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⑧凶悪
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凶悪
スーパーを追われるように出た睦生達【陰キャグループ】の4人は、次にどこへ行くか考えているうちに、街中の店という店がどんどん閉まっていく現象に見舞われた。
結局は彼らの住むマンションの提供公園に屯っていた。
睦生と祐介はブランコに乗りながら雑談し、俊と翼はベンチで将棋なんぞを打ち、各々楽しんでいた。
見知らぬ中年女性に声を掛けられたのは、睦生の家で遊ぼうという事になり、公園を出ようとしていた所だった。
「あなた達、3年A組の子?」
突然の事に、睦生達は身を寄せ合う。
「あ、はい……」
「うちの子!理代子がどこ行ったか知らない?」
その中年女性は、斎藤理代子の母であるという。
斎藤理代子はおそらくクラスメイトなのであろうが、名前を言われてもピンと来ず、彼らは互いに顔を見合わせた後、首を横に振った。
斎藤母は露骨に残念そうな顔を見せた。
「そう……とりあえず、あなた達!今すぐ家に帰りなさい!」
「……なにかあったんですか?」
その正気の沙汰ではない様子に、睦生は純粋な疑問をぶつけた。
「なにって、今《巡回》中よ?先生に見つかったら殺されるのよ!」
「……え?」
睦生は思わず、間の抜けた声を上げた。
斎藤母の突拍子もない発言に、祐介は鼻で笑う。
「は、そんなわけないでしょ」
「確かにそんな噂話が出ているのは知ってるけど」
「あるわけない」
黙っていた俊と翼も口々に言う。
以前からそんな話はあった。けれど、先生が生徒を殺すなんて到底信じられる話でもなければ真に受けられるものでもない。
中学生が持ち合わせる浅はかな常識と、小さな想像力で出した答えは、〈寄り道せず、真っ直ぐ家に帰らせるための文句〉だった。
しかし、大人は続ける。
「噂じゃないわよ!本当に殺されちゃうんだから!見つかったらおしまいよ!」
あまりの剣幕に、彼らは怯んだ。
街の異変、ついさっき聞いたサイレンやアナウンスの事もあり、この話が信憑性を帯びてきたと感じ始めたのだ。
「え……ほんと?」
「そうよ!だから早く帰りなさい!危険は先生だけじゃないのだから!もう外は危険なの!」
「まだ、なにか―」
意味深な発言に、疑問をぶつけようとした時だった。
―シャン
「来た……」
その音を聞いた時、斎藤母が振り返って怯えだした。
その顔は、みるみるうちに青ざめていく。
向けた視線の先には道路が一本あり、その向かい側に住宅街へ続く下り階段がある。
音は、そこから聞こえてくる。
―シャン ―シャン
音は、どんどん近づいている。
その場にいる5人は何故だか動くことが出来ず、固唾を飲んで音のする方を見ていた。
やがて、階段を上ってくる人影が見え始めた。
―シャン ―シャン ―シャン
音と共に階段を一段、また一段と上ってくる。
頭が完全に見えた。教師ではない。
俯いていて、表情までは伺えないが、男だった。
そして階段を上り切った男は、その全貌を見せた。
《巡回》開始30分前―
【ヲタク男子グループ】岩本秋哉の母、岩本こずえは焦っていた。
程なくして《巡回》が始まるというのに、息子が帰っていなかったからだ。
そんな中、スマートフォンのメッセージアプリに連絡が入ってきた。
クラスの保護者同士で出来たグループがあり、そのグループを創設した、花江みなこからだった。
『保護者の皆様へ 巡回実施が決定しました。我が子は、未だに帰っていません。私はこれから探しに出ようかと思います。もし、私以外にも、お子さんがまだ帰らないというお宅がございましたら、一度集まって、共に探しませんか?15分後に秋柏尾広場にお集まりいただきたいです。来られる方は返信をください。ご協力の程よろしくお願いします』
こずえは一もニもなくその提案に賛同し、簡潔に『向かいます』とだけ返事をして、家を飛び出した。
いつもの癖で、普段持ち歩くハンドバッグを手に取り、ハイヒールを履いてしまった。その為、家を出ては早々転び、バックの中身を道路にぶちまけてしまった。
冷静な思考の出来ていないこずえは、几帳面にも落としたものをかき集め始める。
「―大丈夫ですか?」
小物を拾うこずえの背後に、一人の男が現れた。
真っ黒なワイシャツに真っ黒なジーパン。そして、真っ白なロングカーディガンを身に纏ったその男は、とても美しい顔立ちをしている。
小物拾いを手伝いながら、話しかけてきた。
「これからお出かけですか?もうすぐ《巡回》が始まりますよ」
「そうなんです……あの、まだ、うちの子が帰ってなくて……あなたも?」
「……まぁ」
そう答える美しい横顔を見てふと、こずえはその男に違和感を持った。
中学三年生の子供がいるには、随分若過ぎる気がしたのだ。
見た目は二十代前半、若作りなだけなのかもしれないが、四十は行っていないだろう。ご兄弟だろうか。
さらに、この男には見覚えがあったのだ。
どこかで逢ったとかではない。
その整っている顔立ちから、役者さんかタレントさんか、テレビなどで見たのかもしれない。
ただ、何で見たのかを思い出せずにいた。
今はそれどころではないのに、こずえは質問した。
「本当に保護者の方ですか?」
男は、小物を拾う手をぴたりと止めると、こずえの方へ向き直った。
そして、右手でポケットをまさぐって、それを取り出した。
外で見るにはあまりに異彩を放つそれを見た時、こずえは思い出した。
この男が何者かを理解した。
「カツン」と、ヒールでコンクリート打ったような音が、頭の中に響いた。視界は真っ暗だった。
薄れゆく意識の中で、こずえは思った。
テレビに映るのは、俳優やタレントだけではない。
私はバカだ。
ニュースやワイドショーで随分話題となっていたのに。
犯罪者。彼は人殺し。殺人鬼だ。
こずえの顔面に、包丁が突き刺さっていることを、彼女は知る由もなかった。
こずえのスマートフォンが、着信音を鳴らした。メッセージアプリの新規メッセージが通知されたのだ。
男は、スマートフォンを拾い、ロック画面に表示されたメッセージを見た。
『岩本さん、葛森さん、どうかしましたか?もう皆集まっていますよ?』
スマートフォンのホームボタンを、指で押さえてみると、画面に指紋認証マークが表示され、男の指紋を読み取っていく。スマートフォンが震え、画面上部に南京錠のマークが出てきた。
男は、こずえの顔から包丁を引き抜き、その遺体から親指を切り取った。その指をホームボタンに乗せると、ロックは難なく解除された。
メッセージアプリでのやり取りを遡り、《巡回》対象となった子供の保護者が集まることを、男は知った。
『すぐ向かいます』
メッセージを返信し、こずえのスマートフォンと親指をズボンの右ポケットに押し込んだ。そして、左ポケットから包丁研ぎを取り出し、そこに包丁を通した。
―シャン
【殺人鬼】大原マサ彦が、動き出した。
スーパーを追われるように出た睦生達【陰キャグループ】の4人は、次にどこへ行くか考えているうちに、街中の店という店がどんどん閉まっていく現象に見舞われた。
結局は彼らの住むマンションの提供公園に屯っていた。
睦生と祐介はブランコに乗りながら雑談し、俊と翼はベンチで将棋なんぞを打ち、各々楽しんでいた。
見知らぬ中年女性に声を掛けられたのは、睦生の家で遊ぼうという事になり、公園を出ようとしていた所だった。
「あなた達、3年A組の子?」
突然の事に、睦生達は身を寄せ合う。
「あ、はい……」
「うちの子!理代子がどこ行ったか知らない?」
その中年女性は、斎藤理代子の母であるという。
斎藤理代子はおそらくクラスメイトなのであろうが、名前を言われてもピンと来ず、彼らは互いに顔を見合わせた後、首を横に振った。
斎藤母は露骨に残念そうな顔を見せた。
「そう……とりあえず、あなた達!今すぐ家に帰りなさい!」
「……なにかあったんですか?」
その正気の沙汰ではない様子に、睦生は純粋な疑問をぶつけた。
「なにって、今《巡回》中よ?先生に見つかったら殺されるのよ!」
「……え?」
睦生は思わず、間の抜けた声を上げた。
斎藤母の突拍子もない発言に、祐介は鼻で笑う。
「は、そんなわけないでしょ」
「確かにそんな噂話が出ているのは知ってるけど」
「あるわけない」
黙っていた俊と翼も口々に言う。
以前からそんな話はあった。けれど、先生が生徒を殺すなんて到底信じられる話でもなければ真に受けられるものでもない。
中学生が持ち合わせる浅はかな常識と、小さな想像力で出した答えは、〈寄り道せず、真っ直ぐ家に帰らせるための文句〉だった。
しかし、大人は続ける。
「噂じゃないわよ!本当に殺されちゃうんだから!見つかったらおしまいよ!」
あまりの剣幕に、彼らは怯んだ。
街の異変、ついさっき聞いたサイレンやアナウンスの事もあり、この話が信憑性を帯びてきたと感じ始めたのだ。
「え……ほんと?」
「そうよ!だから早く帰りなさい!危険は先生だけじゃないのだから!もう外は危険なの!」
「まだ、なにか―」
意味深な発言に、疑問をぶつけようとした時だった。
―シャン
「来た……」
その音を聞いた時、斎藤母が振り返って怯えだした。
その顔は、みるみるうちに青ざめていく。
向けた視線の先には道路が一本あり、その向かい側に住宅街へ続く下り階段がある。
音は、そこから聞こえてくる。
―シャン ―シャン
音は、どんどん近づいている。
その場にいる5人は何故だか動くことが出来ず、固唾を飲んで音のする方を見ていた。
やがて、階段を上ってくる人影が見え始めた。
―シャン ―シャン ―シャン
音と共に階段を一段、また一段と上ってくる。
頭が完全に見えた。教師ではない。
俯いていて、表情までは伺えないが、男だった。
そして階段を上り切った男は、その全貌を見せた。
《巡回》開始30分前―
【ヲタク男子グループ】岩本秋哉の母、岩本こずえは焦っていた。
程なくして《巡回》が始まるというのに、息子が帰っていなかったからだ。
そんな中、スマートフォンのメッセージアプリに連絡が入ってきた。
クラスの保護者同士で出来たグループがあり、そのグループを創設した、花江みなこからだった。
『保護者の皆様へ 巡回実施が決定しました。我が子は、未だに帰っていません。私はこれから探しに出ようかと思います。もし、私以外にも、お子さんがまだ帰らないというお宅がございましたら、一度集まって、共に探しませんか?15分後に秋柏尾広場にお集まりいただきたいです。来られる方は返信をください。ご協力の程よろしくお願いします』
こずえは一もニもなくその提案に賛同し、簡潔に『向かいます』とだけ返事をして、家を飛び出した。
いつもの癖で、普段持ち歩くハンドバッグを手に取り、ハイヒールを履いてしまった。その為、家を出ては早々転び、バックの中身を道路にぶちまけてしまった。
冷静な思考の出来ていないこずえは、几帳面にも落としたものをかき集め始める。
「―大丈夫ですか?」
小物を拾うこずえの背後に、一人の男が現れた。
真っ黒なワイシャツに真っ黒なジーパン。そして、真っ白なロングカーディガンを身に纏ったその男は、とても美しい顔立ちをしている。
小物拾いを手伝いながら、話しかけてきた。
「これからお出かけですか?もうすぐ《巡回》が始まりますよ」
「そうなんです……あの、まだ、うちの子が帰ってなくて……あなたも?」
「……まぁ」
そう答える美しい横顔を見てふと、こずえはその男に違和感を持った。
中学三年生の子供がいるには、随分若過ぎる気がしたのだ。
見た目は二十代前半、若作りなだけなのかもしれないが、四十は行っていないだろう。ご兄弟だろうか。
さらに、この男には見覚えがあったのだ。
どこかで逢ったとかではない。
その整っている顔立ちから、役者さんかタレントさんか、テレビなどで見たのかもしれない。
ただ、何で見たのかを思い出せずにいた。
今はそれどころではないのに、こずえは質問した。
「本当に保護者の方ですか?」
男は、小物を拾う手をぴたりと止めると、こずえの方へ向き直った。
そして、右手でポケットをまさぐって、それを取り出した。
外で見るにはあまりに異彩を放つそれを見た時、こずえは思い出した。
この男が何者かを理解した。
「カツン」と、ヒールでコンクリート打ったような音が、頭の中に響いた。視界は真っ暗だった。
薄れゆく意識の中で、こずえは思った。
テレビに映るのは、俳優やタレントだけではない。
私はバカだ。
ニュースやワイドショーで随分話題となっていたのに。
犯罪者。彼は人殺し。殺人鬼だ。
こずえの顔面に、包丁が突き刺さっていることを、彼女は知る由もなかった。
こずえのスマートフォンが、着信音を鳴らした。メッセージアプリの新規メッセージが通知されたのだ。
男は、スマートフォンを拾い、ロック画面に表示されたメッセージを見た。
『岩本さん、葛森さん、どうかしましたか?もう皆集まっていますよ?』
スマートフォンのホームボタンを、指で押さえてみると、画面に指紋認証マークが表示され、男の指紋を読み取っていく。スマートフォンが震え、画面上部に南京錠のマークが出てきた。
男は、こずえの顔から包丁を引き抜き、その遺体から親指を切り取った。その指をホームボタンに乗せると、ロックは難なく解除された。
メッセージアプリでのやり取りを遡り、《巡回》対象となった子供の保護者が集まることを、男は知った。
『すぐ向かいます』
メッセージを返信し、こずえのスマートフォンと親指をズボンの右ポケットに押し込んだ。そして、左ポケットから包丁研ぎを取り出し、そこに包丁を通した。
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