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第42話
しおりを挟む《こんにちは、E先生です。悩める子羊さんたち、めっちゃお久しぶり。『E先生のいまどきの学生観測』のお時間がやってまいりました。はい拍手》
《パチパチパチ……》
《さて。2学期もはじまり新たな気分で……といきたいとこだけど暑いわね、毎日毎日》
《まー天候に愚痴っても涼しくなるわけじゃないからはじめるわ。1学期の終わりに皆に書いてもらった相談事に答えていきます。まずはペンネーム、粉砕バットさんから──》
いつものメンバーで中庭の木陰に座り、各々昼食を広げていると、どこからか放送が聞こえてくる。
「屋上にしなくて正解だったな」
日陰の外は、陽射しが強く、白いもやがかかっているように見える。
「ですね」
「でしょ?」
授業が終わるなりこの場所確保のために教室を飛び出した白貫が、うんうんと頷く。
この暑さの中、日陰のない屋上でメシを食うのは自殺行為だったに違いない。
「はひかひ」
「毎度毎度、オマエは子供か」
左右の頬に食べ物を頬張りながら喋る多川。
「金魚みたいです」
「ずいぶんと可愛くない、金魚ね」
《……ということで兄弟ゲンカが絶えません。どうしたらいいですか。んー。ケンカってのは、幼稚な人間同士が対峙したときに起こるのよね。口げんかにしても殴り合いにしても。私もそんな1人だから偉そうなことは言えないけれど、質ね。ケンカの質。誰かを守るためだとか、己の信念を貫くためのケンカであれば、別にいいんじゃないかしら。ただ、物欲だとか、八つ当たりだとか、下らないケンカならやめたほうがいいわね》
「兄弟のいない俺には、わかんねーな。多川とかどうなんだ?」
「俺? 小さい頃は、姉貴とオモチャとかお菓子を奪い合ってたりしてたらしーけど、この歳だと別にぶつかる理由もねーし」
「麻子は1人っ子だったわよね」
「うん。清乃はお兄さんが2人いるよね」
「だけど歳、離れてるし。ケンカした記憶なんてないわね。私が、いつも我侭言って、2人を困らせてただけ」
やや照れた調子で微笑む。
その表情を見つめながら、俺はハカナを遠くの公園に置き去りにしようとした時のことを思い出し、胸が痛んだ。
「私もお兄さんが欲しかったです。伊月くんは?」
「そうだな……1人は気楽でいいけど、昔は遊び相手が欲しかったな。格ゲーとか好きだったから。今はゲーセンで事足りるけど」
「かくげー?」
「そういうジャンルのゲームがあるんだ」
「そうですか……奥が深いですね」
「いや全然深くないって」
「……そうなんですか」
多川が説明するが二院はどういったものかまったく想像できないらしく、疑問符を交えた返事だけが返ってくる。
「多川の説明じゃわかんないわよ。今度、麻子も行く?」
「どこにですか?」
「ゲームセンター」
白貫の言葉を聞いて、やや二院の顔が曇る。
「……不良の溜まり場」
「いつの時代の話だよ、それ。今は老若男女、家族連れだってカップルだっているぞ」
「そ、そうなの?」
「そうなの! 俺たち3人だって、たまに行くし」
「そうなんですか……?」
「結構楽しいわよ。勉強の気分転換にもなるし」
「……それなら行ってみようかな」
《えーっと……先生こんにちは。はいこんにちは。私は来年大学受験なんですが全然集中力がなくて勉強が捗りません。先生が昔やった、効果的ないい勉強法があったら教えてください》
「お、いい質問だな」
「同級生ですね」
《ふーん。勉強法ねぇ……教えてあげたいところだけど、私、勉強って学生時代にはしたことないのよね》
5秒ほど、スピーカーが沈黙し、俺たちも耳を澄ます。
《超絶天才だったから》
「……」
学校中の時間が2秒ほど止まった──ような気がした。
《そうだ。次回までに、凡人の御堂先生たちに聞いておくわね。それじゃまた明日、しーゆー》
《……い、以上、『E先生のいまどきの学生観測』は放送部がお送りしました》
スピーカーから一斉に発せられたブツっという音とともに、校内の時間がゆっくりと動きはじめる。
「なんでかしら。なぜか腹立たないのよねぇ」
「自然に出てる言葉だからかな」
「分かりやすく喩えるなら、多川が『俺、アホだから』って言うのと同じだな」
「俺はアホじゃねぇ! 今は眠ってるだけだ。晩成型だっつの!」
「来世までには花開くかしら」
「現世じゃ時間足りないんすか!?」
パターンが読めてきたのか、最近では、定番となったやりとりの最後に二院が参加してくる。
「来世が虫だったら、凄い速さで飛ぶのかな」
「……」
「……良識と花が、ものの数ヶ月で悪童どもに毒されてしまった……」
「誰が悪童だ」「誰が悪童よ」
白貫とともに否定する。
「オメーらしかいねーだろ!」
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