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何だこの可愛い生き物は
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私は聞き返す。
「今日はないんですか?」
「うん、だって場所が泊まり込める場所じゃないもん」
「どこに向かってるんですか?」
私が尋ねると、バックミラー越しに暁人さんがこちらを見た。そして答える。
「廃ホテルです」
「廃ホテル……」
聞いた途端、やはり今日は見送った方がよかったんじゃないか、と後悔した。廃業したホテルや病院などは、心霊スポットとして真っ先に思い浮かぶ場所である。曰くがある場所という覚悟はしていたものの、まさか廃墟にいくとは。
顔を青くしてしまった私に気付き、暁人さんがハンドルを操作しながら言う。
「やはり初めての場所としては刺激が強いのでは。すみません、初めに言っておけばよかったかも」
「い、いえ……大丈夫です」
もうそこに向かっているのだから、今更引き下がれまい。私は無理矢理笑って見せた。
暁人さんが続ける。
「ただ、場所は雰囲気がありますが、今日は悪霊がいない可能性も高いんです」
「と、いいますと?」
「依頼主はテレビ局です。心霊スポットとして地元では有名な場所ですが、あくまで噂。そこに企画として芸能人が入るそうなんです」
「ああ、よくある心霊番組ですね」
寒くなってきた今は季節外れともいえる心霊番組。主に夏に放送されることが多い。内容としては、心霊写真の特集をしたりだとか、曰くのある人形を紹介するだとか、あとは幽霊が出ると噂される場所に芸能人が調査に行く。私もよく家で見ては、ゾクゾクわくわくしたものだ。
が、正直なことを言うと、心霊番組で紹介される全てが本物だとは思っていない。中には故意に作られたものや、たまたまそうなってしまったものなどが多いと思っている。
暁人さんが続ける。
「そこで、中に入る芸能人に危害を及ぼすような悪霊がいないかどうか、調べてほしいという依頼です。稀にこういう依頼があります」
「え、あらかじめ調査してから入るんですか!?」
そんなのは初耳だ。隣の柊一さんが説明を引き継ぐ。
「全部の番組がそうってわけじゃないよ。今回依頼してきたテレビ局は、ずっと前企画で中に入った芸能人が、なーんかやばい目に遭っちゃったんだって。それから、こっそり調査してから撮影することになったんだって」
「金もかかるので、基本的に他のテレビ局はしてないと思います。幽霊がいるかいないか、ではなく、人に危害を及ぼすような悪霊がいないかの調査です。本当の恐怖体験になってしまっては、放送も出来なくなるし損する部分が多いですから」
初めて聞いた話に唸る。でもまあ、簡単に言えば安全確認なんだろう。何もせずにタレントを心霊スポットに放り投げるより、ずっと安全だし真面目な気がした。
「なるほど、それで見に行くんですね」
「そうです。今日あえて夜を選んだのも、撮影する時間が夜だからです。同じ条件で見ておかねばなりませんから」
「じゃあ、普段は昼に調査することも多いんですか」
「もちろんです。それと、どんな霊がいるかは分からないので、井上さんの出番がないこともあります」
一瞬意味が分からずきょとん、としてしまうが、少しして理解が追い付いた。
柊一さんが相手にするのは、力の強い悪霊だ。そのほかは暁人さんが祓うという。もし今日行く廃ホテルに悪霊がいなければ、柊一さんの出番はないのだ。そうなると、もちろん私もやることなし。
そうか……同行したとしても、私の仕事がないパターンもあるのか。
「悪霊って、やっぱり見ただけで分かるんですか?」
尋ねると、柊一さんが考えながら言う。
「んー厳密に言うと、見ただけで分かるときもあれば、そうじゃないときもある。一目でヤバイな、って感じるものもいるよ、そういうのはもはや人間の頃の面影が残ってない」
どんな形をしているんだろう……。
「でもすぐに判断がつかないこともある。霊にも個性があってね、本性を故意に隠してるやつがいたり、力は強いのに別に人に危害を与えようとは思ってなかったり、とにかく色々いるんだよ」
「難しいですね。こういう世界の話は聞いたことがないので、よくわかりません」
柊一さんが頷く。
「普通に生きてたらないよね。とにかく、僕たちから離れず、無理だと思ったらすぐに言うこと。それが遥さんのお仕事だよ」
まるで子供に言い聞かせるように言ってくる柊一さんに、頷いて見せた。暁人さんがバックミラー越しに、珍しい物を見る目で柊一さんを眺める。
「柊一がずいぶんしっかりして見えるな。普段からそうシャキッとしててほしいもんだよ」
「僕は普段からしゃきっとしてる」
「どこがだよ。多分お前の天然ぶりは井上さんも気づいてる」
「天然じゃない」
「天然だ」
柊一さんが口をとがらせている。それを横から、瞬きもせずに唖然として見つめた。か、可愛い。何だこの生き物は!
「今日はないんですか?」
「うん、だって場所が泊まり込める場所じゃないもん」
「どこに向かってるんですか?」
私が尋ねると、バックミラー越しに暁人さんがこちらを見た。そして答える。
「廃ホテルです」
「廃ホテル……」
聞いた途端、やはり今日は見送った方がよかったんじゃないか、と後悔した。廃業したホテルや病院などは、心霊スポットとして真っ先に思い浮かぶ場所である。曰くがある場所という覚悟はしていたものの、まさか廃墟にいくとは。
顔を青くしてしまった私に気付き、暁人さんがハンドルを操作しながら言う。
「やはり初めての場所としては刺激が強いのでは。すみません、初めに言っておけばよかったかも」
「い、いえ……大丈夫です」
もうそこに向かっているのだから、今更引き下がれまい。私は無理矢理笑って見せた。
暁人さんが続ける。
「ただ、場所は雰囲気がありますが、今日は悪霊がいない可能性も高いんです」
「と、いいますと?」
「依頼主はテレビ局です。心霊スポットとして地元では有名な場所ですが、あくまで噂。そこに企画として芸能人が入るそうなんです」
「ああ、よくある心霊番組ですね」
寒くなってきた今は季節外れともいえる心霊番組。主に夏に放送されることが多い。内容としては、心霊写真の特集をしたりだとか、曰くのある人形を紹介するだとか、あとは幽霊が出ると噂される場所に芸能人が調査に行く。私もよく家で見ては、ゾクゾクわくわくしたものだ。
が、正直なことを言うと、心霊番組で紹介される全てが本物だとは思っていない。中には故意に作られたものや、たまたまそうなってしまったものなどが多いと思っている。
暁人さんが続ける。
「そこで、中に入る芸能人に危害を及ぼすような悪霊がいないかどうか、調べてほしいという依頼です。稀にこういう依頼があります」
「え、あらかじめ調査してから入るんですか!?」
そんなのは初耳だ。隣の柊一さんが説明を引き継ぐ。
「全部の番組がそうってわけじゃないよ。今回依頼してきたテレビ局は、ずっと前企画で中に入った芸能人が、なーんかやばい目に遭っちゃったんだって。それから、こっそり調査してから撮影することになったんだって」
「金もかかるので、基本的に他のテレビ局はしてないと思います。幽霊がいるかいないか、ではなく、人に危害を及ぼすような悪霊がいないかの調査です。本当の恐怖体験になってしまっては、放送も出来なくなるし損する部分が多いですから」
初めて聞いた話に唸る。でもまあ、簡単に言えば安全確認なんだろう。何もせずにタレントを心霊スポットに放り投げるより、ずっと安全だし真面目な気がした。
「なるほど、それで見に行くんですね」
「そうです。今日あえて夜を選んだのも、撮影する時間が夜だからです。同じ条件で見ておかねばなりませんから」
「じゃあ、普段は昼に調査することも多いんですか」
「もちろんです。それと、どんな霊がいるかは分からないので、井上さんの出番がないこともあります」
一瞬意味が分からずきょとん、としてしまうが、少しして理解が追い付いた。
柊一さんが相手にするのは、力の強い悪霊だ。そのほかは暁人さんが祓うという。もし今日行く廃ホテルに悪霊がいなければ、柊一さんの出番はないのだ。そうなると、もちろん私もやることなし。
そうか……同行したとしても、私の仕事がないパターンもあるのか。
「悪霊って、やっぱり見ただけで分かるんですか?」
尋ねると、柊一さんが考えながら言う。
「んー厳密に言うと、見ただけで分かるときもあれば、そうじゃないときもある。一目でヤバイな、って感じるものもいるよ、そういうのはもはや人間の頃の面影が残ってない」
どんな形をしているんだろう……。
「でもすぐに判断がつかないこともある。霊にも個性があってね、本性を故意に隠してるやつがいたり、力は強いのに別に人に危害を与えようとは思ってなかったり、とにかく色々いるんだよ」
「難しいですね。こういう世界の話は聞いたことがないので、よくわかりません」
柊一さんが頷く。
「普通に生きてたらないよね。とにかく、僕たちから離れず、無理だと思ったらすぐに言うこと。それが遥さんのお仕事だよ」
まるで子供に言い聞かせるように言ってくる柊一さんに、頷いて見せた。暁人さんがバックミラー越しに、珍しい物を見る目で柊一さんを眺める。
「柊一がずいぶんしっかりして見えるな。普段からそうシャキッとしててほしいもんだよ」
「僕は普段からしゃきっとしてる」
「どこがだよ。多分お前の天然ぶりは井上さんも気づいてる」
「天然じゃない」
「天然だ」
柊一さんが口をとがらせている。それを横から、瞬きもせずに唖然として見つめた。か、可愛い。何だこの生き物は!
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