29 / 39
第7章 カナシイヒカリ
7-4
しおりを挟む
お父さんの右足のケガは特に酷くて、完治しても歩けるようになるのがやっとかもしれない、お医者様にそう言われた。どうしてこんなに不幸なことばかり起こるのだろう。
私は二日だけ病院で過ごした。
その間、多くの人が私を訪ねに来た。
隣の家のおばさんや近所の子どもたち、仕事関係の人たち。その他には、街でよく見かける衛兵がやってきて、私から色々と事情を聞いた。
衛兵の男の人は名を名乗り、爆発事件の調査をしていると言った。怪我人が六人いて、まだ原因はわからない、それを調べていると教えてくれた。
私自身、何が起こったのか正確に理解してはいなかった。
衛兵はいくつかの質問を私にして、それを書きとめて、必ず返すからと言って首飾りを持っていった。
ひとつだけ言わずに隠していたことがある。
お母さんの形見の首飾りを身につける(どこか一部が肌に触れているだけで)と、知らない文字や数字が視界に映るようになったのだ。どうしてかはわからない。どこを向いても小さな文字と数字が目に映った。
気持ちが悪くて、私は首飾りをなるべく触らないようにしていた。もしかしたら──その予感はあった。
あの事故は、私が。そんな恐ろしい予感が。
病院にいる二日のあいだ、お父さんに一度だけ会うことができた。けれどお父さんは、麻酔で眠らされていた。
当分話すことはできないと看護師さんに言われた。
私は退院した。両手は肘のあたりまで包帯で巻かれていた。週二回、病院に来るようにと言われた。
たった二日で家は完全に取り壊されて、更地になっていた。住むところを失った。お父さんは最低でも三ヶ月は入院することになった。
私は包帯をしたままの状態で花売りの仕事を再開した。治るのを待ってなどいられなかった。お金が無かった。私は、お父さんを担当している看護師さんの好意で病院の宿直室を借りて、夜になるとそこで寝かせてもらった。
そのとき、私は十二歳だった。
事件が起こってから一週間ほどして、看護師さんから手紙を渡された。以前事件のことを聞きに来た衛兵の男の人からだった。
手紙には地図が描かれていた。
その場所で私はキリカさんという若い綺麗な女性に会った。彼女はアラキア王国の首都クライトから来た魔法士だった。
アラキアと言えばゼノン公国と戦争をした国だ。そしてお母さんの生まれた国。
私はキリカさんに、あの首飾りが魔法を使うための道具であること、魔法のこと、私がランク持ち(このときは魔法を使う素質があるとだけ言われた)であることを教えられた。
キリカさんの話はわからない単語ばかりだったけれど、首飾りを手にしてからの疑問のいくつかは解けた。
あの爆発を起こしたのはあなたよとキリカさんは言った。
仮説ではなく、確信を込めて言った。
首飾りの裏側にはとても小さなツメがあり、それを倒すことで魔法を使うことができる状態になるらしい。
お父さんと私が首飾りを取り合ったときにツメが倒れて、そのあとの私の動きで偶然(キリカさんは奇跡的と言っていた)魔法が発動してしまったのだろう、と説明された。
首飾りを返された。
受け取ると、小さな文字と数字が目に映った。あの事件が起きてしまった直後、首飾りはこの状態だった。鎖の先についているペンダントの裏のツメを倒すと、視界から文字と数字が消えた。
私がお父さんに怪我を負わせたのだ。
キリカさんは、首飾りのツメさえ倒さなければ二度と同じことは起こらないと教えてくれた。それからアラキア王国にある魔法士の学校に行くことを私に薦めた。
悩むことはなかった。
私はお父さんを置いて街を出ることはできない、と断った。それでもキリカさんは念のためにと推薦状を書いてくれた。
必要ないと思いながらも、私は推薦状を受け取った。
私は二日だけ病院で過ごした。
その間、多くの人が私を訪ねに来た。
隣の家のおばさんや近所の子どもたち、仕事関係の人たち。その他には、街でよく見かける衛兵がやってきて、私から色々と事情を聞いた。
衛兵の男の人は名を名乗り、爆発事件の調査をしていると言った。怪我人が六人いて、まだ原因はわからない、それを調べていると教えてくれた。
私自身、何が起こったのか正確に理解してはいなかった。
衛兵はいくつかの質問を私にして、それを書きとめて、必ず返すからと言って首飾りを持っていった。
ひとつだけ言わずに隠していたことがある。
お母さんの形見の首飾りを身につける(どこか一部が肌に触れているだけで)と、知らない文字や数字が視界に映るようになったのだ。どうしてかはわからない。どこを向いても小さな文字と数字が目に映った。
気持ちが悪くて、私は首飾りをなるべく触らないようにしていた。もしかしたら──その予感はあった。
あの事故は、私が。そんな恐ろしい予感が。
病院にいる二日のあいだ、お父さんに一度だけ会うことができた。けれどお父さんは、麻酔で眠らされていた。
当分話すことはできないと看護師さんに言われた。
私は退院した。両手は肘のあたりまで包帯で巻かれていた。週二回、病院に来るようにと言われた。
たった二日で家は完全に取り壊されて、更地になっていた。住むところを失った。お父さんは最低でも三ヶ月は入院することになった。
私は包帯をしたままの状態で花売りの仕事を再開した。治るのを待ってなどいられなかった。お金が無かった。私は、お父さんを担当している看護師さんの好意で病院の宿直室を借りて、夜になるとそこで寝かせてもらった。
そのとき、私は十二歳だった。
事件が起こってから一週間ほどして、看護師さんから手紙を渡された。以前事件のことを聞きに来た衛兵の男の人からだった。
手紙には地図が描かれていた。
その場所で私はキリカさんという若い綺麗な女性に会った。彼女はアラキア王国の首都クライトから来た魔法士だった。
アラキアと言えばゼノン公国と戦争をした国だ。そしてお母さんの生まれた国。
私はキリカさんに、あの首飾りが魔法を使うための道具であること、魔法のこと、私がランク持ち(このときは魔法を使う素質があるとだけ言われた)であることを教えられた。
キリカさんの話はわからない単語ばかりだったけれど、首飾りを手にしてからの疑問のいくつかは解けた。
あの爆発を起こしたのはあなたよとキリカさんは言った。
仮説ではなく、確信を込めて言った。
首飾りの裏側にはとても小さなツメがあり、それを倒すことで魔法を使うことができる状態になるらしい。
お父さんと私が首飾りを取り合ったときにツメが倒れて、そのあとの私の動きで偶然(キリカさんは奇跡的と言っていた)魔法が発動してしまったのだろう、と説明された。
首飾りを返された。
受け取ると、小さな文字と数字が目に映った。あの事件が起きてしまった直後、首飾りはこの状態だった。鎖の先についているペンダントの裏のツメを倒すと、視界から文字と数字が消えた。
私がお父さんに怪我を負わせたのだ。
キリカさんは、首飾りのツメさえ倒さなければ二度と同じことは起こらないと教えてくれた。それからアラキア王国にある魔法士の学校に行くことを私に薦めた。
悩むことはなかった。
私はお父さんを置いて街を出ることはできない、と断った。それでもキリカさんは念のためにと推薦状を書いてくれた。
必要ないと思いながらも、私は推薦状を受け取った。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる