アンドロイドが真夜中に降ってきたら

白河マナ

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第35話

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 19時過ぎ──

 夜の学校の屋上で星を見よう、そんな企画が多川たがわの口からでたのが昨日。
 いつもの4人で意見を寄せ合い《食べ物や飲み物を持ち寄って学校の屋上で晩飯を食いながら星を見よう計画》は実行された。

 来年は高3で受験勉強で忙しいだろうから、今年、怒られてもなにか思い出に残ることをしたい、珍しく真剣な顔をして言った多川たがわに俺も賛同した。

 それにしても。

「どきどきしますね」

 白貫しらぬきはとにかく、まさか二院にいんがこの手の話に乗ってくるとは思わなかった。

 この頃の二院にいんは前向きで、何事にも積極的だ。

 出会った当初とは全く違う。でもこれが本来の──白貫しらぬきの親友の二院麻子にいんあさこの姿なのかもしれない。

「想像以上に静かね。暗いし」

「どうやって校舎の中に入るんだ?」

 先頭を行く白貫しらぬきに訊ねる。

「そこ、開けておいたから」

 そう言って一階の窓のひとつを横に引くと、からからと音を立てて開いた。

「無用心だな」

「こんなものでしょ。学校になんて、何もないし」

「それより、こんなに堂々と侵入して、バレバレじゃねーのか、俺たちって。ペンライトの明かりだって……」

「いいのよこれで。コソコソ行動するほうが怪しいし」

「今日の宿直は誰なんだろうな」

御堂みどう先生よ。電話で誘っておいたから、後から屋上に来ると思うわ。実を言うとね、窓も閉めないでって事前に頼んでおいたの」

「……さすがだ白貫しらぬき

 こいつの行動力はエレナ先生にも匹敵する。

「ということで本丸はすでに落ちてるわ。楽しくやりましょ」

「女のセンセーに宿直やらすのかよ、この学校は。しかも夏休みに」

「電話すれば1分で駆けつける用心棒がいるからね」

清乃きよの、それって誰のこと?」

「いるじゃない、自称日本一の格闘家──体育教師の犬山いぬやまが。あの人の家、この校舎の裏だから」

「なるほどな」

「だったら犬山いぬやまが毎晩宿直やればいいじゃねーか」

「それは可哀相です」

「そういう訳にもいかないでしょ。公平じゃないし、犬山先生にだって一応プライベートがあると思うし」

「どうせ家で筋トレしてるだけだろ」

「言えてる言えてる」

 その様子が安易に想像できて笑えた。

「長話は現地についてから、ね。伊月いつき多川たがわ、荷物持つから中に入って受け取って」

「ああ任せろ」

 俺は大きめのショルダーバッグを白貫しらぬきに渡して、窓のさんに手をかけて校舎に入る。

 多川たがわが続く。
 今度は中に入った二人で、白貫しらぬき二院にいんから荷物を全部受け取る。

二院にいん、よじ登れるか?」

「……うん、たぶん」

「私が後ろで支えてあげるから安心して。あんたたちは、麻子あさこを引き上げてね」

「了解」

 助走を取り、二院にいんが飛び上がる。
 ほとんど助走の意味はなかったが、伸ばした手を多川と掴み、痛くないように気をつけながら丁寧に引っ張りあげる。

「ありがとう」

「さあ行きましょ」

 誰の力も借りずにあっさり入ってきた白貫しらぬきは、静かに窓に鍵を閉める。

「あ、」

 声を上げた多川たがわ白貫しらぬきに向かって、

御堂みどう先生公認だったら、こんなとこから入る必要ないじゃねーか」

「……言われてみれば」

 二院にいんも同調する。

「雰囲気の問題よ。職員室から入ったら、忍び込んだって気がしないでしょ?」

 しれっと言う。

「……」

 でもまあ、その気持ちはわからなくもなかった。
 俺たちは靴を脱ぎ、階段に向かって廊下を進む。

「声が響くな……」

「何か出たら面白いわね」

「……変なこと言わないで、清乃きよの

「屋上って、いつものところでいいのか?」

「ええ。職員室からあまり遠いと、御堂みどう先生が怖がって来れないから」


◇ ◆ ◇


 二院にいんが持ってきたキャンドルに火を点す。

 ぼうっと、光が広がる。
 ペンライトとは違う、淡く、優しい灯火。

 俺たちは、大きなレジャーシートを敷いて、キャンドルを囲んで座る。

 見上げると、夜空にたくさんの星が輝いていた。
 雲もなく、近くに高い建物がないので視界全部に星空が広がっている。

「綺麗……」

「壮観ねー」

「そういや、伊月いつき

「ん?」

「カナちゃんの手術、成功したんだよな」

「ああ。でも、まだリハビリ中で……歩くのも辛いらしくて」

「……そうか」

「早く良くなるといいですね」

「快復したら、うちの学校に来て欲しいわね」

「見舞いには行ってるのか?」

「いや、行ってない」

「なんだよそれ? お前が行かねーでどうするんだよ」

 カナと交わした約束を3人に簡単に説明する。

「……難しいですね」

「俺だったら、それでも会いに行くけどな」

「いつまで待つつもりなの?」

「もちろんカナが帰ってくるまでだ。手紙でやりとりしてるから、無事だってことは分かってるし」

 嘘だ。
 もう一人の自分が俺に言う。

 会いに行かないのは、怖いからだ。
 エレナ先生からもらったICレコーダーに記録されていた音声を聴いてから、今のカナに会うことが恐ろしかった。

「まー、伊月いつきらしいと言えば、伊月いつきらしいけどな」

「……あの、言おうかどうか迷ってたんですけど、伊月いつきくんに質問があります」

「なんだ?」

「以前、このメンバーでカナさんのお見舞いに行きましたよね。あのお屋敷、エレナ先生のご自宅ですよね」

「マジで?」

「私は知ってたけど」

「……まあな。カナのことで、ずっと前から先生に色々と世話になってるんだ。ちょっと説明しにくい事情があって隠してた。ごめん」

「なるほどね」

「謝ることじゃないです」

「次の手紙に、俺たちも応援してるって書いといてくれよな」

「わかった」

 多川たがわにはそう返したが、書けない。
 書いても、カナには分からないだろう。

「なあ、カナの話はこれくらいしないか。で、これから何するんだ?」

「とりあえず飯だろ」

「そういや、そうだったな」

「じゃ、持ってきたものを出し合いましょうか」

 それぞれ、家から持ってきた飲み物や食べ物を荷物から出していく。
 二院にいんが紙コップにオレンジジュースを注いで、各自に回していく。

「おにぎりにサンドイッチ、おかずの詰め合わせにサラダ……充分ね。御堂みどう先生を待ってからと思ってたんだけど、はじめちゃおうかしら」

「呼んでこようか?」

 多川たがわがそう言うと同時に、

「わぁ~。やってるわね~」

 屋上の扉が開いて、コンビニのビニール袋を両手に持った先生が現れた。
 御堂千歳みどうちとせ──3-Aの担任をしている数学教師だ。

 俺はそんなに親しくないけど、誰にでも明るく接する賑やかな性格で、生徒からの人気も高い。特に男子から。
 小さくて、童顔で、30過ぎには到底見えない。

「こんばんは、先生」

 みんなで頭を下げる。

「おおっ。キャンドルなんてロマンチックね~」

 御堂みどう先生は子どものようにはしゃいでいた。
 どさりと置いた袋の中には、弁当と、大量のお菓子とビールが入っていた。

「絶妙なタイミングですよ。丁度、食べようと思ってたところです」

「昔から、要領いいって言われるのよねー、私」

 凄く嬉しそうな先生。
 白貫しらぬきのいただきますの声を皮切りに、夜の屋上での夕食会がはじまった。
 
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