お前はオレの好みじゃない!

河合青

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【2】

15.ずっと特別だった人

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「ちょっと電話してきます!」
 ママにそう声を掛けると、大急ぎで店から出て電話に出る。
「はい!」
『……今、外?』
「あ、はい。バーにいました」
『ママに変なこと吹き込まれたのか?』
 疲れているのか、恭ちゃんは少し投げやりな溜め息を吐いた。
『……わかってるから』
「え?」
『お前が、オレのこと好きだって。ちゃんとわかってる。疑ってねぇよ』
 わざわざそれを言うために電話をしてくれたんだろうか。恭ちゃんだって疲れてるだろうに、俺のために。
『昼間は悪かったな。中途半端に顔出したから不安になってんだろ』
「そ……うですね、恭ちゃんに嫌な思いさせたんじゃないかって不安になりました」
『オレも大人げない真似したとは思ってる。高瀬が友だちといるのは見えたけど、最初は声掛けるつもりなんてなかった』
 そういうこと、したくなかった。
 小さな声で恭ちゃんは呟くと、もう一度深い溜め息をつく。
『……一緒にいたの、高瀬が前に言ってたゲイだって子だろ? それに気付いたら素通り出来なくて声掛けちまった。悪い』
「……俺は、声掛けてくれて嬉しかったです」
『なら、良かった』
 扉の向こうから、明るい笑い声と賑やかな雰囲気が漏れ出ている。俺たちの間に落ちる沈黙には、よく似合っていた。
『友達なんだろ?』
「え?」
『高瀬は友達のことだって好きだろ? だから、オレのこと気にし過ぎて付き合い減らしたりしなくていいからな』
 今まで付き合ってきた相手には、そんな風には言われたことがなかった。
 もう少し、私との時間も作ってほしい。
 我慢してたけど、友達の方が大事なら別れたい。
 そんなことを、何度も言われた。その度に俺は、ごめんと謝って、離れていく相手を追いかける事はしなかった。
 それが俺の駄目なとこだとはわかっていたけど、恋人のために友達付き合いを減らせるほど、俺にとって恋人というものの優先順位は高くなかった。
 今は、少しだけ違う。友達のことも大事だけど、同じくらいに恭ちゃんも大事だ。
「……あの、本当は会った時に聞こうと思ってたんですけど」
『ん?』
 恭ちゃんのことが、好きだ。
 今まで付き合ってきた相手とは違う。俺から好きになった、絶対に手放したくない人だ。
 その想いは確かにあるけど、それでも俺は友達と過ごす時間も大切にしたいと思ってしまうから。
「来月、友達に泊まりでスキー旅行誘われてて」
 躊躇っていた質問を、今、口にする。
『は? そんなの行ってこいよ』
 俺の不安なんて馬鹿らしいと笑い飛ばすようにあっさりと、恭ちゃんは躊躇なくそう言い放った。
「……いいんですか?」
 ダメな理由があるかよ、と恭ちゃんは呆れた様子で溜め息を吐くから、俺の方が戸惑ってしまった。
「でも、その、女の子もいますよ。元カノもいるし……」
 そこまでを口にして、これじゃなんだか俺が止めてほしいと思ってるみたいだった。恭ちゃんも同じことを思ったのか、電話の向こうで小さく笑っていた。
『いいよ。高瀬はオレが好きなんだろ?』
「は、はい!」
『オレだって、お前のことが好きなんだから。高瀬がやりたいこと、止めたいなんて思わない』
 ふと、昔のことを思い出す。
 俺がまだ子供で、だけどそれでも大人の言うことは理解できてしまっていた頃。
 両親の喧嘩する家に帰りたくなくて一人公園で遊んでいた時に、恭ちゃんが声を掛けてきてくれたこと。
 恭ちゃんは塾の帰りか何かだった気がする。行きにも見かけたから大丈夫か心配になって声を掛けたようなことを言われた。
 どんな話をしたのかは、正直あまり覚えていない。両親の喧嘩や不倫のことを、取り留めもなく話をして、恭ちゃんはずっと俺の話を聞いてくれていた。
 あの日、俺に何か特別な解決策を提示してくれたわけでも、悲しさから助け出してくれたわけでもない。
 だけど、俺に声を掛けてくれたその人のことを忘れたくなかったから。教えてもらった名前をずっと、寝るまで心の中で繰り返して、心の中にしまい込んだ。
「……恭ちゃん」
『ん?』
 あの時は、一人で呼んだその名前。今は、呼びかければ返ってくる。
 誰でも良かったわけじゃない。恭ちゃんだったから、ゲイだと知った時に恋人になりたいと思った。
 その理由が、わかった気がした。
「ありがとう」
『なんだよ、大袈裟だな』
 大袈裟じゃない。俺にとっては、ありがとうじゃ足りないくらい恭ちゃんには感謝している。
『来週は定時で上がれる日増えてくるし、バーにも行こうと思ってるから。お前も空いてたら顔出してくれよ』
「はい! 絶対行きます!」
 やっぱり大袈裟だと恭ちゃんは笑っていた。
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