視えるのに祓えない~九条尚久の心霊調査ファイル~

橘しづき

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家族の一員

無意識

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 モニターから映像が再生された。私は正座しその画面に齧り付く。九条さんは肩が触れるほど私に近く座り直した。普段より距離も近い気がする。私の恐怖心を抑えようとしてくれているのだろうか。

 画面は部屋全体が映るようになっている。右側に私が寝ているソファがある。その反対側にあるテレビのすぐ横にはモニターが置かれており、床に座る九条さんの後ろ姿が映っていた。

 モニターから何も音は聞こえなかった。マイクが壊れているのではなく、私はすやすや眠りにつき、九条さんも無言で画面をチェックしているためだった。静かなリビングは平和そのもので、幸せそうに寝ている自分の寝顔を見るのが恥ずかしいなと感じた。

 しばらくそんな時間が過ぎる。私は完全にソファに横たわって爆睡だ。画面の中の九条さんは何やら機械を操作した後、近くに置いてあるスマホに手を伸ばした。

 すると突然その手が床に落ちた。同時に首もガクンと垂れる。床に座った状態のまま器用にも、彼は眠ってしまったようだった。少し長めの髪がだらりと垂れている。

 一瞬のその光景に瞬きを忘れる。調査中に九条さんがこんな形で寝るなんてありえない、見たことがない。これは完全に、眠らされているんだ。

 ドキドキする心臓を抑えるように両手を胸に抱いた。どこから来るの、一体あの人形は。

 眠った二人の映像がしばし続く。するとその画面に少しずつノイズが入っていく。映像が揺れ、耳障りな音がスピーカーから溢れた。じいっとそれを見つめていると、ノイズとはまた違う音が耳に入ってくるのに気がついた。

 機械的な音とはまた別に、人の声が聞こえる。高い声だ。途切れながらで小さな音だが確実に聞こえる。私は必死に耳を澄ました。相手は何かを喋っている感じじゃない。これは、

 笑い声?

 そう、小さな笑い声だった。鼻から息が抜けるような「ふふふ」、という声で、それは徐々に徐々に大きくなってくる。

 来る。ついに、来るんだ。

 途端、揺れていた画面がぴたりと止まり正常に戻った。静止画かと錯覚するほどの動きのない映像が流れる。眠る九条さん、眠る私。だがそこに、先ほどよりはっきりとした音で笑い声がした。

 そこで気がついた。

 私は画面右側に注目する。

 黒いソファに寝ている私の肩がわずかに揺れている。黒髪がサラリと肩からこぼれ落ちる。

「あ……」

 そう声を漏らした時だった。画面の中の自分がゆらりと起き上がる。酷く俯いていて顔はよく見えなかった。全く記憶にない行動に息が止まる。笑っていたのは私だったのだ。

 私はソファから降り、そのままペタリペタリとゆっくり歩きながら九条さんの後ろを通り過ぎる。フラつくこともなく、非常にしっかりした足取りだった。

 かチャリとリビングの扉を開ける音がする。そのまま私は画面から見えなくなる。

 そのままほんの数十秒。再び自分の姿は現れた。そしてその両手に抱いているものを見て、私は卒倒してしまいそうになる。

 そう、赤い着物を着た人形だった。

 それはそれは大事そうに、宝物を抱くように人形を抱えた自分は鼻歌を歌っていた。幸せでたまらないという様子の歌は自分の知らない歌だった。人形を持ったままソファに腰掛けると、それを高く掲げる。親が子供をあやすような光景だった。

 次に膝に乗せ、人形の黒髪を愛おしそうに撫で続けた。ゆっくりした速さで何度もその頭を撫でる。

 映像を前に全身が小刻みに震える。

 目の前に映る自分が自分ではないように思えた。幸せそうに人形をあやす女は誰? 自分が自分ではない絵、それはただ混乱と不快感だった。

 人形をぎゅうっと抱きしめて何やらボソボソと話しかけている。内容までは聞き取れなかった。でも確実に人形に何かを言っている。

 座っていた自分は立ち上がり、人形を横抱きにしてゆらゆらと揺らす。赤ん坊を寝かしつける母親の姿のようだった。自分の表情は幸福感に満ちていた。

 その時、画面の私がカメラに背を向けた。瞬間、自分の背中に何かが張り付いているのが見えた。

 子供だ。肩までの黒髪を揺らす小さな子供の後ろ姿。その子はしっかりと私の背中にしがみついている。気づかない自分はただ人形を気持ちよさそうに揺らしている。

 そして。

 私にしがみつく子供が突如、ぐるんとこちらを振り返った。体はそのままで、首だけが不自然に曲がっている。カメラに向かってアピールするように口を開けて笑った。

 目は窪んで真っ黒だった。灰色の肌にくすんだ歯。笑う口から見える真っ赤な舌が、あまりに目立っていた。
 
 画面越しに少女と目が合う。



 そこでふっと、子供は消えた。同時に映像の中の自分もピタリと動きを止める。

 抱いていた人形をそうっとソファの上に置くと、そこの隣に自分も横たわった。そして何事もなく、再び私は夢の中へと旅立っていったのである。




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