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気持ちを伝えないと
しおりを挟むその後は顔も知らない偉い人から電話が来て状況を聞かれたりと、落ち着かない時間を過ごしていた。その人曰く、やはり浅田さんは解雇されるようだった。
怪我の事もあるし、しばらく仕事は休んでいいと言われた。私はそこまで重傷でもないし、家にじっとしているのも好きではないので働くと言ったのだが、休みなさいと言われた。多分、そうしないと上としても立場が悪くなるんだろうなあ。
了承して自宅待機することになる。かといって遊びに出かけるのも駄目だと思うので、暇で死にそうになっていたところ、坂田さんから連絡が来た。
仕事終わりに材料を買って行くから、たこ焼きやりませんか? と……。
大喜びで彼女の提案を受け入れ、私は家の掃除をしながら坂田さんの訪問を待っていた。
あまり広くはない部屋に、ソースの香りが充満していた。
一度目のたこ焼きを焼き終え全て皿に上げた後、また生地を流し入れて具材を放り込む。タコ以外にも、チーズやキムチなども投入し、なんでも焼きと変化している。
一通り終えたところで、先ほど焼いたばかりのものを早速口に入れる。焼きたてなので中が熱く、口の中を火傷しそうになりながら、ハフハフと笑って言う。
「美味しい! やっぱたこ焼きは誰かとやるもんですよねえ! 坂田さんが色々買ってきてくれて助かりましたー」
「いえ……療養中にいいのかな、と思ったんですが」
「たんこぶで療養中って言われてもねえ。まあ、精神的ケアって意味もあるんでしょうけど、だったらなおさら一人は辛いですよ。話し相手が欲しかったので嬉しかったです!」
私がそう言うと、彼女は嬉しそうに目を細めた。
心配して様子を見に来てくれているのだ、ともちろん分かっていた。ちゃんと食べてるかなとか、眠れているのかなとか、きっと色々想像してくれたに違いない。
だが、私が思ったよりずっとぴんぴんしているから、坂田さんは少し驚いたようだ。
「よかったです。色々大変でしたから……浅田さんの件ももちろんですけど、そのあとも」
言葉を濁しながら言う。私は食べながら頷いた。
「確かに、ショックは受けました。でも坂田さんも蒼井さんも吉瀬さんも、私を庇ってくれたから、そこまで落ち込んでないです。私の事を嫌いな人の言葉を気にするより、味方でいてくれる人たちの言葉を信じる方がずっといいじゃないですか」
「……凄いです。ずっと思ってましたけど、安西さんは凄いです! 見習いたいな、って思います。いや、もちろん安西さん自身傷ついてないわけがないとは思うけど、そう言えるのは安西さんのいい所だと思います」
「いえいえ! あの状況で、坂田さんが声をあげてくれたの嬉しかったですよ。本当にありがとう」
私がお礼を言うと、彼女は恥ずかしそうにうつむいた。どちらかと言えば内気な坂田さんが、ああやって言ってくれるのはかなり勇気がいることだったと、安易に想像が付くもんなあ。
「あれから、浅田さんはもちろん出社もしなくて、そのまま解雇みたいです。他の人が浅田さんの代わりに異動してくるみたいですけど、細かいことは決まってないです」
「そうなんですか……」
「あと井ノ口さんですけどね。ああ見えて、ちょっと反省してましたよ」
「え? ボブが?」
「え? ボブ?」
「あ、井ノ口さんが?」
「はい。実はあの後、うちの課みんなに聞き取り調査があったんですけどね。安西さん以外にも二人、浅田さんから執拗に食事を誘われたりボディタッチされてる人がいたらしいんです。でも、浅田さんは人望ある人だし、中々周りに言えなかった、とのことで……」
「……わー」
「吉瀬さんの目撃情報や、そういう女子たちの証言もあって、浅田さんも言い逃れ出来なくなって、認めたみたいです。井ノ口さんは、さすがに自分は言い過ぎだったし軽率だった、って反省してるみたいですよ」
「へえー」
私はあまり関心がないように適当な返事をした。まあ、本人が謝ってくれば多少は信じるけど、第三者から聞いてもなあ。次職場に行った時、どうなるか楽しみだな。
私の反応を見て察したのか、坂田さんはそれ以上何も言わずにたこ焼きを食べる。そして少し経ったところで、なぜか声をひそめながらどこか目をキラキラさせて私に尋ねた。
「あの、蒼井さんと付き合うんですか?」
「ぶぼ」
タコが喉に詰まるかと思った。慌てて飲み込み、息を整えてから声を出す。
「な、何ですかいきなり」
「公開告白、痺れちゃいました! あの後二人で帰宅したし、ついに、と」
「い、いやあ……なんか普通に送ってもらって別れちゃって? もしかして、私の立場を考えてああいう嘘をついてくれたのかなーなんて」
私がそう言うと、坂田さんは目を丸くして首を横に振った。
「そんなわけないじゃないですか! いくら蒼井さんでも、そのために嘘なんかつかないと思います! え、でも何もなかったんですか……?」
「普通にさようなら、しました」
「でもあの、安西さんは蒼井さんのこと、好き……ですよね?」
顔を覗き込まれてそう聞かれたので、つい顔が真っ赤になってしまった。その様子を見て、ふふっと坂田さんが笑う。
「やっぱり。結構前からそうだろうなーと思ってて、私熱が出たなんて言ってみたり」
「え!? ね、熱が出た時って、嘘だったんですか!?」
「あっ、ごめんなさい勝手に……あの頃から安西さん、蒼井さんをよく褒めてたりしてたから、好きなのかなあ、って思って」
なんということだ! 私は蒼井さんと坂田さんをくっつけようと躍起になっていたのに、その坂田さんからくっつけようとされていたとは!
私は箸をおいてテーブルに肘をつき、顔を覆った。
「いや、違うんです……あの時はそんなに意識していなくて。実は蒼井さんは坂田さんを好きだと思っていたので、私が途中で熱を出していなくなる予定だったんです……褒めたのも、蒼井さんを意識してもらいたくて」
「ええ!? な、なんでそんなことに!? 蒼井さんが私を? 絶対ありえないです!」
坂田さんは首がもげそうなぐらいブンブンと強く振りながら叫んだ。私は大きくため息を漏らす。
「そうかと思い込んでいたんです……思い込むだけならまだしも、応援したいとか馬鹿なことを思って……でも結局自分がハマってて馬鹿というか」
「両想いなんだから馬鹿じゃないですよ、凄くハッピーじゃないですか」
きょとんとして坂田さんが言ったので、少し笑ってしまった。ハッピー、って言い方、可愛いな。
だがすぐに表情を改め、真面目に尋ねる。
「あの……坂田さんは、その……お好きな方とかいらっしゃらないのかなあ、と」
私の質問に、彼女は一瞬顔を赤くさせた。だがすぐに、意を決したようにか細い声で答えてくれる。
「ここだけの話にしておいてください……私なんかが無謀だと分かっているんですが、入った時から吉瀬さんに憧れている気持ちはあります……」
ついに聞いてしまった坂田さんの本音に、私は変な声をあげて床に倒れこんだ。全身脱力、もう起き上がれない。
……マジかあ、そうなのかあ。ヒロインとヒーローはやっぱりそうなるのか……。
ていうか、やっぱり私ってめちゃくちゃ余計な事してたじゃないか。坂田さんは吉瀬さんが好きなのに、他の人と結ばせようとしていたなんて!
「安西さん? 大丈夫ですか?」
倒れた私を心配するように覗き込んでくる坂田さん。私は無言のまま起き上がり、全身真っ白になってぼそぼそと話す。
「そうだったんですね……まあ、吉瀬さんか蒼井さん、どちらかを好きなのかなあ、とは想像してたんですけど。気にしないでください、自分の単細胞に打ちひしがれているだけです。友達にも思い込み激しいポンコツって評価を得ているので」
「そ、そんな」
「私、お世辞じゃなくてお二人はすっごくお似合いだと思います。だから、上手く行けばいいなって思います!」
「あ、ありがとうございます。でも、今は両想いが確定した安西さんたちの方が優先では?」
優しい声で正論を言われた私は、再び両手で顔を覆った。
「いや、本当かな? って思いが消えなくて……帰り道、何も変わった様子がなかったんですよ本当に!」
「待ってるだけでは? 安西さんから言えばいいんだと思います。言いましたが、気を遣ってそんな嘘をついたりするような人じゃないから、蒼井さんは本当に安西さんを好きなんだと思います」
きっぱり言い切ったのを聞いて、単純にもそうなのだろうか、という思いになっている。
一体どこがよかったんだろう? 吉瀬さんが言っていたことから考えると、異動してきた初日から気にかけてくれたのかな。なんで? 顔? こういうやらしい顔がタイプなのかな……って、何を言ってんだよ自分は。
でも病院であんなに心配してくれた。たくさん励まして守ってくれた。きっと、あれに偽りはない。
「……私から、聞いてみます」
「わあ!」
坂田さんが目を輝かせて頷く。私はすっかり冷めたたこ焼きを箸で掴みながら、もう一度決意を口にした。
「休みが明けたら私の気持ちもちゃんと伝えて、本人に聞いてみます」
「応援しています!」
両手でファイトポーズをとる坂田さんに笑顔を返し、私は気合を入れてお茶を飲んだ。
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