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第27話
しおりを挟む放課後、俺は走っていた。
昼休みのうちに二院に絵本を渡すのを忘れていたことに気づいたからだ。
C組の教室についたとき、二院はすでに教室を出ていた。
でも、二院のクラスメイトに、ついさっき教室を出たばかりだと言われたので、急いで昇降口までやってきた。
「……いた」
ちょうど、二院が下駄箱から靴を取り出したところだった。
だが。
靴と一緒に封筒のようなものが落ちてきたのを見てしまって、俺は、思わず隠れてしまった。
ラブレター……?
二院ならあり得るかもしれない。
しかし予想に反して、二院は眉をひそめ、封筒の中身を見ることもなく、ゴミ箱に捨ててしまった。
正門に向かう二院の背中を見送り、俺はゴミ箱の中から封筒を拾う。
「……」
宛名も、差出人の名前もない。
俺は何やってんだ、そう思いながらも、封筒の中身につい興味がいってしまう。
そして、封を開けて、手紙を読んで、ひどく後悔した。
靴を履いて二院を追いかける。
「あれ、伊月くん?」
上がった息を整え、絵本を手渡す。
「俺が延滞してたんだ。ごめんな」
ほんの少し考えるようなそぶりを見せてから、二院は真っ白い表紙に印刷されている絵本のタイトルを見て、ようやく気づき、
「わざわざありがとう」
「話は変わるんだけど、二院」
「どうしたの?」
「お前まだ、嫌がらせとか受けてんのか」
二院の表情が翳る。
中身を見ないでも内容がわかるってことは、そういうことなんだろう。手紙に書きなぐられていたのは、第三者である俺が引くほど辛らつな言葉だった。
女の子であれば、誰だってショックを受けるような……しかし、二院は、動じていないようだった。
「うん。でも、エレナ先生のお陰で、たいぶ減りました」
微笑む二院。
「……なんでだよ。体が弱いってだけでそこまでされるのかよ。それとも他の理由があるのか」
「あります。体育祭で足を引っ張ってしまったことや、体が弱いことで先生に特別扱いされていることへの不満とか……」
「仕方がねーだろ、それは」
「でも、欠けていない人は、それをもどかしく感じるんです。その気持ちは、私にもわかります」
「俺にはわかんねーよ」
「伊月くんは、真面目だからです」
「は? どこが?」
歩き出した二院の横に並ぶ。俺の家とは反対方向だったが、話は終わってないので、構わずついて行くことにした。
「入学式の日のこと、後悔しています。伊月くんと話しておけばよかったなーって。あの時の私は、余裕なかったから。あの場所にいるのが嫌で嫌でたまらなかったんです」
「嫌?」
「これから話すことが、私が虐めを受ける一番の理由です」
「……」
「私の第一志望高は、K女子でした」
K女子と言えば偏差値70を超える県内で学力トップの女子高だ。
「嫌がらせはね、中学のときの同級生がしているの。私、生意気な子だったから」
「……想像できないな」
「実を言うと、冗談半分で受けたんです、この学校。K女子に絶対に受かると思っていましたし。先生が万が一のために併願するようにと強く言ってきたから、仕方なく、家から一番近い学校を受けることにしたの」
それが本当なら。
確かに、気に入らないって思う生徒も出てくるかもしれない。一生懸命勉強したって、ここに来れないヤツだっているのだから。
「私が清乃と同じ中学出身ってこと、知ってます?」
「いや……」
「彼女と私は、同じ中学で2年生まで同じクラスで、一緒に買い物に行ったり、お互いの家に遊びに行くほど仲のいい友だちでした」
「それでか」
エレナ先生の昼の放送を聞いて、真っ先に二院の話を切り出したのは、白貫だったことを思い出す。
「3年生になり、私は変わらざるを得なくなりました」
どういうことか安易に想像できた。
どんなに勉強ができるやつでも、K女子に行くなら、生半可な勉強じゃ難しい。
「私は清乃と同じ学校に行きたかった。彼女の成績は良い方だったし、一緒に勉強して、K女子に行こうって誘いました……でも、清乃は、最初からこの高校に来ることを決めていました」
あいつの性格ならそうだろうな。
偏差値とか、テストの点だとか、そういうことへの興味はまるでないし、近いからという理由で今の学校を受験したと言ってたのを、前に聞いた覚えがある。
「裏切られた気分でした……勝手ですよね、学生生活を楽しそうに満喫してる清乃のことが許せなかった。何度も、酷いことを言ってしまいました。次第に、清乃と私は、会話もしなくなってしまいました」
「……二院」
「あてつけ、だったんですよ。清乃への。あなたが遊んでいる間、私は頑張ったから、あなたが受験するそんな学校、遊び半分で受けることができるのよ、って……そんな風に考えていました」
「……」
「でも体の弱い私には、人に誇れるものが勉強くらいしかなかった。本当にそれしかなかったの。でも、私は……受験に失敗しました」
入学式当日のあの態度──不機嫌な表情や、居心地が悪そうにしていたことや、周囲を拒絶し続けていたことにも納得がいく。
「良かったな、落ちて」
俺は笑ってやる。
「本当に大切なことは、学校じゃ教えてくれないからなー。確かにいい学校に行って将来を見据えることは大事だと思うけど、そればっか考えてたら、失うものが多いんじゃねーかな」
「……伊月くんがいい話をしてます」
「茶化すな。感動して抱きつく場面だろ」
「月並みな言葉でしたよ」
「なんですと!?」
笑みを見せながらの冷たい切り返しを受け、つい多川のように叫んでしまう。
「ふふ。小説には、もっと素敵な台詞がたくさん出てきますから。今のは55点くらいです」
「……ずいぶんと辛口だな」
「でも、点数がすべてではないですから。私はここにきてそれを学びました。55点であっても、人の心から自然に出てきた言葉には、力があります」
「そうか」
柔らかく笑う二院を見て、やっぱり落ちて良かったんじゃないか、って思えてくる。
「ようやく、清乃と仲直りができました。勉強は好きです。でも、みんなと同じように、騒いだり、遊んだり、学校の行事にも積極的に参加して、楽しい思い出をたくさん作りたいです。伊月くんたちのお陰で、色々なことが変わりつつあるような気がします。だから、少しくらい嫌な目にあっても平気です」
「これからは、もっと楽しくなるぞ。夏休みも控えてるしな」
「そうですね。楽しみです」
「嫌がらせ、あんまり酷いようなら言えよ」
「はい、ありがとうございます。でも大丈夫です。今の私には、支えがあります」
支えか……。
「できれば、もっと早く気づきたかったです……」
夕焼けに照らされたカナの横顔と、ドライバーの先を喉に押し当てたときの両方の表情が思い浮かぶ。
「なあ、二院」
「……なんですか?」
「頼みがある。会って欲しい人がいるんだ」
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