視えるのに祓えない~九条尚久の心霊調査ファイル~

橘しづき

文字の大きさ
80 / 450
目覚めない少女たち

後日

しおりを挟む


「どうやらね、木下ちかさん、眠っていた間の記憶は全然ないらしいんですよ」

 伊藤さんが腕を組んでそう言った。

 調査終了してから三日。あのあと私と九条さんは疲労から死んだように眠り、自宅でゆっくり休暇をとった。あまり長い時間の調査ではなかったが、なんと言っても活動量が半端ではなかったのだ。

 その間、情報収集のスペシャリスト伊藤さんは、その後のちかさんたちのことを調べていたらしい。ちかさんを含め眠っていた全ての子たちは特にその後の検査等でも異常なく、退院も間近であると伝えられた。

 事務所で伊藤さんとソファに座って話を聞いていた。九条さんは少し離れたところで一人ポッキーを頬張っている。

「じゃあ、首吊りしてたこととか、私たちのことはもちろん覚えてないんですか……」

「そう。本人はある日眠って起きたら病院だし両親は泣いてるだしでびっくりしたみたい」

「そんなことあるんですねえ……色んな能力がこの世にはあるんですね。世界は広いです」

 感心するように言った。結果自殺を阻止して説得した後ちかさんたちは目覚めたのだし、多分九条さんが立てた仮説は間違ってないはず。無意識のうちに深い眠りについて、それだけでなく周りの子も引き連れてっちゃうんだもんなあ……

 伊藤さんが難しい顔をして腕を組んだ。

「色々調べてみたんだけど、ちかさんに変わった能力があるって噂とかはちっとも聞かなかったんだよね。こればっかりは調べるにも限度があって。無自覚か、それとも本人が頑なに隠してきたのかは分からない」

「私も視えることは家族以外知りませんでしたし、調べようがないですね」

「心配なのは、もう同じようなことが起きなきゃいいけどってこと。ねえ九条さん?」

 伊藤さんが九条さんに呼びかけた。彼は例の棒を手に持ち、それを眺めながら答える。

「彼女の交友関係が改善されたわけではないですからね。今回はよくうまく行ったと思います。光さんのお手柄でしたね」

 ストレートに言われて、何となく恥ずかしくなって顔を伏せた。隣の伊藤さんがよかったねと言わんばかりにニコリと笑ってみせる。素直に喜んでいいのだろうか、まあせっかくあの九条さんが褒めてくれているのだから受け取っておこう。

「あ、ありがとうございます……」

「それとアフターケアは伊藤さんがやっておいてくれましたから、うまくいくといいですね」

「アフターケア?」

 私が首を傾げて伊藤さんを見る。彼は頭をかいて答えた。

「そんな大そうなことじゃないけど……ほら、澤井さん。あの子、ちかさんのクラスメイトなんだよね」

「あ、そうでしたか!」

「うん、それで今回の真相は正直に言えないけど、ちょっと誤魔化しながら伝えたんだよね。『学校生活であまり友達と馴染めないこととかで悩んでる心に変なものが入ったみたいで』って。あの子ってほら、クラスでも中心にいそうなタイプじゃない? それでいて感が良さそうだったし。案の定結構真剣に話を聞いて、これからは少しちかさんに話しかけてみるって言ってたよ」

「なるほど、アフターケア……!」

 澤井さんは確かにキラキラグループの女子だろう。その子が少しでも声をかけてくれれば状況が変わるかもしれない、ってことか。

 感心して伊藤さんの顔を見た。さすがだな、と思っていたが、当の本人の表情はあまり冴えない。

「まあ、お節介の可能性も高いんだけどさ。ちかさんと澤井さんってタイプ違いそうだし……」

 自信なさげに言う伊藤さんに、九条さんが割って入った。

「きっかけを掴めるかどうかはもう木下ちかさん本人次第ですよ。もし今後また同じような現象が起こるのならまた連絡がくるはずです。対策を新たに考えねばなりませんね」

 解決したと思ったが、まだ全て終わったわけではないかもしれない、ということか。複雑な現状にため息を漏らす。

 思春期の心は繊細だ、不安定でアンバランス。それがしっかり自立するのには、彼女はまだまだ若すぎる。

 後味のすっきりしない終わりに私が表情を曇らせていると、伊藤さんがそれを断ち切るように言った。

「でもまあ、とりあえずはみんな目が覚めたし、やっぱりあれ以降首吊りの証言は出てこないっていうしさ。二人ともお疲れ様でした!」

「伊藤さんこそ……あ、そうだ!」

 私は話途中で思い出し、立ち上がって置いてある自分の鞄を漁った。中から取り出したものを見て、伊藤さんが素早く気づき声をあげる。

「あれ! 携帯買ったの!?」

「あ、そうなんです。この前お給料いただいたし、正直あまり必要ない存在なんですけど……伊藤さん番号聞いてもいいですか?」

「そうなんだよかった! なんかあった時連絡できないと困るもんね。休みたい時とか、僕のところにLINEしてくれればいいからね。番号はねー……」

 買ったばかりの携帯に彼が読み上げる番号を入力していく。実は、第一号の登録だったりする。前の携帯は破棄したから引き継ぎもできないし、すぐに連絡先を交換できる友達もいないのだ。自分で言ってて悲しすぎる。
しおりを挟む
感想 52

あなたにおすすめの小説

視える僕らのシェアハウス

橘しづき
ホラー
 安藤花音は、ごく普通のOLだった。だが25歳の誕生日を境に、急におかしなものが見え始める。    電車に飛び込んでバラバラになる男性、やせ細った子供の姿、どれもこの世のものではない者たち。家の中にまで入ってくるそれらに、花音は仕事にも行けず追い詰められていた。    ある日、駅のホームで電車を待っていると、霊に引き込まれそうになってしまう。そこを、見知らぬ男性が間一髪で救ってくれる。彼は花音の話を聞いて名刺を一枚手渡す。 『月乃庭 管理人 竜崎奏多』      不思議なルームシェアが、始まる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

お客様が不在の為お荷物を持ち帰りました。

鞠目
ホラー
「変な配達員さんがいるんです……」 運送会社・さくら配達に、奇妙な問い合わせが相次いだ。その配達員はインターフォンを三回、ノックを三回、そして「さくら配達です」と三回呼びかけるのだという。まるで嫌がらせのようなその行為を受けた人間に共通するのは、配達の指定時間に荷物を受け取れず、不在票を入れられていたという事実。実害はないが、どうにも気味が悪い……そんな中、時間指定をしておきながら、わざと不在にして配達員に荷物を持ち帰らせるというイタズラを繰り返す男のもとに、不気味な配達員が姿を現し――。 不可解な怪異によって日常が歪んでいく、生活浸食系ホラー小説!! アルファポリス 第8回ホラー・ミステリー小説大賞 大賞受賞作

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

婚約者の幼馴染?それが何か?

仏白目
恋愛
タバサは学園で婚約者のリカルドと食堂で昼食をとっていた 「あ〜、リカルドここにいたの?もう、待っててっていったのにぃ〜」 目の前にいる私の事はガン無視である 「マリサ・・・これからはタバサと昼食は一緒にとるから、君は遠慮してくれないか?」 リカルドにそう言われたマリサは 「酷いわ!リカルド!私達あんなに愛し合っていたのに、私を捨てるの?」 ん?愛し合っていた?今聞き捨てならない言葉が・・・ 「マリサ!誤解を招くような言い方はやめてくれ!僕たちは幼馴染ってだけだろう?」 「そんな!リカルド酷い!」 マリサはテーブルに突っ伏してワアワア泣き出した、およそ貴族令嬢とは思えない姿を晒している  この騒ぎ自体 とんだ恥晒しだわ タバサは席を立ち 冷めた目でリカルドを見ると、「この事は父に相談します、お先に失礼しますわ」 「まってくれタバサ!誤解なんだ」 リカルドを置いて、タバサは席を立った

完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています

オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。 ◇◇◇◇◇◇◇ 「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。 14回恋愛大賞奨励賞受賞しました! これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。 ありがとうございました! ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。 この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。