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美男美女
千紗の言動は加工ありだがSNSに載せられてしまい、その上それがそこそこバズってしまった。愛理や湊斗は一切写っていないのは幸いだった。
特定班が動いて会社の特定を進め、すぐに千紗の情報も漏れ、千紗は自ら退社した。SNSがなくても、同僚たちの前であの騒ぎになれば普通いられなくなるだろう。
晴れ屋の会の友人たちもすぐに気づき、千紗の本性に絶句した。それ以外の知り合いも、千紗と距離を取るようになり、千紗は居場所を失くし引っ越しをして実家に帰った。戦意も消失し、抜け殻のようになっていたらしい。
その後、一度弁護士を通じて愛理に謝罪の言葉が届くが、テンプレートな文章があっただけで、本当に反省などしているか最後までわからない。むしろ、千紗の親から届いた謝罪の方が真摯で心がこもっていたように愛理たちは感じた。
その後、実家に引きこもっているらしい、と噂だけが愛理と湊斗の耳に届くことになる。
「岡部さーん!!」
会社からの呼び出しで出社した愛理が会社を出たところで、小野寺に呼び止められた。振り返ると、小野寺を中心に後輩たちが駆け寄ってくる。
「小野寺さん」
「疑惑晴れたってほんとですか!?」
「うん。今日は一旦帰らせてもらうけど、明日からまた普通に出社するよ」
「よかったー!」
湊斗が用意した防犯カメラの映像、それから千紗の発言。さらには山本がしっかり上司に自白したことで、愛理の潔白は無事晴れた。山本はそのまま自ら会社を辞めたらしかった。
上司には包み隠さず全てを話したようで、かなり深く反省していたらしい。
(山本くんも……スイッチさえ入らなければ普通にいい同僚だったんだけどなあ)
千紗に惑わされて暴走してしまった。これを反省して、今後は物事をしっかり見極める力をつけてほしい。もう二度と会うことはないだろうし、許すつもりもないが、彼が反省して次の人生を歩んでいくことはいいことだと思っている。
小野寺は鼻息を荒くする。
「事の真相、結構噂で出回ってますよ! 岡部さんが不倫なんてするはずないって、私たちは最初から信じてましたけど、信じる馬鹿もいたから……」
「信じてくれて嬉しいよ。ありがとう」
優しく微笑んだ岡部に、後輩たちはへらっと顔を緩ませた。彼女たちにとって愛理は、美人で困ったときには必ず助けてくれる最高の先輩だった。家に帰ればビール缶を積み上げているとはまるで知らない。
小野寺は慌てて顔を引き締め、やや声のトーンを下げた。
「ただ、まだ面白おかしく言うやつはいて……岡部さんも働きにくく思うことがあるかもしれないです。でも負けないでください! 私たちも応戦しますし!」
「あは、ありがとう」
「もー岡部さんいないと、職場も覇気がないって言うか……」
そう言いかけたところへ、愛理を呼ぶ声が響く。
「愛理!」
愛理が呼び出されたと知って、今日はわざわざ有休を取っていた湊斗だった。愛理は振り返ってパッと顔を明るくさせて嬉しそうに笑う。
「湊斗!」
「終わった?」
「うん。明日からいつも通り出社する」
「よかった……」
湊斗はそこで後輩たちに気が付き、小さく首を傾げた。
「同僚の方?」
「うん。同じ職場の後輩で……凄く強い味方なの」
「そうか! いつも愛理がお世話になっています。これからもよろしくお願いしますね」
にこりと湊斗が笑いかけたとき、ずっと絶句していた小野寺が大きな声を上げた。
「どひぇーーー! とんでもイケメン来たあああ! お似合いすぎて辛いーーー!」
目をキラキラ輝かせて叫ばれた湊斗は一瞬目を丸くしたが、すぐに小野寺の勢いに吹き出して笑った。
小野寺はスマホを取り出し、興奮した様子で言う。
「いや、この旦那さん見たらあんな疑惑すぐ吹っ飛ぶんじゃないです!? こんなイケメンいてあっちに行くわけなくないですか!?」
「お、小野寺さん……」
「二人並んでねり歩いたらもう誰も何も言わないんじゃないですかね!? 写真撮ってもいいですか? 可能ならばらまいていいですか!?」
「ばらまくのは止めて……」
後輩たちははしゃぎながら愛理と湊斗の写真を撮る。湊斗はお腹を押さえてげらげら笑った。
「愛理の後輩、面白すぎ!」
「賑やかな子たちだよ……」
「はは、安心した。強い味方がいるんだってね」
湊斗は目に浮かんだ涙を拭いて、改めて小野寺たちに向き直る。
「愛理の事、よろしくお願いしますね」
「お……お願いされますう……」
完全にうっとりしてしまった小野寺たちに別れの挨拶をして、愛理と湊斗はその場から差っていった。すらりとした美男美女の後ろ姿を、小野寺たちはため息をつきながら見送っていた。
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