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ありえる!!
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なになに、どうした? なんか言った? 幻聴が聞こえてきた気がしたんだけど、私はついいに限界かな。
誰も動けなくなっている中で蒼井さんはさっと私のデスクにあるカバンを手にし、何事もなかったように話しかけてくる。
「荷物はこれだけでよかった?」
「へ? あ、はい……」
「明日は休んでいいって言われてるから。とりあえず今日は帰ってゆっくりした方がいいよ。送る」
「はあ……」
言われるがままふらふらと蒼井さんについていく。出口付近では坂田さんが両手を口に当て、どこか目をキラキラと輝かせてこちらを眺めていた。
「じゃあ、お疲れ様でーす」
蒼井さんは誰に言うでもなくそう声を上げると、そのまま私と共に出て行ってしまった。
蒼井さんはタクシーを呼ぶと言ってくれたが、私の家は徒歩ですぐなのでその申し出を断った。そのまま私たちは会社から出て、自宅へ向かってゆっくり歩き出す。
まだ明るい時刻だったので、人通りも多く普段と変わりない道だった。私は先ほど起こったよく分からない出来事に未だ呆然としながら、とにかくひたすら家に向かって歩いていた。
「気にすることないよ、井ノ口さんの言うこと」
蒼井さんが優しくそう言ったので、ハッとしてすぐにお礼を言った。もう混乱の絶頂にいたので、私を庇ってくれた人たちにありがとうも言えなかったのだ。
「先ほどはありがとうございました。吉瀬さんと坂田さんがああいってくれて嬉しかったです」
「そんな大したことはしてないよ。井ノ口さんの発言は許されないものだよ。あれは彼女個人の意見で、他の人みんながそう思ってるわけじゃない」
「そ、そうなんでしょうか」
「そうだよ。見てる人はちゃんと見てるから」
私の顔を覗き込んでそう言ってくれる蒼井さんを見て、ぶわっと顔が熱くなる。
駄目だ駄目だ。悲しいことがあったはずなのに、今私の頭の中は別の事でいっぱいになってしまっている。蒼井さんが発言した言葉ばかり繰り返されて、ボブの発言なんて隅っこの方に追いやられてしまった。
なんて単純なんだろう。
「とりあえず今回の事があったから、安西さんの気持ちと体調が落ち着くまで休んでいいって言付かってるから、無理しないでね」
「はい……」
「浅田さんの処分はこれから決まるけど、少なくとも戻ってくるようなことはない。まあ、クビだろうね。こんなことしておいてクビにならない方がおかしいから。心配なのは逆恨みとかだよね。一人暮らしだし、大丈夫?」
「まあ、叔父が経営してるマンションで、そのうち一室に叔父が住んでいます。なので困ったときは駆け込めるかと」
「そうか! それはよかった。でも、困ったことがあったら僕にも相談してね。これからは黙っているのはなし。頼りにしてくれるとありがたい」
「あり、あ、ありぎゃ、ありがとうございます」
「とにかくしばらくゆっくりすればいいよ。体もだし、精神的にもショックが大きかったろうと思うから」
そのままなんとなく沈黙が流れ始める。私はというと、一人暴れる心臓と戦っている。
これは、なんだ。帰りマンションの前で、さっきの発言の意図について説明があるかな。彼が私を好き、みたいなことを言っていた件について。
待ってほしい、いつから? やっぱり坂田さんは違ったの? でも吉瀬さんが蒼井さんには気になる人がいるって言ってたのは、初日の歓迎会の日だ。……え、そんな前から? なぜ?
ていうか本当に私の事を好きでいてくれたとしたら、今までの自分の言動は、彼に対してとても失礼だったんじゃないだろうか。坂田さんとくっつけようとしてたの、ばれてるかな? ばれてないといいんだけど……。
ちょっと待って。全部置いておいて、告白を受けた(っぽい)ということは、私も返事をしてお付き合いがスタートするということでは? え、待って、私がこんな絵にかいたようなスーパーイケメンと?
頭の中はぐるぐると混乱が収まらない。そんな中、気が付けば自分のマンションまでたどり着いており、むしろ少し通り過ぎてしまったところで慌てて踵を返した。
「あ! 過ぎてた、私の家ここです!」
「あ、ここか」
エントランス前に立ち、まずは深く頭を下げてお礼を言う。
「色々と本当にありがとうございます。とりあえず、明日はお言葉に甘えて休もうかと思います。家まで送って頂き、本当にすみません」
「気にしないで。僕がしたかったんだから。家を出るときは気を付けた方がいいかもしれない」
「は、はい。気を付けます」
蒼井さんはにこりと笑った。
「じゃあ、もう入りな」
「……え」
中に入るよう促され、思っていた状況と違った私は間抜けな声を出した。マンション前で、付き合ってくださいとかそういう申し出があると思っていたのだ。そして私はもちろん、喜んで! と答える気満々だったのだが。
……あれ?
もしかしてやっぱり幻聴だった? でもそんなはずは……いや待て! この前、テニスサークルの人たちの前でも『口説いている最中だから』とか言ってくれていた。もしかして、私があまりに可哀想で、立場を少しでも良くさせるために嘘をついてくれた、とか?
ありえる!!
蒼井さんは周りから一目置かれている人だし、その彼が私を好きだと公開告白すれば、みんなは私にいちゃもんを付けにくくなるだろう。蒼井さんを敵に回すようなものだからな。
え、そういうこと?
「どうしたの?」
「あ! いえ、ありがとうございました。お疲れ様です」
私はどこかふらふらした足取りでオートロックを解除し、中へと入った。何度か蒼井さんを振り返ってみたが、彼は優しい目でこちらを見ているだけで、特に何も言わなかった。
誰も動けなくなっている中で蒼井さんはさっと私のデスクにあるカバンを手にし、何事もなかったように話しかけてくる。
「荷物はこれだけでよかった?」
「へ? あ、はい……」
「明日は休んでいいって言われてるから。とりあえず今日は帰ってゆっくりした方がいいよ。送る」
「はあ……」
言われるがままふらふらと蒼井さんについていく。出口付近では坂田さんが両手を口に当て、どこか目をキラキラと輝かせてこちらを眺めていた。
「じゃあ、お疲れ様でーす」
蒼井さんは誰に言うでもなくそう声を上げると、そのまま私と共に出て行ってしまった。
蒼井さんはタクシーを呼ぶと言ってくれたが、私の家は徒歩ですぐなのでその申し出を断った。そのまま私たちは会社から出て、自宅へ向かってゆっくり歩き出す。
まだ明るい時刻だったので、人通りも多く普段と変わりない道だった。私は先ほど起こったよく分からない出来事に未だ呆然としながら、とにかくひたすら家に向かって歩いていた。
「気にすることないよ、井ノ口さんの言うこと」
蒼井さんが優しくそう言ったので、ハッとしてすぐにお礼を言った。もう混乱の絶頂にいたので、私を庇ってくれた人たちにありがとうも言えなかったのだ。
「先ほどはありがとうございました。吉瀬さんと坂田さんがああいってくれて嬉しかったです」
「そんな大したことはしてないよ。井ノ口さんの発言は許されないものだよ。あれは彼女個人の意見で、他の人みんながそう思ってるわけじゃない」
「そ、そうなんでしょうか」
「そうだよ。見てる人はちゃんと見てるから」
私の顔を覗き込んでそう言ってくれる蒼井さんを見て、ぶわっと顔が熱くなる。
駄目だ駄目だ。悲しいことがあったはずなのに、今私の頭の中は別の事でいっぱいになってしまっている。蒼井さんが発言した言葉ばかり繰り返されて、ボブの発言なんて隅っこの方に追いやられてしまった。
なんて単純なんだろう。
「とりあえず今回の事があったから、安西さんの気持ちと体調が落ち着くまで休んでいいって言付かってるから、無理しないでね」
「はい……」
「浅田さんの処分はこれから決まるけど、少なくとも戻ってくるようなことはない。まあ、クビだろうね。こんなことしておいてクビにならない方がおかしいから。心配なのは逆恨みとかだよね。一人暮らしだし、大丈夫?」
「まあ、叔父が経営してるマンションで、そのうち一室に叔父が住んでいます。なので困ったときは駆け込めるかと」
「そうか! それはよかった。でも、困ったことがあったら僕にも相談してね。これからは黙っているのはなし。頼りにしてくれるとありがたい」
「あり、あ、ありぎゃ、ありがとうございます」
「とにかくしばらくゆっくりすればいいよ。体もだし、精神的にもショックが大きかったろうと思うから」
そのままなんとなく沈黙が流れ始める。私はというと、一人暴れる心臓と戦っている。
これは、なんだ。帰りマンションの前で、さっきの発言の意図について説明があるかな。彼が私を好き、みたいなことを言っていた件について。
待ってほしい、いつから? やっぱり坂田さんは違ったの? でも吉瀬さんが蒼井さんには気になる人がいるって言ってたのは、初日の歓迎会の日だ。……え、そんな前から? なぜ?
ていうか本当に私の事を好きでいてくれたとしたら、今までの自分の言動は、彼に対してとても失礼だったんじゃないだろうか。坂田さんとくっつけようとしてたの、ばれてるかな? ばれてないといいんだけど……。
ちょっと待って。全部置いておいて、告白を受けた(っぽい)ということは、私も返事をしてお付き合いがスタートするということでは? え、待って、私がこんな絵にかいたようなスーパーイケメンと?
頭の中はぐるぐると混乱が収まらない。そんな中、気が付けば自分のマンションまでたどり着いており、むしろ少し通り過ぎてしまったところで慌てて踵を返した。
「あ! 過ぎてた、私の家ここです!」
「あ、ここか」
エントランス前に立ち、まずは深く頭を下げてお礼を言う。
「色々と本当にありがとうございます。とりあえず、明日はお言葉に甘えて休もうかと思います。家まで送って頂き、本当にすみません」
「気にしないで。僕がしたかったんだから。家を出るときは気を付けた方がいいかもしれない」
「は、はい。気を付けます」
蒼井さんはにこりと笑った。
「じゃあ、もう入りな」
「……え」
中に入るよう促され、思っていた状況と違った私は間抜けな声を出した。マンション前で、付き合ってくださいとかそういう申し出があると思っていたのだ。そして私はもちろん、喜んで! と答える気満々だったのだが。
……あれ?
もしかしてやっぱり幻聴だった? でもそんなはずは……いや待て! この前、テニスサークルの人たちの前でも『口説いている最中だから』とか言ってくれていた。もしかして、私があまりに可哀想で、立場を少しでも良くさせるために嘘をついてくれた、とか?
ありえる!!
蒼井さんは周りから一目置かれている人だし、その彼が私を好きだと公開告白すれば、みんなは私にいちゃもんを付けにくくなるだろう。蒼井さんを敵に回すようなものだからな。
え、そういうこと?
「どうしたの?」
「あ! いえ、ありがとうございました。お疲れ様です」
私はどこかふらふらした足取りでオートロックを解除し、中へと入った。何度か蒼井さんを振り返ってみたが、彼は優しい目でこちらを見ているだけで、特に何も言わなかった。
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