全ステFの異世界無双、禁忌スキル【分身】でこの世界を頂きます!

アセチルサリチルさん

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第5話 世紀末な奴らが攻めてきました(迷惑)

 教会の建設が始まって数日。
 まだ骨組みだけだが、少しずつ形になってきた。

 1階は温泉。2階は居住スペース。
 使徒たちは黙々と働いているし、分身たちも資材運びに精を出している。

 ……と、その時。

「——ヒャッハァァァァ!!」
 森の向こうから、大絶叫が聞こえてきた。

「む?…なにやつ」
「敵襲ですね~」
 リーシャがにっこり笑う。

「え~…魔物?」
「いや、人間ね。10人くらいかしら」
 オルファが弓を構える。

 しばらくすると、人影がはっきり見えてきた。
 薄汚れた装備を身につけた男たち。武器を振り回しながら走ってくる。
 
 先頭の大男が叫んだ。

「おらぁ!!金目のもん全部出せぇ!! 食いもんでもいい!!持ってるもん全部置いてけやぁ!! 命だけは見逃してやるぜぇ!!」

 ……世紀末かよ。


「お、おい、待て待て待て!」
 俺は慌てて前に出た。

「話を——」
「うるせぇ!!死にてえのか!!」
 大男が剣を振りかぶる——やべえ。

「分身!」

 ボボボボボボボボボボボボボンッ!!!!

 とっさのことだったので、出しすぎた。
 100人近い分身がワラワラと出現。当然、全員5cmもない極小サイズだ。

「なにコレ…ほぼ虫じゃない」
 オルファが呆れた顔で分身を見る。

「や、やかましぃ!」

 なにはともあれ盗賊たちの攻撃は止まった。

「なんだコイツら?!」
「小っちゃいのが沸いて出てきたぞ?!」
 動揺する盗賊たち。その隙に——

「お前ら、顔に貼りつけ!」
「「「「「了解!」」」」」

 ミニ分身たちが一斉に飛びかかった。
 盗賊たちの顔面にペタペタと張り付く。

「うわっ!!なんだこれ!!!!」
「クソっ、前が見えねえ!!」
「気持ち悪りぃ!!離れろ!!」
 視界を塞がれた盗賊たちがパニックになる。

 ——チャンス!
 
 一瞬で分身を解くと——

「オラッ!オラッ!オラオラオラッ!!」
 俺は盗賊たちを、温泉に向かって蹴飛ばしまくった。
 水の中なら動きも封じられるはずだ!

「うわああああ!!」
「あっっっつ……いや、気持ちいい……?」
「な、なんだこれ……」
 温泉にぶち込まれた盗賊たちが、困惑している。

「体が……ほぐれる……」
「天国は…ここにあったのか……?」
 次々と、表情が緩んでいく。

「あったけえ……」
「生きててよかった……」
「落ち着くぜ……」

 ……温泉の力、まさかここまでとは。


 ——30分後。

 盗賊たちは完全にふやけていた。

「ほら、これでも食え」
 俺は先日狩った猪の肉を差し出した。

「え…?」
「ほら、遠慮すんな」

 盗賊たちが顔を見合わせる。 
 先頭にいたリーダーらしき大男が、おそるおそる肉を受け取った。

「…いいのか?俺ら、あんたらを襲おうとしたのに」
「まあ、実際には何もされてないしな」
 俺は肩をすくめた。

「それにどうせ、腹減ってイライラしてたんだろ?一旦飯食って落ち着けよ」
「……!」
 大男の目が潤んだ。

「あんた……いや、ユーヤさん……」
「え、なんで俺の名前知ってんの?」
「さっきの小さいのが名乗ってやした」

 なんだと?!そんなホイホイと名乗ってたら危ないじゃないか!
 ……分身共には後でしっかり教育しておこう。

「ユーヤさん!俺はダリオっていいやす。こいつらは俺の仲間で——」
「話は後だ。今はまず、食っておけ」
「…へい!」
 ダリオたちが、涙を流しながら肉を頬張った。

「うめえ……」
「肉だ……本物の肉だ……」
「何年ぶりだよ……」

 うんうん、喜んでくれてるみたいでなによりだ!


 食事が終わった後、ダリオたちが一斉に頭を下げてきた。

「ユーヤさん!いや、お頭!」
「お頭?」
「数々のご無礼、すいやせんでした!!」
 見事なまでの土下座だ。

「虫のいい話なのはわかっていやすが、その……俺たちを子分にしてくだせえ!!」
「「「「「お願いしやす!!」」」」」
 全員がさらに頭を下げる。

 ——子分。お頭。

 ふむ。悪くないな。

 だが、俺もバカじゃない。こんな連中、いつ裏切ってこっちに襲いかかるか……

「却下だ。今回の件は目を瞑るから、どこか好きなところへ旅立つがよいっ!!」
 慈愛に満ちた勇者よろしく、盛大に声を張り上げた。

「そ、そんなこと言わずに!!ここは天国っすよ!!温泉はあるし、飯は食えるし、優しくしてもらえるし!!」

「優しく……?」
 顔に分身貼り付けて、温泉にぶち込んだ記憶しかないんだが……

「盗賊になったのも、ゲルツの野郎の暴利のせいなんす!こんな極楽に来ちまったら、もう盗賊なんかする必要ねぇんです!」

「…ゲルツ?」

「隣の領地の領主でさぁ。バロン=ゲルツ男爵。あの領地は地獄でした……」
 ダリオの顔が歪む。

「税金がえぐいんです」
 
 ダリオの話をまとめるとこうだ。
 
 稼得税20%——稼ぐ度に取られる。
 領民税15%——住んでるだけで取られる。
 消費税10%——何か買うたびに取られる。

 …いや、日本かよ。

「それだけじゃねえんです! 土地税、酒税、領主税と……なにかと理由をつけては取られて、毎年種籾すら残らない! 明日生きる分すらないのに、それでも払えと言われるんです」
 ダリオの声が震えた。

「払えなければ……見せしめに殺されるか、奴隷落ちしかないっす。家族ごと」

 ——これはまた、異世界あるあるというか、どこの世界もそういうところは変わらないんだな。

 バロン=ゲルツ、か。覚えておこう。

「気が変わった!お前らは今日から俺の子分だ!グラウエルここにいる限り、飢えや理不尽とはおさらばさせてやるぜ!」
「「「「「お、お頭ァ!!」」」」」
 ダリオたちが歓声を上げる。

 なんか自分で言ってて恥ずかしくなってきたが……こういうの、なんか悪くない気分だ。


 一連の様子を、オルファがじっと見ていた。

「……」
 盗賊を一瞬で無力化、そしていつのまにか人心掌握まで。

 ……この男、もしかしたら意外とデキるやつなのか?


「オルファさん?」
 リーシャが横から顔を覗き込む。

「な、何よ」
「その顔、ようやくユーヤ様の凄さが分かってきたみたいですね~?」
「別にそんなんじゃ——」

「入信しませんか~? 今なら特典つきですよ~」
「特典って何よ……」

「ユーヤ様の分身抱き枕です~」
「い、いらないわよ!!」



————————————————————


 その夜。

 建設中の教会の裏手——温泉とは反対側で、リーシャとダリオたちが密かに話していた。

「——で、ゲルツの野郎はファルミス教の熱心な信者でして」
「ファルミス教……」

「この国の国教っす。六属性ステータス至上主義で禁忌持ちは悪魔の使いだから殺せ、みたいなことを言ってる連中で……」

「……」
 リーシャの目が、すっと細くなる。

「ゲルツの野郎は、その教えを盾にして好き放題やってるんすよ。『神の名のもとに税を納めろ』とかなんとか言って」

「……なるほど」
 リーシャがにっこり笑った。

「ダリオさん。ヤルダヴォート教に興味はありますか~?」
「ヤルダ……なんすか?」

「私たちの信じる教えです~。禁忌は悪じゃない、自由こそが正義、ファルミス教の差別主義に対抗する——そんな教義なんですよ~」

「……!」
 ダリオの目が輝いた。

「そ、それって……俺たちみたいな、はみ出し者でも受け入れてくれるってことっすか?!」
「もちろんです~! ユーヤ様は我らが救世主。こうして皆を導いてくださっているのです~」

「救世主……」
 ダリオが建設中の黒い教会を見上げた。

「そういえば、あの教会の色……」
「お気づきになりましたか~?」
 リーシャがにっこり笑った。


「ダリオさん、ゲルツ領にはファルミス教会がありましたよね~?」
「ああ、あの白いやつっすか。デケえのが建ってましたね」

「ええ~。ファルミス教の教会は「白」。純潔と正義の象徴だそうです~」

 リーシャが黒い教会を指さした。
 「——で、こっちは黒。もちろん、発案者はユーヤ様」

「………!」

「確固たる対立の意思、というやつですかね~」
 ダリオの目が輝く。

「宣戦布告ってことっすか!! お頭、なんて御方なんだ!!」
 盗賊たち全員が興奮している。

「俺たち、お頭のところヤルダヴォート教に入信するっす!!なぁ?野郎ども!」
「「「「「もちろんっす!!」」」」」

「うふふ。ようこそ、ヤルダヴォート教へ」
 リーシャが満面の笑みが、月の光を受けて怪しく輝く。


「……ただし、ダリオさん。一つだけお願いがあります」
「な、なんすか?」

「ユーヤ様は『禁忌持ち』です。当然、見つかれば処刑対象ですね~」
「…!!」

「ですから、今はまだ大事にしたくないんです~。私たちは力をつけている最中。決戦の時に向けて、ね?」
 リーシャの声は、相変わらず間延びしているのに——どこか凄みがあった。

「なので、大それた考えは持たないでください。『宣戦布告』とか、『革命』だとか」
「も、もちろんっす!」

「ユーヤ様は優しい方ですから、皆さんのために無茶をしかねません……そうならないように、精一杯補佐する。それが私たちの役目なんです~……時が来るまでは」
 ダリオたちが神妙な顔で頷く。


「えへへ~、分かってくれて嬉しいです~」
 リーシャがいつものほわほわした笑顔に戻る。



————————————————————


 その頃、ユーヤは温泉に浸かりながら、何も知らずにぼーっと空を眺めていた。

「あ~…極楽…こうなるとやっぱり、酒も欲しくなるよなあ」


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