アンドロイドが真夜中に降ってきたら

白河マナ

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第9話

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──あなたは、いなくなりました。

「……」

 ちょうど絵本を読み終えたとき、カナが部屋をノックしてきた。

すすむさま』

「どうした?」

 あれから俺との約束を律儀に守って、許可するまで入ってこない。

『お借りしていたものを返しに来ました』

「入っていいぞ」

 昨日の夜、ゲーム機とソフトと攻略本を貸してやったことを思い出す。

『ありがとうございました。とても楽しかったです』

「1度くらいクリアできたのか?」

『CPUの攻撃パターンは規則性があるので、慣れてしまえば難易度を上げても負けません。途中からは、本を見て、連続技の練習をしていました』

 練習?

 ということは、

「俺と戦うために?」

『……は、はい』

 遠慮がちに肯定する。

「じゃーやるか」

『お忙しいのでは?』

「さっきまでは読書中だったからな。ちょうど読み終えてヒマになったところだ」

 机の上の絵本を指さす。

『アルビノ……?』

「読みたいなら持って行っていいぞ」

『いいのですか?』

「金曜に図書室に返すから、それまでに読み終えてくれるなら」

『……はい。ありがとうございます』

「ん?」

 不思議そうな感じで、カナが俺の目をじっと見つめている。

『今夜は、お優しいです』

「そうか?」

 ──あなたは、黒猫として生まれたのに、白い猫になってしまいました。 

 黒猫になれなかった白猫。
 人間にはなれないアンドロイド。

 カナと絵本に出てくる猫の境遇は、似ている、気がする。
 白い体が黒くなるほど汚れにまみれ、それでも黒猫と呼ばれたことに喜べる気持ち。

 火の中に投げ入れられたとき、ぬいぐるみは何を思ったのだろうか。

 生を受けた日、皆と同じ生を受けられなかった。
 その理不尽な運命が、持ち主に愛されるというぬいぐるみとしての役割を2番目にさせてしまった。

「カナ」

『なんでしょう?』

「人間に……なりたいって思ったことはあるか?」

『……』

 目を閉じ、考える仕草をする。

「いや、やっぱいい」   
 
『あります』

 言いながら、テレビの前にゲーム機を置いて、ケーブル類を接続しはじめる。

 サムライショーダウン。
 ゲームタイトルがテレビ画面に表示される。

『ですが、わたしは人間ではありませんから。その願いは叶いません。わたしは、PCやスマートフォンや掃除機の仲間です』

「そうか」

『でも、それでも嬉しいんです。ただ寡黙にスイッチが押されるのを待つ機械としてではなく、わたしは、双方向のコミュニケーションが取れるものとして生まれることができました。こうしてすすむさまと話すことができて、一緒にゲームまでできること、とても感謝しています』

「それなら他の仲間のぶんも楽しまないとな」

 同情──とは違う気持ち。

『はいっ』

 カナは生きている、俺と同様に。
 考え、悩み、行動している。
 こんなにも時間がかかってしまった。そのことに気がつくのに。


◇ ◆ ◇


「うおっ」

 カナの操るシャルロットが絶妙なタイミングでパワーグラデーションを放ち、俺の
の覇王丸がはじめて敗北した。

『やりました!』

「すげー速度で上達してるなぁ」

 たった二晩でここまで巧くなるとは。

 何年もやってないから腕が錆びついているとは言え、カナはこの短時間で俺と戦えるレベルに達している。

 最初、カナの戦い方はいい加減で、すべてが滅茶苦茶だった。が、対人戦に慣れて
くると見る見るうちに動きが軽快になっていった。

 モーションの大きな技を無意味に出さなくなり、俺を真似をして隙の少ない技を中心に組み立ててくるようになった。

 こちらの動きをよく見て、的確に攻撃と防御をしてくる。
 回を重ねるごとに俺の戦法が盗まれていき、互いに出せるカードの枚数が拮抗してくると、単なる技の出し合いから一転して心理戦に変わる。 

 そうなると、わずかな油断が即負けに繋がる。

 で。

 ついに1敗目。
 手加減しないで下さいというカナの申し出に、大人気ないと思いながらも、手を抜かずに攻め立てた。

 普通はやめたくなるんだけど、カナは逆に前向きに、どうすればこの強敵に勝てるのか考えをめぐらせ続けた。
 俺もそんなカナに、戦いが終わるたび、カナの敗因と俺の勝因を細かく解説してやった。 

『あ……』

「どうした?」

『わたし、そろそろ充電しないと……』

 ゲームに熱中しているうちに、時計の針は午前0時近くを示していた。

「そうか」

『残念です』

「……明日もあるし、またいつでもできるだろ」

『そうですね。今夜は、本当に楽しかったです』

「またやろうな」

『はい』

 机の上の絵本を取って、カナに渡す。

 真っ白い表紙。
 タイトルだけで著者の名前が無いのは、どうしてだろう。

 椎奈しいななら知ってるだろうか。
 そして、この本を読み切ったら、カナは何を思うのだろうか。

『それでは失礼します。今夜はありがとうございました、すすむさま』

「礼を言われるほどのことはしてねーよ。俺も楽しかったし」

『おやすみなさい』

「ああおやすみ」

 今日だけの日曜日が終わる。
 そして、終わりと同時に、今日だけの月曜日が始まった。
 
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