溺愛のフリから2年後は。

橘しづき

文字の大きさ
22 / 38

次の手



 愛理はいつものように仕事に励んだ後、帰路についていた。今日は愛理が夕飯を作る日だったので、何を作ろうかスマホでレシピを検索し、なるべく時間がかからず、でも美味しそうなものを見つけておいた。今時はスマホに多くのレシピが載っている。

(簡単だけど、失敗したらやだなー私、湊斗ほど料理上手くないし……)

 でも失敗したとしても、湊斗は笑って食べてくれると思う。彼はそういう人なのだ。

 その光景を想像して一人微笑みながら、薄暗くなってきた道を歩いて行く。そこへ、電話が掛かってきた。もしかしたら湊斗かもしれないと思い取り出してみると、千紗からだった。

 愛理は首を傾げる。

(最近、よく千紗から連絡が来るなあ……前は電話とかあんまりしなかったんだけど)

 そう疑問に思うも、特に深くは考えずに電話に出る。

「もしもし、千紗?」

『あ、愛理ー。仕事は終わったあ?』

「うん、今帰ってる最中だよ」

『お疲れー。私もさっき上がってさあ、友達にドタキャンされて暇になっちゃって。愛理と電話したくなっちゃったんだ』

「そっかあ、ドタキャンされたら時間できちゃうもんね」

 愛理は笑いながら足を進める。

『ほんとだよ~愛理を誘おうかなとも思ったんだけど、新婚さんを急に呼び出すのもなあって。最近はどう?』

「え? 別に変わりないよ。今日は私が夕飯を作る係だから、確かに急には行けないかもしれないけど。まあ、湊斗には説明すれば行っておいでって言うと思うけどね』

 愛理が笑いながらそう言うと、千紗が一瞬黙り込んだ。

『……そっかあ、変わりなくやってるなら何よりだよ……食事は湊斗が作る係なんじゃなかった?』

「千紗に言われて反省して、私も少し作るようになったの。あんまりうまくないけどね。千紗は最近どう? 変わりない感じ?」

『そう。ふふ、私は変わりないよ。毎日仕事でへとへとになってる。最近体力が落ちてきて辛いかな。ジム通おうかなって思ってるよ』

「へえ、えらい!」

『それかキックボクシングとかね。嫌いな奴の顔を浮かべながら蹴るの気持ちよさそうじゃない?』

「あはは! それでスッキリするならいいね」

『あ、ごめん電車に乗るね。また連絡するね』

「え? うん。またね」

 千紗はすぐに電話を切った。愛理はスマホをしまいつつ、また首を傾げた。

(電話してきたと思ったらすぐ会話も終わりだし……そもそも電車に乗る直前にしてはやけに背後が静かだった気がするんだけど、なんだろう)

 疑問には思ったが、千紗が愛理たちの状況を探るために電話してきているとはまるで思わなった。愛理にとって千紗は、大学時代から定期的にご飯を食べに行く大事な友人で、湊斗への気持ちもまるで知らないのだから。千紗は味方だと思っているくらいだった。

(まあ、気にしなくていっか。さー夕飯作ろうっと)

 すぐにそう気持ちを切り替えて歩みを速めた。 

 そんな愛理とは逆に、電話を切った瞬間ベッドにスマホを投げつけたのは千紗だった。苛立ちを隠せず低い声を出す。

「なんで平然としてんの……揉めてろよ」

 目を吊り上げて爪を強く噛んだ。

 近いうちにソファが届くと聞いて、あのゴミを仕込んだのは最高のやり方だと思った。元々どこかに仕込もうと思って持ち込んだのだが、どこに置いておけばいいのか迷っていた。ソファの下なら移動させるときに確実に見つかるし、場所的にもまさに情事に使用した、という感じがするのでピッタリだった。

 タイミングを見て愛理に電話を掛け、知り合いの話として夫が女を連れ込んだ話題を出せば、自然と湊斗も同じことをしたのだと思うだろう。同居すらやっていられない、と嫌悪感を持つはずだった。同居人が女を連れ込んで、その上共有スペースで事に及んでいただなんて、普通ぶち切れ案件。

「愛理が見つけずに湊斗が見つけた? それはそれで揉めるはずなんだけど……」

 湊斗が見つけたとしても、効果はあるはずだった。長年愛理に片思いをしていた湊斗が、あんなものを見つけたら冷静でいられるはずがないので、すぐに愛理に事実確認をするはず。愛理が否定しても、疑われたと思えばいい思いをしない。わだかまりを作るには十分なはずだった。

「でも、前電話した時、愛理の声に元気がなかったから、絶対見つけたのは愛理だと思うんだよなあ……もしかして目を瞑ったのかな?」

 千紗は舌打ちする。変なとこで懐のでかさを出してんじゃねーよ。

 でも、大丈夫。きっと少しは効果があったはずだ。愛理の中で湊斗に対する嫌悪感をもう少し上げないといけない。

 次の手だ。



感想 1

あなたにおすすめの小説

兄妹じゃないとわかったのでお兄様と結婚したら、全部仕込みでした

こじまき
恋愛
【20260401読みやすいように話を分割しました】 伯爵令嬢ヘイゼルは、兄アリステアに恋をしている。叶わないと知りながら、それでも諦めきれなかった。 しかし子ども時代の「取り違え」が発覚し、子爵令嬢ロレッタとして“正しい場所”で生き直すことに。 そして妹ではなくなった彼女に、アリステアは求婚する。 運命のねじれは正されて、望んだとおりに最愛の人と結ばれた―― けれど――その「正しい運命」は、兄アリステアによって用意されたものだった―― ※「小説家になろう」にも投稿しています。

綺麗な彼女

詩織
恋愛
憧れの人はモデルの彼女がいる。ずっと片思いなのが辛すぎて・・・

ベンチャーCEOの想い溢れる初恋婚 溺れるほどの一途なキスを君に

犬上義彦
恋愛
『御更木蒼也(みさらぎそうや)』 三十歳:身長百八十五センチ 御更木グループの御曹司 創薬ベンチャー「ミサラギメディカル」CEO(最高経営責任者) 祖母がスイス人のクオーター 祖父:御更木幸之助:御更木グループの統括者九十歳 『赤倉悠輝(あかくらゆうき)』 三十歳:身長百七十五センチ。 料理動画「即興バズレシピ」の配信者 御更木蒼也の幼なじみで何かと頼りになる良き相棒だが…… 『咲山翠(さきやまみどり)』 二十七歳:身長百六十センチ。 蒼也の許嫁 父:咲山優一郎:国立理化学大学薬学部教授 『須垣陸(すがきりく)』 三十四歳:百億円の資金を動かすネット投資家 ************************** 幼稚園教諭の咲山翠は 御更木グループの御曹司と 幼い頃に知り合い、 彼の祖父に気に入られて許嫁となる だが、大人になった彼は ベンチャー企業の経営で忙しく すれ違いが続いていた ある日、蒼也が迎えに来て、 余命宣告された祖父のために すぐに偽装結婚をしてくれと頼まれる お世話になったおじいさまのためにと了承して 形式的に夫婦になっただけなのに なぜか蒼也の愛は深く甘くなる一方で ところが、蒼也の会社が株取引のトラブルに巻き込まれ、 絶体絶命のピンチに みたいなお話しです

絶交した幼馴染と大学の合コンで再会した。

孤独な蛇
恋愛
中学生の浅野春樹は上級生と喧嘩騒動を起こしたことがあった。 その上、目つきが悪く地毛は茶髪のため不良少年のような扱いを受けて学校では孤立していた。 そんな中、幼馴染の深瀬志穂だけは春樹のことをいつも気遣ってくれていた。 同じ高校に行こうと声を掛けてくれる志穂の言葉に応えたい一心で受験勉強にも力を入れていた。 春樹にとって、学校で孤立していることは問題ではなかった。 昔から志穂が近くにいてくれるから……。 しかし、3年生なってから志穂の態度がよそよそしくなってきた。 登下校も別々になり、学校で話しかけてくることも無くなった。 志穂の心が自分から離れていってしまっている気がした春樹は焦っていた。 彼女と話がしたい。笑った顔が見たい。 志穂と一緒に帰ろうと、彼女が部活動を行っている体育館へ向かったのだが……。 そこで春樹が耳にしたのは、自分の悪口を言って部活の友達と楽しそうにしている志穂の声だった。 その瞬間、春樹の中で志穂に対する想いや信頼は……消滅した。

逢いたくて逢えない先に...

詩織
恋愛
逢いたくて逢えない。 遠距離恋愛は覚悟してたけど、やっぱり寂しい。 そこ先に待ってたものは…

【完結】泡になった約束

山田森湖
恋愛
三十九歳、専業主婦。 夫と娘を送り出し、静まり返ったキッチンで食器を洗う朝。 洗剤の泡が立っては消えるその繰り返しに、自分の人生を重ねながら、彼女は「ごく普通」の日常を受け入れている。 愛がないわけではない。けれど、満たされているとも言い切れない。 そんな午前中、何気なく出かけたスーパーで、背後から名前を呼ばれる。 振り返った先にいたのは、かつて確かに愛した男――元恋人・佐々木拓也。 平穏だったはずの毎日に、静かな波紋が広がり始める。

ヒロインになれませんが。

橘しづき
恋愛
 安西朱里、二十七歳。    顔もスタイルもいいのに、なぜか本命には選ばれず変な男ばかり寄ってきてしまう。初対面の女性には嫌われることも多く、いつも気がつけば当て馬女役。損な役回りだと友人からも言われる始末。  そんな朱里は、異動で営業部に所属することに。そこで、タイプの違うイケメン二人を発見。さらには、真面目で控えめ、そして可愛らしいヒロイン像にぴったりの女の子も。    イケメンのうち一人の片思いを察した朱里は、その二人の恋を応援しようと必死に走り回るが……。    全然上手くいかなくて、何かがおかしい??

貴方を愛することできますか?

詩織
恋愛
中学生の時にある出来事がおき、そのことで心に傷がある結乃。 大人になっても、そのことが忘れられず今も考えてしまいながら、日々生活を送る