Tragedian ~番を失ったオメガの悲劇的な恋愛劇~

nao@そのエラー完結

文字の大きさ
100 / 168
オメガの行方

第100幕

しおりを挟む
「薫がいなくなったっというのは、黙って病室を抜け出したってことですか?」

 狭い部屋の中に、薫の兄と二人きりになったところで、隼人は口を開く。その口元は、どことなく自嘲気味な笑みが溢れ落ちていた。
 薫が学生寮に居た頃は、部屋を抜け出すことは、珍しいことではなかった。薫は、都合よく呼び出されれば逢い引きに向かい、事が終われば、悲嘆に暮れた姿で戻ってくる。

「薫は連れ去られたのかもしれない、」

 響は視線を床に落として、吐き捨てた。状況としては、何者かに拐われた、と考えるのが最も妥当ではあった。

「……警察には、」

 隼人は驚いて、至極当然に尋ねた。

「………………一通り探してからな、」

 警察に助けを求めるのは最後の手段である。警察に通報してしまえば、響が薫を匿っていた事実や、入念に準備してきた逃避行の計画が、神崎家の当主に直ちに露呈してしまうだろう。

 歯切れの悪い男の口ぶりに、隼人は質問を変えることにした。

「前から気になっていたんですが、どうして、オメガの薫がベータとしてこの学園に……?」
「…………君は、薫がオメガだと知っていたのか。……そうか、同室だものな」

 ふっと、息を吐くと響は薫が使っていたベッドに腰かけた。

「薫がオメガだとわかったのは、通常よりもだいぶ遅くて、中学生の頃だったんだ。本来は訂正するべきなんだが、戸籍上はベータ性のままになっている……神崎家は病院を営んでいることもあって……なんとなく、事情を察してもらえないだろうか」

 目前のベータの少年が薫の性の秘密を知っていることに、多少なりとも驚いたが、全てを知っている訳ではないようでもあった。響は嘘はない程度に言葉を選んで理由付けた。
 隼人は納得はできないものの、一定の理解は示して、「そういうものなのか?」と自分の中で消化しようとした。確かに、病院を経営する理事長の息子の性別鑑定を誤ったなど、公にできない事柄なのかも知れない。

「君以外に、薫がオメガだと知っているのは?」
「…………結城博己、」

 隼人は、一瞬、躊躇ったが、この学園の支配者の名前を口にした。

「今年の春頃から薫は博己と、夜に会うようになって、薫がオメガだから、その、」

 誰にも打ち明けることが敵わなかった事実を口にすれば、後悔ばかりが沸き上がる。
 結城博己を止めなければならなかった。
 神崎薫を止めなければならなかった。
 ベータであることを言い訳にしてはならなかった。
 隼人は傍観者であり、共犯者であった。

「結城……結城財閥の長子か、」

 響は、地区大会で薫を怯えさせていた男の顔を思い出した。上品な仮面を被った社交の場には興味が薄い響であったが、それでも、自らが学ランを羽織っていた頃に「結城財閥の御曹司が入学した」というニュースは、学園中をざわつかせていたことは知っていた。

 怯える薫、高価な首輪、無数の噛み痕、二人の関係は春頃から、薫を呼び出していた男の名は『HIRO』。

 響の中で、散りばめられたピースが嵌まっていき、遂に一つの答えが導き出された。

 響は立ち上がり、部屋の扉に手をかける。

「あの、どこへ、」

 隼人は、困惑したように男の背中に声をかける。

「結城は、A棟に居るんだろ、」

 振り返った響の瞳には赤い炎が宿っていた。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

あまく、とろけて、開くオメガ

藍沢真啓/庚あき
BL
オメガの市居憂璃は同じオメガの実母に売られた。 北関東圏を支配するアルファの男、玉之浦椿に。 ガリガリに痩せた子は売れないと、男の眼で商品として価値があがるように教育される。 出会ってから三年。その流れゆく時間の中で、男の態度が商品と管理する関係とは違うと感じるようになる憂璃。 優しく、大切に扱ってくれるのは、自分が商品だから。 勘違いしてはいけないと律する憂璃の前に、自分を売った母が現れ── はぴまり~薄幸オメガは溺愛アルファ~等のオメガバースシリーズと同じ世界線。 秘密のあるスパダリ若頭アルファ×不憫アルビノオメガの両片想いラブ。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

【本編完結】偽物の番

麻路なぎ
BL
α×β、オメガバース。 大学に入ったら世界は広がると思っていた。 なのに、友達がアルファとオメガでしかも運命の番であることが分かったことから、俺の生活は一変してしまう。 「お前が身代わりになれよ?」 俺はオメガの身代わりに、病んだアルファの友達に抱かれることになる。 卒業まで限定の、偽物の番として。 ※フジョッシー、ムーンライトにも投稿 イラストはBEEBARさん ※DLsiteがるまにより「偽物の番 上巻・中巻・下巻」配信中 ※フジョッシー小説大賞一次選考通過したよ

運命の番ってそんなに溺愛するもんなのぉーーー

白井由紀
BL
【BL作品】(20時30分毎日投稿) 金持ち‪社長・溺愛&執着 α‬ × 貧乏・平凡&不細工だと思い込んでいる、美形Ω 幼い頃から運命の番に憧れてきたΩのゆき。自覚はしていないが小柄で美形。 ある日、ゆきは夜の街を歩いていたら、ヤンキーに絡まれてしまう。だが、偶然通りかかった運命の番、怜央が助ける。 発情期中の怜央の優しさと溺愛で恋に落ちてしまうが、自己肯定感の低いゆきには、例え、運命の番でも身分差が大きすぎると離れてしまう 離れたあと、ゆきも怜央もお互いを思う気持ちは止められない……。 すれ違っていく2人は結ばれることができるのか…… 思い込みが激しいΩとΩを自分に依存させたいα‬の溺愛、身分差ストーリー ★ハッピーエンド作品です ※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏 ※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m ※フィクション作品です ※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです

ノエルの結婚

仁茂田もに
BL
オメガのノエルは顔も知らないアルファと結婚することになった。 お相手のヴィンセントは旦那さまの部下で、階級は中尉。東方司令部に勤めているらしい。 生まれ育った帝都を離れ、ノエルはヴィンセントとふたり東部の街で新婚生活を送ることになる。 無表情だが穏やかで優しい帝国軍人(アルファ)×明るいがトラウマ持ちのオメガ 過去につらい経験をしたオメガのノエルが、ヴィンセントと結婚して幸せになる話です。 J.GARDEN58にて本編+書き下ろしで頒布する予定です。 詳しくは後日、活動報告またはXにてご告知します。

当たり前の幸せ

ヒイロ
BL
結婚4年目で別れを決意する。長い間愛があると思っていた結婚だったが嫌われてるとは気付かずいたから。すれ違いからのハッピーエンド。オメガバース。よくある話。 初投稿なので色々矛盾などご容赦を。 ゆっくり更新します。 すみません名前変えました。

最愛の番になる話

屑籠
BL
 坂牧というアルファの名家に生まれたベータの咲也。  色々あって、坂牧の家から逃げ出そうとしたら、運命の番に捕まった話。 誤字脱字とうとう、あるとは思いますが脳内補完でお願いします。 久しぶりに書いてます。長い。 完結させるぞって意気込んで、書いた所まで。

処理中です...