何処かに居そうな人の話

ねこ皇子

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釣り

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 海の岸辺に、釣り人が一人いました。

 彼の隣には、何匹もの生魚の入ったバケツが置いてありました。
 このバケツに入っている魚は、釣果ではありません。
 より大物を釣り上げるための餌なのです。

 ここには釣り人がどうしても釣りたいと思う大物の獲物がいるのでした。

 釣り人は、海の様子を見ながらバケツに手を突っ込むと、魚を一匹掴みます。
 その魚を慣れた手つきで釣り針に着け、竿を振りました。

 一羽のカモメが、釣り人の所へやってきました。
 カモメは餌の入ったバケツの横に降り立ちます。

 カモメは、釣り人に質問しました。

「この魚、食べていい?」
「一匹だけならいいよ。」
「ありがとう!」

 カモメはお礼を言うと、バケツから魚を一匹咥え、上機嫌に飛び去りました。
 釣り人もお礼を言われ、気分を良くします。

 間もなく、釣り竿に当たりが来ました。
 手に伝わる振動で、彼のお目当てである獲物が掛ったのだとわかります。
 しかし、釣り人の奮闘もむなしく、逃げられてしまいました。

 気を取り直すと、餌をつけ、再挑戦します。

 先ほど来たカモメが、再びやってきました。

「この魚、食べていい?」
「さっきあげたでしょ?ダメだよ。」

 釣り人がそういった時、当たりがきました。
 またしても、さっき逃したお目当ての獲物です。

 カモメは、釣り人が奮闘している隙に、魚を一匹咥えて飛び立ちました。

「ありがとー」
「あっ……」

 お礼を言いながら飛び立つカモメに、釣り人はようやく、魚を取られてしまった事に気付きました。さらに、それと同時に、掛った獲物も逃してしまいました。
 内心穏やかではありません。

 乱暴にバケツの中の餌を掴み、釣りを再開します。

 当たりは、しっかりとやってきます。釣り人は奮闘します。

 そこへ、カモメがやってきました。
 今度は、何の断りもなく勝手に魚を咥えていきました。
 お礼も言いません。

 釣り人は、カモメに餌を奪われた事に一瞬気を取られてしまい、その隙に、掛った獲物も逃してしまいました。

 怒り心頭です。

 苛立ちながら、釣りは再開されます。もちろん当たりが来ました。
 もちろん、カモメもやってきました。

 海を睨みつけ、釣りに集中している釣り人を見るや、ついにカモメはバケツに入り込み、魚を食い荒らし始めました。

 カモメが魚を食い散らかしている間にも、釣り人はまたしても、釣果を上げる事が出来ませんでした。

 釣り人は、海を睨みつけたまま、餌を取ろうとバケツに手を突っ込みました。

 その手は、バケツの中で魚を食い荒らしているカモメを間違えてつかみ取りました。

「うわ!なにをするんだ!放せ!」

 カモメは暴れます。
 しかし、釣り人は海に集中していて、カモメを掴んでいることに気が付きません。

 餌を掴んでいると思い込んでいる釣り人は、慣れた手つきで、釣り針をカモメの喉に突き刺しました。

「ぐぇええええぇ!」

 カモメは叫びます。

 そこでようやく釣り人は、餌を掛け間違えている事に気が付きました。

 バケツの中を確認すると、中身は空っぽ。
 餌の魚がもうありませんでした。
 カモメがすべて食べてしまっていたのです。

 釣り人は、カモメの付いた釣り糸を海に投げ込みました。

 そして、念願の釣果を上げたのでした。
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