43 / 60
【2】
17.俺の恋人はあの人だけ
しおりを挟む
キスをされる。
そう思って透の肩を押し返したが上手く力が込められず、酒に濡れた唇は透のもので塞がれた。
当たり前だけど、透も男だ。力比べをすれば互角だし、酒が回っている分こちらが押されてしまう。
たどたどしく触れた唇は、触れて離れてを繰り返す。そして、俺の唇を濡らす雫を味わうように舌を這わせて、離れていった。
「陽……イヤだった? 気持ち悪いと思う?」
「気持ち悪いとは、思わないけど」
嫌だとか気持ち悪いだとか、友達相手に思いはしない。
ただ、違うと思ってしまうだけだ。
唇が、皮膚が、鼻先が、耳たぶが。体中の全てがそこに恭ちゃんを探していて、俺に触れる相手がその人でないことに酷く落胆しているのが自分でわかってしまった。
「……でも、恭ちゃんとのキスとは全然違うよ」
「じゃあ、他も試してみよう」
透は俺の首に両腕を回すと、ぎゅっと強く抱きついてきた。恭ちゃんより、火照った身体から移る熱が落ち着かない。
引き剥がそうと透の肩を掴むが、透はますます俺にしがみつくと、抱き着いたまま俺の首筋へと吸い付いてきた。
「何してっ……透、離れろって……!」
違和感が体中を駆け巡る。
誰かに対して、こんな風に思うなんて初めてのことだった。
「今までだって、陽、付き合ってる人いたのに寝たことあったじゃん!」
「それは、そうだけど」
「なら、いいでしょ? 彼氏だって、陽がそういう人ってわかってて付き合ってるんでしょ?」
透の言葉に間違いはなく、俺は反論の言葉を持っていない。
慣れない体温が、首筋に触れる。知らない重さが、体にのしかかる。
恋人がいようがいまいが、俺のスタンスは変わらない。誘われても、付き合ってる人がいるからは断る理由になりはしない。
ずっと、俺はそうだった。悠一や透は、そんな俺の側にいて、いろんな相手と広く浅く付き合っていく様子を目にしていた。
今更、本命だけを大事にしたいと言葉にしたところで、簡単には信じられないよな。
「……透」
首筋に唇を寄せた透の肩を、そっと叩く。
「それで透が満足出来るなら、セックスしよう」
顔を上げた透は、眉間に皺を寄せ、険しい眼差しで俺を見下ろしていた。
喜びよりも困惑の強い眼差しに、俺は苦笑を浮かべて透の胸を押し返した。
「でも、俺が好きな人は恭ちゃんだし、きっとここで透とヤったら俺は恭ちゃんへの罪悪感で、透と今までみたいに友達としても付き合えなくなると思う」
「陽……」
「今まで、そんな風に思うことなかったんだけどさ。……自分でも酷い奴だと思うよ」
そういう俺でもいいからと言われたから、変わらない俺のまま付き合っていた。
だけどきっと、俺と付き合ってた子は変わってくれることを本当は心のどこかで期待していたんだろう。
そうして、期待して疲れて、離れていった。俺はそれを、止めることすらしてこなかった。
「俺は透とはこれからも友達でいたい。だから、セックスはしたくない……でもそれは、俺の我儘だから。透がそれでも俺としたいって思ってるなら、応えるよ」
きっと、恭ちゃんは悲しそうな顔をする。だけど、俺を責めたりはしないだろう。
お前が決めたことなら、と微笑むんだろう。あの人は、そういう人だから。
「そんなの、ずるいよ……」
俺に触れていた透の手が、力無く落ちていく。
顔を隠すように俯いてしまった透は、ゆっくりと首を横に振る。
「これからも、一緒にいられる方がいいに決まってる」
鼻をすする音がして、透は手の甲で目元を拭った。
「もしもの話なんて、意味ないってわかってるんだよ。でも……もしおれが先にゲイだってカミングアウトしてたらって、思っちゃうんだよ」
「……恭ちゃんが俺にとって特別なのは、同性だからでもゲイだからでもないよ」
俯く透の肩に触れることは出来なかった。
「恭ちゃんが女でも、俺は同じようにしてる。あの人だから好きなんだ」
透は顔を上げることはしなかった。しばらく俯く透の前に座っていたけれど、今日はもうこれ以上一緒にいないほうがいいだろうと俺は立ち上がる。
「……帰るね」
透の頭が小さく揺れる。反応があったことに安心をして、俺は玄関へと足を向かわせた。
扉を開けて外に出れば、顔を真っ赤にした悠一が扉の横に膝を抱えて座っていた。
驚く俺を見上げ、悠一は唇を尖らせると駄々をこねる子どものようにそっぽを向いてしまった。
「もしかして、二人でグルだった?」
「陽なら、誘われればヤると思ってたのに」
「……透が俺のこと好きなの、知ってたんだ」
当たり前だろ、と頭を掻いて悠一は立ち上がる。
「……ごめん。オレも透も悪ふざけなんかじゃなかったけど、陽に嫌な思いさせたよな」
頭を下げられてしまい、俺は返事に困って視線を彷徨わせる。俺は別に気にしていないけど、透には申し訳ない気持ちもある。
「二人とはこれからも友達でいられれば、俺はそれで満足だよ」
「……ありがとな。あ、透に相談されてたから陽が今男と付き合ってることも聞いちゃったんだ。しつこく聞いたのはオレだからさ。あいつのこと、責めないでやってほしい」
「責めたりしないって」
良かったと微笑む悠一に、俺もほっと胸を撫で下ろす。
「今回透に好意を向けられて、俺が周りからどう思われてたかよくわかったっていうか……そりゃあ相手を不安にさせるばっかだよなぁって思い知ったからさ。色々行動を改めないとだよなぁって思ったよ」
いい勉強になった、と肩を落とせば悠一は苦笑を浮かべていた。
「ここでオレらに怒んないで、そういうこと言うからお前は周りに好かれるんだよ」
「そうかな?」
「そうだよ。今までの振る舞いで恨み買わないのもそういうとこだと思うぜ」
悠一の言うことは俺にはピンとは来なかったけど、友達がそう言うならそうなんだろう。
冷たい空気が頬に触れ、頬が凍りつく前に頬を緩めた。悠一も、不格好な笑顔を浮かべると体を震わせながら透の部屋へと入っていった。
そう思って透の肩を押し返したが上手く力が込められず、酒に濡れた唇は透のもので塞がれた。
当たり前だけど、透も男だ。力比べをすれば互角だし、酒が回っている分こちらが押されてしまう。
たどたどしく触れた唇は、触れて離れてを繰り返す。そして、俺の唇を濡らす雫を味わうように舌を這わせて、離れていった。
「陽……イヤだった? 気持ち悪いと思う?」
「気持ち悪いとは、思わないけど」
嫌だとか気持ち悪いだとか、友達相手に思いはしない。
ただ、違うと思ってしまうだけだ。
唇が、皮膚が、鼻先が、耳たぶが。体中の全てがそこに恭ちゃんを探していて、俺に触れる相手がその人でないことに酷く落胆しているのが自分でわかってしまった。
「……でも、恭ちゃんとのキスとは全然違うよ」
「じゃあ、他も試してみよう」
透は俺の首に両腕を回すと、ぎゅっと強く抱きついてきた。恭ちゃんより、火照った身体から移る熱が落ち着かない。
引き剥がそうと透の肩を掴むが、透はますます俺にしがみつくと、抱き着いたまま俺の首筋へと吸い付いてきた。
「何してっ……透、離れろって……!」
違和感が体中を駆け巡る。
誰かに対して、こんな風に思うなんて初めてのことだった。
「今までだって、陽、付き合ってる人いたのに寝たことあったじゃん!」
「それは、そうだけど」
「なら、いいでしょ? 彼氏だって、陽がそういう人ってわかってて付き合ってるんでしょ?」
透の言葉に間違いはなく、俺は反論の言葉を持っていない。
慣れない体温が、首筋に触れる。知らない重さが、体にのしかかる。
恋人がいようがいまいが、俺のスタンスは変わらない。誘われても、付き合ってる人がいるからは断る理由になりはしない。
ずっと、俺はそうだった。悠一や透は、そんな俺の側にいて、いろんな相手と広く浅く付き合っていく様子を目にしていた。
今更、本命だけを大事にしたいと言葉にしたところで、簡単には信じられないよな。
「……透」
首筋に唇を寄せた透の肩を、そっと叩く。
「それで透が満足出来るなら、セックスしよう」
顔を上げた透は、眉間に皺を寄せ、険しい眼差しで俺を見下ろしていた。
喜びよりも困惑の強い眼差しに、俺は苦笑を浮かべて透の胸を押し返した。
「でも、俺が好きな人は恭ちゃんだし、きっとここで透とヤったら俺は恭ちゃんへの罪悪感で、透と今までみたいに友達としても付き合えなくなると思う」
「陽……」
「今まで、そんな風に思うことなかったんだけどさ。……自分でも酷い奴だと思うよ」
そういう俺でもいいからと言われたから、変わらない俺のまま付き合っていた。
だけどきっと、俺と付き合ってた子は変わってくれることを本当は心のどこかで期待していたんだろう。
そうして、期待して疲れて、離れていった。俺はそれを、止めることすらしてこなかった。
「俺は透とはこれからも友達でいたい。だから、セックスはしたくない……でもそれは、俺の我儘だから。透がそれでも俺としたいって思ってるなら、応えるよ」
きっと、恭ちゃんは悲しそうな顔をする。だけど、俺を責めたりはしないだろう。
お前が決めたことなら、と微笑むんだろう。あの人は、そういう人だから。
「そんなの、ずるいよ……」
俺に触れていた透の手が、力無く落ちていく。
顔を隠すように俯いてしまった透は、ゆっくりと首を横に振る。
「これからも、一緒にいられる方がいいに決まってる」
鼻をすする音がして、透は手の甲で目元を拭った。
「もしもの話なんて、意味ないってわかってるんだよ。でも……もしおれが先にゲイだってカミングアウトしてたらって、思っちゃうんだよ」
「……恭ちゃんが俺にとって特別なのは、同性だからでもゲイだからでもないよ」
俯く透の肩に触れることは出来なかった。
「恭ちゃんが女でも、俺は同じようにしてる。あの人だから好きなんだ」
透は顔を上げることはしなかった。しばらく俯く透の前に座っていたけれど、今日はもうこれ以上一緒にいないほうがいいだろうと俺は立ち上がる。
「……帰るね」
透の頭が小さく揺れる。反応があったことに安心をして、俺は玄関へと足を向かわせた。
扉を開けて外に出れば、顔を真っ赤にした悠一が扉の横に膝を抱えて座っていた。
驚く俺を見上げ、悠一は唇を尖らせると駄々をこねる子どものようにそっぽを向いてしまった。
「もしかして、二人でグルだった?」
「陽なら、誘われればヤると思ってたのに」
「……透が俺のこと好きなの、知ってたんだ」
当たり前だろ、と頭を掻いて悠一は立ち上がる。
「……ごめん。オレも透も悪ふざけなんかじゃなかったけど、陽に嫌な思いさせたよな」
頭を下げられてしまい、俺は返事に困って視線を彷徨わせる。俺は別に気にしていないけど、透には申し訳ない気持ちもある。
「二人とはこれからも友達でいられれば、俺はそれで満足だよ」
「……ありがとな。あ、透に相談されてたから陽が今男と付き合ってることも聞いちゃったんだ。しつこく聞いたのはオレだからさ。あいつのこと、責めないでやってほしい」
「責めたりしないって」
良かったと微笑む悠一に、俺もほっと胸を撫で下ろす。
「今回透に好意を向けられて、俺が周りからどう思われてたかよくわかったっていうか……そりゃあ相手を不安にさせるばっかだよなぁって思い知ったからさ。色々行動を改めないとだよなぁって思ったよ」
いい勉強になった、と肩を落とせば悠一は苦笑を浮かべていた。
「ここでオレらに怒んないで、そういうこと言うからお前は周りに好かれるんだよ」
「そうかな?」
「そうだよ。今までの振る舞いで恨み買わないのもそういうとこだと思うぜ」
悠一の言うことは俺にはピンとは来なかったけど、友達がそう言うならそうなんだろう。
冷たい空気が頬に触れ、頬が凍りつく前に頬を緩めた。悠一も、不格好な笑顔を浮かべると体を震わせながら透の部屋へと入っていった。
44
あなたにおすすめの小説
透けるほどうすい/溶けるほどあつい
鴻上縞
BL
日々何をするでもなく適当に生きていた真柴久志が知人の紹介で入った会社で真柴の教育係になった堂前哲は、仕事は出来るが口調は荒く乱暴で無愛想な取っ付きづらい男だった。しかし歓迎会の席で明かされた哲の驚くべき過去は、真柴の若い好奇心を掻き立てた。
歓迎会の後、真柴は好奇心を抑えきれず、酔に任せて哲に手を出してしまう。
一夜明けて酔いが覚め、気まずさを抱え一応謝罪をしたものの、哲の態度が負けず嫌いな真柴に火を付けて────。
足場鳶職人達の、身体から始まる軽薄で微かに純情な恋物語。
おすすめのマッサージ屋を紹介したら後輩の様子がおかしい件
ひきこ
BL
名ばかり管理職で疲労困憊の山口は、偶然見つけたマッサージ店で、長年諦めていたどうやっても改善しない体調不良が改善した。
せっかくなので後輩を連れて行ったらどうやら様子がおかしくて、もう行くなって言ってくる。
クールだったはずがいつのまにか世話焼いてしまう年下敬語後輩Dom ×
(自分が世話を焼いてるつもりの)脳筋系天然先輩Sub がわちゃわちゃする話。
『加減を知らない初心者Domがグイグイ懐いてくる』と同じ世界で地続きのお話です。
(全く別の話なのでどちらも単体で読んでいただけます)
https://www.alphapolis.co.jp/novel/21582922/922916390
サブタイトルに◆がついているものは後輩視点です。
同人誌版と同じ表紙に差し替えました。
表紙イラスト:浴槽つぼカルビ様(X@shabuuma11 )ありがとうございます!
【完結】取り柄は顔が良い事だけです
pino
BL
昔から顔だけは良い夏川伊吹は、高級デートクラブでバイトをするフリーター。25歳で美しい顔だけを頼りに様々な女性と仕事でデートを繰り返して何とか生計を立てている伊吹はたまに同性からもデートを申し込まれていた。お小遣い欲しさにいつも年上だけを相手にしていたけど、たまには若い子と触れ合って、ターゲット層を広げようと20歳の大学生とデートをする事に。
そこで出会った男に気に入られ、高額なプレゼントをされていい気になる伊吹だったが、相手は年下だしまだ学生だしと罪悪感を抱く。
そんな中もう一人の20歳の大学生の男からもデートを申し込まれ、更に同業でただの同僚だと思っていた23歳の男からも言い寄られて?
ノンケの伊吹と伊吹を落とそうと奮闘する三人の若者が巻き起こすラブコメディ!
BLです。
性的表現有り。
伊吹視点のお話になります。
題名に※が付いてるお話は他の登場人物の視点になります。
表紙は伊吹です。
イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした
天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです!
元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。
持ち主は、顔面国宝の一年生。
なんで俺の写真? なんでロック画?
問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。
頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ!
☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。
【完結】君を上手に振る方法
社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」
「………はいっ?」
ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。
スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。
お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが――
「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」
偽物の恋人から始まった不思議な関係。
デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。
この関係って、一体なに?
「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」
年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。
✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧
✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる