共に異世界の空を飛び駆ける。ー

二代目菊池寛

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本編

三章一話 鳥狩り。①ー魔獣ー

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人間種ヒューマン

アルミュラにおける知的種族の一。

但し、魔力の恩恵を受けず、少数種族であるため劣等的地位にある。

独自の国家を持たず、諸国を集団で放浪するか、一部の国の許可の下、少数が定住生活を送る。

但し、極めて手先が器用で高度な技術知識を有しているため、水道や機械類の整備番として徴用されることもある。

(セドラント王国大辞典第一版より抜粋)





アイン「………ん。」

徐々に覚醒してくる意識。はっきりしてくる体の感覚。

差し込んでくる朝の陽ざし。

アイン「ふぁ……あ………っと。眠ぃ……。」

大きく欠伸をして、アイザック=フォフナーことアインはもぞもぞと円状のベッドから起き上がった。

徐々にはっきりしてくる意識の中、…………改めて此処が地球以外の何処かであることを思い知らされる。

此処は、メア村。シラティスの家。

メア村に居ついて早一週間が経過した。

取り敢えず、今、分かったことは、先ずこの世界における『人間種ヒューマン』が作る建物は、どれも丸みを帯びているということ。日用品も、特に尖っている必要がない物品はほとんどが、丸い。

そして、この家といい日用品類といい、プラスチックであったり合成樹脂であったりゴムであったり、19世紀並みの高度な工業製品がごく普通に使われている。少なくとも人間種が、地球に負けるとも劣らない高度な科学技術の持ち主であることは間違いなかった。

この世界の事情もかなりはっきり分かってきた。

数日前、アインが撃破した『機竜』を擁する『北帝国』なる国家は、耳長族エルフが国民の殆どを占める国家で大陸の北半分の殆どを領有。強大な軍事力を背景に、力の弱い各国に〝庇護〟の名目で機竜を中心とした進駐軍を配置し、その力と恐怖を背景に各国から莫大な貢物を得ているという。

『貢物』の内容は、殆どが農作物であったり金銀財宝であったりするのだが、……進駐軍や方面軍の指揮官次第で、女子供を要求してくることもある。

言わば。『悪の帝国』と言った所か。

このセドラント王国もまた、北帝国から毎年莫大な貢物を課されている小国だが、豊かな国土を背景に貢納の義務を全うし「優良国」として扱われているらしい。北帝国進駐軍の規模も、帝国兵の横暴も、他国ほどひどくはない、とのこと。

因みに、セドラント王国は、北帝国と同様に耳長族が国民の多くを占める国ではあるが、獣耳族や小人族とも平和に共存し、人間種にも制限つきではあるが国内での居住権を認めている。

北帝国とは真逆、まさしく『平和の国』だ。

だが、それも先日の一件で大きく変わってしまうかもしれない。……アインが機竜を一騎撃墜し、その報復のためにセドラント方面北帝国軍が侵攻。その軍隊もまたアインによって撃退されたのだ。

もう、北帝国とセドラント王国の関係悪化は避けられないだろう。そして、近い将来に起こる戦争にて、アインは否応なく自分の能力を駆使して闘わなければならない。

事の発端は、事情が事情とはいえ、アインにもあるのだから。

考えに沈みながらアインは、ちょんっ、と部屋のドアの取っ手を指で叩く。

そうすると、取っての部分が少し光って、一人でにドアが開くのだ。自動ドアだ。スライドで開いた。普通のドアと同じく片開きだが。……驚くべきことに、この家のみならず、人間種の家のドアは基本的に全て自動ドアらしい。

とりあえずこの世界の人間種が、地球人以上にあらゆるデザインやバリアフリーに気を使っているのは間違いなかった。

部屋の外に出ると、ほぼ同時に隣のドアも開いた。

シラティス「ふあぁぁぁ~。あ、おはようアイン」

アイン「お早うさんシラティス。何だお前。まだ眠そうな顔してるぞ。」

シラティス「うーん。ちょっと徹夜で設計図作ってたからかなぁ。」

ねむねむ、と目を擦りながら覚束ない足取りで先に階段を降りていくシラティス、後から来るアイン。階段にはもちろん手すりがついている。

階段を降りると、直ぐにリビングに通じており、テーブルには朝食が並べられていた。

レサムリ「おう、起きたか二人とも。さっさと食って礼拝と仕事。今日はロックベルのとこの〈ルミサリム〉が出来てるから製品の出し入れでちょっと忙しくなるぞ。」

この家の家主。シラティスの父親、レサムリは既に自分の朝食を終えて自分の分の食器を食洗機に押し込んでいるところだった。

シラティスは「ほーい」とまだ眠たそうな表情で自分の椅子に座る。

アイン「〈ルミサリム〉?何だそれは?」

シラティス「あ。アインは知らないんだったっけ?月に一度、〈ルミサリム〉っていう定住しないで彼方此方あちこち放浪してる人間種の人達がこの村に来るんだ。アタシ達は、その人達から他の国で作った食べ物とか、別の集落でしか作ってない工業製品とかを買ってるんだ。」

アイン「なる程な、皆が皆、定住してるわけじゃないのか。」

アインも椅子に座る。

と、レサムリも向かい側の椅子に座った。

レサムリ「………俺達人間種は、大きく2種類に分けられる。一つは、俺達みたいに何処かの国の片隅に定住してる〈ラジュケーム〉。もう一つは、定住が認められず、限られた日数しか滞在できないが為に彼方此方放浪しなければならない〈ルミサリム〉だ。」

アイン「定住が認められないってのは?」

その問いにレサムリは、ふう、と息をついて頷く。

レサムリ「ああ。………そもそも、俺達人間種ヒューマンは特定の国を持たない。最後に人間種の国があったのはおよそ1000年前。今じゃ、他種族の王様の慈悲に預かれる限られた幸運な奴しか定住を認められない。」

アイン「……どうしてだ?」

その問いには、シラティスが答えた。

シラティス「アタシ達人間種は、他の種族に比べて魔法が使えるわけでもないし、数も少ないから。其れに、聖霊様に対する解釈でも長耳族とか大勢の種族と対立しているんだ。」

この一週間。アインはこの世界アルミュラの人間種の慣習を多く知った。

一つに毎朝の礼拝がある。朝9刻時頃に村の中央広場に集まって、聖霊への祈りを捧げるのだ。雰囲気としては、イスラム教徒のそれに近いものがある。

聖霊とは万物の父である。これが人間種の聖霊崇拝の第一教義だという。

対して長耳族などは「聖霊とは万物の母である」と定めているとか。同じ神を崇拝していても、解釈の違いで対立を深めるのは、地球世界と変わりないものがあるな。

レサムリ「………ま。朝っぱらから辛気臭い話をしてもしょうがねえ。国が作れないのはどうしようもないし、流浪と言っても、まあ食いっぱぐれてるわけじゃねえ。生活面では長耳族とか獣耳族より上手くやってる方さ。さ、シラティスもアイザックも、さっさと食っちまえよ。仕事だ仕事。」





朝の礼拝の後、シラティス、アイン、レサムリの三人は工場、というか工房へと行く。

シラティスの父親、レサムリは村の機器部品の製造と修理を一手に受け持っており、更に〈ルミサリム〉の人間種を介して他の人間種の村に工業製品の部品を納入しているという。

アイン「………何度見ても、やっぱり凄いな。」

最初にソレを見た時、アインは目を丸くした。本棚ほどの大きさの箱状の、かなり大掛かりな装置だ。

この世界には〝物質シンセサイザー〟なる機械装置がある。分かりやすく説明すると、『複製機』、言わばコピーを造る機械だ。

原料を装填し、記録端末を挿入してプログラムを入力すると、そのプログラムに応じ、原料を適宜抽出・加工して製品を作るのだ。

アインがこの世界アルミュラに連れてこられたのは西暦1941年。その時は物を複製する機械など存在しない、といえば、簡単なプラスチック製品や単一の素材で何かを作るのがせいぜいだったが、此処にある物質シンセサイザーは、端末以上の高性能製品を複数の素材を合わせて制作することが可能。

端末をプログラムをすれば、あらゆる物でも作ることができるだろう。

………ということは、上手くいけばブルーウォーターの部品も……?

レサムリ「………よし。アイザック!こいつの検品を頼んだ」

アイン「了解。」

ガラガラ、と台車に積まれているのは細々とした電子機器の部品。

端末の基盤っぽい何かだ。

レサムリ「何時ものようにスキャンと手の二重チェックだ。昼飯前には全部終わらせるぞ。一つも間違いがないようにな。」

アイン「了解。」

1週間も仕事を手伝っていれば、自然と技術は身に付く。スキャンは機械任せだし、手でのチェックもコツさえ分かればそう難しいことではない。

因みに仕事での失敗は今の所ゼロ。働き者のイギリス人の評判を辛うじて保っております。

時に、つくづく、奇妙な光景だと思う。

此処を見る限り、この世界には高度な科学文明が成立しているように見える。のだが、いつぞやにエルトゥーカなる街の上を飛んだ時、そこはありがちな中世ファンタジー舞台のそれだった。そして魔力を使って飛ぶという機竜。

そして、魔法が使える種族が方が優れており、魔法が使えない人間種は、栄える彼らの陰に隠れるように暮らしている。

この世界では、魔法と科学が程よく同居している、と言える。

同居というか、住み分けだが。

アイン「………ん?」

レサムリ「どうしたアイザック?」

アイン「そういえば、此処へ入ってからまだシラティスの姿を見てないが?」

レサムリ「〈ルミサリム〉の連中に納品予定書を渡しに行ってる。………まあ、夜まで戻ってこないと思うが」

アイン「………え?」

まさかこの量を一人で検品しろと……? という目で見るアインに、レサムリは、実に同情的な目を向けてきた。

レサムリ「あいつはな。一回家の外に出すと夜までは帰ってこねぇ。カミさんに似たんだな。」





放浪生活を送る人間種〈ルミサリム〉は、基本的に人工知性機械カリアーに曳かれた数十もの幌馬車から成り、人間種の村に滞在する以外は一日の大半を移動して過ごす。魔法が使える他種族からの襲撃を避けるためだ。基本的に、人間種が襲われても長耳族や他種族の国家は何もしてくれないことが多い。

しかし、一旦人間種の村を訪れると、彼らは幌馬車を降りてテントを張り、村の人たちの歓待を受ける。彼等は人間種居住地を結ぶ交易の要であり、彼等がもたらす異国からの品々や情報は、極めて貴重なものだからだ。

テントや露店で久々に騒がしくなるメア村の中央広場を、シラティスは走っていた。

オルバ爺「ほほ、シラティス。何やら急いでおるの?」

シラティス「あっ、オルバ爺さん!ロックベルを見なかった?」

露店商から香辛料をしこたま買い上げていたオルバ爺は、キョロキョロと辺りを見渡すと、「ほれ」と向こうを指差した。

オルバ爺「彼処にるの。何やら村長と揉めとるようじゃが。」

シラティス「ありがと!」

シラティスは目的の人物………機械の売買を受け持つロックベルの下へと再度走った。レサムリが何時も機械部品を納入している移動商会の長で、この〈ルミサリム〉を実質的に取り仕切ってる人物でもある。

シラティスは父に内緒でロックベルに『ある物』を注文していた。

そのロックベルは、中央広場の一際大きなテントの裏で……何やら女村長のシャロンと話し合っていた。ロックベルは、南方系人間種の、浅黒い肌に精悍な顔立ちの男の方だ。

シャロン「………どういうことだロックベル。それは?」

ロックベル「ああ。どうやらこの国は、遂に北帝国を本気まじで怒らせたらしい。原因は、北帝国の機竜を誰かが撃ち落したからだとか。」

シャロン「……馬鹿な。この国で飛行装備と言えば、魔導艇ぐらいのものだろう。」

ロックベル「其れがよ、……まあ俺も噂を耳にしただけなんだが、何でも『青い鳥』ってのが機竜を落としたらしい。セドラント王国の『新型兵器』って話だ。で、国王直々の命令で王国北東部征伐隊が、此処、王国北東部に差し向けられたわけだが、『青い鳥』は、白い煙を吐く筒に、無数に放たれる火の粉で北帝国の機竜隊が全滅したとか。」

シャロン「………わしらが気づかんうちに、何やら大事になっておったようじゃの。ここは、外界の情報がなかなか入ってこんからな」

シラティス(『青い鳥』………。もしかして、いや間違いなくアインの飛行機械ブルーウォーターのことだ。)

シャロン「………そういえば最近、変なモノを見たと話がよく来るな。空に何か鳥みたいなものが、白い尾を引いて飛んでいるとか」

ロックベル「……今思い出したんだが、シャロン。確かこの村のずっと外れに………」

シャロン「ああ。『廃基地』のことだろう? いつ、誰が作ったのやら。無駄に長い舗装路に用途不明の建物。村一番の変わり者のシラティス以外は誰も近寄ろうとはせんよ。」

思わず名指しされて、ドキッとシラティスは身震いしてしまった。

シャロン「ふむ。シラティスなら何か知ってるかもな」

ロックベル「丁度良い。実はレサムリの所から機械部品を幾つか入れてもらう予定なんだ。あと、シラティス個人で注文も受けてる。納品予定書と代金の受け取りで来るだろう。」

シラティス(………どうしよ。)

シラティスは恐れた。もし、あの二人に問い詰められれば、全部吐くしかない。廃基地のことも、飛行機械のことも………ブルーウォーターの修理の為に親父に黙って工場の物質シンセサイザーと金属原料を使ったことも。

仮に、基地と飛行機械のことは直ぐにでも話してしまいたいと思っていたのだが、……勝手に使ってはいけない親父の物質シンセサイザーを使い、ブルーウォーターの交換部品を作る為に原料まで使い込んだことが知れてしまうと………かなり不味いことになる。

飛行機械については、アインも、自分の考えからか自分から言い出す気配がなかった。

テントの陰で悩みこむシラティスに気付くことなく、男二人は話を進める。

シャロン「レサムリ、と言えば、最近レサムリの工場に新入りが入っての。確か名前は……そうそう、アイザックとかいう、若者じゃ。」

ロックベル「………ふむ。」

何やら考え込むようなロックベル。

不味い。此れは非常に、不味い。

ロックベルの勘の鋭さ程の鋭利な刃物はない。その感覚の鋭さと、類稀な商才、更には、力の強い長耳族エルフ獣人族ワービースト相手でも引かない時は引かない豪胆さによって、ロックベルはこの〈ルミサリム〉の隊商を任されているのだ。

もしロックベルに勘付かれたら………いや、もう薄々勘付かれてる気がする。

機竜の撃墜。

『青い鳥』

そして、時折メア村の近くを飛ぶ『鳥』

少なくとも、此処一連の事件には『基地』が重要な役割を果たしていることは、もう・・・・・・。

と、その時だった。

シラティスの首筋に何時の間にか短剣が現れた。

シラティス「!?」

???「動くなよ。」

突如、シラティスの首筋に、短剣が突きつけられた。

は? と視線を上げると、其処にはいつぞやの機竜兵の……王国の役人に引き渡されるまで役場で軟禁されている筈の女兵士が、立っていた………

シラティス「お前は!?」

女兵士「また会ったな、劣等種。動くなよ、動けばお前のその首、ないと思いな。」





アイン「ふぃ~~~。………お、終わったぁ……。」

レサムリ「何とか昼前に間に合ったな。後は、ロックベルの所に届けるだけだ。」

ふへ~、と空いた作業テーブルに上半身を突っ伏すアイン。

時間が押していることもあり、一瞬たりとも気の休まることのない作業だった。………働くというのは、本当に、大変だ。

レサムリ「よし。今からこれをロックベルの所まで届けに行くぞ。もう納品予定書は渡ってる筈だからな。」

アイン「………少しは…休める時間、等は。」

レサムリ「そんなもの等ない。どうせどの道、この仕事が終わったら今月の仕事はほとんど終わったも同然だ。暫くは休めると思って気合入れろよ」

アイン「……うーす。」

長時間指の感覚に頼った検品作業をしていたせいか若干手が震えてる気もするが、アインは立ち上がって機械部品の入った箱を台車へと………。

オルバ爺「………た、た大変じゃ~っ!」

あん?と聞きなれた声にアインは、台車に箱を置いてから振り返る。

思った通りオルバ爺だった。………が、何やら慌てた様子だ。

レサムリ「どうしたんだオルバ爺さん。まさかシラティスがまた何かやらかしたのか?」

レサムリが奥から出てくる。

かなりの高齢なのに老体を押して走ってしまったらしく、はー!はー!と暫くオルバ爺は次を紡がなかった。

が、数秒後、やっと口を開いたオルバ爺の言葉に、アインの頭は一瞬真っ白になってしまう。

オルバ爺「し、シラティスが連れてかれてしまった!機竜兵の少女にじゃ!彼奴あやつ、馬を持ち出して逃げ出しおった!!」

レサムリ「!?」

アイン「何っ!?」

真っ先にオルバ爺に詰め寄ったのはアインだった。

レサムリ「お、おい!アイザック!?」

アイン「それで、奴は何処に!?」

オルバ爺「もう村の北口から逃げてしもうた。シラティスを人質に取られての、追うことは出来なかった………すまぬ。」

レサムリ「………不味いぞ。北口からの森には、魔獣が……!」

アインは走り出した。

レサムリ「待てアイザック!何処に行く!?お前一人じゃ………!」

レサムリに、一瞬アインは振り返るが………応える間も惜しく、アインはそのまま村の南口へと走った。廃基地のある方向だ。

オルバ爺「彼奴あやつ、まさか!」

レサムリ「何か知ってるのか!?爺さん!」

レサムリはオルバ爺の両肩を掴みながら言う。

オルバ爺「痛たたたたた!!年寄りは大事にせんか!?」

レサムリ「わ、悪い!」

オルバ爺「すまんすまん、レサムリ。お主には秘密にせよとシラティスから言われてのう。アイザックが向かったのは廃基地、あの機竜を倒した飛行機械。『青い鳥』がある眠ってる場所じゃ。」

レサムリ「何だって!?まさか………。」

レサムリは上空を見上げ森の方へと飛ぶブルーウォーターを見て察した。

レサムリ(アイザック………。)





アインは急ぎ廃基地の戸を開け回転レバーを回し、大扉を開ける、ブルーウォーターのエンジンをクランク棒で急ぎ回し起動、同時にアインはキャノピー目掛け高くジャンプをしキャノピーを開け搭乗、ブルーウォーターは廃基地から飛び出し、上空へと急上昇しながら。一気に森へと飛んでいった。

メア村の北口では、木造の簡素な門の前は、多くの村人でごった返していた。

口々に「どうするんだよ!?」「このままじゃシラティスが……」「だが、俺達がこの森に入るのは……」「北闇の森の魔獣とまともに戦えるわけがない!」と騒ぎ合っているだけで、誰も森に入る気配がない。

それ程に、北口の向こうに見える深い森は、危険な所なのだろうと、その時だった。

ゴオオオオオオォォォォォォォォオオオオオオオ!!!

頭が割れそうになるほどの、凄まじい轟音。メア村の住民達の耳を思わず塞いでしまう。村人達は轟音のある方を一斉に向ける、上空だ。ブルーウォーターが飛行しメア村を通過して行く。

村人A「うおっ!な、な、何だ!?」

村人B「な、何だありゃあ!?」

村人C「と、『鳥』だ!!」

村人D「まさか、あの機竜を落としたっていう『青い鳥』か!?」

レサムリ「青い鳥……。あれにアイザックが。」

???「おやっさん!!」

その時、若い男達が馬に乗って駆け付けて来た。メア村の自警団員達だ。

レサムリ「サムソン!」

サムソン「俺達は今からシラティスを助けに行ってくる!」

レサムリ「何馬鹿な事を言ってんだ!?森には魔獣が住みついてんだぞ!!殺されたらどうするんだ!!」

サムソン「魔獣が何だってんだ!!魔獣如きにビビって自警団何てやってられっかよ!!そうだろ皆!!」

ハンゼル「んだ!!」

自警団員達『おう!!』

サムソン「行くぞぉお前等ぁ!!」

ハンゼル「サムソンに続けぇ!」

自警団員達『おう!!』

メア村自警団の若きリーダー。サムソンを筆頭に副リーダーのハンゼルを始めとする若衆達は全員賛同しシラティスを助ける為、其々の自分の馬に乗った自警団員達は一斉に手綱を引き馬を走らせ、村を飛び出し森へと向かった。

村人達は森へと向かった自警団を見て騒がす。口々に「大丈夫なのか!?」「自警団だけじゃあ無理に決まってる!!」「王国軍の警備隊を呼ぼう!!」と騒ぎ合っているだけ、先頭に立つレサムリは自分さえも何も出来ずただ娘の無事を願うしかなかった。

レサムリ「あの馬鹿野郎共が!………シラティス、アイザック、無事でいてくれよ。」





シラティス「…………な、なあ。」

女兵士「………。」

その頃、村の北口。その先にある〈北闇の森〉の中。

おずおずとしたシラティスの声を無視し、後ろから、さっさと馬を引けと言わんばかりに短剣で軽く突いてくる機竜兵の女兵士。仕方なくシラティスは馬を引く。

現在いま、女兵士が着ているのは、人間種が親しんで使う簡素な素材の上下だ。甲冑は村の者達に奪われ、廃基地にあった服を何日も着させるわけにはいかなかったので村長が貸し与えたのだ。

其れなりにちゃんと見張りがついていたはずなのに………だが、チラッと振り返るだけでも、女兵士は不愉快そうな顔をしながら短剣を突きつけてくるのだ。

シラティス「……あのさ、もう、誰も追ってこないと思うよ」

女兵士「………。」

シラティス「お前は知らないと思うが、あの森には、結構強い魔獣がいっぱい住み着いてるんだ。魔法が使えないアタシたちじゃ、入ることすら………」

女兵士「いいから歩け。解放するかどうかは私が判断する。」

今のシラティスには『降参』と両手を軽く挙げて道なき道を歩くより他なかった。

〈北闇の森〉は、その名の通り、鬱蒼と木々が生い茂っており、日中であってもほとんどまともに陽の光をみることができない。そのため、背の高い木々以外はコケ類や背の低い草が地面に生えているだけだった。木々が日光のほとんどを遮ってしまうがために背の低い草はなかなか成長しないのだ。

そして、この暗闇の中に、魔獣たちは潜んでいるのだ。もしかしたら、もう………

シラティス「そ、そうだ!」

女兵士「……?」

まだ何か話すつもりなのか、と呆れたような表情の女兵士。


シラティス「そういえば、アタシの名前を聞いてなかったね。アタシは………」

女兵士「シラティス、だろ? 村の連中が連呼してたじゃないか」

シラティス「そうそう。で、お前は?」

湿った木の根や小川を軽く超えながらの人質との奇妙な会話に、女兵士はしばらく閉口していたのだが、

セリュウズ「………セリュウズだ。」

シラティス「セリュウズ。いい名前だね」

セリュウズ「………皇帝陛下が直々に名づけてくださったからな」

シラティス「!?それって………?」

何時もの悪い癖で、人質になった恐怖よりもすっかり好奇心の方が勝ってしまったシラティス。

その時、……身の毛もよだつような獣の咆哮が、響き聞こえてきた。


オオオオオォォォォ……………!


セリュウズ「な、何だ今のは!?うわぁ!!」

シラティス「うわあっ!?」

突然の獣の咆哮が響き聞こえたせいで馬は両前足を高く上げ、シラティスとセリュウズは落馬し地面に落ちる。馬は逆方向へと走り去った。

セリュウズ「しまった!馬が!」

シラティス「ひいっ!?」

セリュウズ「どうした?なっ!?」

グルルルル………と魔獣の唸り声が聞こえてくる。

狙いは間違いなく、シラティスとセリュウズの二人だ。

魔獣に関して一から解説をしよう。
魔獣とは森、洞窟、海、山等に住み着く言わばこの世界での動物的存在。
魔獣は獲物を狩り、縄張りを賭けて敵と争い、そして人を襲い二つの行為を行う。

男の場合は残虐な行為で殺し。主に食料とする。

女の場合は服を引裂き裸にしてから、性的に犯してから子孫を増やし死ぬまで苗床と化す。

とくにこの森を住処とする人食猿ひとくいエイプの他に、洞窟を住処とする小鬼ゴブリン豚鬼オークの様な類にする。

魔獣の中でとくにこの二種族の魔獣は残虐な行為を行う。

尚、犯された女や娘が仮に助けられたとしても精神や心に大きなダメージを受け、主に神殿にて修道女となり生涯を神に尽すか、或いは全てを捨て故郷に帰り部屋に引き篭もり、最悪自殺を図るかの何方かだ。

精神と心を治す方法はこのアルミュラにもアインの故郷であるイギリスにも未だに不明である。

そして、この深い森の暗闇の中から、鋭い牙を持った毛むくじゃらの人型の巨体がのっそりと姿を現す。一体だけではなく、2……3…………5体。どんどんと増え、二人の周囲を囲ませていく。

魔獣の、濁りきった幾つもの宝石に輝く赤い眼が、魔獣、『人食エイプ』が、シラティスとセリュウズの二人に向けられていた。



アイン「………糞っ!森が深すぎて地上の様子が………!」

その頃、ブルーウォーターの操縦席からアインは憔悴しきった表情で木々の密度が濃い〈北闇の森〉を見下ろす。

……まるで、密林だ。いくら地表を覗き見ようにも、何処も木々の枝や葉で埋め尽くされている。此れでは、日中であっても地表に日光は殆ど届かないだろう。

兎に角、低空飛行で探し続けるしかない。構わず低高度を維持したまま、アインは操縦桿を握りブルーウォーターを操る。

アイン「何処に居るんだ。シラティス。」





人食エイプ達に囲まれたシラティスとセリュウズ、セリュウズは小鬼達に向けてナイフを構えながら後ろに隠れてるシラティスに尋ねる。

セリュウズ「やむを得ないな、おい!私から動かず離れるなよ。」

シラティス「あ、ああ。」

セリュウズ「来い猿共!!北帝国に歯向かうとどうなるか思い知らせてやる!」

人食猿達は吠え始め、セリュウズの挑発に乗せられたかの様に襲い掛かる。

セリュウズ「オラァ!!」

セリュウズは真正面から来る人食猿をナイフで力一杯斬りつけ猿の首を両断する。

次にセリュウズは左から襲い来るの人食猿目掛け駆け出し左脚で人食猿の腹を強く蹴り込むと同時にナイフで人食猿の首の頸動脈けいどうみゃくを斬り裂き猿は絶命する。

瞬間、セリュウズの右側から人食猿が飛び掛かりセリュウズを押し倒す。

セリュウズ「うあっ!!糞っ!離せぇ!!」

人食猿は涎を垂らしながら両手でセリュウズの着てる上着を引き裂こうとするが突如、何かが猿の頭目掛け横から振り掛かり人食猿はふっ飛ばされる。

セリュウズ「!?お前!」

セリュウズを助けたのはシラティスだった。彼女の両手にはブルーウォーターの修理やレサムリの仕事の手伝いとかに使用する大型レンジを握りしめていた。

シラティス「大丈夫?手伝おうか?」

セリュウズ「不要だ!」

シラティス「じゃあ、アタシは勝手にやらせてもらうよ。」

そう言いながらシラティスはレンジを構えながらセリュウズの背中に付く。

セリュウズ「……好きにしろ。」

二人は武器を構えながら、互いの背中を合わせ人食猿達に対峙する。

一匹目の人食猿は鋭い爪でセリュウズに向かって飛び掛かる。

セリュウズ「二度も同じ手が食らうかぁ!!」

セリュウズは飛び掛かる人食猿の首目掛けてナイフで頸動脈を斬る。人食猿の首から血飛沫が吹き出し絶命する。

二匹目の人食猿はセリュウズ目掛け左から襲い掛かる、しかしセリュウズは気配に反応したか左回し蹴りを人食猿の右脇腹に強く打ち込む。打ち込んだ瞬時、肋骨が砕く音が響き出し、人食猿は思いっきりふっ飛ばされ木に直撃し即死する。

セリュウズの視界、左右から二匹の人食猿が同時に飛び掛かって来る。

セリュウズ「せえいっ!!」

セリュウズは右側から飛び掛かる人食猿目掛け右手に持ったナイフで投擲、ナイフは人食猿の胸を心臓部ごと突き刺し人食猿は絶命する。
しかし、左から襲い来る人食猿の方に振り向くも直ぐ様、セリュウズは人食猿の飛び付きを避けようと後退るが運悪く石に躓き背中から転んでしまう。

このままセリュウズは人食猿に飛びつき彼女の衣服を引き裂かせ裸にしたら大変な事になってしまう。

シラティス「うおおおぉぉぉっ!!」

その時、シラティスがレンジを両手で握り締めながら力一杯にセリュウズに飛び着こうとする人食猿目掛けハンマーの様に横に振り回し人食猿の頭に直撃し牙は数本砕かれて宙へと吹っ飛ぶ。

シラティス「セリュウズ!」 

セリュウズ「礼は言わんぞ!」

セリュウズは吹っ飛ばされた人食猿目掛けて右手を構え、何かを呟き始める。

セリュウズ「火の精霊よ、汝の力を我にし、目の前の敵を葬り放て!!」

するとセリュウズは紅く輝く光だし、右手に紅い光が空気と共に集まり小さな炎を生み出し、直ぐ様大きくなる。

セリュウズ「せろ!!『爆炎ブラスト・フレイム』!!」

セリュウズの右手の大きな炎は砲弾の如く人食猿目掛け放たれる、猿は全身を炎に飲まれ焼き尽くし爆発四散する。





チュドオオオオオオオオオン!!

アイン「!」

低空飛行を続けるアインは爆発音に気付き音のある方を見つめると、上へと登っていく爆風に気付く。

アイン「彼処だけ煙が立っている、其処か!」

アインは操縦桿を少し押し爆風の登った場所へと急降下する。



人食猿の群れとの戦闘を始めてから既に数十分位の時間が経過した。シラティスとセリュウズ人食猿達によって周囲を囲まれてしまうも戦い続けていた。

セリュウズ「はあっ!!」

セリュウズは右手に強く握り締め力一杯、ナイフで人食猿を首を両断する。

シラティス「でえぃ!!」

対するシラティスはレンジを両手で握り締めながら人食猿の脳天目掛け強く叩き付けさせ即死させる。同時にセリュウズは人食猿の腹をナイフで突き刺し殺す。

セリュウズ「はぁ……はぁ……。お前、劣等種のくせに中々やるな。」

シラティス「へへっ、こう見えて村の男共と喧嘩して負け無しだったんだ。そうやすやすとくたばってたまるかよ!」

セリュウズ「そうか、けど、かなり息を切らしてるぞ…。」

シラティス「そういうお前だって。」

セリュウズ「そうだな。」

次々と草むらから新たな人食猿達が現れる。

セリュウズ(それにしても何てかなり数だ。倒しても倒しても全く切りがない、このままじゃあ殺られるのは時間の問題だぞ。)

セリュウズはチラリと自分の後ろにいるシラティスを見つめ考えた。

セリュウズ(どうする?いっその事コイツを見捨てて逃げるという選択もある。まあ、コイツも劣等種でありながら良くやったと言った方がよいが所詮は魔法も使えない只の人間。どの道、猿共に犯され死ぬまで苗床にされるのはオチだ。シラティス、お前の名前だけは覚えておいてやる、人間としてではなく戦士として。)

シラティスを見捨てて逃げようと企むセリュウズ、セリュウズは人食猿に斬り掛かると見せ掛け森へ出ようとした。

オオオオオオオオオオォォォッ!!!!

その時、何処からか大きな雄叫びが響き出す、そのせいか周囲の木々から鳥達が空へと一斉に羽ばたき飛んで行く。

セリュウズ「な、何だ!?今の雄叫びは!?」

ズシン!ズシン!と、大きな足音が聴こえ雄叫びの主が森の中から姿を現す。人食猿達は主の存在に気付いたか直ぐ様、ひれ伏す。

シラティス「う、嘘でしょ!?」

セリュウズ「………何だと。」

シラティスとセリュウズは恐怖を通り越し絶望な表情で主を見る。

5メートル程の身長を持ち、剣の様に鋭く長い爪。あらゆる硬い物をも噛み砕く大きな牙。

人食猿の王エイプ・ロード

その名前の通り、人食猿の『王』。

魔獣には進化をする毎に一段と成長し名前や容姿を変えることがある。主に強いのは『上級ボア』『将軍級ジェネラル』『狂戦士級バーサーカー』そして一番頂点に立つこそが『王級ロード』と呼ぶ。

王級ロード』はただ強いだけではない、知能、防御力、そして仲間の人食猿達の統率力を持つ。

シラティス「あ、あわわ……。」

王級は二人に接近しながら唸る、シラティスの下半身は引き両足が震えだす、セリュウズは後ろにいるシラティスを護ろうと王級に立ちはだかる。

シラティス「な、何で…。王級ロードが此処に……。」

セリュウズ「くっ………。」

セリュウズ(嘘だろ、こんな事って有り得るのか!?魔獣の王が現れるなんて飛んだ予想外だ!!巫山戯るなよ…。私は北帝国の兵士だ。この場で奴に犯され死ぬよりも、今此処で死んだ方がマシだ!)

セリュウズは右手を人食猿の王に向け攻撃魔法を通常よりも速く唱え出す。

セリュウズ「爆炎ブラスト・フレイム!!」

セリュウズは再び攻撃魔法、爆炎ブラスト・フレイムを放つ、爆炎は人食猿の王の頭に直撃し少し押し出される。

シラティス「やった!」

セリュウズ「どうだ!至近距離での攻撃魔法は、魔獣風情が、貴様が近付いて来たのが悪い……!!」

爆風が消え人食猿の王の頭が姿を現れる、ダメージどころか傷一つも付いていなかった。無傷、付いてるのはホコリのみ。攻撃魔法が効いていないと知ったセリュウズは驚愕する。

セリュウズ「ば、馬鹿な…。上級の攻撃魔法だぞ!?無傷の筈が……。」

瞬間、人食猿の王はセリュウズに向かって大きな咆哮が叫び放つ。セリュウズの全身に恐怖が走り出し身体が動けなくなる。

セリュウズ(此処までか……。畜生っ!!)

人食猿の王は高く飛びセリュウズに目掛け、骨をも斬り裂く自慢の爪を生やした右手で思いっきり左から振り回し斬り掛かろうとする。

絶体絶命のその時だった。

ゴオオオオォォォォオオオォォォォォオオオオオオオオオ!!!

耳が引き裂かれるような凄まじい轟音が響き出す、人食猿の王、人食猿達は音に敏感なのか轟音が五月蝿く聴こえ直ぐ様両手で耳を塞ぐ。

瞬間、上空から物体が現れ急降下する 、鳥のような物体、シラティスはあれが何なのかは気付いた。

シラティス「アイン!!」

セリュウズ「!」

ブルーウォーター、アインが助けに来たと察したシラティスは立ち上がり急降下するブルーウォーター目掛け両手を大きく振り始める。ブルーウォーターのキャノピーが開きアインは大きな声で二人に叫んだ。

アイン「伏せろぉぉぉぉぉ!!」

シラティス「!」

シラティスはアインの声が届いたかセリュウズに飛び掛かる。

セリュウズ「何を!?」

シラティス「いいから伏せて!!」

ブルーウォーターの両翼から機銃の雨が人食猿の王の身体を貫かせ蜂の巣にする。全身に機銃の雨を食らった人食猿の王は全身の穴から血が多く流れそのまま地面へと倒れ絶命する。

予想外な事に自分達の王が目の前で蜂の巣にされ驚き戸惑う人食猿達、瞬時、森の何処からか一本の矢が放たれ一匹の人食猿の脳天に直撃し絶命。更に数十本の矢が次々と放たれ人食猿達に突き刺さる。

サムソン「シラティーーース!!」

と、シラティスを呼ぶ男の声が響き森の中から馬に乗った男達が駆け付けて来る。メア村の自警団達だ。サムソン達自警団員全員は馬に乗りながら弓を構え目の前の人食猿達に向けて次々と矢を放つ。

自分等の目の前にて王を失った人食猿達はこの場へと降りてくるブルーウォーターを見て恐怖し森の中へと一斉に逃げ去って行った。

ハンゼル「サムソン、猿達が逃げてったんだ!どうする!?」

サムソン「放っとけ!それよりもシラティスを…って。」

ブルーウォーターの操縦席のキャノピーから出て来るアインは地面へと飛び降り着地する。

伏せていた二人はゆっくりと立ち上がる。シラティスはアインに気付き直ぐ様アインの元に駆け付ける。

シラティス「アイン!」

シラティスはアインに向かって抱きつく。

アイン「うおっ!?シラティス、良かった。無事でいて。って……。」

アインはシラティスが涙を流し泣いてる事に気付く。

シラティス「怖かった。怖かったよぉ……。」

アイン「ったく。」

そう言いながらアインはシラティスの頭を軽く撫でる。

サムソン「やれやれ、とりあえず無事におやっさんに報告出来るな。さてと……。」

サムソンは怒れた表情でセリュウズに向けて話し掛ける。

サムソン「シラティスを攫った落とし前、お前も兵士なら分かってんだろうな?」

セリュウズ「………ああ、煮るなり焼くなり殺すなり好きにしろ、猿共に犯されるより捕まった方がマシだからな。」

そう言いながらセリュウズは自ら両手を上げ降伏する。

サムソン「なる程な、女にしては勿体無いが良い覚悟だ。ハンゼル、コイツを縛り担いどけ、また抵抗したら困るからな。あっ、念の為力一杯にな。」

ハンゼル「んだ。分かった。」

ハンゼルは歩き左手に持った布袋から縄を取り出しセリュウズの身体を力一杯縛る。

セリュウズ「ぐっ!!うおっ!?」

セリュウズは縛られたせいか身体に痛みが走ると同時にハンゼルはセリュウズを左腕で担ぎ持ちながら馬の所へのしのしと歩き出す。

サムソン「さて、シラティスはどうする?俺達と一緒に馬に乗って村に帰るも良し。旦那の飛行機械に乗って村に帰るも良し。どうする?」

シラティス「………。」

シラティスはアインに抱きつき泣きながら無言でブルーウォーターを右人差し指に向け指す。アインはシラティスの指差した方向、ブルーウォーターの方を振り向く。どうやらシラティスはブルーウォーターに乗って村へ帰りたいらしい。アインは小さく溜め息をしシラティスの方に向き苦笑いで言った。

アイン「仕方無いな、乗りな。」

シラティス「うんっ!」

シラティスは微笑み、アインと共にブルーウォーターに乗り込む。サムソン達自警団も拘束状態のセリュウズを連れ自分達の馬に乗り村へと駆け走って帰っていった。

セリュウズはアインとブルーウォーターを見つめる。

セリュウズ(あれが、私の機竜を落とした空飛ぶ兵器、そしてそれを操る男。………まさか。)



同時刻。

国境都市ミネルヴァ帝国軍城の執務室にて北帝国軍セドラント方面国境軍の総司令官、ニクス・ユオル・ルチアーノ千騎長は目の前にて対面する自分の部下の兵士の報告を聞きワナワナと震えながら勢いよく席を立ち上がる。

ルチアーノ「………な、何だとッ!?」

がしゃぁん!と、が勢いよく立ち上がった拍子にワイングラスが一つ落ちて割れる。

だがそれに構うことなくルチアーノは怒りに任せてテーブルに拳を打ちつけた。……ドン!という重い音と共に、皿の上の緻密な料理が揺れ崩れ、並ぶワインボトルの何本かは倒れボトルは割れる。

ルチアーノ「グ、グアノールの機竜隊が全滅しただと!?そんな馬鹿な事があるか!!」

北帝国兵士「で、ですが事実です!先程、探索から帰還した部隊から報告があり。全ての機竜は落とされ、グアノール百騎長を含めた兵士15名は既に……。」

そう言いながら兵士は拳を握りしめながら震え出す。

ルチアーノ「巫山戯るなぁ!!」

がしゃぁん!と怒れるルチアーノはテーブルの料理の皿を右腕で思いっきり料理を台無しにし皿も割る。

ルチアーノ「……報告はそれだけか?」

北帝国兵士「は、はぁ。」

ルチアーノ「ならさっさと失せろ!!」

北帝国兵士「ひぃ!?し、失礼しました!!」

兵士は慌てて戸を開け執務室から出て行く。怒れるルチアーノは再びテーブルに拳を打ちつける、今度は強く。

ルチアーノ「我々は無敗の北帝国だぞ!?皇帝陛下が北帝国建国から80年、一度も戦で負けた事が無い我々が負けるなど、そんな事が……。」

すると執務室の戸が開き一人の金髪の男が執務室に入室し男は執務室の部屋内の状況を見て驚く。

???「ルチアーノ殿。こんなに部屋を散らかして、何をそんなに怒鳴り散らしてるんですか?」

ルチアーノ「………セルゲイか。」

突如、執務室に入室して来た男の名はセルゲイ・ゲルセナス。ルチアーノと同じく千旗長伯爵にして北帝国軍セドラント駐留軍総司令官で軽巡魔導艇バイエルン級第121番艦の艦長指揮権を持つ。

彼は帝国に呼び出しが有り先程自分の部下達と共に魔導艇で駐在基地に帰還したばかりだった。

ルチアーノ「何時から本国から此方に戻って来た?」

セルゲイ「先程だ。それにしてもどうした?ルチアーノ、この部屋の有様は?」

セルゲイは割れたワインボトルを広い名柄を見ながら答える。

セルゲイ「おいおい、この酒かなりの年代品だぞ、勿体無いことして。」

ルチアーノ「葡萄酒など何時でも手に入れる!!何なんだ?私を笑いに来たのか!?」

セルゲイ「違うな、お前に一応報告したい事があってな。」

ルチアーノ「報告だと?」

セルゲイ「お前の部下のグアノールの機竜隊が全滅したのは『青い鳥』という物らしい。」

ルチアーノ「『青い鳥』だと?」

セルゲイ「最近ミズカ地方の何処からか現れた。鳥を模した飛行機械だ。詳しい事は不明だが。私の直感によればあれはセドラントの新型の兵器の可能性が高い。」

ルチアーノ「なる程、だが一つだけ気になる事がある。それは何故貴様がその事を知っているからだ!?……まさか貴様!?」

セルゲイ「ふん、悪いが高みの見物をさせてもらったよ。我が艦内せんないの窓から眺めてな。良い酒の摘みにはなったよ。」

ルチアーノ「相も変わらず趣味が悪い事をして、まあいい。セルゲイ、貴様の艦はまだ動かせるか?」

ルチアーノは怒れる眼差しでセルゲイに言う。

セルゲイ「動力源の魔光石まこうせきが完全に回復すれば何時でも出撃は可能だが、最悪三日は掛かる。」

ルチアーノ「駄目だ。明日までに完全にさせろ。」

セルゲイ「正気か?」

ルチアーノ「黙れっ!!はぁ……はぁ……。貴様だって存じてるだろう、敵軍との戦に負けた者の末路を。私は一度負けている、だがもし、二度も同じ敵に負ければ私は本国に戻され、最悪『処刑』されるのは確定!!最早再びあの『鳥』と戦い勝利するしか私が生きる道は無い!!」

セルゲイ「………ルチアーノ、貴様の『鳥』への執念と覚悟。同じ千騎長として認めてやる。良いだろう。」

そう言うとセルゲイは執務室の戸を開け大きな声で兵士を呼び出した。

セルゲイ「衛兵!衛兵!誰でもいい、誰か居らんのか!!」

呼び声が聞こえたか数人の兵士が駆け付ける。

北帝国兵士「お、お呼びでしょうかセルゲイ千騎長殿。」

セルゲイ「全兵を集束せよ、我が艦の魔光石の回復と弾薬の補充そしてこの駐在基地全ての機竜の整備を開始しろ。これより明日の出撃準備に入る。これよりミズカ地方を焼き払う!!」

北帝国兵士「はっ!!」

兵士はセルゲイに敬礼すると直ぐ様廊下を駆け出して行った。セルゲイはルチアーノの方を振り向いて言った。

セルゲイ「……これで宜しいか?ルチアーノ殿。」

ルチアーノ「ああ、結構だ。ククク、『鳥』よ。我々北帝国に歯向かうとどうなるか思い知らせてくれる!………これより明日『鳥狩り』を決行する。」

不気味な笑みを浮かべさせるルチアーノ、新たな戦いの幕がまた上がりだす。
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