アンドロイドが真夜中に降ってきたら

白河マナ

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第56話

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「そろそろ外で飯食うのも限界だな」

 多川は腕組みをしながらわざとらしく体を上下に動かす。
 確かに寒いが、そこまでじゃない。

「ま、晴れてればもう少しいけるでしょ」

「だよな」

 白貫の意見に俺も同意する。
 今年は暖冬になる予想だと昨夜の気象予報でやっていた。それに12月になったばかりで教室にこもり始めたら、それから3か月近く室内で飯を食うことになる。耐えられるうちはできるだけ外で食べたい。

「二院は?」

「私は先月末から暖かいインナー着てるから平気」

「それで思い出した。多川も去年着てただろ。散々軟弱だとか言いながら、俺たちが怪しんだら白状して」

「そうそう。確かに言ってた! 毎日毎日、本当にしつこいくらいネチネチ言ってたわね。自分は隠れて暖かいヤツ着てたくせに」

「性格悪いです。多川君」

 いつものように多川で遊んでいると、ラジオ番組のオープニングに使われそうな、勢いのある曲が教室のスピーカーから溢れ出した。

《エレナ先生のー》

《いまどきの学生観測!》

 『エレナ先生の』という女性の声のあと、『いまどきの学生観測!』の部分に、大勢の生徒と思われる男女の声が重なる。

《てなことで、いつものエレナ先生です、こんにちは》

 最初の頃はE先生と無意味に名前を伏せていたけれど、だんだん面倒くさくなってきたのか、エレナ先生と言うようになった。
 この放送はもうすっかり昼の楽しみとして生徒たちに定着している。エレナ先生のラジオの略で『エレラジ』と呼ばれることが多い。

「そういや三人ともカナとはどんな感じなんだ?」

 俺はカナに近寄るな命令が出ているので二か月以上も目を合わせてもいない。カナはエレナ先生を髣髴とさせる行動力と明るさで、すっかりクラスの人気者になっていた。バイタリティに溢れ、毎日五月蠅いくらいだ。実際やかましい。

「気になるか?」

 嬉しそうな多川。

「前に一回、伊月君を除いたこのメンバーで一緒にゲームセンターに行きました。その後、ファミレスでお茶をして。カラオケにも行きました」

「カナちゃん、歌うまいのよねー。話言葉とは全く違う声で」

「そうそう。カナちゃんのバラードは全部泣ける」

「本当にそうです」

「……楽しんでるみたいだな。それなら良かった」

「正直に言え。早く一緒に遊びたいと」

「そうね。伊月はもっと自分に正直になりなさい」

「遊びたい遊びたい」

 適当な感じで言うと、

「そんなに羨ましいんですね。早くカナちゃんと話せるようになるといいですね」

 二院が微笑む。俺は飯を食う手を進める。
 この感情が何なのか、自分の中でまとまりきれない。薙先輩に伝えた好きとも違う。これからカナと話せるようになって仲良くなってしまったら、前のカナは本当に死んでしまったんだと、その事実に打ちのめされるかもしれない。

「病気だったカナちゃんが回復して元気にやってるっていうのに暗いわねー」

「伊月ってこんなジメジメしたヤツだったっけ」

 白貫と多川はいつだって直球を投げてくる。
 互いに遠慮なく色々とぶつけあって。だからこそ、この二人と毎日こうして飯が食えているのかもしれないけれど。

「俺はあいつが幸せならそれでいいよ。割とマジで」

「伊月、あんたどこにいるの? 山の上から私たちやカナちゃんのこと見てるの? 俯瞰して見てないで、両足を地面についてこっちに来なさい」

「そう言われてもな」

《ということで今日最後のおたよりは「ねこはな」さんから。えー、大好きな先輩が来年卒業します。卒業前に何かプレゼントをしたいと思っているのですが、どんなものがいいでしょうか。先輩は運動部に所属しています。ををー久々の恋ばな。プレゼントかー。その先輩は他の生徒にも人気があるのかしらー。もしあるなら、思い切って逆に先輩から何かを貰うのはどーでしょう。月並みなものだと第2ボタンとか。プレゼントをあげると手元には何も残らないけれど、何かをもらえば一生手元に残るわよー。たとえ恋が成就しなくても思い出として。どうかしらー》

「みんなはそういう人いるの?」

 放送を聞いた白貫が話題に挙げてくる。

「俺は薙先輩に告白したぞ」

 そう言うと、一気に全員が食いついてくる。

「なんだと!」

「本当なの伊月?」

「え、てっきり伊月君はカナちゃんと……」

「まあ聞け。見事に撃沈したから」

「ヨシっ!」

 心底嬉しそうな多川。思わず殴りたくなる。

「片瀬薙先輩は、そういうことに興味がなさそうですね」

「誰に言いふらそうかな」

《それでは今日はこの辺で。そうそう、皆さんにお知らせがあります。エレナ先生の学生観測は今日が最終回になります。その代わり、次回からスペシャルなパーソナリティーを用意したわ。ささ、お願い》

 全員無言になって耳を澄ませる。

《皆さんこんにちは! 転校してきたばかりの宇佐美カナです! 来週からは放送部に入ったばかりの私がパーソナリティーを務めさせていただきます! よろしくっ!》

《ぱちぱちぱち……》

 放送室内の拍手音がスピーカーを通じて全校に響きわたる。
 まさかの展開に俺たちは全員固まっていた。
 カナが放送部に入ったことも知らなかったが、エレナ先生の代わりに昼の放送を担当することになるなんて、思いもよらなかった、

「マジか……」

 多川は弁当箱の蓋の上の落とした唐揚げを箸でつまんで拾い上げる。俺も箸を落としそうになったが、なんとか踏みとどまっていた。
 
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