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0回目の結婚記念日に
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「セツのセックスってそんなにイイわけ?」
「えっ? そりゃあ、もう……」
時に、鬱、一旦返上。
過去を振り返っては顔を赤らめ、悶え転げること約10分。私が妄想トリップから戻ってきた頃には、アネゴはこたつ上のみかんを3個も食べ終わっていた。
「じっくり愛してくれるって、いうか」
「ふぅん」
「もちろんテクは極上で。私が気持ちいいと思うこと惜しみなくしてくれて」
「へぇ」
そう。美馬さんのえっちは甘ったるくて、えろったらしい。何に対しても無関心そうな元々の性格とのギャップがまた、たまらない。
ちょろいというか、思う壷というか、私はすっかりはまってしまった。
「あーんっ思い出したら余計したくなっちゃったじゃないですかー!」
「あらそう、そりゃ失礼」
「はぁ。今夜はどんな手使おうかなあ」
「は? まだネバる気? 私の話聞いてた?」
「アネゴ、お茶漬けの具には何がいいと思います? あ、スーパー閉まっちゃう! 行かなきゃ!」
「は? 何しに来たのホント」
アネゴは呆れるを軽く通り越して若干キレ気味だが、いつものことだ。
そうと決まれば時間がない。私はお茶をくいっと一口で飲み干し、鞄とぐちゃぐちゃになった紙袋を手に取り、立ち上がる。「何だかんだ言ってめげないわけね」と呆れ混じりの独り言を零すアネゴに向かい、玄関にて浅くお辞儀をするのだった。
「アネゴは……拓郎さんと結婚して幸せですか? 旦那さんと喧嘩とかしないんですか? すれ違ったり」
拓郎さんとアネゴはお見合い結婚だった。二年前に付き合い始めて、わりとすぐに結婚したと記憶している。それなのに二人を見ていると、何十年と連れ添った熟年夫婦のような安定感を感じるのだ。
少なくとも私の心には「安定」などという文字はないのに。
「あるわよ、しょっちゅう。でも一つでも不安不満があるなら面と向かって話し合うしかないじゃない? 誰かに相談したところで解決しないんだし。何があっても二人で解決する、そのために家族になったんだから」
「なる、ほど……。安心しました、お幸せそうで。でもたまには吐いてもいいんじゃないですか? 愚痴。私ばっかりでアネゴ全然愚痴ってくれないんで、たまに心配になります」
「瀬奈……。アンタはホンット自己中だけどそう言うところが憎めないんだよね。ま、セツに限って浮気はないでしょうよ。今夜ちゃんと向き合ってみな」
「はい、ありがとう御座いました。お邪魔しました──!」
「誰かに相談したところで解決はしない」
アネゴの所見は正しい。冷たいようだが結局は自分次第なのである。どんなに適切なアドバイスを受けようが、自分が納得できる答えでなければ採用できない。
とはいえ人に相談することを無駄だとは思わない。聞いてくれるだけでいい。頷いてくれるだけで救われたりもする。そうやって痛みを誰かに吐きながら、自分なりの答えを探していくのだ。
黒崎瀬奈の場合。
私が出した、ひとまずの答えは──
今宵、今一度誘惑アタックを試みることにする。
最近の彼は残業ばかり。愛しの美馬さんの帰宅時間は、夜中の12時をゆうに回っていた。彼がお布団に入った頃を見計らい、寝室扉をそろりとくぐる。
只今私はセクシーも超セクシー、初めてこんなに大胆な格好をしている。下着を一切つけずに、肌スケスケの白いベビードールを纏っている。
これでは無理矢理発情させようとしているようなものだ。
でもいいの、これくらい大胆に迫らないとまたかわされてしまうもの──と、恥を忍び覚悟を決め、いざ、ぼふんとベッドへ飛び込んでみた。
「久し振りにえっち、したいです──っ」
ストレートにおねだりしてみたというのに、貴方は変わらず。一瞥をくれただけでふいと目を逸らした。
「うん、今度ね」
最近はいつもこう。あまりにも素っ気なさすぎる。
美馬さんのフェルナンデスが勃たなくなったとか、切実な事情があるのかもと考えはした。だけど、ならば相談してくれるのが夫婦というものだと思うし、それもないとなると迷走してしまう。
「私は前も今も変わらず毎日美馬さんが大好きなのに。結婚しちゃったら……妻は女ではなくなっちゃうんでしょうか……っ」
「うん? どうしてそうなるの。言ったでしょ、新居に引っ越すまでって」
「どうしてそれに拘るんです? 1ラウンドするくらいの時間はあるのに、私を抱く腕はいつもガラ空きなのにっ」
私が拗ねている原因はそれだけじゃない。
部下の女性との2ショットを盗み見てから、ずっと「もしかして」が頭から離れない。彼女を誘っている場面を目撃しただけで、私でないその子でフェルナンデスを満たしているのかもと勘ぐらずにはいられない。
「こんな格好までして私バカみたいっ。女から誘ってこんなふうに拒絶されるの、凄く……傷つきます──っ」
「瀬奈……」
いよいよ不貞腐れ、貴方に背を向けゴロンとベッドに転がる。
美馬さんのばかちん。何もえっちがしたくてしたくて堪らなくて発情しているのではない。アネゴのあんぽんたん。彼をSEXマシーンだなんて一度も思ったことはない。
「しよう」と誘ったら「しよう」が返って来ないことに不安が募っていく一方なのだ。
新婚ホヤホヤでレスなんて聞いたことがない。
「せーな?」
「……、せーな、は、もう寝ましたっ」
精力がついても、スケスケ下着を身につけ誘惑してみても、愛しの旦那サマ(仮)に抱いてもらえない黒崎瀬奈、またの名を駄犬。
今にも女が栄養失調になりそうです──。
「えっ? そりゃあ、もう……」
時に、鬱、一旦返上。
過去を振り返っては顔を赤らめ、悶え転げること約10分。私が妄想トリップから戻ってきた頃には、アネゴはこたつ上のみかんを3個も食べ終わっていた。
「じっくり愛してくれるって、いうか」
「ふぅん」
「もちろんテクは極上で。私が気持ちいいと思うこと惜しみなくしてくれて」
「へぇ」
そう。美馬さんのえっちは甘ったるくて、えろったらしい。何に対しても無関心そうな元々の性格とのギャップがまた、たまらない。
ちょろいというか、思う壷というか、私はすっかりはまってしまった。
「あーんっ思い出したら余計したくなっちゃったじゃないですかー!」
「あらそう、そりゃ失礼」
「はぁ。今夜はどんな手使おうかなあ」
「は? まだネバる気? 私の話聞いてた?」
「アネゴ、お茶漬けの具には何がいいと思います? あ、スーパー閉まっちゃう! 行かなきゃ!」
「は? 何しに来たのホント」
アネゴは呆れるを軽く通り越して若干キレ気味だが、いつものことだ。
そうと決まれば時間がない。私はお茶をくいっと一口で飲み干し、鞄とぐちゃぐちゃになった紙袋を手に取り、立ち上がる。「何だかんだ言ってめげないわけね」と呆れ混じりの独り言を零すアネゴに向かい、玄関にて浅くお辞儀をするのだった。
「アネゴは……拓郎さんと結婚して幸せですか? 旦那さんと喧嘩とかしないんですか? すれ違ったり」
拓郎さんとアネゴはお見合い結婚だった。二年前に付き合い始めて、わりとすぐに結婚したと記憶している。それなのに二人を見ていると、何十年と連れ添った熟年夫婦のような安定感を感じるのだ。
少なくとも私の心には「安定」などという文字はないのに。
「あるわよ、しょっちゅう。でも一つでも不安不満があるなら面と向かって話し合うしかないじゃない? 誰かに相談したところで解決しないんだし。何があっても二人で解決する、そのために家族になったんだから」
「なる、ほど……。安心しました、お幸せそうで。でもたまには吐いてもいいんじゃないですか? 愚痴。私ばっかりでアネゴ全然愚痴ってくれないんで、たまに心配になります」
「瀬奈……。アンタはホンット自己中だけどそう言うところが憎めないんだよね。ま、セツに限って浮気はないでしょうよ。今夜ちゃんと向き合ってみな」
「はい、ありがとう御座いました。お邪魔しました──!」
「誰かに相談したところで解決はしない」
アネゴの所見は正しい。冷たいようだが結局は自分次第なのである。どんなに適切なアドバイスを受けようが、自分が納得できる答えでなければ採用できない。
とはいえ人に相談することを無駄だとは思わない。聞いてくれるだけでいい。頷いてくれるだけで救われたりもする。そうやって痛みを誰かに吐きながら、自分なりの答えを探していくのだ。
黒崎瀬奈の場合。
私が出した、ひとまずの答えは──
今宵、今一度誘惑アタックを試みることにする。
最近の彼は残業ばかり。愛しの美馬さんの帰宅時間は、夜中の12時をゆうに回っていた。彼がお布団に入った頃を見計らい、寝室扉をそろりとくぐる。
只今私はセクシーも超セクシー、初めてこんなに大胆な格好をしている。下着を一切つけずに、肌スケスケの白いベビードールを纏っている。
これでは無理矢理発情させようとしているようなものだ。
でもいいの、これくらい大胆に迫らないとまたかわされてしまうもの──と、恥を忍び覚悟を決め、いざ、ぼふんとベッドへ飛び込んでみた。
「久し振りにえっち、したいです──っ」
ストレートにおねだりしてみたというのに、貴方は変わらず。一瞥をくれただけでふいと目を逸らした。
「うん、今度ね」
最近はいつもこう。あまりにも素っ気なさすぎる。
美馬さんのフェルナンデスが勃たなくなったとか、切実な事情があるのかもと考えはした。だけど、ならば相談してくれるのが夫婦というものだと思うし、それもないとなると迷走してしまう。
「私は前も今も変わらず毎日美馬さんが大好きなのに。結婚しちゃったら……妻は女ではなくなっちゃうんでしょうか……っ」
「うん? どうしてそうなるの。言ったでしょ、新居に引っ越すまでって」
「どうしてそれに拘るんです? 1ラウンドするくらいの時間はあるのに、私を抱く腕はいつもガラ空きなのにっ」
私が拗ねている原因はそれだけじゃない。
部下の女性との2ショットを盗み見てから、ずっと「もしかして」が頭から離れない。彼女を誘っている場面を目撃しただけで、私でないその子でフェルナンデスを満たしているのかもと勘ぐらずにはいられない。
「こんな格好までして私バカみたいっ。女から誘ってこんなふうに拒絶されるの、凄く……傷つきます──っ」
「瀬奈……」
いよいよ不貞腐れ、貴方に背を向けゴロンとベッドに転がる。
美馬さんのばかちん。何もえっちがしたくてしたくて堪らなくて発情しているのではない。アネゴのあんぽんたん。彼をSEXマシーンだなんて一度も思ったことはない。
「しよう」と誘ったら「しよう」が返って来ないことに不安が募っていく一方なのだ。
新婚ホヤホヤでレスなんて聞いたことがない。
「せーな?」
「……、せーな、は、もう寝ましたっ」
精力がついても、スケスケ下着を身につけ誘惑してみても、愛しの旦那サマ(仮)に抱いてもらえない黒崎瀬奈、またの名を駄犬。
今にも女が栄養失調になりそうです──。
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