視えるのに祓えない~九条尚久の心霊調査ファイル~

橘しづき

文字の大きさ
66 / 450
目覚めない少女たち

子供ですか

しおりを挟む
「……子供ですか」

 ああ、子供向けゲームに一日ハマるような人に言われてしまった。でも今だけは言い返せない。私は項垂れた。

「お願いします、怖いんです。さっき近くで首吊り見ちゃったし、何よりトイレこの部屋から結構遠いんですもん……せめて目の前にあってくれればなんとかなったのに」

「…………」

 私は恥を捨てて九条さんにお願いした。そもそも霊を視る仕事とわかって就職したくせに、なんて頼りないんだと思われても仕方ない。

 しばらく沈黙が流れ、流石に呆れてられてしまったかと落ち込んでいた時、小さく吹き出す声が聞こえた。

 ぱっと顔を上げると、九条さんが俯いて肩を震わせながら笑っていた。くっくっと笑いを堪えているような声が漏れてくる。そんな姿を見たのは初めてのことで、私は唖然としてその光景を見ていた。

 いつだって九条さんは能面みたいな顔してて、時々微笑むのすら貴重だっていうのに。

「あ、あの……」

 おずおずと声をかけると、ようやく顔を上げてこちらを見た。その顔はどこか子供らしさを感じる微笑みだった。不覚にも、そんな顔を見てしまってとんでもなく心臓が鳴ってしまう。これは反則だ、てゆうか何がそんなに面白かったの?

「面白いですね」

「え、な、何がですか……!」

「まさかこんな大人にトイレに着いてきてくれと言われる経験をするなど、思ってませんでした」

「す、すみません……」

「いいえ、別にそれぐらい構いませんよ、確かに先ほど至近距離で霊を目撃してしまいましたしね。では行きましょうか」

 すんなりと私の要望に答えてくれた九条さんは、早速教室から出ていく。私は慌てて洗面道具をキャリーケースから引っ張りだすと、その背中を追った。薄暗い廊下にでるも、九条さんの隣に並ぶと恐怖心はだいぶ薄れる。

 なんだか意外だった。そりゃ、一人で行けって冷たく断るようなことはないだろうなとは思っていたけれど、あんなに笑って快く来てくれるなんて。

「ありがとうございます、助かりました……」

「いえ、私は基本人への気遣いなど器用なことはできないので、何かあればそうやって言ってくれればいいんです」

 どこか柔らかい口調に、胸が温かくなる。まあ確かに、びっくりするくらいマイペースで他人のことはお構いなしだけど、九条さんって実は他人に興味ないわけではないんだよね。最近分かってきた。

 さっきも伊藤さんに目覚めなくなったら困るなんて言ってたし、多分この人根は優しいんだよなあ。じゃなかったら私の自殺を止めたりなんてしてくれるわけない。

 ……それに気づいているから、こうして意識してしまってるくせに。

「まあ確かに、これだけ広い場所に人がいないというだけで不気味さは出てきますね、人間の心理とは脆いものです」

「九条さんの心は全然脆いように見えませんけど」

「調査を重ねて慣れただけです。今までは一人でやってきたので」

「! そ、それもそうでしたね……!」

 今更ながら信じられない。確かに私が入るまでは九条さん一人で依頼を全てこなしていたんだ。病院だって学校だって、霊が出る家にだっていつも一人で臨んでいたのか。

 鋼の心臓の持ち主だ……私なら絶対無理、慣れるまで達さないと思う。

「そう思えばすごすぎですね九条さん……信じられません……!」

「まあ、伊藤さんや光さんが入ってきた事でだいぶやりやすくなりましたから。今はかなり負担が減りました」

 とても嬉しいお言葉をいただいたが、伊藤さんはともかく私が九条さんの負担を減らせている実感はあまりないのだけれど。

 もうちょっと手柄が欲しいなあ……

 そうぼんやり考えていると女子トイレに到着する。ほっと息をついて中に入った時、隣にいた九条さんも素知らぬ顔をして入ってきたのに気づいて横を二度見した。まるで自分も女性です、みたいな顔をして入ってくる。

「え、え!? く、九条さん中までは入らなくていいですよ!」

 慌てて彼の体を押して外へ追いやる。九条さんは少し首を傾げて平然と言った。

「一人は怖いのではないですか」

「だ、だってここ女子トイレですよ!?」

「今は光さんしかいないからいいでしょう」

「よいわけあるか! トイレの前で待っててください!!」

 私に強く押されながら、やや不服そうに目を座らせる。せっかく着いてきたのに追い出すなんて納得いかない、という顔だろうか。

「いくら人がいなくても女子トイレは!」

「以前ぼうっとして間違えて入ってしまったことはあります」

「は!?」

「入ってすぐ女性と鉢合わせたので間違いに気づいたのですが」

 普通間違えるだろうか? ぼうっとしてても、女子トイレと男子トイレ間違えるって!

「そ、それ大丈夫でした!? 痴漢扱いされませんでした?」

「素直に間違えましたすみませんと謝ったら、しょうがないですよねえと笑ってましたよ」

「……九条さんって、ほんとその顔面でよかったですよね」

 私は嫌味っぽく言ってやった。この人の変人具合、顔がだいぶフォローしてくれてると思う。この顔じゃなかったら人生終わってたかもしれない。

「顔? 顔は今関係ないのでは」

「むしろ顔しか関係ありませんよ。
 とにかく少しの間だけ待っててください! お願いします!」

 私はそう断言しながら九条さんを外へと追いやった。渋々彼は外で立ち止まる。思えば確かにトイレまで着いてきてもらっておきながら外で一人放置させるのはあんまりかもしれないがら仕方ない。

 私は急いで女子トイレの中へ入っていった。


しおりを挟む
感想 53

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。