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品のある叫び声とは
しおりを挟む「叫ぶにしても品がない」
私の部屋にあるローテーブル前にあぐらをかいて座った彼は、呆れたように眉をひそめた。
私の叫び声に驚きなんだなんだと集まったアパートの住民たちに、ゴキブリが出たとありきたりな嘘をついてペコペコ頭を下げたあと、私はようやく落ち着きを取り戻して自室へ戻ってきた。
男は当然のように室内にいた。自分の部屋のように寛ぎ、疲れ果てた私に先程の言葉を投げつけたのである。
むっとして言い返す。
「驚いた時の声に品も何もないでしょ?」
「もっと女らしく叫べないのか」
「未だかつて浮いてる人間になんて出会ったことがないもので、あまりの衝撃だったんです!」
「だから私は人間じゃないのだが」
はあと深い深いため息をついた。とりあえず床に崩れるように座り込み頭を抱える。
咲いた花の事と、浮いてた事で、なんだかどうやらこの人は人間ではないらしいということが分かった。信じ難いがあんな光景を見せられては信じざるを得ない。
ちらりと前を見ると、なぜか勝ち誇ったように笑う男。確かに言葉で表現できない不思議なオーラを纏ってはいる。けど、さあ……
私は力強く顔を上げる。強気に言った。
「あなたがどうやら人間ではないということは分かりましたけど? 神様だなんてやっぱり信じられませんね」
「なに?」
「だって全然神様ぽくないし。あなたが言ったんですよ、私の陽の気は妖とか低級霊とかいろんな物が寄ってくるって。あなたがそうじゃない証拠なんてないでしょ? 私の陽の気が欲しいって目的も一緒だし」
少し挑発的に言ってやった。驚かされてばかりでなんだか悔しかったからだ。
彼は気分を害するかと思いきや、納得したように何度か頷いた。テーブルに頬杖をつく。
「ま、正論だ」
「え」
「疑り深いことは悪いことじゃない。何でもホイホイ信じると痛い目に遭うこともあるからな。あんたが言うことは確かにその通り、私はこの世のものでは無い証明は出来ても神であるという証明は出来ない。特に今は力もなくしてる」
「意外と素直で拍子抜け」
私は力の抜けた身体を今一度しっかり起こし座り直す。というか、今更だけれどこの男なぜ当然のように私の部屋にいるんだ。馴染んでて突っ込む暇もなかった。
「……というわけでお帰り願えますか? 私は身元がわからない男に抱かれるほど尻軽じゃ無いですし、てゆうか神様だとしても抱かれませんし!」
「かたいな」
「はっ! まさか、無理矢理するつもりじゃ……! 警察呼びますよ!」
「阿呆。神が合意なく人間を犯すか、そんなことしたら埋められるじゃ済まない、消滅だ」
呆れたように言った彼の言葉に、少しだけほっとした。いや、信じすぎるのは良く無い。私は背後のキッチンにある包丁をチラリと見て確認する。いざとなったらあれを持ち出してやる。
「神様が神様を消滅させるって、なんかすごいですね?」
「我々の世界もヒエラルキーはある。その階級によって力の強さもまるで違う」
「あなたは今どれくらいの階級なの?」
「そうだな……分かりやすく人間の世界で言うと。一番上を社長としたら、私はアルバイトかな」
(正社員でもないのか)
私の心の声が聞こえたように、彼はやや不服そうに唇を尖らせる。
「昔は無論もっと上だったよ。禁忌を犯すまで」
「禁忌って?」
「言わない」
「気になる……」
「力を奪われあの祠に埋められた。消滅ではないが、中々大きな罰だった。あんな汚い祠に祈る人間がそんなに沢山いるわけないだろう? 本来ならもう数十年年埋められていたかもな」
まるで現実とかけ離れた話で、全然ついていけないしなんなら信じてもいない。どこかの映画の話題を話しているような感覚だ。
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