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第28話
しおりを挟む「お姉さん、イチゴショートとモンブランを追加で。多川は、コーヒーフロートとチーズケーキだったわよね」
「おう」
店員の女性は注文を確認しながら伝票に書き込んでいく。
「かしこまりました。それでは、ご注文を繰り返します……」
最後に丁寧に頭を下げ、店員は他のテーブルに呼ばれて行ってしまった。
「お前らには遠慮ってものがねーのか?」
「ないわ。これは千載一遇のチャンスなのよ」
「これでも遠慮してるんだけどな。本来ならテーブルを埋め尽くされても文句は言えないはずだ」
んなことをしたら、投げっぱなしジャーマンも辞さない。
「悪かったって言ってるだろ」
昨日、2人と遊びに行く約束をすっぽかしてしまったせいで、俺が2人に奢るという不愉快なイベントに変更させられてしまった。
二人は夕方まで俺が教室に戻ってくるのを待っていたと言ってるが、真偽のほどは定かではない。(俺に奢らせるために、口裏合わせをしている気がする)
「ひとり5品までが限界だからな。それ以上は、各自払え」
「デザート片っ端から全部いくわよ、多川!」
「最初からそのつもりだ!」
……まるで聞いちゃいねぇ。
しばらくして、おまたせしましたという声とともにやってきたウェイトレスが、注文したものをテーブルに並べる。
「いただきます、伊月」
「ゴチになります、伊月サマ」
「食いすぎて腹を壊せ、亡者ども」
二人が食べるのを見てるだけで口の中が甘ったるくなる。
俺はひとり、ささやかな抵抗──2人を蔑むような目で見ながら、アイスコーヒーを飲んでいた。
「伊月、食べないの?」
「財布の中身が心配だっつの」
「それなら大丈夫。足りない分は、2人で払うわよ」
「……」
俺の財布を空にするまで食う気か、こいつは。
はじめに多川が言ったように、テーブルが皿で埋め尽くされることはなかった。
だが、1時間後──2人が食ったケーキの皿が、回転寿司屋のそれのように高々と重ねられていた。
「……」
伝票を見て、バカだこいつら、と思った。
会計の総額は、あと僅かで5桁に届きそうだった。
「やべー食いすぎた」
「もうしばらく甘いものはいいわ」
「……覚えてろよ、お前ら。どっちかが何かの約束破った日にゃ、全身全霊を込めて食いまくってやる」
「そんなヘマはしないわ」
自信たっぷりに笑う白貫。
確かに、スキのないコイツに奢らせるのは無理な気がする。
「覚えてろよ、多川」
「標的は俺だけですかっ!?」
**********
白貫は勘がいい。
ゲーセンに来るたび、つくづく思う。
「再び、げっと」
ピンク色の河童のぬいぐるみをクレーンゲーム機の景品取り出し口からひっぱり出す。
巨大な顔のイヌのぬいぐるみ、格闘ゲームのキャラクターをデフォルメした人形に続いて、これで3戦3勝だ。
「お前、これで食っていけるんじゃねーか」
「私もそう思う」
「アホか。んな職業は成立しないって」
白貫は自分を指差し、
「第一号」
「無理無理」
心なしか、ゲーセンに来ると、白貫は生き生きしているように見える。
俺と多川が誘っても滅多に来ないくせに、こっそり通ってるんじゃないかと疑いたくなるほど、高パフォーマンスを発揮する。
クレーンゲームだけでなく、メダルゲーム、音ゲー、最新の格闘ゲームまで人並み以上にこなしてくれる。
「はい、伊月」
「ん?」
イヌのぬいぐるみを俺に押し付け、
「あげる。これ、持ってるし」
「貰ってもな……置く場所ねーし。多川にやってくれ」
「伊月にじゃなくて、彼女によ。プレゼント」
そう言って、意味深な視線を向けてくる。
「……」
「可哀想なこと言うなよ。伊月は一生独身で過ごすんだから」
「お前と一緒にすんな」
「多川、先越されたかもしれないわよー。月曜日、動物園で伊月が女の子と一緒に歩いてたという目撃情報が」
「……ッ!?」
な、なんで知ってるんだ、こいつは。
前に、エレナ先生の車に乗ったことも、知ってたし……どこから情報が漏れているんだ?
「ふふふ、本当なのね」
「月曜って、伊月が学校休んだ日じゃんかッ!」
「ここ最近、上の空だったのは……そのせいなのね」
「違げーよ」
「……ぁゃしぃ」
「片瀬薙みてーなジト目はやめろ」
「教えてもらったのよ」
どういう繋がりかわからないが、白貫と薙は交流があるらしく、たまに廊下で何やら話しているのを見かける。
「そんなもの直伝されるな」
「友情より愛情を取ったってことか、この裏切り者っ!!」
「お前は落ち着け。誤解だ」
「どのあたりが?」
「動物園に行ったんだな、女の子と! 一緒に! 手を繋いで!」
喧しいことこの上ない。
「……厄日だ」
5千円(額が額なので、半分払うってことで許してもらえた)取られて、挙句の果てにこんな展開で、カナのことを説明しなくちゃならねーって、どういうことだ。
「応援するわ。どこの学校の子?」
「ぜってー、別れさせる」
2人の主張は、真っ二つに分かれていた。
「話す前に、言っておくけど、あいつは俺の彼女じゃねーからな」
「「……ぁゃしぃ」」
2人揃って、ジト目を向けてくる。
「その目をやめろ、お前ら」
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