2 / 17
第2話 邪教教祖がやってきた(唐突)
「………いってぇ」
俺は地面にめり込んでいた。
なぜ生きてるのかは謎だが、流石にそのまま落下死させるほど、あの女神も外道というわけではないらしい。
ゆっくりと体を起こして、周りを見渡すと——崩れた石壁。荒れ果てた道に生い茂る木々。人影はもちろんゼロ。良く言えば大自然なのだが……
本当に何もない所に落とされたな。
「とりあえず現状整理だ」
俺の固有スキルとやらだが、実のところよく分かっていない。女神もマニュアルの一つでも寄こさんかい!こんな森の中に丸腰の人間が落ちてきたら、この世知辛い世界だ、格好の獲物にされること間違いなしだ。今、魔物とかに襲われたらほとんど詰みじゃんね?
などと思っていた矢先——
ガサッ!!
茂みから何かが飛び出してきた。
ほーら来た!早すぎるフラグ回収。
あれはウサギ——いや、角がある。やっぱり魔物か!しかも、結構でかいな。普通のウサギの倍はありそうだ。そして、明らかにこっちを狙ってきていやがる!とはいえ、固有スキルの効果を試すにはもってこいの瞬間だ!幸い雑魚そうだしな、アイツ。
「異世界初の戦闘…か」
ニヤリと笑い、気合いの入った声で唱える。
「———分身!」
ボンッ!
目の前に、俺があらわれた。
……これが分身?なんだ、字の通りだったのか!……ということは、人数を増やして戦力を上げる系のスキルってわけだな。そうと分かれば————
「分身!分身!分身ッ!分ッ身ッー!」
大魔導士の詠唱よろしく、渾身のポーズで言い放つ。
ボンッ!ボンッ!ボンッ!ボンッ!
5人になった。
「よーし!ウサギの野郎をぶちのめすぞ!俺たちの強さをこの世界に知らしめてや……」
——あれぇ?
視界に入った角ウサギを、思わず二度見する。
こいつ、こんなにデカかったっけ? 見間違いか? さっきの5倍くらいはありそうに見えるが……それに周りをよく見渡すと、草も石もでかい。なんか目線が低くなってるような……って
「オイイイイッー!! これ、俺が縮んでんじゃねぇかぁあ!!」
なんてこった。30cmくらいしかないぞ、今の俺。5人になったからか? だから大きさも5等分された…と?クソっ!聞いてないぞそんな制約。
すかさず、角ウサギが突進してくる。
——ボンッ!
分身の1人が吹っ飛ばされて消えた。
「痛ぇっ!」
——頭が痛い。
今、分身がくらったダメージを受けたのか?
それ分身の意味ないじゃん!……使えんスキルだな。
とはいえ——
「数ではこっちが有利!このまま一気に叩くぞー!」
「「「おー!」」」
——30分後。
「へ…楽勝…だったぜ…」
俺たちは地面に倒れ込んでいた。
ウサギの魔物はようやく動かなくなったが、4人がかりでギリギリの勝利だった。
分身を解除すると——
「うっ……」
やはり頭がガンガンする。
突き飛ばされた衝撃、角で刺された痛み、必死で噛みついた感覚。分身の記憶と経験が、分身が消えた時に一気に流れ込んでくる感じだ。さっきも一瞬あったが……副作用なのだろうか?
でも——
「レベルが上がった…?」
なんとなく分かる。体の中で、何かが変わった感覚。急いでステータスを表示した。
—タナカ・ユウヤ
—魔法適正:『火』『水』『雷』『風』『土』『光』:F
—固有スキル【分身】:レベル:2(分身可能数:3)
固有スキルのレベルが上がっている!
さっそく分身を試す。
ボンッ。ボンッ。ボンッ。
今度は通常サイズのままで、俺(本体)を入れて3人の分身になれた。試しに無理やり6人に分身しようとすると、案の定、半分くらいのサイズに縮んだ。
——なるほど。レベルが上がると使い物になる分身の数が増えるってわけか。このスキル、便利なのか不便なのか……よくわからんな。
「まあとりあえず、飯にしよう!」
俺は狩った角ウサギを引きずりながら、火種になりそうな物を探すことにした。
——————————————————
翌日。
朽ちた砦の跡で寝ていた俺は、
ゴゴゴゴゴ……
謎の地響きの音で朝を迎えた。
寝ぼけた頭を叩き起こして振り向くと——崩れた石壁の影から、巨大な腕がヌッと出てきた。
「こ、こいつは…!!」
——ゴーレムだ。
3メートル近くはある巨体。昨日の魔物の比ではない。さすがの俺もこれには仰天。 一目散に走り出した。
ゴーレムが追ってくる。地響きが近づいてくる。
「分身!」
ボボボボンッ!ボンッ!
10、いや15人くらいか?一度に出しすぎたせいで、かなり縮んでしまったが、今は気にしてられない。絶対絶滅のこの局面、俺のスキルで見事乗り切って見せるぜ!
「行けっ!お前ら!誰か囮になるんだ!」
「うるせぇ!」
「お前がやれ!」
くそぅ! 分身も俺の性格を忠実に再現していやがる。
誰もが、我れ先にと逃げ出した。
——だが甘い。本体である俺はオリジナル。つまり、分身(俺)が考えそうなことは手に取るようにわかるのだ。
分身が互いを邪魔しあって揉めてる隙に、俺は森の方へダッシュ。
背後で俺の声の悲鳴が響く。
「ぎゃー!」ボンッ。
「踏まれるぅぅー!」ボンッ。
——2人消えた。その度に起こる頭痛が厄介だが、森まではあと少し…
「———そこのお方!!」
突然、横から場違いに明るい声が聞こえた。
ふと見ると——フードを被った美少女がいつのまにか並走している。金髪に赤い瞳。背後からゴーレムが迫ってるってのに、なぜかこの少女は満面の笑み。
「お取り込み中のところ、すみません!もしかして、昨日空から降ってきた方ですか!?」
降ってきた?
……あぁ、女神に落とされたアレのことか。まさか目撃者がいるとは。だが今は…
「後にしてくれ!!」
「ヤルダヴォート教に、入信しませんかー!!」
あかん。こいつ、そっち系か。
どうにもおかしな奴だとは思ったが、宗教系とは恐れ入った。だいたいなんでこんなタイミングで……
「状況を見ろ!!」
俺がそう言い終わるとほぼ同時に…
——パチン
少女が走りながら手を叩いた。
軽快な音が響くと————森の影から、黒ずくめの集団がスッと現れた。
「おお!仲間か?!」
その数、1、2、3、4、5……5人かぁ~。
全員同じ黒いローブに同じ背格好。
「「「「「我らは影に生きる者……」」」」」
なにやら怪しげなセリフを揃えて宣う。
——ってか、
「なんなんだコイツら!全員同じ格好で同じような背丈しやがって……まるで俺の『分身』じゃないか!」
「分身…?ああ、このスキルのことですね~?」
少女が四方八方に散らばって逃げ惑う俺を指さした。
「そうだよ!俺唯一の個性を早々に消し去りおって……い、いくらなんでもキャラ被りが早すぎるぞ!」
「えへへ~、奇遇ですね~」
どこがだよ!とツッコミたい気持ちはあるが、今はそれどころじゃない。この女のペースに呑まれて緊張感を失いかけていたが、
「ゴーレムはどうなった?!」
「ああ、あの木偶のことですか~?……信徒たち!」
「「「「「御意」」」」」
黒ずくめの集団が動いた。凄まじい速さだ。1人が頭に布を被せて視界を奪い、残りが足にしがみ付き重心を奪う。正確な攻撃を受けたゴーレムがバランスを崩し——
ズドォォン!!
倒れた。
すかさず信徒が胸を開け、中から鈍く光る赤色の石を抜き取る。魔石か何かだろうか?たちまちにゴーレムは動きを止めた。
「……おお!」
凄いなこいつら、たったの5人で、あっさり倒したぞ!
「さすが、私のかわいい信徒たちです~」
金髪の少女がパチパチと拍手する。
黒ずくめの一人が、俺の前まで歩み出て跪いた。
「これを、新たなる御方に」
「……俺?」
跪いたままの黒ずくめと目線が合う。
分身ののせいで縮んでいたのをすっかり忘れていた。仰々しいシーンなだけに、めちゃくちゃ恥ずかしい……!
分身を解除して、魔石を受け取る。
「っ……」
また来た。この感覚——記憶が一気に流れ込んでくる。ゴーレムに踏みつぶれた衝撃、消える恐怖。頭がガンガンする。吐きそうだ。
「大丈夫ですか~?」
少女が俺の額に手を当てた。
黒紫の禍々しい光が広がると———頭痛と吐き気が一瞬で引いた。
「回復魔法……?」
「はい~!私特製の回復魔法です~」
回復魔法ってそんなんだっけ?なんかこう、もっと白っぽいというか神聖な感じというか……
この少女が使った魔法は、見た感じイメージしていた回復魔法のそれではないが、効果は抜群だった。
「助かったよ。君、名前は?」
「はい~!私はリーシャ=ノクターンと申しまして~……至高にして崇高、唯一神であられる『ヤルダヴォート様』を信仰する組織をやっております~」
「え、なにそれ?……邪教?」
「邪教ではありません!」
リーシャが頬を膨らませた。
「私からみれば、ファルミス教こそ邪教の極み!女神ソフィアを信仰するなんて考えられません!」
……な、なんて良いことを言うんだ!!
頭のおかしなヤツだと思っていたが、これには100%同意だ!前言を撤回する。この子とは仲良くなれそうな気がする!
「実は私たち、グラウエルを拠点にしようかと思いまして、昨日から来てたんです~」
なるほど。こんな辺境なら誰にも邪魔されない、たしかに邪教には都合がよさそうだ。
「そしたら昨日、空からあなたが降ってきて、感動しちゃいました~! まさに、天からの啓示!これは救世主様に違いないと~!」
いや、女神にポイ捨てされただけなんだが……まあ、訂正するのも面倒だし、黙っておこう。
「そして、その表情!!やはりあなたも、私たちと同じ!ファルミス教を心底嫌っているのですね…?!」
それはその通りなのだが…
「リーシャは、なぜファルミス教を?」
少女が急に真面目な顔になる。
「この国の国教であるファルミス教では、六属性だけで人を評価するんです。それぞれの魔法適正が高ければ地位も偉い、低ければゴミ扱い。さらに……教会が説明できない能力は『禁忌』として断罪します。でもそんなの、ただの差別じゃないですか?」
赤い瞳が、まっすぐ俺を見ている。
「ヤルダヴォート教は、その『差別』に抗う教えです。決められた能力で人を裁くな。禁忌?上等だ」
リーシャが両手を広げて言い放つ。
「私たちは、そう訴えてるんです!」
……………。
俺は静かに目を閉じた。
ファルミス教。六属性至上主義。禁忌狩り。俺を処刑したアホ共の教え——そしてあのクソ女神を信仰する宗教。
対して、この女の言うヤルダヴォート教とやらはその教えに真っ向から歯向かう。完全に邪教確定だな、これ。だが……
「ふっ…面白い……。リーシャ!」
「はい~?」
「俺の名は田中祐也——いや、この世界では『ユウヤ』とでも名乗ろうか」
風が前髪を揺らす。完璧なタイミングだ。
「お前たちの『救世主』、この俺が引き受けてやろう!」
「ユーヤ様っ!!」
「ただし——」
俺は人差し指を立てた。
「俺は『救世主』なんて小さなもので終わる気はない!いずれこの世界の理不尽を全てひっくり返す。ファルミス教、六属性至上主義、禁忌——全部まとめてぶっ壊してやる…ぜ!」
キマった。異世界系主人公として完璧な宣言だ。一回言ってみたかったんだよなあ、こういうの!
「はぁあああああ!!ユーヤ様ぁあああ!!やはり、あの『分身』…あれは禁忌スキルなのですね?!」
「……おそらくな」
「さすが、天から降る『禁忌』!!私たち、ユーヤ様に一生ついていきますぅう~!我らが救世主様ぁあああ!!」
くねくねと悶えながら頬を紅潮させる金髪の少女。
「「「「「我らは影に生きる者!!救世主様の剣となり盾となります!!」」」」」
使徒たちも一斉に跪いた。
うむ…悪くない反応だ。
——いや待て。冷静に考えろ……調子に乗りすぎた。そもそも俺、全ステ「F」だしな……世界をひっくり返すとか言ってる場合か?
まあいい。言っちまったもんはしょうがない。そのうちなんとかしよう。
「よし!じゃあまずはこのゴーレムの残骸を片付けようか!」
「「「「「御意」」」」」
使徒たちがテキパキと動き出す。リーシャも鼻歌交じりで指示を出している。
…案外うまくやっていけそうじゃないか。
異世界転生、禁忌スキル、邪教の救世主。
俺の第三の人生、なかなか悪くない滑り出しだ。
見てろよ、クソ女神。お前が『ゴミ捨て場』だと思って放り込んだこの地で、俺は必ず成り上がってやる!!
——などと、イキっていた矢先。
「そこの連中、動くな!」
背後から、氷のように冷たい声。
振り向こうとした瞬間、首筋にチリッとした殺気を感じた。
……弓だ。狙われている。
今度は一体何なんだよ…
俺はゆっくりと、声のした方を振り返った。
俺は地面にめり込んでいた。
なぜ生きてるのかは謎だが、流石にそのまま落下死させるほど、あの女神も外道というわけではないらしい。
ゆっくりと体を起こして、周りを見渡すと——崩れた石壁。荒れ果てた道に生い茂る木々。人影はもちろんゼロ。良く言えば大自然なのだが……
本当に何もない所に落とされたな。
「とりあえず現状整理だ」
俺の固有スキルとやらだが、実のところよく分かっていない。女神もマニュアルの一つでも寄こさんかい!こんな森の中に丸腰の人間が落ちてきたら、この世知辛い世界だ、格好の獲物にされること間違いなしだ。今、魔物とかに襲われたらほとんど詰みじゃんね?
などと思っていた矢先——
ガサッ!!
茂みから何かが飛び出してきた。
ほーら来た!早すぎるフラグ回収。
あれはウサギ——いや、角がある。やっぱり魔物か!しかも、結構でかいな。普通のウサギの倍はありそうだ。そして、明らかにこっちを狙ってきていやがる!とはいえ、固有スキルの効果を試すにはもってこいの瞬間だ!幸い雑魚そうだしな、アイツ。
「異世界初の戦闘…か」
ニヤリと笑い、気合いの入った声で唱える。
「———分身!」
ボンッ!
目の前に、俺があらわれた。
……これが分身?なんだ、字の通りだったのか!……ということは、人数を増やして戦力を上げる系のスキルってわけだな。そうと分かれば————
「分身!分身!分身ッ!分ッ身ッー!」
大魔導士の詠唱よろしく、渾身のポーズで言い放つ。
ボンッ!ボンッ!ボンッ!ボンッ!
5人になった。
「よーし!ウサギの野郎をぶちのめすぞ!俺たちの強さをこの世界に知らしめてや……」
——あれぇ?
視界に入った角ウサギを、思わず二度見する。
こいつ、こんなにデカかったっけ? 見間違いか? さっきの5倍くらいはありそうに見えるが……それに周りをよく見渡すと、草も石もでかい。なんか目線が低くなってるような……って
「オイイイイッー!! これ、俺が縮んでんじゃねぇかぁあ!!」
なんてこった。30cmくらいしかないぞ、今の俺。5人になったからか? だから大きさも5等分された…と?クソっ!聞いてないぞそんな制約。
すかさず、角ウサギが突進してくる。
——ボンッ!
分身の1人が吹っ飛ばされて消えた。
「痛ぇっ!」
——頭が痛い。
今、分身がくらったダメージを受けたのか?
それ分身の意味ないじゃん!……使えんスキルだな。
とはいえ——
「数ではこっちが有利!このまま一気に叩くぞー!」
「「「おー!」」」
——30分後。
「へ…楽勝…だったぜ…」
俺たちは地面に倒れ込んでいた。
ウサギの魔物はようやく動かなくなったが、4人がかりでギリギリの勝利だった。
分身を解除すると——
「うっ……」
やはり頭がガンガンする。
突き飛ばされた衝撃、角で刺された痛み、必死で噛みついた感覚。分身の記憶と経験が、分身が消えた時に一気に流れ込んでくる感じだ。さっきも一瞬あったが……副作用なのだろうか?
でも——
「レベルが上がった…?」
なんとなく分かる。体の中で、何かが変わった感覚。急いでステータスを表示した。
—タナカ・ユウヤ
—魔法適正:『火』『水』『雷』『風』『土』『光』:F
—固有スキル【分身】:レベル:2(分身可能数:3)
固有スキルのレベルが上がっている!
さっそく分身を試す。
ボンッ。ボンッ。ボンッ。
今度は通常サイズのままで、俺(本体)を入れて3人の分身になれた。試しに無理やり6人に分身しようとすると、案の定、半分くらいのサイズに縮んだ。
——なるほど。レベルが上がると使い物になる分身の数が増えるってわけか。このスキル、便利なのか不便なのか……よくわからんな。
「まあとりあえず、飯にしよう!」
俺は狩った角ウサギを引きずりながら、火種になりそうな物を探すことにした。
——————————————————
翌日。
朽ちた砦の跡で寝ていた俺は、
ゴゴゴゴゴ……
謎の地響きの音で朝を迎えた。
寝ぼけた頭を叩き起こして振り向くと——崩れた石壁の影から、巨大な腕がヌッと出てきた。
「こ、こいつは…!!」
——ゴーレムだ。
3メートル近くはある巨体。昨日の魔物の比ではない。さすがの俺もこれには仰天。 一目散に走り出した。
ゴーレムが追ってくる。地響きが近づいてくる。
「分身!」
ボボボボンッ!ボンッ!
10、いや15人くらいか?一度に出しすぎたせいで、かなり縮んでしまったが、今は気にしてられない。絶対絶滅のこの局面、俺のスキルで見事乗り切って見せるぜ!
「行けっ!お前ら!誰か囮になるんだ!」
「うるせぇ!」
「お前がやれ!」
くそぅ! 分身も俺の性格を忠実に再現していやがる。
誰もが、我れ先にと逃げ出した。
——だが甘い。本体である俺はオリジナル。つまり、分身(俺)が考えそうなことは手に取るようにわかるのだ。
分身が互いを邪魔しあって揉めてる隙に、俺は森の方へダッシュ。
背後で俺の声の悲鳴が響く。
「ぎゃー!」ボンッ。
「踏まれるぅぅー!」ボンッ。
——2人消えた。その度に起こる頭痛が厄介だが、森まではあと少し…
「———そこのお方!!」
突然、横から場違いに明るい声が聞こえた。
ふと見ると——フードを被った美少女がいつのまにか並走している。金髪に赤い瞳。背後からゴーレムが迫ってるってのに、なぜかこの少女は満面の笑み。
「お取り込み中のところ、すみません!もしかして、昨日空から降ってきた方ですか!?」
降ってきた?
……あぁ、女神に落とされたアレのことか。まさか目撃者がいるとは。だが今は…
「後にしてくれ!!」
「ヤルダヴォート教に、入信しませんかー!!」
あかん。こいつ、そっち系か。
どうにもおかしな奴だとは思ったが、宗教系とは恐れ入った。だいたいなんでこんなタイミングで……
「状況を見ろ!!」
俺がそう言い終わるとほぼ同時に…
——パチン
少女が走りながら手を叩いた。
軽快な音が響くと————森の影から、黒ずくめの集団がスッと現れた。
「おお!仲間か?!」
その数、1、2、3、4、5……5人かぁ~。
全員同じ黒いローブに同じ背格好。
「「「「「我らは影に生きる者……」」」」」
なにやら怪しげなセリフを揃えて宣う。
——ってか、
「なんなんだコイツら!全員同じ格好で同じような背丈しやがって……まるで俺の『分身』じゃないか!」
「分身…?ああ、このスキルのことですね~?」
少女が四方八方に散らばって逃げ惑う俺を指さした。
「そうだよ!俺唯一の個性を早々に消し去りおって……い、いくらなんでもキャラ被りが早すぎるぞ!」
「えへへ~、奇遇ですね~」
どこがだよ!とツッコミたい気持ちはあるが、今はそれどころじゃない。この女のペースに呑まれて緊張感を失いかけていたが、
「ゴーレムはどうなった?!」
「ああ、あの木偶のことですか~?……信徒たち!」
「「「「「御意」」」」」
黒ずくめの集団が動いた。凄まじい速さだ。1人が頭に布を被せて視界を奪い、残りが足にしがみ付き重心を奪う。正確な攻撃を受けたゴーレムがバランスを崩し——
ズドォォン!!
倒れた。
すかさず信徒が胸を開け、中から鈍く光る赤色の石を抜き取る。魔石か何かだろうか?たちまちにゴーレムは動きを止めた。
「……おお!」
凄いなこいつら、たったの5人で、あっさり倒したぞ!
「さすが、私のかわいい信徒たちです~」
金髪の少女がパチパチと拍手する。
黒ずくめの一人が、俺の前まで歩み出て跪いた。
「これを、新たなる御方に」
「……俺?」
跪いたままの黒ずくめと目線が合う。
分身ののせいで縮んでいたのをすっかり忘れていた。仰々しいシーンなだけに、めちゃくちゃ恥ずかしい……!
分身を解除して、魔石を受け取る。
「っ……」
また来た。この感覚——記憶が一気に流れ込んでくる。ゴーレムに踏みつぶれた衝撃、消える恐怖。頭がガンガンする。吐きそうだ。
「大丈夫ですか~?」
少女が俺の額に手を当てた。
黒紫の禍々しい光が広がると———頭痛と吐き気が一瞬で引いた。
「回復魔法……?」
「はい~!私特製の回復魔法です~」
回復魔法ってそんなんだっけ?なんかこう、もっと白っぽいというか神聖な感じというか……
この少女が使った魔法は、見た感じイメージしていた回復魔法のそれではないが、効果は抜群だった。
「助かったよ。君、名前は?」
「はい~!私はリーシャ=ノクターンと申しまして~……至高にして崇高、唯一神であられる『ヤルダヴォート様』を信仰する組織をやっております~」
「え、なにそれ?……邪教?」
「邪教ではありません!」
リーシャが頬を膨らませた。
「私からみれば、ファルミス教こそ邪教の極み!女神ソフィアを信仰するなんて考えられません!」
……な、なんて良いことを言うんだ!!
頭のおかしなヤツだと思っていたが、これには100%同意だ!前言を撤回する。この子とは仲良くなれそうな気がする!
「実は私たち、グラウエルを拠点にしようかと思いまして、昨日から来てたんです~」
なるほど。こんな辺境なら誰にも邪魔されない、たしかに邪教には都合がよさそうだ。
「そしたら昨日、空からあなたが降ってきて、感動しちゃいました~! まさに、天からの啓示!これは救世主様に違いないと~!」
いや、女神にポイ捨てされただけなんだが……まあ、訂正するのも面倒だし、黙っておこう。
「そして、その表情!!やはりあなたも、私たちと同じ!ファルミス教を心底嫌っているのですね…?!」
それはその通りなのだが…
「リーシャは、なぜファルミス教を?」
少女が急に真面目な顔になる。
「この国の国教であるファルミス教では、六属性だけで人を評価するんです。それぞれの魔法適正が高ければ地位も偉い、低ければゴミ扱い。さらに……教会が説明できない能力は『禁忌』として断罪します。でもそんなの、ただの差別じゃないですか?」
赤い瞳が、まっすぐ俺を見ている。
「ヤルダヴォート教は、その『差別』に抗う教えです。決められた能力で人を裁くな。禁忌?上等だ」
リーシャが両手を広げて言い放つ。
「私たちは、そう訴えてるんです!」
……………。
俺は静かに目を閉じた。
ファルミス教。六属性至上主義。禁忌狩り。俺を処刑したアホ共の教え——そしてあのクソ女神を信仰する宗教。
対して、この女の言うヤルダヴォート教とやらはその教えに真っ向から歯向かう。完全に邪教確定だな、これ。だが……
「ふっ…面白い……。リーシャ!」
「はい~?」
「俺の名は田中祐也——いや、この世界では『ユウヤ』とでも名乗ろうか」
風が前髪を揺らす。完璧なタイミングだ。
「お前たちの『救世主』、この俺が引き受けてやろう!」
「ユーヤ様っ!!」
「ただし——」
俺は人差し指を立てた。
「俺は『救世主』なんて小さなもので終わる気はない!いずれこの世界の理不尽を全てひっくり返す。ファルミス教、六属性至上主義、禁忌——全部まとめてぶっ壊してやる…ぜ!」
キマった。異世界系主人公として完璧な宣言だ。一回言ってみたかったんだよなあ、こういうの!
「はぁあああああ!!ユーヤ様ぁあああ!!やはり、あの『分身』…あれは禁忌スキルなのですね?!」
「……おそらくな」
「さすが、天から降る『禁忌』!!私たち、ユーヤ様に一生ついていきますぅう~!我らが救世主様ぁあああ!!」
くねくねと悶えながら頬を紅潮させる金髪の少女。
「「「「「我らは影に生きる者!!救世主様の剣となり盾となります!!」」」」」
使徒たちも一斉に跪いた。
うむ…悪くない反応だ。
——いや待て。冷静に考えろ……調子に乗りすぎた。そもそも俺、全ステ「F」だしな……世界をひっくり返すとか言ってる場合か?
まあいい。言っちまったもんはしょうがない。そのうちなんとかしよう。
「よし!じゃあまずはこのゴーレムの残骸を片付けようか!」
「「「「「御意」」」」」
使徒たちがテキパキと動き出す。リーシャも鼻歌交じりで指示を出している。
…案外うまくやっていけそうじゃないか。
異世界転生、禁忌スキル、邪教の救世主。
俺の第三の人生、なかなか悪くない滑り出しだ。
見てろよ、クソ女神。お前が『ゴミ捨て場』だと思って放り込んだこの地で、俺は必ず成り上がってやる!!
——などと、イキっていた矢先。
「そこの連中、動くな!」
背後から、氷のように冷たい声。
振り向こうとした瞬間、首筋にチリッとした殺気を感じた。
……弓だ。狙われている。
今度は一体何なんだよ…
俺はゆっくりと、声のした方を振り返った。
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める
自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。
その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。
異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。
定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
世界一簡単にレベルアップ ~魔物を倒すだけでレベルが上がる能力を得た俺は、弱小の魔物を倒しまくって異世界でハーレム作る事にしました~
きよらかなこころ
ファンタジー
シンゴはある日、事故で死んだ。
どうやら、神の手違いで間違って死んでしまったシンゴは異世界に転生することになる。
転生する際にオマケに『魔物を倒すだけでレベルが上がる』能力を貰ったシンゴ。
弱小の魔物を倒してレベルを上げ、異世界でハーレムを作る事を企むのだった。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。