アンドロイドが真夜中に降ってきたら

白河マナ

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第10話

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《てなことで『E先生のいまどきの学生観測』のお時間がやってまいりました。はい拍手》

《パチパチパチ……》

《待ってた人もそうでない人もこんにちは。E先生です。ついにやってきたわねー、一応2回目の放送だけど、今日がほんとの最初の放送みたいなものよね》

《えー、私の都合上10分しかないので、さっそくお便りを読みます》 

《ペンネーム、遅刻大魔王さんから。エレナ姉さんこんにちは。はいこんちは。あんたの姉さんじゃないけどね。僕には好きな人がいます。おおーさっそくきたわねー。先日その子に告白したのですが、なんと彼女がOKしてくれたんです。良かったじゃない! エレナ姉さんに質問があります。姉さんの初告白のときの結果を教えてください。撃沈でしたか?》

《……死ね》

 びりびりびり

 紙が引き裂かれる音が校内に響き、クラスの何人かが笑い声を上げる。

《さてと、のお便りを読むわね。緊張するわねぇ、初めてのお便りは。でも、今日のために人気のラジオ番組聞いて勉強してきたから、たぶん大丈夫》

《えーと、匿名希望さんから。先生こんにちは。はいこんにちは。俺はゲームが大好きで、部活にも入らず、ゲーセンや家でゲームばかりやってます。ふーんそうなんだ。でも最近、来年卒業ということもあって、進学や就職について本気で考えるようになりました。いい傾向じゃない。楽をしてたくさん稼げる就職先があったら斡旋あっせんしてください。お願いします》

《世の中なめんな。あと、誤字多すぎ》

《別に紹介してあげてもいいけど、匿名希望さんが職場で5分持たないことを保障するわ。自分は何もせず多くの見返りを求めるその姿勢、先生には、理解不能です。まーこれから徐々に気づいていくのでしょうけど。日々己を磨き精進なさい。まずは手始めに正しい日本語の使い方と漢字を覚えなさい。以上》

《続いていきます。ペンネーム、古典大好きさんから。先生は古典の先生なのにどうして白衣を着ているのでしょうか。1年のころから気になってました》

《んーそんなに深い意味はないのよね。毎日服を選ぶのが面倒なのと、院生のころから着慣れてるから。それだけ。ちなみに同じのを20着は持ってるから汚くないわよ》

《……さて。時間の都合上、これが本日最後のお便りになります》

《ペンネーム、ラムネさんから。先生に相談があります。なんでしょう。私、昔から体が弱くて、体育はいつも見学しています。体が弱いことに劣等感があって、自分に自信が持てなくて、言いたいことを言えないことがよくあります。酷いことを言われたり、机やノートに落書きをされても、怖くて何も言うことができません。強くなりたいです。どうしたらいいのでしょうか》

《ふーむ。なかなか重い話ね。では、ちょっと真面目な話をします》

《みんなはどう考えてるか知らないけど、私はね、学校での虐めって犯罪だと思ってる。私たちの社会はまだ未熟で、そういった認識が不足してるけど。それとね、こういうとき虐められる側にも責任があるとか言う人がいるけど、んなわけないじゃない。私を、僕を虐めてくださいって紙貼って歩いてるならともかく》

《心当たりのある人は、即刻やめるように。こんな言いかたで抑止するのは嫌だけど……受験や就職のときに後悔させるわよ。それから、虐めをしてるときって、どんなに美人でも男前でも、自分では分からないだろうけど、目を背けたくなるくらい気持ち悪い顔してるの知ってる? 自分のためにも止めなさい。今ならこの子も許してくれるから。あんど、周りの子もラムネさんを助けてあげてね》

《人はね、どこかしら欠けてるものなの。学力、運動能力。視力や聴力などの五感、家庭環境、身長、容姿──なにかしらコンプレックスってあるでしょう? ちなみに私はコンタクトしないと左目がほとんど見えません。自分じゃどうにもならない欠陥を責められること、想像してみて》

《勇気を出してくれたラムネさんに強くなる方法を教えてあげる。まず、虐めた相手を恨まないこと。耐えてきた意味がなくなっちゃうからね。そして、あなたのような子がいたら、積極的に助けてあげて。それが強さに繋がると思う》

《真面目な話終わり。あんまり私に固いこと言わせないよーに》

《ではまた明日。しーゆー》

《以上、『E先生のいまどきの学生観測』は、放送部がお送りしました》


 ぶつりとマイクが切られ、それからすぐにJ-POPが流れ始める。

「俺もお前らに虐められている!」

 多川たがわが叫ぶ。
 いい天気だったので、オレたち3人は、中庭の芝生の上で昼飯を食べていた。

「どこがだ」「気のせいよ」

 白貫しらぬきと声が重なる。

「先週の金曜の朝のこと忘れたとは言わせねーぞ」

「忘れた」

「なに、それ?」

「お前らは悪魔の子か。俺も虐めのことエレちゃんに相談すればよかった……」

「被害妄想だな」

「嘘は書かないでよね」

「……神様、この人の道から外れた2人組に、神の偉大なる鉄槌てっついを」

 胸の前で十字を切る多川たがわ
 無宗教でそんなことをしたら、それこそ神の天罰が下されそうだが……。

「下らないことやってないで、さっさと飯を食え」

「わかったよ。それにしても、この放送の唯一の欠点は、聞いてるとメシが進まねーってことだな」

「お前だけだ」「あんただけよ」

 再び、ツッコミを入れる。

「って、なんで2人とも食い終わりそうなんだよ! 放送聞いてなかったのか?」

「はあ? 聞きながら食ってたに決まってるだろ」

「ご馳走様~」

 白貫しらぬきがサンドイッチを食い終わる。

「俺様を出し抜くとはいい度胸だッ!」

 1人で盛り上がり、凄い勢いでチーズコロッケ弁当をかっ食らう多川たがわ

「ごちそうさん」

 から揚げ弁当を食べ終える俺。

「くっそおおおおお~~~っ!」

「まだ時間はあるんだからもう少しのんびり食べればいいのに」

「そっとしておいてやれ」

「そうだ。さっきの放送つながりで、伊月いつき多川たがわに頼みがあるんだけど」

「頼み?」

「はほみ?」

「お前はまず食い終えるか、口の中のものを無くしてから話せ」

 リスのように頬張っている多川たがわに言う。

「明日から1人、ここに仲間が増えるかもしれないけど、いいかな」

「いいよ」

「……伊月いつき、回答早すぎ」

二院にいんのことだろ?」

「知ってたんだ」

「まあ、な」

二院にいんって、C組の二院麻子にいんあさこ?」

「誘ってみて、本人が嫌っていうなら仕方ないけど、たぶん来てくれると思う」

「話が見えないんだが」

 そう言う多川たがわに、

麻子あさこがラムネさん」

 白貫しらぬきが小声で説明する。

「……」

「つーことで、俺はOK。多川たがわもOKだ」

「いや、まだ何も言ってねーけど」

「どっちにしろ2対1でお前の負けだからな」

「俺も異議なしだって。このグループはバランスが悪いからな。特に花と良識がない」

 白貫しらぬきは自分を指さし、

「花」

 俺も自分を指さし、

「良識」

「はは、お前らいつになくおもしれーな」

「すでに両方ともあるから、1人いらないな」

「そうね」

 2人で同時に多川たがわを見る。

「待て! どう考えても俺がこの3人のキーマンだろっ!」

「ただの問題児ね」

「超のつく問題児だな」

「俺はどっからどう見ても生粋の模範生だっつの!」

「いいとこ模範囚よね」

多川たがわのつまんねー冗談はさておき、」

「虐められっ子同士だし、気は合うかもね」

「それ、笑えねぇ」

 そんな多川たがわの困惑した顔を見て、俺と白貫しらぬきは遠慮なく笑った。
 
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