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殺人事件
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いったん彼から視線を外して、自分を戒める。落ち着け、私は決して下心があって仕事の手伝いを言い出したわけではない。あまりに興奮していたら怪しまれてしまう。
その時、仲のいい二人を見てふと思う。幼馴染と言っていたけれど、本当にいいコンビだと思っている。まだ短時間だが、柊一さんがフワフワとした不思議な人で、それを注意してみているのが暁人さん、という感じだ。
もしかして、仕事上だけじゃなくて、私生活でもパートナーなのでは?
さっきカフェで食事をしていた時も、柊一さんの袖にハンバーグのソースが付きそうだから気をつけろだとか、食べた直後眠そうにしてる柊一さんを呆れながら起こしたりだとか、かなり彼を理解している感じがした。息もぴったり。
……そうかもしれない! 私は心の中でそう一人思う。
だから柊一さんが辛そうにしてると暁人さんも辛そうなのかも。二人には入り込めない絆があるのかもしれない。こんなかっこいい二人の仲なんて、応援しないわけがない。
「遥さんどうしたの? 一人で百面相してる」
「ひえ!? い、いえ、ちょっと考えことです!」
「そ? 嫌になったらいつでも言ってね」
柊一さんはそう優しく言った。私は必死に自分を落ち着かせ、話をもとに戻す。
「えっとじゃあ、幽霊がいない可能性もあるんですね?」
暁人さんが答える。
「まあ、テレビ番組で使われるほど噂がある場所なら、何かしらいるとは思います。ただ、それが悪霊かどうかは分かりません。そこまで強くない相手なら、何もせず帰ることもあります。ただ、初めに言っておきますが、そのホテルでは昔殺人事件が起きています」
どきりとした。一気に現実に引き戻された気がする。
暁人さんは前方から視線は外さないまま、私に何か紙を差し出した。受け取って覗き込む。
『T市にある廃ホテルについて』……
そのホテルについてまとめられた資料のようだった。私は目を通していく。柊一さんはすでに読んだ後なのか、こちらには目もくれず説明をし出した。
「よくある話だよ。ホテルの近くで人魂を見ただとか、中に肝試しで入った若者が発狂して出てきただとか、夜中になると男の唸り声が聞こえるだとか。これ全部噂ね。それで周りからは恐れられている」
「まあ、確かによくある話ですね。廃ホテルってだけで、人間は恐怖心を煽られますし」
「その通りなんだ。誰かが言い出すと、聞いていた人間が面白おかしく話を膨らませて、また誰かに話す。そうやって噂だけ大きくなってしまう例は多くあるよ」
「でも、この記事……」
一枚めくると、何やら古い新聞記事のようなものが張り付けてあった。日付を見ると、なんと三十年前だ。
かなり小さな記事だ。目を凝らしてみると、『ホテルの中で男女の遺体発見 無理心中か』と書いてある。
暁人さんがため息をつきながら言った。
「記事にあるように、そこでは殺人事件が起きています。だが、もう三十年も前のこと。昔すぎるし、当時他に大きな事件があったらしく、そっちに報道が偏ったみたいで、記事はそこにある小さなものしか残っていません。まあ、犯人が逃亡してるとかならともかく、死亡が確認されてる事件ですからね」
私は粗い新聞の文字を読んでみる。内容も実に簡素なものしか書かれていない。
ホテルで男女二人の遺体が発見された。身元もすぐに割れたそうで、大塚佳子さん(24)、西雄一郎さん(25)と判明している。どうやら刺殺だったようだ。状況的に見て、無理心中とみて警察は捜査している、と書かれていた。
「刺殺、ですか……血だらけだったってことですね」
ぞくりと背筋に寒気が走る。柊一さんが頷いた。
「そうなるね。それ以外の記事は探したけど見つからなかった。三十年も前だから、ネットで検索しても載ってないしね」
「二人が発見されたのが、今から行くホテルということですね?」
暁人さんが答える。
「はい。その事件があったあと、当然ながらホテルは経営が悪化。それでもしばらくは頑張って経営してたみたいですが、数年後に廃業しています」
そして取り壊されることもなく今に至る、ということか。廃業して二十五年近くは放置されていることになる。かなり状態も古いホテルだろう。一体どんな姿なのだろう、と不安が増す。
その時、仲のいい二人を見てふと思う。幼馴染と言っていたけれど、本当にいいコンビだと思っている。まだ短時間だが、柊一さんがフワフワとした不思議な人で、それを注意してみているのが暁人さん、という感じだ。
もしかして、仕事上だけじゃなくて、私生活でもパートナーなのでは?
さっきカフェで食事をしていた時も、柊一さんの袖にハンバーグのソースが付きそうだから気をつけろだとか、食べた直後眠そうにしてる柊一さんを呆れながら起こしたりだとか、かなり彼を理解している感じがした。息もぴったり。
……そうかもしれない! 私は心の中でそう一人思う。
だから柊一さんが辛そうにしてると暁人さんも辛そうなのかも。二人には入り込めない絆があるのかもしれない。こんなかっこいい二人の仲なんて、応援しないわけがない。
「遥さんどうしたの? 一人で百面相してる」
「ひえ!? い、いえ、ちょっと考えことです!」
「そ? 嫌になったらいつでも言ってね」
柊一さんはそう優しく言った。私は必死に自分を落ち着かせ、話をもとに戻す。
「えっとじゃあ、幽霊がいない可能性もあるんですね?」
暁人さんが答える。
「まあ、テレビ番組で使われるほど噂がある場所なら、何かしらいるとは思います。ただ、それが悪霊かどうかは分かりません。そこまで強くない相手なら、何もせず帰ることもあります。ただ、初めに言っておきますが、そのホテルでは昔殺人事件が起きています」
どきりとした。一気に現実に引き戻された気がする。
暁人さんは前方から視線は外さないまま、私に何か紙を差し出した。受け取って覗き込む。
『T市にある廃ホテルについて』……
そのホテルについてまとめられた資料のようだった。私は目を通していく。柊一さんはすでに読んだ後なのか、こちらには目もくれず説明をし出した。
「よくある話だよ。ホテルの近くで人魂を見ただとか、中に肝試しで入った若者が発狂して出てきただとか、夜中になると男の唸り声が聞こえるだとか。これ全部噂ね。それで周りからは恐れられている」
「まあ、確かによくある話ですね。廃ホテルってだけで、人間は恐怖心を煽られますし」
「その通りなんだ。誰かが言い出すと、聞いていた人間が面白おかしく話を膨らませて、また誰かに話す。そうやって噂だけ大きくなってしまう例は多くあるよ」
「でも、この記事……」
一枚めくると、何やら古い新聞記事のようなものが張り付けてあった。日付を見ると、なんと三十年前だ。
かなり小さな記事だ。目を凝らしてみると、『ホテルの中で男女の遺体発見 無理心中か』と書いてある。
暁人さんがため息をつきながら言った。
「記事にあるように、そこでは殺人事件が起きています。だが、もう三十年も前のこと。昔すぎるし、当時他に大きな事件があったらしく、そっちに報道が偏ったみたいで、記事はそこにある小さなものしか残っていません。まあ、犯人が逃亡してるとかならともかく、死亡が確認されてる事件ですからね」
私は粗い新聞の文字を読んでみる。内容も実に簡素なものしか書かれていない。
ホテルで男女二人の遺体が発見された。身元もすぐに割れたそうで、大塚佳子さん(24)、西雄一郎さん(25)と判明している。どうやら刺殺だったようだ。状況的に見て、無理心中とみて警察は捜査している、と書かれていた。
「刺殺、ですか……血だらけだったってことですね」
ぞくりと背筋に寒気が走る。柊一さんが頷いた。
「そうなるね。それ以外の記事は探したけど見つからなかった。三十年も前だから、ネットで検索しても載ってないしね」
「二人が発見されたのが、今から行くホテルということですね?」
暁人さんが答える。
「はい。その事件があったあと、当然ながらホテルは経営が悪化。それでもしばらくは頑張って経営してたみたいですが、数年後に廃業しています」
そして取り壊されることもなく今に至る、ということか。廃業して二十五年近くは放置されていることになる。かなり状態も古いホテルだろう。一体どんな姿なのだろう、と不安が増す。
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