49 / 81
第35話
しおりを挟む19時過ぎ──
夜の学校の屋上で星を見よう、そんな企画が多川の口からでたのが昨日。
いつもの4人で意見を寄せ合い《食べ物や飲み物を持ち寄って学校の屋上で晩飯を食いながら星を見よう計画》は実行された。
来年は高3で受験勉強で忙しいだろうから、今年、怒られてもなにか思い出に残ることをしたい、珍しく真剣な顔をして言った多川に俺も賛同した。
それにしても。
「どきどきしますね」
白貫はとにかく、まさか二院がこの手の話に乗ってくるとは思わなかった。
この頃の二院は前向きで、何事にも積極的だ。
出会った当初とは全く違う。でもこれが本来の──白貫の親友の二院麻子の姿なのかもしれない。
「想像以上に静かね。暗いし」
「どうやって校舎の中に入るんだ?」
先頭を行く白貫に訊ねる。
「そこ、開けておいたから」
そう言って一階の窓のひとつを横に引くと、からからと音を立てて開いた。
「無用心だな」
「こんなものでしょ。学校になんて、何もないし」
「それより、こんなに堂々と侵入して、バレバレじゃねーのか、俺たちって。ペンライトの明かりだって……」
「いいのよこれで。コソコソ行動するほうが怪しいし」
「今日の宿直は誰なんだろうな」
「御堂先生よ。電話で誘っておいたから、後から屋上に来ると思うわ。実を言うとね、窓も閉めないでって事前に頼んでおいたの」
「……さすがだ白貫」
こいつの行動力はエレナ先生にも匹敵する。
「ということで本丸はすでに落ちてるわ。楽しくやりましょ」
「女のセンセーに宿直やらすのかよ、この学校は。しかも夏休みに」
「電話すれば1分で駆けつける用心棒がいるからね」
「清乃、それって誰のこと?」
「いるじゃない、自称日本一の格闘家──体育教師の犬山が。あの人の家、この校舎の裏だから」
「なるほどな」
「だったら犬山が毎晩宿直やればいいじゃねーか」
「それは可哀相です」
「そういう訳にもいかないでしょ。公平じゃないし、あの犬山先生にだって一応プライベートがあると思うし」
「どうせ家で筋トレしてるだけだろ」
「言えてる言えてる」
その様子が安易に想像できて笑えた。
「長話は現地についてから、ね。伊月か多川、荷物持つから中に入って受け取って」
「ああ任せろ」
俺は大きめのショルダーバッグを白貫に渡して、窓の桟に手をかけて校舎に入る。
多川が続く。
今度は中に入った二人で、白貫と二院から荷物を全部受け取る。
「二院、よじ登れるか?」
「……うん、たぶん」
「私が後ろで支えてあげるから安心して。あんたたちは、麻子を引き上げてね」
「了解」
助走を取り、二院が飛び上がる。
ほとんど助走の意味はなかったが、伸ばした手を多川と掴み、痛くないように気をつけながら丁寧に引っ張りあげる。
「ありがとう」
「さあ行きましょ」
誰の力も借りずにあっさり入ってきた白貫は、静かに窓に鍵を閉める。
「あ、」
声を上げた多川は白貫に向かって、
「御堂先生公認だったら、こんなとこから入る必要ないじゃねーか」
「……言われてみれば」
二院も同調する。
「雰囲気の問題よ。職員室から入ったら、忍び込んだって気がしないでしょ?」
しれっと言う。
「……」
でもまあ、その気持ちはわからなくもなかった。
俺たちは靴を脱ぎ、階段に向かって廊下を進む。
「声が響くな……」
「何か出たら面白いわね」
「……変なこと言わないで、清乃」
「屋上って、いつものところでいいのか?」
「ええ。職員室からあまり遠いと、御堂先生が怖がって来れないから」
◇ ◆ ◇
二院が持ってきたキャンドルに火を点す。
ぼうっと、光が広がる。
ペンライトとは違う、淡く、優しい灯火。
俺たちは、大きなレジャーシートを敷いて、キャンドルを囲んで座る。
見上げると、夜空にたくさんの星が輝いていた。
雲もなく、近くに高い建物がないので視界全部に星空が広がっている。
「綺麗……」
「壮観ねー」
「そういや、伊月」
「ん?」
「カナちゃんの手術、成功したんだよな」
「ああ。でも、まだリハビリ中で……歩くのも辛いらしくて」
「……そうか」
「早く良くなるといいですね」
「快復したら、うちの学校に来て欲しいわね」
「見舞いには行ってるのか?」
「いや、行ってない」
「なんだよそれ? お前が行かねーでどうするんだよ」
カナと交わした約束を3人に簡単に説明する。
「……難しいですね」
「俺だったら、それでも会いに行くけどな」
「いつまで待つつもりなの?」
「もちろんカナが帰ってくるまでだ。手紙でやりとりしてるから、無事だってことは分かってるし」
嘘だ。
もう一人の自分が俺に言う。
会いに行かないのは、怖いからだ。
エレナ先生からもらったICレコーダーに記録されていた音声を聴いてから、今のカナに会うことが恐ろしかった。
「まー、伊月らしいと言えば、伊月らしいけどな」
「……あの、言おうかどうか迷ってたんですけど、伊月くんに質問があります」
「なんだ?」
「以前、このメンバーでカナさんのお見舞いに行きましたよね。あのお屋敷、エレナ先生のご自宅ですよね」
「マジで?」
「私は知ってたけど」
「……まあな。カナのことで、ずっと前から先生に色々と世話になってるんだ。ちょっと説明しにくい事情があって隠してた。ごめん」
「なるほどね」
「謝ることじゃないです」
「次の手紙に、俺たちも応援してるって書いといてくれよな」
「わかった」
多川にはそう返したが、書けない。
書いても、カナには分からないだろう。
「なあ、カナの話はこれくらいしないか。で、これから何するんだ?」
「とりあえず飯だろ」
「そういや、そうだったな」
「じゃ、持ってきたものを出し合いましょうか」
それぞれ、家から持ってきた飲み物や食べ物を荷物から出していく。
二院が紙コップにオレンジジュースを注いで、各自に回していく。
「おにぎりにサンドイッチ、おかずの詰め合わせにサラダ……充分ね。御堂先生を待ってからと思ってたんだけど、はじめちゃおうかしら」
「呼んでこようか?」
多川がそう言うと同時に、
「わぁ~。やってるわね~」
屋上の扉が開いて、コンビニのビニール袋を両手に持った先生が現れた。
御堂千歳──3-Aの担任をしている数学教師だ。
俺はそんなに親しくないけど、誰にでも明るく接する賑やかな性格で、生徒からの人気も高い。特に男子から。
小さくて、童顔で、30過ぎには到底見えない。
「こんばんは、先生」
みんなで頭を下げる。
「おおっ。キャンドルなんてロマンチックね~」
御堂先生は子どものようにはしゃいでいた。
どさりと置いた袋の中には、弁当と、大量のお菓子とビールが入っていた。
「絶妙なタイミングですよ。丁度、食べようと思ってたところです」
「昔から、要領いいって言われるのよねー、私」
凄く嬉しそうな先生。
白貫のいただきますの声を皮切りに、夜の屋上での夕食会がはじまった。
0
あなたにおすすめの小説
ユニークアイテムな女子(絶対的替えの効かない、唯一無二の彼女)「ゆにかの」
masuta
キャラ文芸
恋と友情、そして命を懸けた決断。青春は止まらない。
世界を股にかける財閥の御曹司・嘉位は、U-15日本代表として世界一を経験した天才投手。
しかし、ある理由で野球を捨て、超エリート進学校・和井田学園へ進学する。
入学式の日、偶然ぶつかった少女・香織。
彼女は、嘉位にとって“絶対的替えの効かない、唯一無二の存在”だった。
香織は、八重の親友。
そして八重は、時に未来を暗示する不思議な夢を見る少女。
その夢が、やがて物語を大きく動かしていく。
ゴールデンウィーク、八重の見た夢は、未曾有の大災害を告げていた。
偶然か、必然か……命を守るために立ち上がる。
「誰も欠けさせない」という信念を胸に走り続ける。
やがて災害を未然に防ぎ、再びグラウンドへと導く。
その中で、恋もまた静かに進んでいく。
「ずっと、君が好きだった」告白の言葉が、災害と勝負を越えた心を震わせる。
それぞれの想いが交錯し、群像劇は加速する。
一人ひとりが主人公。人生に脇役はいない。
現代ファンタジーとリアルが交錯する青春群像劇。
本作は小説家になろう、オリジナル作品のフルリメイク版です。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について
のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。
だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。
「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」
ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。
だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。
その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!?
仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、
「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」
「中の人、彼氏か?」
視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!?
しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して――
同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!?
「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」
代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる