巡回

ねこ皇子

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㉕合流

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「あ、いたいた。もう少し多く笛鳴らしてくださいよ。飯田先生」
「あー、ごめんごめん」
 飯田先生は、数子に負わされた傷を手当てしてもらう為に小野先生を笛で呼んでいた。

 保健指導の教師である小野先生は、教師たちの応急手当てという役割があった。
 《巡回》に出た教師の中に負傷者が出た場合、救急車を呼べないのはもちろんのこと病院なども外部からの者は受け入れられないので、応急手当てをする要員として保健指導の教師が《巡回》に参加するのだ。必要とする時の合図は、白い笛を鳴らす事となっている。

「うわっ!すごい怪我……どうしたんですかこれ?誰にやられたんですか?」
「え、なんか……知らない女の人」
「女の人?保護者の人ですかね」
「んー、そういう感じでもなかったけど」

 小野先生は、手を動かしながら、独り言のように呟く。

「……《巡回》ってこんなに部外者がいるものなんですね」
「そうなのかもね……もう、面倒くさいよな」

 そう言う飯田先生の声には、怒りが含まれている気がした。
 小野先生は、彼の顔を覗き見る。
 その表情はやはり、怒っていた。
 目は充血し、頬を微かに痙攣させている。

「大丈夫……ですか?」
「ああ、大丈夫。ありがと」

 飯田先生は、立ち上がると、目を血走らせながら静かに呟いた。

「……皆殺しにしてやる」


 スイセンを先頭に【陽キャグループ】は街の中を彷徨っていた。

「スイセンさん、まだ着かないのですか」
「ちょっと待ってよ。ナノハナさんの家は知っているんだけど、ここら辺の土地勘は無いんだよ。一回、わかる道まで出ないと……」

 言い訳がましく言うスイセンに、尚也は呆れた。


「あ、ケイイチ達……」
 物陰から、彼らの前に現れたのは【陰キャグループ】と【ヲタク女子グループ】だった。

「……みんな、大丈夫?」
 【陽キャグループ】と大して仲良くない【陰キャラグループ】の俊は、しどろもどろになりつつも話しかける。

「大丈夫じゃない。圭一がすごいケガをしているの。あなた達は?」
 アリサが答えると、俊も「ケガはない」と状況を話した。

「ねぇ、睦生と祐介は一緒じゃないの?」
 俊からの質問に、アリサは首を傾げた。

「睦生と祐介?」
「うん。睦生と祐介は、君達を探しに行ったんだけど……」
「会ってないけど……何で私たちを?」
「もうわかっていると思うけど、いま《巡回》中でしょ?睦生は君達が寄り道するつて事を知ってたから、もし《巡回》実施を知らなかったらと思って、それを伝えようと。それともう一つ」

 俊はこれから伝えようとすることを思うと、急に喉が渇いてくる。
 唾を飲み込み、喉を潤した。

「街に、殺人犯がいるんだ」
「殺人犯?あの女の事?」
「は?女?なにそれ?」

 二人で、困惑しているまさにその時、遠くで声が聞こえた。

「ナノハナく~ん……ナノハナく~ん」

 距離があっても耳元で囁かれているような錯覚を引き起こさせるこの粘着質な声は、間違いなく数子のものだった。

「あれよ……あの声」
「え、なに?」
「ちょっと、色々あるだろうし、話は動きながらにしましょう」

 スイセンを先頭に、計十人の集団は、数子の声から逃げるように移動を始める。

「それで、なに殺人犯って?先生達の事?」
 アリサが改めて俊に問う。

「え、それもそうだけど違う。俺が言ってるのは、大原マサ彦だよ。最近ニュースでよく見るでしょ?留置場から逃げ出した連続殺人鬼」
「は?……嘘でしょう?そいつがこの辺にいるっていうの?」
「嘘じゃないよ。俺達は見たもん」

 話す俊の隣で翼が無言で頷く。

「それで……女の殺人鬼もいるの?」
 人と話す、特に異性と話す事が極端に苦手な俊は、一回一回勇気を振り絞りながら話し出す。

 アリサは、緊張した面持ちを変えずに、訳を話す。
「いや、殺人鬼というか……ストーカー?」
「ストーカー?」

 俊は怪訝な表情を見せ、アリサに先を話す事を促した。

「動画配信者のナノハナさんって人、知ってる?」
「なのはなさん?……ああ、まぁ名前くらいは」
「その人に、ストーカーしている人がいてね?結構アブない感じの人だったの。それこそ人を殺しそうな感じ」
「そのストーカーまでもが、この《巡回》に……?」
「うん……」

 アリサは、《巡回》が始まって早々、伊藤彩と根口卓也を飯田先生に殺された事。逃げている最中、ナノハナと会い、助けを求めた事。数子と飯田先生に度々襲われ、ナノハナとはぐれた事と、今までの経緯を話した。

 アリサは、先頭を歩くスイセンを控え目に指さす。
「あの人が、ナノハナさんの友達みたいで。今、ナノハナさんの家に案内してもらっていたところなのよ。あなた達は?」
 俊の後ろに続く団体に目を向けたあと、アリサも俊に今で会った事の説明を求めた。

 俊は同じように、経緯を話し始める。
 豊田先生が飯田先生の襲撃から守ってくれた事を伝えると、アリサは驚きの声を上げた。

「え!豊田先生が?」
「うん、それに助ける手段も用意してくれてた」
「なにそれ?」
「この《巡回》は、四時半には絶対に終了するんだって。その時間までの隠れ家を先生が用意してくれてるみたい」
「それ本当?その隠れ家はどこなの?」

 問われた俊は、バツの悪い表情をせた。

「ごめん……俺、聞きそびれちゃったんだ。駅近くの倉庫を借りたって言ってたけど……ねぇ、そこの。誰か場所の詳細聞いてる?」

 後ろに続く【ヲタク女子グループ】は、首を横に振った。

「……ごめん」
 落ち込む俊に、アリサは優しく声を掛ける。

「大丈夫よ。殺人犯の存在と制限時間がある事を知らせてくれただけでも充分お手柄だわ。ありがとう」

 クラス一の美少女と言われるアリサに微笑まれ、俊は顔を真っ赤にした。
 目を合わせられていなかったのはもちろんの事、遂に顔まで背けてしまう。

「……ごめん」
 恥ずかしそうに呟くと、「なによそれ」とアリサは笑い、再び緊張の面持ちに戻った。
 しばらく考える素振りを見せる。

「……でも、駅近くで倉庫を貸し出しているところは二、三カ所くらいだった気がするわ」
「……豊田先生は、後で必ず迎えに行くって言っていたけど、もしかしたら殺されているかもしれないし、自力で探し当てるしか、ないのかも」

「あっ、大通りに出るぞ」
 先頭のスイセンが、声を上げる。

 目の前は、T字路状に大通りに出られるようになっていた。
 普段、自動車が走り絶えない大通りも、今日ばかりは静まり返っている。

「一気に見通しが良くなる。皆周りに気を付けて」

 左右を見ながら大通りに出たスイセンの顔が、左を向いたまま固まる。

「あ」

 スイセンの後ろに皆が続き、同じ方向を見て表情を強張らせた。

 長い大通りの向こうの方から歩いてくるのは、血にまみれた女。
 【ストーカー】小山数子だった。

 数子は、団体の姿を見ると、カチカチカチとカッターナイフの刃を出した。

「お前等は……もういいんだよぉぉぉぉおおお!」

 言葉とは裏腹に、刃物を振り回しながら数子は迫ってきた。

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