お前はオレの好みじゃない!

河合青

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【1】

8.もしかしたらと期待をしていた

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 冷静になってみたら、まだ年下の学生相手に何やってんだって話だよな。高瀬にはもっと似合う女の子がいるはずで、いくら気まぐれだとしてもオレなんか相手してるなんて時間の無駄でしかないだろ。
「……あ、マグカップ」
 手提げ袋の中に入ったセットのマグカップ。持ったまま、別れてしまった。
 今度会ったとき、高瀬が欲しいって言うなら渡せばいいか。どうせ、定食屋に行けば会えるんだし。
 進む足が、重い。
 自然とこぼれる溜め息を無視することは難しかった。
 高瀬に対して、恋愛感情を抱いていたわけではなかった。
 初めて陸人さんの定食屋で高瀬を見たときも、優等生顔なのに耳に空いたピアスの穴の数にぎょっとしたことを覚えている。オレとは正反対のタイプだろうなと、ぼんやり思った。
『あ、そのステッカー知ってる! 俺の地元のゆるキャラなんですよね!』
 だけど唐揚げ定食を運んできた高瀬は、オレのスマホケースに貼ってあった地元のゆるキャラのステッカーを指差して嬉しそうに笑っていた。
 その日は客も多くてそれだけだったけど、次に店に行った時に高瀬は待ち構えていたかのようにオレの元へとやって来て出身がどこなのかを聞いてきた。
 地元が同じで、しかも通っていた小学校も同じだったことも判明し、高瀬が『それなら俺の先輩ですね!』と言い出したことから奇妙な関係は続いている。
 高瀬のことを、そういう目で見たことは今までもない。だけど、人間として好きなヤツだったことは確かだった。
 だから、一緒に出掛けることを楽しみに思うオレがいたんだ。
「バカだな、オレ」
 そんな好きが一緒にいるうちに恋愛感情に変わっていけばいいのにと期待していたオレがいたことに、今ようやく気が付いてしまった。
 あの時、オレがゲイだってことがバレずに済んでいたら、こんな風に近付くこともなかったんだろう。
 今まで通りの距離感で、高瀬が大学を卒業してバイトを辞めるまで、可愛がってる同郷のヤツとして仲良くやっていられたんだろうか。
 沈んでいく気持ちと一緒に、重たくなっていく足。賑やかな商業施設の中、オレはどこまでも独りだった。
「恭ちゃん!」
 バタバタと足音が近付いてきたと思ったら、手提げを持っていなかった方の腕を強い力で引っ張られた。
 オレのことをそんな風に呼ぶヤツなんて一人しかいない。
 振り返れば、今にも泣き出しそうな顔をした高瀬が息を切らしてそこに立っていた。
「良かった……!」
「高瀬? なんで……」
「そっちこそなんで俺のこと置いてこうとするんですか!」
 思いの外大きな声が出てしまい、高瀬は慌てて片手で自分の口元を隠す。
 周りを歩いていた人たちの視線も集中したけど、それも一瞬のことで、すぐに人の波はオレたちから興味を失い流れていった。
「……ちょっと、こっち来い」
 人混みを抜けて、階段の方へと移動する。みんなエレベーターを使うからか、階段付近は休日なのが嘘のようにしんと静まり返っていた。
 見慣れた笑顔を引っ込めて、捨てられた子犬のように肩を落としている高瀬。なんて声を掛けて良いかわからず、オレは高瀬の肩をそっと叩いた。
「そんなにオレに気遣わなくていいんだからな」
 高瀬は大きく首を横に振った。
 そんな頼りない姿を目にするのは初めてで、オレは少し迷ってから、高瀬の肩をゆっくりと撫でる。
「……ホテル、行きましょう」
「はぁ?」
「だって、そしたらヤれるでしょう?」
 いきなりなんなんだ。困惑の声を上げたオレに対して、高瀬は思いの外真剣な眼差しをオレへと向けていた。
 どうしていいか、わからない。高瀬の顔にはそう書いててある。
 戸惑っているのは、お互い様だった。
「あのさ、高瀬。お前、オレとセックスがしたいの? それとも、他になんかオレに構う理由がある?」
「それは……」
「オレさ、お前のこと遊び人だとは思ってるけど、自分からガツガツ行くタイプじゃないとも思ってるよ。今のお前、ちょっとおかしいだろ?」
 オレの言葉には答えず、高瀬は控えめな手つきでオレの上着の裾を掴んだ。
 何を考えているかはわからないけど、それが離れたくないという意思表示なのは確かだったから、オレは小さく溜め息を零すと高瀬の手首を掴んだ。
「こんなとこで話すことじゃないな。……一旦、うち来い」
「え?」
「言っとくけど、何にもしないからな! 話するだけ!」
 この誘いに、下心なんてものは一ミリもない。
 途方に暮れた顔をした高瀬のことを、放り出すなんて出来るわけがなかったんだ。
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