お前はオレの好みじゃない!

河合青

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【2】

16.チャンスをちょうだい

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「彼女の許可降りて良かったなー!」
 スキー旅行に参加できることを伝えたら悠一が大喜びし、何故かそこから祝勝会だとわけのわからない理由で飲みに誘われた。
 乾杯、と缶ビール片手に盛り上がる悠一を、俺と透は苦笑混じりに見つめていた。
「飲み会したいなら自分の部屋使いなよ……」
「だってオレより透の部屋の方が綺麗じゃん」
 階は違うけど同じアパートに住んでいるから、悠一に誘われて透の部屋で飲むのは珍しい話でもなかった。
 そのほとんどは許可なく突撃することが多かったから、透も可哀想だなと同情してしまう。
 昨日のこともあって透が気まずそうな顔をしていたから、今回は同情よりも申し訳無さが勝ってしまう。
 だけど、ずっとこのまま気まずいのも嫌だったから、今回は悠一の強引さに少し救われた。
 俺達が部屋を訪れた時にはぎこちない様子を見せていた透だったけど、飲み始めたらだんだんといつもの笑顔を見せてくれるようになっていった。
 もしかしたら、悠一はそれも計算済みだったのかもしれない。
 暫くの間はスキー旅行の計画を語っていた悠一だったが、酔いが回るにつれて話題はどんどん関係ない方向へと向かっていく。
「結局さ、陽の彼女ってどんな子なんだよ~。全然教えてくれないじゃん」
 缶ビールの空き缶が二つ、三つと積み上がった頃、頬を赤くした悠一が俺の肩に腕を回して体重を掛け始めた。
「酔うの早いなぁ」
「ユウはペースも早いしね」
 俺たちが二本目を開けた頃に、悠一は四本目を半分ほど飲み干していた。そんなことないと首を降る悠一だったけど、どんどん俺にもたれ掛かってくるから酔いが回ってるのは間違いない。
「オレはいいの! 今は陽の話だよ!」
「……俺の恋人は、初めて好きだって思えた人だよ」
 悠一は俺の返事に目を丸くして、じわじわと眉間のシワを深めると俺の腕を容赦なく叩いた。
「だから~! それが、どんな人って聞いてんの! 陽が惚れるってどういうの!」
「俺のことなんだと思ってんの……」
「だって気になるじゃん! なぁ!」
 悠一に話を振られた透は、一瞬目を丸くしたがすぐに俺と目を合わせて苦笑を浮かべる。
「確かに気になるかも。陽の好みのタイプって聞いたことなかったから」
 好みのタイプかぁ。透の言葉を反芻してみる。
 果たして、恭ちゃんは俺の好みのタイプなのだろうか。好みだったから、こんなにも惹かれてしまうんだろうか。
「陽ももっと飲め! そしたら酔って吐くかもだろ~!」
「吐くってどっちの意味だよ」
 恋人について吐くってことだとは思うけれど。仕方がないので、悠一の煽りに乗って半分ほど残っていた缶ビールを一気に飲み干した。
 恭ちゃんと飲む時は甘めのカクテルが多いけど、ビールの苦みも好きだし、日本酒の辛さも好きだったりする。
 最近は恭ちゃんと飲むことが多くてあまり飲めていなかったなと思い、買ってきた日本酒を開ければ悠一が「オレも!」と空いたグラスを差し出してきた。
「二人ともすごいよね。おれは日本酒は苦手だなぁ」
「透はお子様だしな~!」
「興味あるならスパークリングのもあるし、そっちから試してみたら? 今度買ってこようか」
「うん、楽しみ」
 そんな会話をしているうちに恭ちゃんの話題は流れていき、これからの就活の話や卒論の話などをしていたら、少しずつ悠一の瞼が重くなっていった。
「ユウ、眠いならもうお開きにする?」
「しない~」
「しないんだ」
 既にごろんと横になりながら、悠一は怪しい呂律で片手を振った。
 俺と透は顔を見合わせ苦笑を浮かべる。悠一がこうなるのはいつものことだった。
「と~る、オレ泊まってっていい?」
「え? いいけど……」
「やったー、着替えてくる~」
 そこで起き上がるのは予想外で、俺達が驚いている間に悠一は立ち上がると、見た目よりはしっかりした足取りで玄関の方へ向かっていった。
「近くに住んでるとこうやってすぐ帰れるのはいいよね」
「そうだね」
 短い返事と共に訪れた沈黙。そこに混じる気まずさに気付かないふりは難しくて、俺はその場しのぎ会話をいくつか投げた。
 話の内容は悠一がいたときとそこまで変わってはいなかったけど、透の返事は短いものに変わり、俺達の間には重たい空気が落ち始めていた。
 透の緊張が、些細な動きや呼吸から伝わるようだった。
 グラスの中の日本酒に口をつけ、舌先がヒリヒリと焼け付く感覚に居心地の悪さを感じ始める。
「……悠一が泊まっていくなら、俺はそろそろ帰ろうかな」
 着替えから戻ってくるまでは待つつもりだった。流石に、二人きりで飲むのは少しの苦みと、恭ちゃんへの罪悪感が積もっていく。
 だけど、待ってと透が俺の手を掴むから、何も言えなくなってしまった。
「透?」
「いかないでよ、陽。……俺、陽のことが好きだよ」
 そのことには、もう気がついていた。
 だから、透の告白に驚きはなかった。俺の反応も予想通りだったのか、透は首まで真っ赤にしながら俺を見つめる。
「ずっと、好きだった。大学入って、仲良くなって、陽が誰とでも付き合う人なんだって知った時は、おれが女だったら良かったのにって何度も思ったよ」
 俺に触れる透の指先に、力が込められる。
「陽に告白して、付き合ったのに自分から振ってく女の子たちにいつも嫉妬した。おれならそんなことしないのに、陽のことずっと好きでいられるのにって」
 俺は何も言えなかった。
 透が、真剣に俺を想っていることは向けられた眼差しから痛いほどに伝わってくる。
 その気持ちを軽く流すことなんて、今の俺には出来そうになかった。
「陽、おれじゃだめかな」
 透の手が、俺の肩を掴んでいた。
 気が付いた時には、目の前には泣きそうな顔をした透と天井が広がっていて、押し倒されたことに気が付いた。
 この状態に対して、頭の中ははっきりしているのに、酔いのせいか思考ほどスムーズに体は動かなかった。
 押し返そうと透の胸に手を当てれば、破裂しそうなほどに騒ぐ心臓の音が服の上からでも伝わってきて、指先に込めた力が緩む。
「ノンケだから、諦めようと思ったのに。たまたま先にゲイだってバレたから陽に好きになってもらえるなんて、ずるいよ」
「透……」
「お願い、陽。おれにもチャンスをちょうだい」
 そう言って、透はきゅっと唇を引き結ぶと俺の頬に手を添えてゆっくりと顔を寄せた。
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