8 / 60
【1】
8.もしかしたらと期待をしていた
しおりを挟む冷静になってみたら、まだ年下の学生相手に何やってんだって話だよな。高瀬にはもっと似合う女の子がいるはずで、いくら気まぐれだとしてもオレなんか相手してるなんて時間の無駄でしかないだろ。
「……あ、マグカップ」
手提げ袋の中に入ったセットのマグカップ。持ったまま、別れてしまった。
今度会ったとき、高瀬が欲しいって言うなら渡せばいいか。どうせ、定食屋に行けば会えるんだし。
進む足が、重い。
自然とこぼれる溜め息を無視することは難しかった。
高瀬に対して、恋愛感情を抱いていたわけではなかった。
初めて陸人さんの定食屋で高瀬を見たときも、優等生顔なのに耳に空いたピアスの穴の数にぎょっとしたことを覚えている。オレとは正反対のタイプだろうなと、ぼんやり思った。
『あ、そのステッカー知ってる! 俺の地元のゆるキャラなんですよね!』
だけど唐揚げ定食を運んできた高瀬は、オレのスマホケースに貼ってあった地元のゆるキャラのステッカーを指差して嬉しそうに笑っていた。
その日は客も多くてそれだけだったけど、次に店に行った時に高瀬は待ち構えていたかのようにオレの元へとやって来て出身がどこなのかを聞いてきた。
地元が同じで、しかも通っていた小学校も同じだったことも判明し、高瀬が『それなら俺の先輩ですね!』と言い出したことから奇妙な関係は続いている。
高瀬のことを、そういう目で見たことは今までもない。だけど、人間として好きなヤツだったことは確かだった。
だから、一緒に出掛けることを楽しみに思うオレがいたんだ。
「バカだな、オレ」
そんな好きが一緒にいるうちに恋愛感情に変わっていけばいいのにと期待していたオレがいたことに、今ようやく気が付いてしまった。
あの時、オレがゲイだってことがバレずに済んでいたら、こんな風に近付くこともなかったんだろう。
今まで通りの距離感で、高瀬が大学を卒業してバイトを辞めるまで、可愛がってる同郷のヤツとして仲良くやっていられたんだろうか。
沈んでいく気持ちと一緒に、重たくなっていく足。賑やかな商業施設の中、オレはどこまでも独りだった。
「恭ちゃん!」
バタバタと足音が近付いてきたと思ったら、手提げを持っていなかった方の腕を強い力で引っ張られた。
オレのことをそんな風に呼ぶヤツなんて一人しかいない。
振り返れば、今にも泣き出しそうな顔をした高瀬が息を切らしてそこに立っていた。
「良かった……!」
「高瀬? なんで……」
「そっちこそなんで俺のこと置いてこうとするんですか!」
思いの外大きな声が出てしまい、高瀬は慌てて片手で自分の口元を隠す。
周りを歩いていた人たちの視線も集中したけど、それも一瞬のことで、すぐに人の波はオレたちから興味を失い流れていった。
「……ちょっと、こっち来い」
人混みを抜けて、階段の方へと移動する。みんなエレベーターを使うからか、階段付近は休日なのが嘘のようにしんと静まり返っていた。
見慣れた笑顔を引っ込めて、捨てられた子犬のように肩を落としている高瀬。なんて声を掛けて良いかわからず、オレは高瀬の肩をそっと叩いた。
「そんなにオレに気遣わなくていいんだからな」
高瀬は大きく首を横に振った。
そんな頼りない姿を目にするのは初めてで、オレは少し迷ってから、高瀬の肩をゆっくりと撫でる。
「……ホテル、行きましょう」
「はぁ?」
「だって、そしたらヤれるでしょう?」
いきなりなんなんだ。困惑の声を上げたオレに対して、高瀬は思いの外真剣な眼差しをオレへと向けていた。
どうしていいか、わからない。高瀬の顔にはそう書いててある。
戸惑っているのは、お互い様だった。
「あのさ、高瀬。お前、オレとセックスがしたいの? それとも、他になんかオレに構う理由がある?」
「それは……」
「オレさ、お前のこと遊び人だとは思ってるけど、自分からガツガツ行くタイプじゃないとも思ってるよ。今のお前、ちょっとおかしいだろ?」
オレの言葉には答えず、高瀬は控えめな手つきでオレの上着の裾を掴んだ。
何を考えているかはわからないけど、それが離れたくないという意思表示なのは確かだったから、オレは小さく溜め息を零すと高瀬の手首を掴んだ。
「こんなとこで話すことじゃないな。……一旦、うち来い」
「え?」
「言っとくけど、何にもしないからな! 話するだけ!」
この誘いに、下心なんてものは一ミリもない。
途方に暮れた顔をした高瀬のことを、放り出すなんて出来るわけがなかったんだ。
42
あなたにおすすめの小説
透けるほどうすい/溶けるほどあつい
鴻上縞
BL
日々何をするでもなく適当に生きていた真柴久志が知人の紹介で入った会社で真柴の教育係になった堂前哲は、仕事は出来るが口調は荒く乱暴で無愛想な取っ付きづらい男だった。しかし歓迎会の席で明かされた哲の驚くべき過去は、真柴の若い好奇心を掻き立てた。
歓迎会の後、真柴は好奇心を抑えきれず、酔に任せて哲に手を出してしまう。
一夜明けて酔いが覚め、気まずさを抱え一応謝罪をしたものの、哲の態度が負けず嫌いな真柴に火を付けて────。
足場鳶職人達の、身体から始まる軽薄で微かに純情な恋物語。
おすすめのマッサージ屋を紹介したら後輩の様子がおかしい件
ひきこ
BL
名ばかり管理職で疲労困憊の山口は、偶然見つけたマッサージ店で、長年諦めていたどうやっても改善しない体調不良が改善した。
せっかくなので後輩を連れて行ったらどうやら様子がおかしくて、もう行くなって言ってくる。
クールだったはずがいつのまにか世話焼いてしまう年下敬語後輩Dom ×
(自分が世話を焼いてるつもりの)脳筋系天然先輩Sub がわちゃわちゃする話。
『加減を知らない初心者Domがグイグイ懐いてくる』と同じ世界で地続きのお話です。
(全く別の話なのでどちらも単体で読んでいただけます)
https://www.alphapolis.co.jp/novel/21582922/922916390
サブタイトルに◆がついているものは後輩視点です。
同人誌版と同じ表紙に差し替えました。
表紙イラスト:浴槽つぼカルビ様(X@shabuuma11 )ありがとうございます!
イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした
天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです!
元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。
持ち主は、顔面国宝の一年生。
なんで俺の写真? なんでロック画?
問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。
頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ!
☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。
【完結】取り柄は顔が良い事だけです
pino
BL
昔から顔だけは良い夏川伊吹は、高級デートクラブでバイトをするフリーター。25歳で美しい顔だけを頼りに様々な女性と仕事でデートを繰り返して何とか生計を立てている伊吹はたまに同性からもデートを申し込まれていた。お小遣い欲しさにいつも年上だけを相手にしていたけど、たまには若い子と触れ合って、ターゲット層を広げようと20歳の大学生とデートをする事に。
そこで出会った男に気に入られ、高額なプレゼントをされていい気になる伊吹だったが、相手は年下だしまだ学生だしと罪悪感を抱く。
そんな中もう一人の20歳の大学生の男からもデートを申し込まれ、更に同業でただの同僚だと思っていた23歳の男からも言い寄られて?
ノンケの伊吹と伊吹を落とそうと奮闘する三人の若者が巻き起こすラブコメディ!
BLです。
性的表現有り。
伊吹視点のお話になります。
題名に※が付いてるお話は他の登場人物の視点になります。
表紙は伊吹です。
またのご利用をお待ちしています。
あらき奏多
BL
職場の同僚にすすめられた、とあるマッサージ店。
緊張しつつもゴッドハンドで全身とろとろに癒され、初めての感覚に下半身が誤作動してしまい……?!
・マッサージ師×客
・年下敬語攻め
・男前土木作業員受け
・ノリ軽め
※年齢順イメージ
九重≒達也>坂田(店長)≫四ノ宮
【登場人物】
▼坂田 祐介(さかた ゆうすけ) 攻
・マッサージ店の店長
・爽やかイケメン
・優しくて低めのセクシーボイス
・良識はある人
▼杉村 達也(すぎむら たつや) 受
・土木作業員
・敏感体質
・快楽に流されやすい。すぐ喘ぐ
・性格も見た目も男前
【登場人物(第二弾の人たち)】
▼四ノ宮 葵(しのみや あおい) 攻
・マッサージ店の施術者のひとり。
・店では年齢は下から二番目。経歴は店長の次に長い。敏腕。
・顔と名前だけ中性的。愛想は人並み。
・自覚済隠れS。仕事とプライベートは区別してる。はずだった。
▼九重 柚葉(ここのえ ゆずは) 受
・愛称『ココ』『ココさん』『ココちゃん』
・名前だけ可愛い。性格は可愛くない。見た目も別に可愛くない。
・理性が強め。隠れコミュ障。
・無自覚ドM。乱れるときは乱れる
作品はすべて個人サイト(http://lyze.jp/nyanko03/)からの転載です。
徐々に移動していきたいと思いますが、作品数は個人サイトが一番多いです。
よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる