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真夜中に来る女
届いたもの
しおりを挟むそれから一ヶ月と少しが過ぎた頃だった。
依頼もなく穏やかに事務所で過ごしていたとき、お昼休憩に出ていた伊藤さんが珍しく慌てたように中へ駆け込んできたのだ。
私は事務所にあるファイルを整理整頓していて、九条さんは相変わらずソファに寝そべってテレビをみていた。
「みなさーん!」
「あ、伊藤さんおかえりなさい」
「ただいま! 今荷物が届きましたよー!」
彼は大きな段ボールを手に持っていた。はて、荷物とは。私は小さく首を傾げ、九条さんは興味ないとばかりに返事すらしなかった。
近くの机に段ボールを置くと、伊藤さんがこちらを向いて言う。
「大川八重さんからなんですよ!!」
「えっ」
私は慌てて立ち上がる。そこで九条さんもようやく体を起こした。
あれから調査も終了したので八重さんたちがどうなったのか知る術はなかった。でも心の中でどうしても気になっていた。あんな終わり方になってしまって、一体彼女はこれからどうしていくのだろう、と。
私は伊藤さんに駆け寄る。彼は一気に貼ってあったガムテープを剥がした。
「な、なんでしょう……」
「なんだろうね? あんな終わり方だったし、僕も気になっちゃって」
蓋を開けてそれを覗き込む。そこには一つの白い封筒と、またさらに小さな箱がいくつか入っていた。
伊藤さんが腕を入れて取り出す。
「ええと、箱に名前書いてあるね? 光ちゃんにだって。これは九条さんへって書いてある、あれ僕まで」
「わ、ありがとうございます……!」
渡された箱を受け取ると、さして重さはない。その中身も気になったが、それ以上に白い封筒が気になった。私の気持ちを察したように伊藤さんがそれを手に取って差し出してくれる。
「はい、光ちゃん見てくれる」
「は、はい……」
小さな真っ白な紙。それをそっと開いて中身をとりだした。やや分厚い便箋に、八重さんのものと思しき綺麗な文字がびっしり書いてあった。
いつのまにか背後に来ていた伊藤さんや九条さんが覗き込む。二人にも見えるようにして、私は便箋を開いた。
ご無沙汰しております 大川八重です
その後お変わりなくお過ごしでしょうか
私たちが依頼した件が片付いたのがもう一ヶ月も前、みなさんには大変お世話になったというのに、お礼も述べずにこんなに時間が経ってしまったことをお詫びいたします
あの時はとても厳しい状況の中、みなさんが力を貸してくれたおかげで私は今こうして無事に生きています
本当にありがとうございます
あの時は色々と混乱してしまい、自分自身を見失っておりました
ここ一ヶ月は外に出ることもなく、母に頼って生活をしているだけでした
今後どうして生きていこうか、自分がどう生きていけばいいのかまるで分からずにいました
毎日泣いてばかりいました
それでも、私のお腹の中の命はすくすくと育っていきました
そして先日、今までまるで感じたことのない感覚を感じることがあったのです
自分の腹部に違和感というか、もぞもぞと動いている感覚です
それを感じた途端、私は突然冷静になりました 恐らく胎動だと思います
胎動を感じるには早い時期だからもしかした勘違いかも、とお医者様は言いましたが、それでも私はこれはこの子が必死に私に訴えかけている証だと感じました
いつまでもクヨクヨ悩んでいる母親に喝を入れたのだと思います
すっと気持ちが晴れました 目の前が晴れました
この子を身ごもった時喜んだあの感情を思い出しました
あの日、九条さんに言われた言葉は決して忘れません
生半可な気持ちではなく、私はやっぱりこの子と生きていくと心に決めました
一時でも、生むことに迷いが生じてしまったことが恥ずかしい この子に申し訳ない
まだ京也のことを思い出しては泣いてしまうことも多々ありますが、父親が誰であろうと母親は間違いなく私です、世界で一人だけです
長く休んでしまっていた仕事にも復帰しました
京也のこともあって、職場は休んでいたことも理解して待っていてくれました(京也が精神的に病んで退職したことはみんな知っているので……)
妊娠のことも伝え、産休育休を利用し、母の力も借りつつ子育てをしていきます
きっと大変だろうと思います
でも必ずこの子の一生を見届けます、もう気持ちは揺るぎません
たくさんたくさん愛情を注いでいきます
伊藤さんのように明るい方に
九条さんのように頼り甲斐のある方に
黒島さんのように優しい方に
育って欲しいと思います
この話を一足早く朝比奈さんにお伝えしました
「早めの出産祝い」との事で依頼料の九割を返還してくださいました
みなさんの優しさに触れ、本当に自分は恵まれているのだと痛感いたしました
ほんの気持ちですがお礼の品物を贈らせていただきました
本当に本当にありがとうございます
いつか子を連れて、みなさまに直接挨拶に伺います
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