白い子猫と騎士の話

金本丑寅

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白い子猫と騎士の話

3 子猫

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◇◇◇◇

 ちょいちょい大事なことを言ってる気はしてたけど、もしかしてここって日本じゃないのかしらん。日本どころか地球じゃなさそう。
 ねえねえ魔物とか言ってなかった? ナマモノの聞き間違いじゃないよね。ダンジョンつってたもんね。
 あらやだもしかしてこれって噂に聞く異世界転生。


 男が愚痴を零しまくってたあの姿、部長に無理言われてた時の後輩に似てる。
 男にあって後輩にないもの。そらもう身近に猫ちゃんがいるかいないかなのよ。あのあとしばらく構われて最後に腹吸われて解き放たれて家の中に戻ってった。

 あれからまた一ヶ月くらい経って、男は帰ってきたり来なかったり。結局あの日は言った通り三日で帰ってきたけど、その次に出てった時は最低で二日と言いながら五日かかってた。
 家の中での飼い猫じゃなくて良かった。それだとひもじい思いしてた。
 でも少しでかくなって、俺も普通に母猫の獲ってきた生物を食えるようになってきたからね。食事は大丈夫。既に人間としての何かは失ってるかもしれない。なに、草かげでウ○コして砂かけてる時点でもう消えとるわ。
 花の植わってない花壇がすっかり猫トイレの哀しさよ。
 あっちょうちょ。


 それで、なんだっけ。
 男の独り言と愚痴を思い返してると、ここって日本じゃないのは確かなんだろうね。でもだから何処ってのは知らん。
 異世界だったとしてなんで俺は猫なのかも知らん。俺が元々人間なんて誰も知らんよね。

 男が外の椅子に座ってる時、たまーに読んでる本。あれとか見れば何かわかるかな。この国? の話とか。でも今は鍵が閉まってるから家の中は入れん。入りたいなー。人間だったら本屋とか図書館に行けるのになー。その前に人に直接聞けるか。
 あっ俺の爪が引っかかった。取れない。あっ兄弟違うんだこれは玄関扉であって爪砥ぎ板じゃないのよ。あっあっ。

「ははは」
 あっ、止める前に男が帰ってきてた。俺らの後ろから見られてた。苦笑いしてる。兄弟だけ逃げてった。あーっ。


「お前、引っかかったのか、はは」
 丁寧に爪を外してくれる。ちょっとだけバリバリされた痕は見ないふり。
 抱き上げられて、頭の上にある顔を見やれば表情はよく見えないけど無精髭。どっかでなんかして頑張ってきたんだなぁ。ちょいちょい触れば「くすぐったい」とまた笑う。うむうむ、相変わらず疲れてそうだけど笑えることは良いことだ。

「ただいま。お前、また少しでかくなったか?」
「んにゃ」
 おかえりって言ったら頭にちゅーされる。これちょっと気恥ずかしい。まあ吸われるのも大概だしもういいけど。
 一度降ろされて、鍵を開けて家の中に入るから、ラッキー。その後ろについてゆく。ふふん、ずっと留守番してたから怪しいヤツは来てないぜ。
「ついてくるなんて珍しいな。どうした? その辺にぶつけて怪我しないようにな」
 ふふふん。そんなことはしないぜ。お行儀よくして賢い猫だと思わせてやるぜ。


 リビングを通り過ぎて寝室にガチャガチャと大荷物を床に置く。帰ってきた後は水浴びをしに向かうのを知ってる。なにせ、毎回帰ってきたら一旦家に入って、俺らの飯の為に外出てきたらこざっぱりしてるから。とりあえず戻ってくるのを待ってみる。そんで本棚の本を取ってもらって、見せてもらう。完璧。
 この荷物、なんなんだろうね。仕事するにしてもなんの職種かはっきりとは知らないし、なんの道具が詰まってんだか。あっなんか倒れちゃったごめん。
 ……?
 なんだろうこれ、ふんふん、あれだ、ゲームに出てくる感じの、剣みたいな。



 ドンドン、と玄関の扉を叩く音がした。

 あまりにビビって、男の荷物にぶつかっちゃった。連鎖的に机の足に当たって上から転がりやすそうな荷物が落ちてきた。あわわわ。割れ物でなくて良かった。
 ガチャガチャ煩い音立てちゃったから、男が「どうした!?」って聞きつけて来ちゃった。あわわわわ。

「なんだ、悪戯でもしたか?」
 ちがうちがう、今外でなにかが音が、ニャウニャウ訴えたら、ガチャリと勝手に玄関の扉が開いた音がしたので、俺はまたビビった。泥棒だー!

「おい、先に帰ったと貴様のとこの部下から聞いたからわざわざこっちに来たが帰ってきたか?」

 人間の声だー!

「あいつめ……大丈夫だ、知り合いだから待ってろ」
 と撫で撫でポンポン。あ、なんだお知り合いだったの、無駄に慌てちゃったよ恥ずかしい……。
 よく見たら脱いだとこだったのか上裸じゃん、風邪引くよ。それとなんだか全身傷痕が凄いね。いたそ。


「お前、人ん家に勝手に入ってくるなとあれほど」
「ふん、俺のとこに来ずに戻るからだ」
「毎度毎度成果ないと同じことを言いに行けってか、城の端にある魔術塔の場所をどうにかしろ。もしくは見つける魔術をとっとと開発してから言え」

「開発はもうほぼ出来ていると先日言っただろうが。捜し物の魔術がいかに難しいか脳筋共にはわからんだろうな、似たような研究は昔からされているというに完成していないのだから察しろ、失せ物の座標だけでない、失せ物の素材、持ち主との関係性、魔力の適合性。魔法陣越しに見つけたとてこちらの魔力をぶつけたら壊れる危険性など考慮し細かな設定を書き込まねばならぬのだぞ。位置の特定でそれなのだから、対象物を直接呼び出すともなればまた違う。その為聖者召喚陣は開発された初代以降書き加えられても消されてもいない我々魔術師の至高の作品であり大いなる目標そのもの……。今は捜し物が聖者であるからある程度書き込む内容が特定されてはいるものの、それらの文言をいちいち魔法陣へ書いては間違えまた書き直すのに手間がかかる。そろそろこちらにも実験体……人員を寄越せ、魔法陣の素材に血が必要なのは貴様でも知っているだろう、血の気が多い奴らは幾らでもいるだろう」

「てめえのその昇った血をどうにかしろ」
「貴様らの魔物相手に地べたに流す無駄な血を有効活用してやるからわけろと言っている。そろそろ騎士部隊と魔術師部隊の合同模擬戦もあるだろう、傷を負っても魔術師らが綺麗にその血を回収してやるから覚えとけよ……」
「どんな脅し文句だ……」
「血液の保存魔術はあるのだからな、素材は採れるときに採、る……」

 ふ、と目が合っちゃった。こんちは。



 なんとなく気になって部屋から出てきてこっそり覗いてみたら、フード被ったいかにも怪しそうな人が両腕を空に掲げてオーバーなリアクションしてたり怪しい話語ったりしてた。こわ。
 君この人と知り合いなの? 友達選んだほうよくない?

「おい貴様……」
「てめえまさか猫を実験に使うなよ」

 ひえっ。
「お前、聞い」

「アレだぁぁ!!!!」


 あまりにとつぜんさけぶから、おれはぜんぶのけがぶわってなった。


 そんでやばげな顔でこっちに向かってきたから俺の方が叫びそうになった。すぐ隣にいた男もその光景に驚いて目を見開いたけど、あんまり急すぎてか動かなかった。
 フードがちかづいてきた。

「フギャー!!」
 叫んじゃった。

 なんだこいつこわ!!
 からだがかってにどたばたあばれてる。


 俺の様子にハッとした男がフードの肩を抑えようとした。
「おい何してんだお前!」
「ああ、そんな怯えないでください、」

 それでもとめることなく伸びてきた手をおもわず噛んだり引っ掻いたりしちゃったけどたぶんおれわるくない!

 なにする!

「シャー!」

「あっ痛い痛い痛いやめてください聖者様」
「……聖者様?」


 セージャサマ??

 セイジャサマ?????


 せいじゃさま聖者様!!??


「おいどういうことだ!!」

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