視えるのに祓えない~九条尚久の心霊調査ファイル~

橘しづき

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家族の一員

胃袋を掴みたかった

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 九条さんに車を出してもらい、一度私のアパートへ寄ってもらった。急いで数日分の荷物をまとめる。一体どれくらいの期間帰ってこれないかもわからないので結構な荷物になる。傷んでしまいそうな冷蔵庫の食料品まで持ってきてしまった。

 両手いっぱいの荷物を車に詰め込み、再びあのマンションへと向かっていく。どうして好きな人の家に泊まれるきっかけが曰く付き人形なんだろう。もっと他にタイミングはなかったものか。

 オートロックを解除し部屋へ上がる。九条さんは寝室を私の部屋として使っていい、と言ってくれたので、荷物はそこへ放り込んでおいた。

 その後リビングへ戻った私は、ソファに座って袋から出した人形と向かい合っている九条さんがいたので驚いて声を上げた。

「しゅ、シュールすぎる絵ですよ九条さん……!」

 私は恐る恐る彼の隣にいく。九条さんは考えるようにじっと人形を見つめている。

「やはり新品同様の綺麗さですね。怨念はない、か……。恨みなどもないのにどうしてこの世に留まっているんでしょう? 少なくとも我々が今まで出会った者たちは明確な動機がありました」

「まあ、浄霊するのが仕事でしたしね……」

「憎しみ、悲しみ、心残り。まあ、自分が死んだことに気づいていないパターンもありますが、そう言ったものが物に宿るパターンは聞いたことがありません」

「ううん……」

 腕を組んで考える。だがもちろん答えは出ない。

 こんな状況だというのに、頭に浮かんだ感情は空腹だった。仕方がない、生きるとは食べることだ。

 私は九条さんに言う。

「九条さん、夕飯食べませんか」

「ああ、忘れていました。キッチンにレトルトやポッキーなど入ってますから勝手に触ってください」

「レトルトはともかくここでポッキーを出さないでくださいよ、そんな夕ご飯いやだ」

 呆れながら立ち上がる。そこでふと、そういえば家にあった食材も持ってきたんだっけと思い出す。

 私は振り返って九条さんに言った。

「キッチン使っていいですか? 簡単なものでよければ作ります」

「いいですが料理できそうなもの冷蔵庫にありませんよ」

「家から持ってきたんです」

「そうでしたか、ではお願いします。戸棚とか勝手に開けていいですから」

 九条さんは考え事をしながら答えた。私はよし、と気合を入れる。伊藤さんも言ってたけど、ちゃんと食べて体力つけないとね、自分を保つには規則正しい生活しないと!

 それにあれだ、こんな状況で自分でも呆れるけどこれはチャンスだ。少女漫画でよくあるやつ、手料理で胃袋をつかめ、だ。まあ、私の料理は弁当で食べてるけど、自宅で作られるのはまた印象が違うはず。

 そうだよ! 人形に震えてるより、前向きにやっていかなきゃ! マイナス思考は入られやすいんだし、少しでも楽しんでやるんだ。ええ、やけくそですとも。

 私はずんずんとキッチンへ入っていく。一度も使われたことがないんじゃないかと思うほどピカピカのコンロだった。手が込んだものはできないけど、チャーハンとスープでも……。

 そう思って振り返った時、私は首を傾げた。

「……九条さん」

「はい」

「炊飯器どこですか?」

 このキッチンには冷蔵庫とレンジぐらいしか見当たらない。炊飯器はいったいどこに?

 彼はこちらを見て無表情で言った。

「そんなものありません」

「…………す
 炊飯器がないんですか!? 日本人なのに!?」

 私は声をひっくり返して驚いた。だって、いくら料理しないからってそんなことある!? 米だけ炊いて惣菜買って~……とかじゃないの?

  驚く私に、彼は人形と睨めっこをしながら言った。

「米なんて炊かないので」

 潔い。潔すぎる。意地でも料理なんかするもんか、ってことか。まあ確かに九条さんが米研いでる姿なんて想像つかないけどさ……。

 呆れている私に、彼は言った。

「そこの戸棚にムトウのご飯があります」

「なるほど……ご飯もレトルトなんですね……」

 私ははあとため息をついた。こりゃ凄い、手強すぎる。じゃあご飯はそれを使って簡単チャーハンを……

 って、ちょっと待ってほしい。

 私は思うことがあり、コンロのすぐ下の収納を開いた。あら綺麗、開けたことがないのかしらってレベルで何もない。

 隣の収納を開ける。さらに隣も。その隣も。全て同じ光景が目に入った。私は悲痛な叫び声をあげる。

「九条さん、フライパンどこですか!?」

「そんなものありません」

「油は? 塩とかは!」

「醤油ならかろうじて冷蔵庫にあります」

「菜箸は、包丁は!?」

「あると思いますか?」

 私はキッチンに突っ伏した。これにて、『手料理で胃袋を掴もう大作戦』は無事失敗に終わったのである。流石にフライパンも鍋もなしに料理はできない。食材も持ってきた意味はなかった。

「……レトルト温めますね……」

「私なんでもいいので、一緒に何かお願いします」

 私は項垂れながら、戸棚を開けてみる。確かに、レトルトなどの食べ物はぎっしりあった。ついでに冷蔵庫も開けると、こちらも調理しなくていい食べ物はいくらかある。へえ、九条さんって納豆とかヨーグルトとか食べるんだ。

 私はご飯と目についた適当なレトルトの箱を取り出してみた。まあ、こういうのって美味しんだけどね、毎日ってなるとやっぱり九条さんの健康が心配だよ。

 一応お皿はあったので、そこに盛り付けて温めていく。ぼんやりとしながら、ふとソファに座る九条さんを見た。

 赤い着物を着ている人形をまじまじと観察し、時折話しかけている。はたから見ればとんでもなくやばい光景だが、今は必要なことなのだ。

「会話できそうでしょうか?」

 私が尋ねると、彼は首を振る。

「まるでですね。どんな感情なのかオーラを感じることすらできません。私とは相性悪いんですかね」

 ふうとため息をつきながら人形の髪を触っている。相性、かあ。私とはきっと相性が合ったんだろうな。

 新しい家族、って呼ばれた。多分元々は藤原さんを家族だと思っていたのかな。寂しくて家族を探してる? でもそれって十分心残りになるよね。
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